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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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1年目 第4話 サッカースクールをやろう

「少ないな……」


俺はグラウンドの端に並んでいる子どもたちを見ながら呟いた。


一目で分かる、参加者は全部で五人。

保護者の方が多いくらいだ。


今日は京南FCサッカースクールの初回体験会だった。



サッカースクールをやろう。


その話自体は、京南FCを作った頃から出ていた。


地域の子どもたちにサッカーを楽しんでもらう。


京南FCを地域に知ってもらう。


そして選手たちがサッカーを教えることも、立派な地域貢献の仕事になる。


将来的には育成にもつなげていきたい。


俺たちが目指しているのはプロクラブだ。


だったら、いつか京南FCのスクールからプロになる子が出てきたら面白い。


ただ、それだけが目的じゃない。


プロになれる子なんて、ほんの一握りだ。


サッカーが好きになる。


身体を動かすことが好きになる。


友達ができる。


そんな場所でもいい。


プロを目指す子も、そうじゃない子も通えるスクールにしたかった。


準備は少しずつ進めてきた。


グラウンドがある。


選手がいる。


監督もいる。


公式サイトもできた。


広報部がチラシも作ってくれた。


会社のサイトや京南FCの公式サイト、SNSでも告知した。


社員にも案内した。


準備万端。


あとは子どもたちが来るだけ。


そして今日。


来たのが五人だった。


「最初なんてこんなもんやろ」


そうなのか?

岡本さんに言われるとそんな気がしてくる。


「ほんならみんな始めよう」


岡本さんは気にした様子もなく、スクールを始める。


「まずは自己紹介からや」


「じこしょーかい?」


一番小さい子どもが質問する。


「おお、そうや。名前が分からんかったら仲良くでけへんからな」


「ほんまや!」


「ほんならおっちゃんから行くで。

おっちゃんは岡本やで、五十歳や!

好きなものはサッカー」


「おかもと!」


さっきの子どもが反応する。

おお、もう仲良くなってきてる。さすがは岡本さんだ。


子どもたちも順番に自己紹介していく。


そうだよな、大事なのは人数じゃない。

少なくたって楽しくサッカーはできる。

ここから増やしていけば良いんだ。


「社長」


後ろから佐藤に呼ばれた。


「ん?」


「今回の子どもたちはみんなウチの社員のお子さんですよ」


「え、全員?」


「はい、残念ながら」


「…………」


五人を見る。

遠くにいる保護者も見る。確かに見た顔がいる。


くそ、気が付かなかった。


あれ? 保護者と隠岐がしゃべっている。

何話しているんだろう、あとで聞いてみるか。



地域密着、京南市に根差したサッカークラブ。


その第一歩。


参加者、全員ノードシード関係者。


「まあ……最初は身近なところから……

千里の道も一歩から」


「そうですね」


佐藤が笑いを堪えている。



それでもスクール自体は楽しかった。


岡本さんはこういう時、本当に子どもの扱いが上手い。


見た目だけなら子どもが泣きそうなのに。


「よっしゃ! 次、あのコーンまでボール運んでみ!」


「できた!」


「うまいやんけ!」


「もう一回!」


「何回でもやったるわ!」


岡本さんの周りを子どもたちが走り回っている。


以前、無料で子どもたちにサッカーを教えていたのだから当然と言えば当然なのかもしれない。


参加している選手たちも楽しそうだ。


長谷川は一人一人に合わせて丁寧に教えている。


友近は、


「よーい、ドン!」


と言った瞬間、子ども相手なのに普通に走り出して、


「速すぎる!」


と岡本さんに怒られていた。


子どもたちは大笑いしている。


五人しかいない。


でも、その五人は楽しそうだった。


まずはこれでいいのかもしれない。


そう思った。



     ◇



スクールが終わった後、岡本さん、隠岐、佐藤さんと集まった。


選手は解散済みだ。

友近は「今日は爆盛定食に挑んできます!」と走っていった。


「岡本さん、京南FCの初スクールはどうでしたか?」


「良かったんやないか?

選手も良く子どもと絡んでたしな」


そう、来てもらえさえすれば楽しくサッカーができるのだ。

それは間違いない。


「ですよね。では、どうやって参加者を増やしていくかですね。岡本さんが以前教室やってた時は、どうやって増やしたんですか?」


「そりゃ口コミやで。俺はチラシとかSNSでやる日を告知したりとかしとらん」


「なるほど、今のやり方と一緒ですね」


「でもそのやり方だと、集まるのに時間かかりますよね」


と佐藤さん。


「確かに。それに口コミっていっても今回の参加者は全員社員だからなぁ。社員からの口コミって手前味噌じゃないかな?」


「確かにそうですね」


うーん、これは思った以上に難しいかもしれない。


「待ってるからじゃないですか?」


ここまで黙っていた隠岐がしゃべりだす。


何か考えがあるみたいだ。


「先ほど保護者の方と話していたんですが、そんなに遠くないとはいえ、ここまで子どもを連れてくるのがちょっと大変って言ってましたわ。一回ならともかく毎回はちょっと……という雰囲気です。京南FCや岡本さん、選手のことを多少知ってるウチの社員ですらそう思うんですよ」


と言われて考える。


確かに。


「知らないサッカークラブがスクール始めましたって言って、わざわざ親が子ども連れて来ます?」


「来ないだろうな」


そんなことは分かっているんだ。


「じゃあ、どうする?」


「こっちから行けばいいんですよ」


「こっちから?」


「幼稚園とか保育園、小学校とか」


隠岐が机の上のチラシを指で叩く。


「出張サッカースクールです」


なるほど。


「向こうに子どもたちがいるなら、そこへ京南FCが行けばいいんですよ。まずサッカーを体験してもらう。楽しかったら京南FCにも興味を持ってくれるかもしれない」


「でも、やらせてもらえるんかな?」


「そこは交渉ですよ」


隠岐が笑う。


ああ。


そういえば、こいつの一番得意なところだった。



数日後。


「一件決まりました」


「早っ!」


思わず声が出た。


「市内の、ここから結構近い幼稚園です。まず一回、体験ということで」


「もう?」


「はい」


「どうやって?」


「電話して、資料送って、説明しに行ってきました」


簡単そうに言う。


「最初は警戒されましたけどね。会社が運営してることとか、どういうクラブなのかとか、何をするのかとか説明して。費用も今回は体験なので必要ありませんって」


「安全面とか言われへんかった?」


「もちろん。そこも聞かれました。サッカー経験がない子でも大丈夫かとか。今回は幼稚園の子どもたちが相手なので、サッカーどころか運動経験もほとんどない子もいますからね。

あと怪我への対応とか。ここは向こうの先生と協力することになりますね」


そのあたりも説明して納得してもらったらしい。


「あと、社長」


「ん?」


「こういうの、最初の一件が大事ですからね」


隠岐がニヤッと笑う。


「成功させましょう」


それは俺も同感だった。



     ◇



出張スクール当日。


幼稚園の園庭に、紫色のウェアを着た京南FCの選手たちが並んだ。


岡本さん。


長谷川。


友近。


それに数人の選手。


そしてなぜか俺もいる。


俺だけスーツなので浮いている。

クソ、俺もウェアに着替えたら良かった。


「社長も行った方がいいですよ。最初なんで」


隠岐にそう言われて来た。


広報部からは篠宮さんも来ている。


カメラを持って、さっそく選手たちを撮っていた。


「篠宮さん、今日は長谷川だけじゃなくて全員お願いしますね」


「な、何の話ですか?」


何の話だろう。


俺は知らない。


園庭には二十人以上の子どもたちが集まっていた。


京南FCのグラウンドでやった初回スクールより圧倒的に多い。


子どもたちがこちらを興味津々で見ている。


その中の一人が岡本さんを見て、先生の後ろに隠れた。


「…………」


岡本さんが固まった。


「監督、怖がられてますよ」


長谷川が笑う。


「分かっとるわ!」


大きな声を出したので、さらに隠れた。


「声も怖いんですよ」


「ほな、どうせえっちゅうねん!」


大丈夫かな。


少し心配になった。



でも、始まってしまえば何の問題もなかった。


最初から難しいことはしない。


ボールを手で持って走る。


転がして追いかける。


足で少し触ってみる。


コーンの間を進んでみる。


最後は近いところからゴールへシュート。


サッカーというより、ボールを使った遊びに近い。


「できへん!」


一人の子が止まった。


岡本さんがしゃがむ。


「できんでもええ。もう一回やってみよ」


「でも、あっち行っちゃう」


「最初はみんなそうや。ほら、ゆっくり蹴ってみ」


ちょこん。


ボールが少しだけ前へ転がった。


「そうそう! それや!」


「できた!」


さっきまで岡本さんを怖がっていた子も、いつの間にかその横でボールを蹴っている。


やっぱり上手い。


長谷川も子どもたちに囲まれていた。


「お兄ちゃん、サッカー上手い?」


「まあまあかな」


「シュートできる?」


「できるよ」


「見せて!」


「ここで本気で蹴ったら先生に怒られるから、ちょっとだけね」


少し離れたところでは友近が子どもたちと競走していた。


「今度こそ本気出すで!」


「さっきも本気だったやん!」


「次はもっと速い!」


「友近! 子ども相手にムキになるな!」


岡本さんの声が飛ぶ。


笑い声が園庭に響く。


篠宮さんのカメラが何度もシャッターを切っている。


俺は少し離れたところから、その様子を見ていた。


端っこの方では、やりたくないとグズっている子どもの相手を田中がしていた。


おお、やるじゃないか田中。


みんながサッカーや運動を好きなわけじゃないんだから、そういうフォローも大事だよな。



俺がやりたかったのはこういうのだ。


試合に勝つ、上のリーグへ行く。


もちろんそれも大事だ。


でも、それだけじゃない。


サッカーを使って地域とつながる。


京南FCを作る時に考えていたものが、少しだけ形になった気がした。



一時間ほどで体験スクールは終わった。


「ありがとうございました!」


選手たちが頭を下げる。


子どもたちも、


「ありがとうございました!」


と大きな声で返してくれた。


その直後、


「また来て!」


「次いつ来るん?」


「今度は試合したい!」


次々と声が飛んでくる。


岡本さんが嬉しそうに笑った。


「また呼んでもらえたら来るわ!」


先生たちの反応も良かった。


「思っていたより子どもたちが楽しんでいて驚きました」


「普段あまり運動しない子も参加していました」


「選手カッコいいですね」


そんな話を聞く。


迎えに来た保護者からも、


「子ども向けのスクールもやってるんですか?」


と聞かれた。


まだ始めたばかりです、とチラシを渡しながら答える。


そう答えながら、俺は少し嬉しくなった。


京南FCを知らなかった人が、今日初めて名前を覚えてくれた。


それだけでも十分だった。



     ◇



翌週。


京南FCの公式サイトに新しい記事が掲載された。


『○○幼稚園で出張サッカースクールを開催しました』


篠宮さんが撮った写真が何枚も載っている。


ボールを追いかける子どもたち。


一緒に笑っている選手たち。


なぜか子どもたちに囲まれている岡本さん。


ちゃんと監督の写真もあった。


記事には、どんな体験をしたのか。


園の先生や保護者からどんな反応があったのか。


京南FCが地域でこうした活動を続けていくこと。


そして、出張スクールについての問い合わせ先も掲載されていた。


公式サイトの『地域活動』。


これまでほとんど空だったページに、初めてちゃんとした記事が入った。


以前、Web担当の川崎さんが、


『これ、ちゃんと育てましょう』


と言っていたらしい。


その第一歩だ。



そして、そこから少しずつ状況が変わった。


最初の幼稚園での評判を聞いた別の園から問い合わせが来た。


「うちでもやってもらえませんか?」


隠岐が話をまとめる。


開催する。


篠宮さんが写真を撮る。


公式サイトに載る。


それを見た別の人から、また問い合わせが来る。


隠岐も待っているだけではなく、自分から園や学校へ話を持っていった。


三件。


五件。


少しずつ増えていく。


一度開催したところから、


「またお願いしたいです」


と言われることも増えた。


やがて単発の体験だけではなく、月に一回、学期に何回と定期的に開催するところも出てきた。


京南FCのグラウンドで行うサッカースクールにも、社員の子どもではない参加者が少しずつ増えていった。


参加者の増加に合わせて、Webサイトでも申し込みができるように機能を追加した。


申込受付の対応や、毎月のスクール代の引き落とし手続きなどは総務部にも手伝ってもらい対応していた。


純粋なサッカー事業部としては初めての外部収入だ。


金額としては、まだ大したものではない。


それでも会社から予算をもらって使うだけだったサッカー事業部が、自分たちで初めて稼いだお金だった。



幼稚園から帰った子どもが、その日の出来事を家族に話す。


「今日、京南FCの人が来た!」


学校で友達に話す。


「サッカー教えてもらった!」


その保護者が京南FCという名前を検索する。


そこには、試合の予定がある。


選手の紹介がある。


地域での活動が載っている。


サッカースクールの案内もある。


一人。


また一人。


ほんの少しずつ。


試合で勝つこととは別のところから、京南FCという名前が街へ広がり始めていた。

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