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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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3年目 第1話 期待の選手

 三年目の春。


 今年もノードシードに新入社員が入ってきた。


 そして、その中に俺たちが待っていた期待の選手が一人いる。

 今年の京南FCへの新加入はその一人だけだ。


「板垣蓮です。よろしくお願いします」


「よろしく、板垣」


「はい」


「……」


「……」


 終わった。


 いや、何かもうちょっとないの?

 緊張しているのかな……。


 板垣蓮、十八歳。


 今年、高校を卒業してノードシードに入社した新入社員。そして、今日から京南FCの選手にもなる。


 板垣のことは以前から知っていた。

 

 板垣は高卒でプロ入りを希望していたが、オファーがなかった。

 そこに俺と隠岐で声をかけ、ノードシードに入社してもらったのだ。


 ただ、俺に見える能力だけならプロでも通用しそうなレベルだ。

 なんでオファーがなかったんだろうか……。



 練習でのプレーを見てみる。


「おおっ」


 上手い。


 ボールを受けた板垣が、一人目をかわす。


 速い。


 単純に足が速いというだけではない。


 ボールを足元に置いたまま相手の逆を取り、一気に前へ出る。


 もう一人寄ってくる。


 そこも抜いた。


「やっぱドリブル上手いな」


 シュートも悪くない。


 高校を卒業したばかりの十八歳。


 それを考えれば、かなり期待できる。


 うちには渡部をはじめ前で点を取れる選手もいるが、また違うタイプの攻撃の武器になりそうだ。


「いい選手ですね」


 隣にいた隠岐に言う。


「でしょ?」


 なぜお前が得意げなんだ。


 まあ、見つけてきたのは隠岐だからいいか。


 俺にも板垣の能力が見えている。


 ドリブルという項目はないが、スピード、トラップ、ボディバランスといった個人でボールを運ぶために必要な能力が高い。


 シュートもいい。


 まだ十八歳だから、これから伸びる余地もある。


 これは本当にいい選手を取れたかもしれない。


 そう思っていた。


「あっ」


 取られた。


 板垣がドリブルを仕掛けて、ボールを奪われた。


 まあ、そういうこともある。


 次のプレー。


 またドリブル。


 今度は一人抜いて、二人目に止められた。


 その次。


 またドリブル。


「板垣!」


 岡本さんの声が飛んだ。


「今のは出せたやろ!」


「はい」


 返事はする。


 しばらくして、また板垣にボールが入った。


 前には相手が二人。


 横にはフリーの味方がいる。


 さすがに今度は――。


「行った」


「行きましたね」


 またドリブルだった。


 一人目を抜く。


 さらに二人目。


「おっ」


 抜いた。


 そのままシュート。


 ゴール。


「おお!」


 思わず声が出た。


「すごいじゃないですか!」


「いや、今のはそういう話ちゃう」


 岡本さんが戻ってきた。


「え?」


「確かに上手い。間違いなく上手い」


「ですよね」


「でも、サッカーは一人でやるもんやない」


「ああ……」


 言われてみればそうだ。


 今は二人抜いてゴールした。


 だから成功に見える。


 でも、毎回二人を抜けるわけじゃない。


 さっきは同じように仕掛けて取られている。


「板垣!」


「はい」


「お前、パス嫌いなんか?」


「嫌いじゃないです」


「ほな使え!」


「はい」


 板垣は素直に頷いた。


 しかし、その日の練習では板垣のプレーが改善することはなかった。


 もしかすると、こういうところもオファーがなかった理由なのかな?


 まあ、改善については岡本さんに任せよう。

 岡本さんならきっと改善できるはずだ。


 俺が教えられることではない。



 サッカーでは少し心配なところも見えたが、会社員としてはどうなのか。


 こっちも少し気になっていた。


 何しろ、喋らないしな。

 

 研修担当に聞いてみたが、研修では特に問題は起こらなかったそうだ。

 

「必要最低限のことしか喋らないが、言われたことはちゃんと覚えてやる」


 というのが研修担当の評価だ。


 パスの方も言われたらちゃんとやってほしいものだが……。


 では、サッカースクールではどうなのか?

 

 一緒に行った田中によると、子どもに頼まれたらちゃんと見本を見せるので、意外と付き合いが良いそうだ。


 自分よりもドリブルが上手いので、子どもの人気を取られてしまったと田中は嘆いていたが……。


 地域活動にも普通に参加する。


 片付けも最後までやっている。


 別に嫌そうな顔もしない。


 自分から積極的に喋るわけではないが、頼んだことを適当に済ませることもなかった。


「板垣って、やる気ないように見えるときあるけど、ちゃんとやるよな」


「はい」


「……本人に言うことじゃなかったな」


「大丈夫です」


 何が大丈夫なのかは分からない。


 でもまあ――。


 いいか。


 喋らないだけで、仕事をしないわけじゃない。


 それも個性だろう。



 そして板垣の加入を、誰よりも喜んでいる男がいた。


「板垣!」


「はい」


「会社で分からんことあったら俺に聞けよ!」


「はい」


「サッカーでも何でも聞いていいからな!」


「はい」


「飯行くか?」


「……大丈夫です」


「どっちの大丈夫!?」


 友近だ。


 これまで京南FCでは友近が一番年下だった。


 その友近に、ついに年下の後輩ができた。


 よほど嬉しいらしい。


「ついに後輩ですよ~。

 これで俺も晴れて真の先輩です。

 今までいた年上の後輩なんて扱いづらいっすよ」


 そうか?

 あんまり問題ないように見えたが。


「久世さん、なんか困ったことあったら俺が板垣の面倒見ますよ」


「お前が?」


 過去の友近の行動を振り返る……。


「なんすか、その反応。

 俺も二十歳で立派な大人ですよ」


「去年の忘年会のこと覚えてないのか?」


「そ、それは忘れてください!」


「板垣、行くぞ!」


「はい」


 逃げるように友近が板垣の肩を叩いて連れていく。


 板垣はされるがままだ。


 少しだけ面倒くさそうに見えたのは、俺の気のせいということにしておこう。



 ただ、グラウンドでは少し違った。


 紅白戦。


 板垣がボールを持つ。


 一人かわす。


 さらに前へ。


 そこに友近が来た。


 板垣が仕掛ける。


 友近は簡単には飛び込まない。


 板垣が一度止まり、もう一度仕掛ける。


 それでも抜けない。


 最後は友近が身体を入れてボールを奪った。

 板垣は吹っ飛ばされて倒れている。


「よし!」


 そのまま友近が前へ運び、味方を使った。


 パスを出して、さらに前へ走る。


 もう一度ボールを受ける。


 今度は逆サイドへ展開。


 そして、攻撃が続いていく。


 板垣が足を止めて、その姿を見ていた。


「板垣!」


「はい!」


 岡本さんに怒られて、慌てて戻る。


 でも、その後からだった。


 板垣が妙に友近を見るようになった。


「やっぱり尊敬されてるんすかね」


 おお、友近嬉しそうだな。


「いやー、困るなあ。ついに俺にも憧れる後輩ができましたか」


 いや、尊敬はないんじゃないか……?


 と思いつつ、俺も大人だ。

 成長する若者を止めはしない。


「憧れているかどうかは知らないが、先輩としていろいろ教えてやってくれよ」


「任せてください! まずは爆盛り定食屋からですね!」


 いや、サッカーや社会人の方なのだが……。


 あ、行ってしまった。



 別の日でも板垣の視線の先には友近がいた。


 何を考えているのかは俺には見えない。


 憧れているのか。


 負けたくないと思っているのか。


 それとも、ただ気になっているだけなのか。


 でも、一つだけ分かる。


 板垣蓮。


 十八歳。


 個人の能力は高い。


 まだまだ課題も多い。


 そして、京南FCには今までいなかったタイプの選手だ。


 俺たちが欲しいと思って獲得した、初めての選手。


 三年目。


 新しい戦力を加えた京南FCのシーズンが始まった。

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