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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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3年目 閑話 筋肉は会社を救う?

ここは京都市内のイベント会場。


壇上には筋骨隆々の男たちが、白い歯を輝かせながらポージングをしている。


「続いての入賞者は、株式会社ノードシード筋トレ部の斎藤さんです!」


拍手が巻き起こる。


「入賞者は以上です。

 続いて第三位を発表します」


会場が息を呑む。


「第三位はこちらも、株式会社ノードシード筋トレ部の田辺さんです!」


先ほど以上の拍手が巻き起こる。


京南FCとは関係がないイベント会場。


そこに筋トレ部旋風が起こっていた。


◇


「へ~、筋トレ部、コンテストで表彰されたんだ」


会社の新着ニュースを見ながら呟く。


「篠宮さんが行ったらしいんですが、会場大盛り上がりだったらしいですよ」


と佐藤さんがフォローしてくれる。


「また篠宮さんか。あの子も大変だな」


日増しに体がデカくなっているとは感じていたが、筋トレ部がこんなに活躍しているんだな。


トレーニングルームとAIトレーナーを入れた甲斐があったというものだ。


俺は意識を仕事に戻した。


この話は、それで終わるはずだった。


◇


数日後。


「社長、ちょっといいですか?」


営業部の社員がやってきた。


「どうした?」


「AIトレーナーについて問い合わせが来ています」


「AIトレーナー?」


珍しいな。


あれはまだ社内で実験しているシステムだ。


京南FCの選手たちが使っているし、一般社員にも開放しているが、外部向けの商品として販売しているわけではない。


「どこから?」


「京南市のスポーツジムの会社からです。

 あの駅前にジムを構えているところですね」


「ジム?」


予想していなかった答えだった。


「この前、筋トレ部の人たちが大会に出たじゃないですか。そのときに話をしたみたいで」


「ああ、あれか」


そういえば、何人か入賞したと言っていた。


「それで、トレーニングにうちのAIを使ってるって聞いたらしくて。一度詳しく話を聞きたいそうです」


「おお、なるほど」


そこでようやく、俺は少し興味を持った。


「営業部で対応でよろしいですか?」


「いや、最初だし俺と隠岐で対応するよ。

 アポイント取っておいてくれる?」


「承知しました」


ジムからの問い合わせか。


面白いことになるかもしれない。


◇


「ちょっとAIトレーナーのデータを見せてくれる?」


俺は隠岐を連れて、AIトレーナーの開発チームを訪れていた。


ジムの人と話をする前に、ちゃんと実態を確認しておかないとな。


AIトレーナーは京南FCを作るときに始めたシステムだから、運用開始からもう三年近くになる。


改善しながら運用を続けていたから、かなりのデータが蓄積されているはずだ。


「はい、こちらです」


開発担当者が画面を開いた。


画面には、これまで蓄積されたデータが並んでいた。


個人情報は見られないようになっているので、どの社員のデータなのかは分からない。


ちゃんとしているな。


佐藤さんのデータを見よう、とかはできないようになっているみたいだ。


データも年齢、性別、利用目的に応じてグルーピングされている。


利用目的はサッカー、筋肉、一般目的に分けられていた。


筋肉って何だ?


内部向けだから適当なネーミングにしているな。


筋トレ部の社員ということか。


しかし、データが大量にあるのは分かるが、見にくいな……。


今までは内部でたまに見るくらいだったから、データを見る画面の作り込みはまだのようだ。


「これ、最初の頃のデータも残ってる?」


「もちろんです」


開発担当者が素早い操作で、一般目的のデータを一人分開く。


利用を始めたときの数値。


その後に行ったトレーニング。


マシンごとのデータ。


身体の変化。


そして現在の数値。


それらが時系列で並んでいる。


「これは使えそうだな」


「ですね。数値でデータが残るだけでも、ジムにとってはありがたいんやないですかね」


隠岐も感心している。


別のデータも見る。


今度は筋肉グルーピングのデータだ。


一般目的とは、伸びている項目が明らかに違う。


サッカーの方のデータも、筋肉とはまた違っていた。


すごいな。


俺に見える能力とは、また違うデータだ。


「これはいけそうですね」


隠岐もいけると踏んでいるようだ。


コイツが言うと信頼度が違うな。


人の方のデータはOKだ。


AIの方はどうだろうか。


「AIからの提案の履歴は見れる?

 どんな提案が実行された、逆に実行されなかったとか」


「AIの提案ですか?

 何度かバージョンアップしているので、今のバージョンのデータなら見られると思います。

 ただ、提案が実行されたかどうかか……」


担当者が考え込む。


「少し待ってください」


何やら別の画面を開いて打ち込んでいる。


「いけますね」


はや!


「すごいな。そんなすぐに取れるんだ」


「AIがやってるんで、AIに出せるか聞いてみたんですよ」


「なるほど、ありがとう」


よし。


これで打ち合わせ前の準備は万全だ。


ジムで利用開始するとなったら、それに向けて管理画面を作り直したり、データの取り扱いを分けたりと、いろいろやらないといけないことはあるが……。


◇


後日。


問い合わせをくれたスポーツジムの担当者と打ち合わせをすることになった。


規模としてはそれほど大きくない。


京南市内にある、ごく普通のスポーツジムだ。


俺たちはAIトレーナーがどういうものなのかを説明した。


いろいろなデータを蓄積しながら、一人一人に合わせてトレーニング内容を考える。


もちろん、AIの提案だけで全部決めるわけではない。


最終的には本人の感覚や、実際に身体を見ている人間の判断も必要になる。


説明を終えると、担当者はかなり興味を持っていた。


「いいですね。これ、実際のデータを見せてもらうことはできますか?」


「もちろん、一部ピックアップして持ってきております」


隠岐があらかじめ用意していた資料を見せた。


一般目的、筋肉、サッカー。


それぞれのデータの統計と個人データだ。


利用開始からどのように数値が変化していったのか、追うことができる。


「おおお、これはいいですね!!」


担当者はしばらく資料を見ていた。


「これ、うちの会員でもできますか?」


「はい、できる見込みです。

 ただ、ハードルが何点かあります」


管理画面が内部向けなので、ジムの社員の方でも使いやすい形に修正する必要があること。


ジムのトレーニングマシンに計測用の機器を取り付けないといけないこと。


ジムの会員の方にも、こちら指定のウェアラブル端末をつけてもらわないといけないこと。


専用のアプリをインストールしてもらわないといけないこと。


などなどのハードルを説明した。


だから――。


「いきなり全部の店舗で導入するんじゃなくて、一店舗だけで試してみませんか?」


担当者が顔を上げた。


「一店舗?」


「はい。まず試験運用です」


実際の利用者に使ってもらう。


ジムのトレーナーにも見てもらう。


使いにくいところがあれば直す。


提案がおかしければ修正する。


必要な機能があれば追加する。


「うちとしても、外部で使ってもらうのは初めてなので」


「なるほど」


担当者は少し考えたあと、頷いた。


「面白そうですね。やってみましょうか」


こうして。


ノードシードのAIトレーナーは、初めて会社の外へ出ることになった。


◇


最初からうまくいったわけではない。


むしろ、問題はいくらでも出てきた。


会員の方からアプリの利用方法が分からないと言われたり、提案されるメニューが厳しすぎたり。


逆に、


「こういう情報も見られませんか?」


と新しい要望をもらうこともあった。


ただ、問題以上に好意的な意見もいただくことができた。


数字で残るのでモチベーションになる。


提案をしてくれるので迷わなくて済んだ。


いろいろな筋肉を効率よく鍛えることができた。


などなどだ。


意見をもらって直す。


また使ってもらい、意見をもらう。


そのサイクルを回すことができた。


そうして少しずつ、社内実験だったAIトレーナーは、会社の外でも使えるものへ変わり始めた。


まだ、この時点では一店舗だけだ。


売上だって大したものではない。


京南FCの赤字を埋められるような話でもない。


それでも。


京南FCのために作ったものが、一般社員に使われた。


一般社員が身体を鍛えた結果、ジムでの実験につながった。


もしかすると、これがノードシードの新しい事業の一つに育っていくかもしれない。


そのきっかけが何だったのかと聞かれれば――。


筋肉だ。


「……筋肉が会社を救うこともあるんだな」


「何の話ですか?」


「いや、こっちの話」


サッカー事業部を作ったとき、こんなところまで話が広がるなんて考えてもいなかった。


会社がサッカーを育てる。


サッカーから生まれたものが、今度は会社に返ってくる。


まだ小さな一歩だ。


でも。


こういうのも、悪くない。


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