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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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1年目 第5話 府六部優勝

四月の開幕戦から、半年以上が経った。


季節はすっかり秋になり、京南FCの創部一年目も終盤に入っている。


選手たちの生活も、春とはかなり変わった。


いや、変わったというより、慣れたという方が正しいかもしれない。


昼間はノードシードの社員として働き、夕方からはサッカー選手として練習する。


最初の頃は仕事を終えてすぐに練習着へ着替える生活に戸惑っていた選手たちも、今ではそれが当たり前になっていた。


新卒組も研修期間を終え、それぞれの部署で少しずつ仕事を任されるようになっている。


部署での仕事が終わればグラウンドへ向かう。

今度はグラウンドで仕事だ。

サッカースクールに行く日もある。


全体練習が終わった後もボールを蹴る選手がいる。


トレーニングルームへ向かう選手もいる。


もちろん全員が毎日居残っているわけではない。


疲労が溜まっていれば、岡本さんやAIトレーナーから休めと言われる。


最初の頃は、


「まだいけます」


と言っていた選手たちも、半年もすれば、


「今日はやめときます」


と言えるようになった。


休むのも練習。


岡本さんが何度も言ってきた言葉は、少しずつ選手たちに浸透しているようだった。


その成果なのか、春と比べると選手たちの身体つきも変わってきている。


特に友近は分かりやすい。


もともと走れる選手だったが、半年間トレーニングを続けたことで、さらに身体が強くなった。


相変わらずトラップを大きくすることはあるし、シュートを盛大にふかすことが多い。


それでも、入社した頃より確実にサッカー選手らしくなっていた。


もちろん、半年間ずっと順調だったわけではない。


試合や練習で怪我をした選手もいる。


軽い怪我で数日休んだ選手もいれば、一か月以上チームを離れた選手もいた。


それでも二十一人いる選手層は大きかった。


誰かが抜ければ、別の選手が出る。


京都府六部を戦う上で、戦力が大きく落ちることはなかった。


そしてリーグ戦では、開幕から首位を走り続けている。



今年参加できなかった大会もある。


エンペラーカップだ。


クラブを立ち上げた時期の関係で、今年は京都府予選への登録が間に合わなかった。


これは来年以降の楽しみに取っておくしかない。


一方で、全国社会人サッカー大会――通称、全社の京都予選には出場した。


リーグ戦とは違い、上のカテゴリーに所属するクラブとも戦った。


所属しているカテゴリーの差は、トーナメントに入れば関係ない。


俺たちは何試合か勝ち上がった。


そして、京都府一部のクラブとも対戦した。


結果は敗戦。


ただ、一方的に負けたわけではなかった。


ボールを持てた。


チャンスも作れた。


守備も十分通用した。


最後のところで決めきれず、逆に相手は少ないチャンスを決めた。


試合後、岡本さんは悔しそうにしながらも、どこか嬉しそうだった。


「一部でも、やれへんことはないが、まだまだこれからや」


俺も同じことを思った。


今すぐ一部で優勝できるとは思わない。


でも、六部だから勝っているだけではない。


俺たちはちゃんと上を目指せる。


それを確認できた大会だった。



サッカー以外でも、この半年で変わったことがある。


サッカースクールだ。


最初はノードシードの社員の子ども五人から始まったスクールだったが、出張スクールを始めてから一気に広がった。


今では幼稚園や小学校を中心に、十五か所ほどで定期的にスクールを行っている。


当然、京南FCを知っている子どもも増えた。


その保護者も、京南FCという名前を知る。


篠宮さんによると、公式サイトを見に来る人も少しずつ増えているらしい。


そして十月最後の日曜日。


京南FCは、京都府六部の優勝が決まる試合を迎えた。


まだリーグ戦自体は十二月まで続く。


だが、今日勝てば残りの試合結果に関係なく優勝が決まる。



試合会場に着いて、俺は最初に違和感を覚えた。


「……今日、多くない?」


観客席があるような立派な会場ではない。


開幕戦と同じように、グラウンドの周囲から試合を見る形だ。


それでも明らかに人が多かった。


選手の家族。


ノードシードの社員。


筋トレ部の連中もいる。


広報部の篠宮さんは、今日もカメラを持って走り回っていた。


ここまでは見慣れた顔だ。


でも、それだけじゃない。


子どもが多い。


その隣には父親や母親らしき人たちがいる。


「あれ?」


俺が首を傾げていると、


「長谷川コーチー!」


大きな声が飛んだ。


ウォーミングアップ中だった長谷川が振り返る。


「おー!」


笑顔で手を振る。


子どもたちがきゃあきゃあと一斉に手を振り返した。


少し離れた場所からも声がする。


「友近コーチー!」


「おおー!」


友近は両手を大きく振った。


「今日、俺出るからなー!」


「ゴール決めてー!」


「任せろ!」


おお、まだノーゴールなくせに……。

今日こそ決めろよ。


「スクールの子か」


考えてみれば当然だった。


選手たちは今、週に何度も市内の幼稚園や小学校へ行っている。


子どもたちにとって、長谷川や友近は京南FCの選手である前に、自分たちにサッカーを教えてくれるコーチなのだ。


長谷川たちから今日勝てば優勝だと聞いて、観に来てくれたんだろう。

たまたま近い会場だったのも幸運だった。


「社長」


隣にいた佐藤さんが声をかけてきた。


「嬉しそうですね」


「そりゃ嬉しいよ」


俺はもう一度、周囲を見渡した。


開幕戦とは、少し違う景色になっていた。



試合が始まった。


立ち上がりからボールを握ったのは京南FCだった。


半年間、毎日のように一緒に練習してきた。


開幕戦の頃と比べれば、選手同士の連係も良くなっている。


前半二十分過ぎ。


左サイドを崩し、中央へ折り返したボールを逆サイドから飛び込んだ田中が合わせた。


ゴール。


一対〇。


そのまま追加点を狙ったが、相手も簡単には崩れなかった。


今日、目の前で優勝を決めさせたくないのだろう。

その気持ちも分かる。


意地で身体を張って守ってくる。


前半は一対〇で終わった。


そして後半。


一瞬の隙を突かれた。


カウンターから失点。


一対一。


グラウンドの空気が少し変わる。


子どもたちの絶叫のような声が響く。


それでも、選手たちは慌てていなかった。


ボールを回す。


空いた場所を探す。


長谷川が何度も周囲を確認しながら、ボールを散らしていく。


残り時間は少なくなっていた。


引き分けでも優勝がなくなるわけではない。


次の試合がある。


それでも、今日決めたい。


見に来てくれた人たちの前で決めたい。


そんな気持ちは選手たちにもあるはずだ。



長谷川が中央でボールを受けた。


いつもなら、ここから左右へ散らす。


そう思った。


でも今日は違った。


長谷川が前を向きドリブルを仕掛け、直接フォワードにスルーパスを出す。


が、敵DFに阻まれる。


そこに飛び込んだのは友近。


猛プレスでボールを奪い返す。


ゴールが見えた!

先ほどの約束を果たすときが来た!


振りかぶってシュート!!


が、これも敵DFにブロックされる。


そのこぼれ球は長谷川の前へ。


迷うことなく駆け寄り、右足を振り抜いた。


ボールがゴールの隅へ飛んでいく。


ネットが揺れた。


「よっしゃあああ!」


思わず叫んだ。


二対一。


選手たちが長谷川のところへ走る。


でも長谷川は、その選手たちから逃げるようにタッチラインの方へ走っていった。


どこ行くんだ?


長谷川が向かった先には、スクールの子どもたちがいた。


「決めたぞ!」


「うわあああ!」


一人の男の子が飛び跳ねている。


後で聞いた話だが、スクールの時にその子から、


「長谷川コーチも試合でシュートしてよ!」


と言われたらしい。


長谷川は、


「じゃあ今度、試合を見に来てくれたら一本狙ってみるよ」


と約束していたそうだ。


まさかそれが優勝を決めるゴールになるとは、本人も思っていなかっただろう。



そして、そのすぐ近く。


篠宮さんがカメラを構えていた。


長谷川が子どもたちのところへ走ってくる。


ファインダー越しに、その笑顔を追う。


カシャ。


カシャ。


カシャ。


「約束しただろ!」


長谷川が子どもに笑いかける。


カシャ。


カシャ。


篠宮さんの手は止まらない。


――ちょっと待って。


――今のはずるくない?


長谷川君が近い。


ものすごく近い。


いや、違う。


これは広報としてドキドキしているだけだ。


優勝が決まるかもしれない試合で、最高の写真が撮れた。


だからだ。


たぶん。


「長谷川ー! 戻れー!」


岡本さんの声が飛んできた。


「はい!」


長谷川がグラウンドへ戻っていく。


篠宮さんは一度カメラを下ろし、小さく息を吐いた。


そして、またカメラを構えた。



残り時間を守り切った。


審判の笛が鳴る。


二対一。


その瞬間。


「よっしゃあああああ!」


選手たちが一斉に飛び出した。


京都府六部。


優勝。


創部一年目で、一つ目の昇格を決めた。


長谷川を中心に選手たちが集まる。


ベンチの選手もスタッフも飛び出していく。


俺と佐藤さんもグラウンドへ向かった。


「社長!」


「やったな!」


「はい!」


長谷川と握手する。


友近も走ってきた。


「社長! 優勝っすよ!」


「お前もシュート決めたかったな!」


「長谷川さんに譲ったんですよ!」


子どもたちからも声が飛んでいる。


「長谷川コーチ、おめでとう!」


「友近コーチー!」


「おお! ありがとう!」


友近は今日一番の笑顔で手を振っていた。



しばらくして、友近が言った。


「監督を胴上げするぞー!」


「は?」


岡本さんの顔が固まった。


示し合わせていたようで、選手たちが岡本さんを取り囲む。


「いや、ええ。そんなんせんでええ」


「優勝したんですよ!」


「やめろ。お前ら絶対落とすやろ」


確かに。


岡本さんはデカい。


「絶対落とさないですよ!」


普段なら選手を睨むだけで黙らせられる岡本さんが、今日は少し焦っている。


「お前ら頼むぞ!」


覚悟を決めたようだ。


「友近、お前こういう時こそ力使え!」


「任せてください!」


「お前が一番信用ならん!」


選手たちが岡本さんの身体を支える。


「死ぬ気で上げろよ!」


「せーの!」


岡本さんの巨体が宙に浮いた。


「うおおおおお!?」


思った以上に高く上がった。


そして落ちてくる。


「取れ取れ取れ取れ!」


全員が必死だった。


なんとか受け止める。


友近とか潰されてないだろうか。


「危ないやろ!」


怒鳴っている。


でも、岡本さんは笑っていた。


もう一度。


「せーの!」


「うおおおお!」


俺はその光景を少し離れたところから眺めていた。


「……いいなあ」


思わず口から出た。


監督って、こういうのあるんだな。


ちょっと羨ましい。


でも、


「俺もやって」


とはさすがに言えない。


「社長もやってあげてください!」


佐藤さんだった。


「え?」


選手たちがこっちを見る。


「社長もいきますか!」


「やりましょう!」


「え、いいの?」


たぶん俺は、かなり嬉しそうな顔をしていたと思う。

いそいそと革靴を脱ぐ。


「社長、真ん中来てください!」


言われるままに素早く移動する。


さっきまで岡本さんを持ち上げていた選手たちだ。


俺くらいなら余裕だろう。


「せーの!」


「うわっ!」


高い。


思っていたより遥かに高い。

これは怖い。


「お前らもっと高く上げられるぞ!」


下で岡本さんが叫ぶ。


「でも社長落としたらクビやぞ!」


「そんなことでクビにせえへんわ!」


空中から叫び返す。


「もう一回いきます!」


「おう、どんと来い!!」


上がった。


怖い。


でも、楽しい。


無事に地面へ戻る。


これは確かに嬉しい。

テンションが上がる。


子どもたちも楽しそうに見ている。


「ありがとうございます!」


選手たちに頭を下げる。


そして、


「さぁ次は佐藤さんを上げるぞー!」


と俺は言った。


「「おおーー!!!」」


今日一番の掛け声が響く。


「え?」


佐藤さんの顔から笑顔が消えた。


「いやいやいや、私はいいです!」


「日頃の感謝を兼ねてですよ」


既に友近が回り込んでいる。早い!


「それとこれは別です!」


既に選手たちが佐藤さんを取り囲んでいた。


俺も感謝の気持ちを込めて、既にスタンバイ済みだ。


「ちょっと! 本当にやるんですか!?」


「まかせろ!」


もちろん無茶はしない。


人数を集め、しっかり身体を支える。


「せーの!」


「きゃああああああ!」


今日一番の悲鳴がグラウンドに響いた。


子どもたちが大笑いしている。


篠宮さんのカメラが高速で連写していた。


「篠宮さん!」


地面へ戻った佐藤さんが叫ぶ。


「はい!」


「今の写真、絶対サイトに載せないでください!」


「分かりました!」


返事をしながら、まだ撮っている。


「今も撮ってるじゃないですか!」


また笑いが起きた。


「そして社長!」


佐藤さんが俺の肩を掴む。


痛い。


「覚 え て お い て く だ さ い ね」


もちろん佐藤さんが宙に舞う姿は忘れません。



最後に全員で集合写真を撮ることになった。


総務部の課長が全体に声をかける。


「京南FCを応援に来てくださった皆さん、最後に記念撮影をしますので、ぜひ集まってください」


「は~い!」


子どもたちがいち早く集まると、保護者の方も集まって来た。


「優勝した記念なので、どうぞ入ってください」


と、俺からも声をかけると、スクール関係ではなく来てくれていた人も集まってくれた。


篠宮さんは筋トレ部に声をかけて、横断幕を広げてもらっている。


横断幕には『優勝おめでとう!』と手書きで書いてあった。


広報部で用意してくれたんだろうか。

用意のいいことだ。



一人の幼稚園くらいの女の子が、トコトコと長谷川に近づいている。


「はせがわコーチ、だっこして」


「コーチ汗まみれだけどいいの?」


「いいの!」


そう言われて幼稚園スクールの生徒を抱っこする長谷川。

流石だ。


見ていると、田中や他の選手もいつも見ている生徒を抱っこしていた。


友近に至っては肩車だ!


子どもたちは嬉しそうだ。


コーチと生徒が仲良くて微笑ましい。


保護者も笑っている。


「選手を中心に整列してくださーい」


と、先ほどの総務部課長が声をかける。


が、みんなには届かないようだ。


「課長、これでいいよ」


むしろこれがいい。

この方が雰囲気が出ている。


「分かりました」


篠宮さんがカメラをセットする。


「撮りますよー!」


篠宮さんが走ってくる。


全員が前を見る。


京都府六部優勝。


まだ、一番下のカテゴリーだ。


プロなんて、遥か先にある。


それでも今日は嬉しかった。



写真撮影が終わり、子どもたちが選手のところへ集まっていく。


長谷川とシュートの約束をしていた子どもが、長谷川にサインをねだっている。


色紙は持っていなかったらしく、お絵かき帳にだ。


「おお、人生で初めてのサインだよ。

 こんな感じでいいかな?」


「ありがとう! コーチ!!」


大事そうにお絵かき帳を見ている。


プロではないが、あの子にとっては憧れの選手であることには違いないんだろうな。


俺は少し離れたところから、その光景を眺めた。


開幕戦の時にも、試合後に集合写真を撮った。


あのときは全員関係者だった。


でも今日は違う。


知らない親子がいる。


少し離れたところで試合の話をしている男性がいる。


誰が誰なのか分からない。


京南FCとどういう関係なのかも分からない。


でも、今日ここへ試合を見に来てくれた。


それだけのことなのに、なんだか嬉しかった。


京都府六部優勝。


来年は五部。


プロまでは、まだ遥かに遠い。


それでも京南FCは今日、確かに一つ上へ進んだ。

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