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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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0年目 第12話 開幕までの半年

第12話 開幕までの半年


季節は流れ、三月も終わりに近づいていた。


窓の外を見る。


グラウンドでは、何人かの選手がボールを蹴っている。


もうすぐ四月。


大学生だった選手たちは卒業し、友近も高校を卒業した。


四月になれば、全員が正式にノードシードの社員になる。


そして京南FCも、本格的に動き始める。


思えば。


この半年、本当にいろんなことがあった。



     ◇



十月。


二十一人の選手が揃った。


揃った、と言っても。


まだ全員がノードシードの社員になったわけではない。


大学生は大学がある。


大学のサッカー部で活動している選手もいる。


友近にいたっては、まだ高校生だ。


だから本格的なチーム練習が始まるのは四月から。


それまでは、来られる選手だけ週に何度か会社に来てもらい、岡本さんの練習に参加してもらうことになった。


全員が揃うことはほとんどない。


そんな中。


ほぼ毎回いる奴がいた。


「友近、お前またおるんか」


「はい!」


今日もいる。


「学校は?」


岡本さんが聞く。


「もう進路決まってるんで、ほとんど自由登校です!」


「毎日自由なんか?」


「だいたい!」


「……ちゃんと卒業せえよ」


「大丈夫です!」


本当に大丈夫なんだろうか。


少し心配になってきた。


この間、友近のお母さんが挨拶に来てくれたが、お母さんも少し心配しているようだ。


入社に当たっての資料とか渡してるんだけどな。

友近にちゃんと説明するように言っておこう。


友近は地元に住んでいる。徒歩圏内だ。


高校も自由登校になった。


結果、京南FCの練習にほぼ皆勤で参加している。


技術はまだまだ。


大学でサッカーを続けてきた田中たちと比べると、パスもトラップも判断も見劣りする。


ただ。


よく走る。


とにかく走る。


そして、当たり負けしない。


「友近! そこで止まるな!」


「はい!」


「もう一本!」


「はい!」


岡本さんも面白がって鍛えている。


それに伴って、能力の数字も少しずつ伸びている。


もちろん。


まだ最大値には遠い。


……あいつ、四月になる頃にはどうなってるんだろう。


少し楽しみだ。


ほかの選手たちも、来られる日は練習に参加する。


最初は出身大学も年齢も違う、ただ集められただけの二十一人だった。


でも。


少しずつ名前で呼び合うようになった。


練習が終われば、一緒に食事へ行くことも多いみたいだ。

社員食堂でよく見かけると伊東も言っていた。

──入社前だが社員食堂は利用可能になっている。


たまに友近主導で近所の運動部御用達の爆盛定食屋にも行っているようだ。

連れられて行った岡本さんが撃沈して帰ってきていた。

一歩も動けない姿に佐藤さんが爆笑していた。


練習外では長谷川がまとめ、田中、友近が盛り上げ役になっているようだ。

チームらしくなっているみたいで嬉しい。


練習時でもその中心にいるのは、やっぱり長谷川だった。


「田中、次そこ入って」


「了解」


「友近、そこ空けた方がいいぞ」


「はい!」


誰かに言われたわけでもない。


自然と声を出している。


練習が終わったあとも、全員に声をかけているし、岡本さんともよくしゃべっている。


初代キャプテンを任せたのは間違ってなかったな。


二十一人の選手が。


少しずつ。


京南FCになり始めていた。



     ◇



もちろん。


準備しているのは選手だけじゃない。


岡本さんも忙しかった。


グラウンドでは。


「そこ! 戻れ!」


「パス出したあと止まるな!」


「もう一本! 最後まで全力!!」


大きな声が響く。


さすが監督。


頼もしい。


そして事務所では。


カチ。


……カチ。


…………カチ。


「岡本さん」


「なんや」


カチ。


「さっきから何してるんですか?」


「報告書作っとる」


カチ。


……カチ。


横から画面を見る。


文字が。


一文字ずつ。


増えている。


「岡本さん」


「なんや」


「人差し指一本で打ってるんですか?」


「打ててるやろ」


「いや、打ててますけど」


遅い。


圧倒的に遅い。


グラウンドで選手に指示を出している時とは別人だ。


「これ、いつ終わるんです?」


「うるさい。今やっとる」


「手伝いましょうか?」


「自分で覚えなあかんやろ」


そう言って。


人差し指タイピングだ。

人差し指でやるなら某暗殺拳並みのスピードで打ってほしいものだが……。


まあ、苦手なところにも取り組んでもらえてるのでOKとしよう。

今までは伊東が作っていた資料だしね。


選手の管理。


練習予定。


施設の利用。


リーグへの提出書類。


監督になれば、サッカーだけ教えていればいいわけではない。


岡本さんなりに、一つずつ覚えている。


その姿を見て。


俺はそっと自分の席へ戻った。


三十分ほどして。


カチ。


……カチ。


まだ聞こえていた。


頑張れ、岡本さん。



     ◇



隠岐にも変化があった。


二十一人の選手が集まり、今年度の大きなスカウト活動が一段落した。


そこで予定通り、営業部の仕事にも入ってもらった。


もともと営業能力が高いことは分かっていた。


分かっていたんだけど。


「社長」


ある日。


営業部長に呼び止められた。


「はい?」


「隠岐さんなんですけど」


「はい」


「営業部専任になりません?」


「……ダメです」


即答した。


「彼の営業能力を使わないの、もったいないですって!」


「ですよね。サッカー事業部としても彼がいないと困る。なので兼任ですね」


隠岐は営業でも大活躍していた。


初対面の相手ともすぐに話せる。


相手の話を聞く。


何を求めているのかを考える。


そして相手に合わせて提案を変える。


考えてみれば。


選手を口説く時にやっていたことと、ほとんど同じだ。


隠岐本人にも聞いてみた。


「隠岐、営業の仕事はどう? やり甲斐はある?」


「まぁそれなりに。

サッカーとは関係ないですが、やることは一緒なので、キッチリやりますよ。

でもサッカー事業部のスカウトマンは私なので、欲しい選手がいれば言ってください。面白いんで」


頼もしい。


営業部からすると複雑だろうけど。


今はいいけど、両方の繁忙期が重なったらどうしようかな……。


まぁ、その時に考えよう。



     ◇



冬になる頃には。


会社側の準備もかなり進んでいた。


まず。


サッカー事業部の勤務制度。


普通の社員として働きながら、サッカーをする。


言葉で言うのは簡単だった。


実際に制度にすると、決めなければならないことが山ほどあった。


練習時間をどうするのか。


試合の日はどう扱うのか。


遠征が必要になったらどうするのか。


仕事との調整は誰がするのか。


地域活動はどうするのか。


人事や総務と何度も話し合った。


来年から実際に選手たちが働き始める。


やってみなければ分からないことも多い。


だから。


まずはこれで始めてみよう。


問題が出たら、その都度直していく。


最初から完璧な制度なんて作れない。


それと。


子ども向けのサッカースクールを始める準備も進めた。


いつやるのか。


どこでやるのか。


何歳から受け入れるのか。


誰が教えるのか。


安全管理はどうするのか。


募集はどうするのか。


考えることは多い。


スクールについては岡本さんがいろいろ考えてくれた。

元々やってたし、やはり好きなんだろうな。


四月入社予定の選手からも結構意見が出た。

大学生ともなると、バイト等でスクールの手伝いの経験があるやつも多かったのだ。


これは何とかなりそうだな。


試合に勝つだけじゃない。


地域の子どもたちにもサッカーを楽しんでもらう。


それもこのクラブでやりたいことの一つだった。



     ◇



社員食堂も本格的に動き始めた。


内定式の時は特別に開けてもらったけど。


今は昼になると、普通に社員が集まっている。


一般社員向けのメニュー。


健康を意識したメニュー。


佐藤さん監修のスイーツメニュー。

──風の噂によると、佐藤さん率いる女子たちでのスイーツ品評会を通らないとメニューに載れないらしい。


選手向けに考えたアスリートメニュー。


別に選手しか食べられないわけではない。


そのせいか。


アスリートメニューを食べる一般社員も結構いる。


そして。


もう一つ。


AIトレーナー。


これも社内で希望者が普通に使えるようになった。


運動。


睡眠。


体重。


体脂肪。


食事。


まだまだ改善するところは多いけど。


社員から実際のデータと意見が集まるようになった。


その結果。


予想していなかったことが起きた。


筋トレにハマる社員が増えた。


「最近、トレーニングルーム混んでない?」


佐藤さんに聞いてみる。


「混んでますね」


「なんで?」


「AIトレーナーで数字が見えるのが面白いみたいですよ」


なるほど。


分からなくもない。


数字で成果が見えると楽しくなる。


「あとAIから指示やアドバイスも入るのがいいみたいです。体を鍛えたい、引き締めたいって目的があっても、何したらいいか分からない人も多かったので」


なるほど、AIも成長してきたかな。


そんなある日。


トレーニングルームへ行った。


そして。


見覚えのないものを見つけた。


冷蔵庫。


「……何これ?」


大きめの冷蔵庫が部屋の隅に置かれている。


開けてみる。


プロテイン。


ドリンク。


プロテイン。


何かよく分からない粉。


プロテイン。


「誰が置いたの、これ?」


近くにいた社員たちが目をそらした。


「勝手に会社に冷蔵庫持ち込んだらダメでしょ」


「すみません……」


「というか、君ら最近ずっとここにいるよね?」


「はい」


「そこまでやるなら」


俺は言った。


「ちゃんと部活としてやれば?」


数日後。


正式な申請書が出てきた。


ノードシード筋トレ部。


本当に作った。


しかも。


「あと二回!」


「はい!」


「腰丸まっとるぞ!」


「はい!」


岡本さんまでいる。


「岡本さん」


「なんや」


「何してるんですか?」


「見たら分かるやろ。教えとる」


「サッカー部は?」


「今日は練習ないやろ」


そういう問題なんだろうか。


まあ。


社員が健康になるならいいか。


AIトレーナーにとっても。


社員が使ってくれれば、それだけデータが集まる。


改善を続ける。


もっとデータを集める。


そして。


十分なものになったら。


社外にも売る。


サッカー部のために考え始めたものが。


少しずつ。


会社の新しい事業になろうとしていた。



     ◇



年が明けて。


今度は別の話が動き始めた。


保育施設。


きっかけは社員から出ていた声だった。


子どもを預ける場所がなかなか見つからない。


復職したくても難しい。


勤務時間を調整している。


京南市は京都、大阪、奈良へ出やすい。


その利便性から住宅地の開発が進み、子育て世帯も増えていた。


一方で地域によっては、保育施設が足りていない。


だったら会社で作れないだろうか。


社員が安心して働けるように。


総務部を中心に調べてもらうと、当然だが、会社が勝手に作れるものではなかった。


そりゃそうだな。

利用者としても、そんな施設使いたくないだろう。


ということで。


京南市役所へ相談することになった。

別件で用事があったので、社長自ら出陣だ。


担当者に計画を説明する。


まずは社員の子どもを預かる施設として考えていること。


将来的には規模も広げたいこと。


一通り説明すると。


担当者が資料を見ながら言った。


「ノードシードさん、最近いろいろされていますね」


「そうですか?」


「サッカーも始められたんですよね?」


「はい。京南FCです」


「今度は保育施設ですか」


少し笑っている。


「一応、うちはIT会社なんですけどね」


「知ってますよ」


本当だろうか。


話を聞いてみると。


市としても、住宅開発が進んだ地域を中心に、子育て世帯への対応は課題の一つらしい。


それなら。


「これ、社員の子どもだけじゃなくて、地域の子どもも受け入れられるようにできませんか?」


担当者が少し驚いた。


「地域の子どもも、ですか?」


「はい。どうせ作るなら」


そこから。


話が少し大きくなった。


制度はどうするのか。


どんな施設にするのか。


市とどう連携するのか。


すぐにできる話ではない。


だからまずは一緒に考えていくことになった。


帰ったあと、市役所では。


「ノードシードさん、今度は保育ですか」


「そうみたいですよ」


「サッカー始めた会社ですよね?」


「食堂も作ったらしいですよ」


「……何の会社でしたっけ?」


「IT会社です」


そんな会話があったらしい。


後から聞いた話だけど。



     ◇



そして。


冬が終わった。


三月。


大学生たちは卒業した。


友近も高校を卒業した。


四月から。


二十一人全員が。


正式にノードシードの社員になる。


そして。


京南FCの選手になる。



     ◇



窓の外を見る。


グラウンドでは。


今日も選手たちがボールを蹴っている。


半年前。


二十一人を集めた。


でも。


あの時は、まだ集めただけだった。


この半年で。


選手たちは少しずつチームになった。


会社の制度も作った。


食堂も動き始めた。


AIトレーナーも使われ始めた。


サッカースクールの準備も始まった。


なぜか筋トレ部までできた。


保育施設なんて話まで動き始めた。


……最後の二つはサッカー事業部を作ったことと関係あるのか、よく分からないけど。


まあ。


会社も。


クラブも。


少しずつ前に進んでいる。


そんなことを考えていると。


事務所のドアが開いた。


「社長」


岡本さんだった。


「はい?」


「決まったで」


「何がです?」


岡本さんが。


一枚の紙を俺の机に置いた。


見る。


京都府社会人サッカーリーグ六部。


そこに。


京南FCの名前がある。


そして。


第一節。


日時。


会場。


対戦相手。


決まった。


京南FCの。


最初の公式戦。


「やっとやな」


岡本さんが言った。


「ですね」


半年間。


いろんなものを作ってきた。


監督を探した。


スカウトを探した。


選手を集めた。


施設を作った。


制度を作った。


いろんな人に協力してもらった。


でも。


まだ一つだけ。


やっていないことがある。


試合だ。


京南FCはまだ一度も公式戦を戦っていない。


ようやく始まる。


不安よりもワクワクが勝っていた。


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