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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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1年目 閑話 京南FC忘年会

十二月。


京都府六部の全日程が終わった。


優勝もした。


来年は五部。


そして今日は、京南FCの忘年会だ。

会社全体の忘年会とは別にサッカー事業部関係者だけの内輪の忘年会だ。


「今年もいろいろあったが、一年で昇格も決めて、皆とこうして飲んで騒げる日を楽しみにしていた! 今日は無礼講だ! 楽しく飲もう!」


「おおー!」


「ただし、友近! お前は未成年だから飲んだらダメだ!」


「ええー! そりゃないっすよ!!」


一同笑う。


「ではかんぱーい!」


「「「かんぱーい!!」」」


グラスがぶつかる音が店内に響く。


参加者は京南FCの選手たちに岡本さん、隠岐、佐藤さん、伊東、それから広報の篠宮さん。


もちろん俺もいる。

乾杯の挨拶をしたのも俺だ。

呼ばれなかったらどうしようかと少し不安になったのは内緒だ。


川崎さんにも声をかけたのだが、


『私はサイトを作っただけですから』


と言って断られた。


篠宮さん曰く、


『あの人、そういうところあるんですよ』


とのことだった。


まあ、無理に連れてくるものでもない。


来年また誘おう。



「うまい!」


岡本さんがジョッキをテーブルに置いた。


すでに空だ。


早い。


「岡本さん、もう飲んだんですか?」


「ん? 何がや」


「それ」


「ビールや」


それは見たら分かる。


「もう一杯頼みます?」


「おう。五杯くらい頼んどいてくれ」


「五杯? いやグラス交換制なんですよ」


「ほんならピッチャーで頼んどいて」


近くにいた選手が振り返った。


岡本さんは不思議そうな顔をする。


「皆にも分けたるから心配するな」


今年、岡本さんはシーズン中ほとんど酒を飲んでいなかった。


別にチームで完全な禁酒をしていたわけではない。


ただ、選手には試合やコンディションに影響が出ないよう節度を持つように言っていた。


だから自分も飲まなかったらしい。


その反動なのか。


さっきから恐ろしい勢いでグラスを空にしている。


「監督、そんな飲むんすか……

 これが大人か……」


友近が若干引いている。


「いや、岡本さんは特別だ。

 右の長谷川を見てみろ」


田中が長谷川の背中をさすっている。


「大丈夫……」


全然大丈夫に見えない。


顔が真っ赤で俯いている。


「長谷川は一杯しか飲んでないんですけどね」


と田中。


「うう、すまん。社会人になったから飲めるようになったかと……」


「そんなわけないだろ、ほら水。

空腹でアルコールを急に入れたらこうなっちゃうよ。普通の人間は」


あ、そんな言い方すると……


「誰が異常な人間や?」


岡本さんがかみついた!


「いや、違うんすよ」


「お前には説教したらなあかんみたいやな。

グラスを持たんかい」


「お、お手柔らかに〜」


説教タイムに入ってしまった。

ただ二人とも笑っているので真剣ではない。

岡本さんも柔らかくなったものだ。


「なるほど、大人でもいろいろありますね。

俺も飲んでみたいなあ」


友近がビールを見ている。


「ダメ」


俺が即答する。


「一口くらいなら」


「ダメ」


「ちょっとだけ」


「ダメ、お母さん呼ぶぞ」


「社長、厳しくないっすか?」


「法律だからな」


友近はまだ未成年だ。


来年でようやく二十歳。

今はダメなものはダメだ。


友近にはジュースを飲ませる。


別に酒なんてなくても、こいつは十分うるさい。

飲んだらどうなるんだろうか?

逆に静かになるかな。



「篠宮さん、今年はいい写真ありがとうね。

大変じゃなかった?」


長谷川の隣にいた篠宮さんに声をかける。


「いえいえ、観ているうちに面白さにはまってしまいましたよ」


「Webサイトもありがとう」


「写真よりもWebの方が大変でした! 川崎さんのチェックが厳しくて……」


確かに彼は出来る分、他にも求めるものが厳しそうだ。


「この優勝決定ゴールの長谷川の写真めっちゃかっこいいね。チラシとかでも使えそうだ」


とスマホを見せる。


「……!? そ、そうですね」


あら、顔が赤いな。

篠宮さんもお酒に弱いタイプかな?


「すみません、店員さーん。

お冷や二つ下さい」


運ばれてきたお冷やを渡す。


「ちゃんとお水飲んでね。ごめんだけど隣の長谷川にもちょくちょくお水飲ませてあげてくれる? 相棒の田中が捕まっちゃったから」


「え!? そんな恐れ多い……

でも分かりました!」


「頼んだよ」


「篠宮さん、すみません。

俺もいつもカッコいい写真撮ってくれて感謝してます、ありがとうございます」


と少し復活した長谷川が声をかける。


「いえいえ、被写体がいいので!」


「ですよね、京南FCのユニフォームカッコいいですもんね」


中々仲が良いみたいだ。

真っ赤な二人が面白いのでスマホで写真を撮っておく。

後で篠宮さんにも送っておこう。



「しゃちょ〜」


後ろから声がした。


嫌な予感がする。


振り返る。


佐藤さんだった。


顔が赤い。


「はい」


「飲んでますかぁ〜?」


「飲んでますよ」


「少なくないですか〜?」


「俺、そんなに強くないから」


「社長なのに〜?」


社長と酒の強さに何の関係があるんだ。


「もっと飲みましょうよ〜」


「せ、せやな」


お酒には弱いが勧められたら少しは飲む。

これが社長の処世術だ。


「そういえば社長」


「はい」


「ご飯」


「はい、これ誰も手をつけてないやつだからどうぞ」


と唐揚げとサラダを取り分けて佐藤さんに渡す。

どっちが社長なんだか分からないな。


ギロリ。


唐揚げとサラダを食べながら睨んでくる。


ち、ごまかしは通じないか。


「いつ行くんですかぁ?」


「予定確認するって言ったじゃないですか」


「確認しました?」


「…………」


「してないですよね?」


「します」


「今日?」


「今日は忘年会だから」


「じゃあ明日」


「日曜日だから」


「スマホで確認できますよね?」


逃げ道がない。


「分かりました。明日確認します」


「絶対ですよ?」


「はい」


佐藤さんは満足そうに笑った。


そして俺の肩を叩く。


「社長はねぇ」


「はい」


「もっと私に感謝した方がいいですよ」


「感謝してますよ」


「足りない!」


面倒くさい。


酔った佐藤さん、かなり面倒くさい。


「今年、私めちゃくちゃ頑張ったんですよ」


「知ってます」


「スクールも!」


「はい」


「選手のことも!」


「はい」


「社長のことも!」


「それは……はい」


「もっと褒めてください!」


「佐藤さん、今年一年本当によく頑張りました」


「気持ちがこもってない!」


どうすればいいんだ。


少し離れたところで隠岐が笑っている。


助けろ。


目が合った。


隠岐はグラスを持って別の方向を向いた。


あいつ。


パシャリ。


音がした方を見ると篠宮さんがスマホで写真を撮ったみたいだ。


「珍しい絵面なので撮っちゃいました」


ヤバイ、この写真が流出すると俺の威厳ある社長のイメージが……


「ああ〜篠宮さん!」


「は、はい、何でしょう?」


「私の胴上げの写真サイトに載せたでしょ!」


「いや、あの宙を舞う姿があまりにも美しく……」


しめしめ、佐藤さんのターゲットが移ったぞ。


今のうちに別のテーブルに移動する。



別のテーブルでは何やら大盛り上がりしていた。


「いや、それは絶対二作目からやったらダメなんですよ!」


鈴木だ。


珍しいな。


普段の鈴木はどちらかというと大人しい。


チーム内でも普通に話すが、友近のように騒ぐタイプではない。


その鈴木が、ものすごい勢いで何かを語っている。


「何の話?」


「ゲームです」


「ゲーム?」


「このシリーズなんですけど、一作目から話がつながってるんですよ。それなのにコイツが二作目からやろうとしてて」


「別にどっちでもいいやん」


と渡部がお酒を飲みながら言う。


──渡部はフォワードの選手だ。


「よくない!」


鈴木が即答した。


「そうだ!」


俺も便乗する。


「え、社長まで!?」


鈴木の目が輝く。


「社長分かってますね!」


俺はビールを飲み干す。


「いいか、渡部。一作目をやらずに二をやっても完全に二を楽しむことは出来ないんだよ」


「そうなんですよ!」


「はぁ、そういうもんですか」


「そういうもんだ。そして三作目はガラッと変わる。当時は批判されたんだが、このシステムはかなり奥深く、プレイする度に新しい発見がある」


「俺もそう思います!」


「はぁ、あれ? このシリーズって四も出てませんでしたっけ?

四はどうなんです?」


「いいか、渡部。四はない」


「そうだぞ、渡部」


ポカーンとする渡部を放置し、そのまま鈴木とゲームの話を続ける。


こいつは若いくせに昔のゲームもちゃんと知っている。

出来るやつだ。


気づけばかなり長い時間話していた。


「社長、鈴木とそんなに仲良かったんですか?」


岡本さんの説教から逃れてきた田中が聞いてきた。


長谷川と篠宮さんはまだ佐藤さんに捕まっているようだ。


「今日仲良くなった」


「ゲームの話できる人、会社にあんまりいなかったんですよ」


鈴木が嬉しそうに言う。


「俺、ゲームするで」


友近が入ってくる。


でも聞かなくても分かる。

こいつは浅い。


「お前はどうせスマホゲーだけだろ」


「そんなことないっすよ!」


鈴木はゲームの話が出来る。


今度会社の忘年会で日下と話させてみよう。



宴会はそのまま続いた。


ふと、おしゃべり大好きな隠岐が今日は大人しいことに気がつく。


テーブルの端っこでニコニコしながら静かに酒を飲んでいるのだ。


「今日はやけに静かじゃないか?」


「おお、社長、佐藤さんに絡まれてましたね」


こいつはさっき助けてくれなかったな、そういえば。


「それで、どうしたんだ?

隠岐が静かだと皆不気味がるだろ」


「いえ、自分が集めたメンバーが楽しそうにしているのを見て、スカウトして良かったな〜と思っていたんです」


「なるほど、確かに分かる」


俺も静かにお茶を飲みながら皆の様子を見る。


岡本さんはまだ飲んでいる。

日本酒に変わっているがペースは変わってない気がする。


長谷川は水に切り替えて大分復活しているようだ。

篠宮さんと仲良くしゃべっている。

篠宮さんは顔が赤いけど大丈夫かな?


田中は渡部たちと笑いながら飲んでいる。

鈴木はまた別の人にゲーム論を語っているようだ。


伊東は途中からAIトレーナーの話を始め、選手につかまっていた。


──しまった、今日伊東と話すの忘れていた。


そして佐藤さんは。


「しゃちょ〜」


また来た。


「なんですか」


「来年も頑張りましょうねぇ〜」


「もちろん」


「五部ですよ」


「知ってます」


「優勝してくださいね」


「俺が試合するわけじゃないけどね」


「社長なんだから責任持ってください」


「はい」


「食事のこともですよ〜」


「はいはい」


「はいは一回!」


酔っ払いめ。



宴会も終盤。


岡本さんが突然立ち上がった。


「お前ら!」


声が大きい。


店中の人がこちらを見る。


「監督、声でかいです」


誰かが言う。


「うるさい!」


それも声が大きい。


岡本さんは選手たちを見回した。


「今年はようやった!」


少しだけ静かになる。


「六部優勝した。けど、来年は五部や!」


「はい!」


何人かが返事をする。


「五部優勝したら、次は四部や! 分かっとるな!」


「はい!」


「来年も勝つぞ!」


「「「おおーー!!」」」


選手たちが一斉に声を上げる。


「五部も優勝しましょう!」


友近が叫んだ。


「当たり前や!」


岡本さんが返す。


店員さんがこっちを見ている。


申し訳ありません。



俺は自分の席から、みんなを見る。


今年入った選手たちが、あちこちで笑っている。


去年の今頃には、まだこのメンバーで酒を飲むことになるなんて想像もしていなかった。


「社長!」


誰かに呼ばれた。


「来年もよろしくお願いします!」


「こちらこそ!」


来年は五部。


新しい選手も二人入ってくる。


スクールももっと広がるだろう。


AIトレーナーもどうなるか分からない。


会社だってまだ大きくなる。


そして京南FCも、もっと強くしたい。


今年は面白かった。


大変だったけど、それ以上に面白かった。


来年はどうなるんだろう。


まあ、きっと。


来年も面白くなるだろう。



「しゃちょ〜」


「まだ何かあるんですか?」


「明日、予定確認」


「覚えてますって!」


「絶対ですよ!」


「分かりました!」


京南FCの忘年会は、まだしばらく終わりそうになかった。

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