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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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0年目 第10話 府六部のプロ環境

第10話 府六部のプロ環境


季節は秋。


春には影も形もなかった京南FCも、ここ数か月で大きく変わった。


今日はノードシードの内定式。


来年四月から入社する高校生、大学生たちが、会社のホールに集まっている。


壇上から見渡す。


スーツ姿の若者たち。


その中に。


見覚えのある顔が並んでいた。


田中和弘。


長谷川直人。


そして、この数か月で集めた京南FCの選手たち。


二十人。


来年から京南FCの選手になる二十人が、今ここにいる。


ちょっと感慨深い。


「では最後に、来年度から始まる新しい事業について説明します」


俺が前に出る。


「ノードシード株式会社では、来年度から正式にサッカー事業部を発足します」


特に反応はない。


だから何なんだ?ってくらいかな。


「来年度、京南FCに所属する内定者は二十名。彼らには通常業務とサッカー活動を両立してもらいます。

一般の内定者は十五名。同期としてお互いに協力し合ってくれることを期待しています」


少しザワザワしている。


既存社員の方から「サッカー事業部の方が多いのかよ」みたいな声が聞こえるな。


「サッカー事業部のチーム名は京南FC。来年度から京都府リーグ六部に参加します」


……。


反応ないな。


そりゃ府リーグって言われても知らないもんな。


「将来的にはプロリーグ参入を目指します」


少しざわついた。


「プロってJF1?」

「日本代表になる人もいるのかな?」


そんな声も小さく聞こえる。


そりゃそうか。


サッカーに興味ない人にとってはそんなもんだよな。


俺たちにとっては人生をかけた大プロジェクトだが、一般の内定者からすれば会社にサッカー部ができる程度なんだろうな。


プロになる難しさも知らないし、サッカーイコール日本代表なんだろう。


俺だってそうだったしな。


何だか久しぶりに一般の人の反応を見て、逆に新鮮だ。


まあいい。


これから知って、応援してもらえるようになろう。


     ◇


内定式が終わった後は、会社の施設見学だ。


社屋の各フロア。


会議室。


休憩スペース。


そして、希望者が利用できる社員寮。


来年から自分たちが働く場所ということで、内定者たちも興味深そうに見ている。


そして昼。


全員で向かったのは、新しく作った社員食堂だった。


「おお……」


入った瞬間、何人かから声が上がった。


「ここが新しい社員食堂です。本格稼働は冬からですが、今日は内定者向けに特別に使えるようにしてもらいました。地元の食材を中心に色々なメニューを提供します」


案内の総務部から説明が入る。


我が社ながら俺も楽しみだ。


明るい店内。


まだ新しいテーブルと椅子。


厨房ではスタッフが忙しそうに料理を準備している。


「社員なら誰でも利用できます。昼食が中心ですが、一部時間帯では夕食にも対応します」


俺は京南FCの選手たちを見る。


「アスリート向けのメニューも用意します。

一般の社員でも希望すれば提供できます」


選手たちの反応が明らかに変わった。


「管理栄養士にも入ってもらって、必要な栄養量を考えたメニューを作る予定です。ただ、選手一人一人に専用メニューは用意できないので、数パターンから選んでもらう予定です。

また、練習やトレーニング後にも利用できます」


「夜も食べられるんですか?」


田中が聞いた。


「食べられるぞ。ただし夜に利用する場合は事前申請な。当日いきなり押しかけられても食堂が困るから」


なるほど、と選手たちが頷く。


すると別の選手が手を挙げた。


「これって無料ですか?」


「給料から引きます」


「そこは取るんですね」


「会社なんで」


笑いが起きた。


「ただ、会社から補助が出ますので、外で食べるよりはかなり安くなると思います。それに栄養面も考えてもらえるので、特にサッカー事業部のみんなは積極的に使ってください」


そして。


実食。


俺も内定者たちと一緒に定食を受け取った。


いただきます。


……。


うん。


普通に美味い。


いや。


普通以上に美味い。


「美味しいですね」


近くに座っていた田中が言った。


「だろ?」


「社長が作ったみたいに言わないでください」


伊東に突っ込まれた。


「金は出したぞ。大阪城だって豊臣秀吉が作ったって言うだろ?」


「確かにそうですね」


一同笑う。


俺たちの雰囲気が伝わったのか、内定者も緊張が少し解けてきたようだ。


周りを見ても反応は上々だ。


一般の内定者たちも楽しそうに食べている。


サッカー選手のために考え始めた部分もある。


でも。


せっかく作るなら、普通の社員にも喜んでもらえるものにしたかった。


これはサッカー事業部だけの食堂じゃない。


ノードシードの社員食堂だ。


その中に。


サッカーをする社員向けの選択肢もある。


それでいい。


     ◇


昼食後。


次に向かったのはトレーニングルームだった。


「おお!」


サッカー事業部から声が上がる。


一般の方でも目がキラキラしてる奴がいるな。


「会社にトレーニングルームあるの良いですね」

「マシンが新しくて綺麗だ。大学のは古くて汚かったのに」


こっちは食堂以上に反応がいいぞ。


トレーニングルームには新しいトレーニングマシンが並んでいる。


岡本さんや専門家の意見も聞きながら選んだ自慢のマシンたちだ。


これでフィジカルトレーニングどんと来い!だ。


足りて良かった、予算。


「ここも社員なら誰でも利用できます」


一般内定者からも声が上がる。


「使っていいんですか?」


「もちろん。サッカー事業部専用じゃないから」


そして。


伊東が小さな端末を持って前に出た。


「もう一つ、希望者にはこれを貸与する予定です。サッカー事業部の選手には原則全員使ってもらいます」


ウェアラブル端末。


以前、伊東が腕につけていた試作品。


あれから改良を続けてきた。


「この端末から運動量や心拍数、睡眠などの基本データを取得します。他にも体重や体脂肪、食事内容などを記録してもらうことで、体の状態を継続的に管理できます。自動連携の機能もあるので、利用時に説明します」


内定者たちが端末を見る。


「スマホのアプリと連動してまして、集めたデータからAIが運動やトレーニング、休養、食事についてアドバイスをしてくれます。今のところ、AIトレーナーって呼んでます」


「おお……」


今度は分かりやすく反応があった。


「なんか最先端のIT企業っぽい」


誰かが言った。


「いや、うち最先端かはともかくIT企業だからね?」


笑いが起きる。


「この端末やアプリ、AIも自社開発なんですか?」


「そのとおりです。社内の開発チームで作りました。まだ試験運用中なので、どんどん進化していく予定です」


いい質問する子もいるな。


そのとおり、まだ試験運用中。


データが足りない。


活用の仕方が詰め切れていない部分もある。


AIのアドバイスだって完璧ではない。


それでも。


伊東を始め、社内のモニターに協力してもらいながら少しずつ形になってきた。


「ちなみに、サッカー事業部以外の社員でも希望すれば利用できます。今こちらにいる社員は皆さん利用していますね」


あ、佐藤さんも並んでいる。


以前よりも引き締まった佐藤さんだ。


ギロリ。


あ、見てたら睨まれた。


いかんいかん。


AIトレーナーは最初はサッカー事業部で使えるんじゃないかという発想だった。


でも、普通の社員の健康管理にも使える。


サッカーをきっかけに作ったものが、会社全体に広がっていく。


こういうの、なんかいいな。


俺も使わないとな……。


     ◇


トレーニングルームの見学が終わると、ここからは配属予定の部署ごとに分かれる。


開発、営業、総務などなど。


そして。


「京南FCに所属予定の人は、こっちに残ってください」


二十人が残った。


一般の内定者たちがそれぞれの担当者について移動していく。


さっきまで大勢いた空間に。


二十人の選手。


俺。


岡本さん。


隠岐。


伊東。


佐藤さん。


京南FCのメンバーだけが残った。


岡本さんが前に出る。


「ほな、こっからはサッカー部の時間や」


空気が少し変わった。


選手たちの顔も変わる。


「まず、こっち来てくれ」


案内したのは、新しく作ったロッカールーム。


「おお!」


今日何度目かの声が上がる。


一人ずつ使えるロッカー。


シャワールーム。


用具を保管するスペース。


その隣にはミーティングルームもある。


大きなモニターやタブレットも設置した。


試合映像を見ながらミーティングもできちゃう優れものだ。


「めっちゃちゃんとしてますね」


「面接の時に言っていたとおり、本気で用意してくれてるな」


うーん、選手たちの期待が膨らんでいるのが分かる。


食堂。


トレーニングルーム。


AIトレーナー。


ロッカールーム。


ミーティングルーム。


ここまで見ればかなり本格的なサッカー環境に見えるだろう。


そして。


「じゃあ最後。練習場行こうか」


いよいよ。


来たか。


     ◇


全員で外へ出る。


選手たちも楽しそうに話している。


「どんなグラウンドなんやろ」


「天然芝ちゃう?」


「さすがに府六部で天然芝はないやろ」


「でも、あのトレーニングルームやぞ?」


期待値が上がっている。


やめて。


そして。


到着。


「ここです」


二十人が見る。


土。


綺麗に整備されている。


ゴールもある。


照明もある。


日よけもある。


小さいゴールもある。


でも土。


俺は頭を下げた。


「……ここだけは土です。すまん」


沈黙。


「本当に土ですね」


「いいじゃないですか」


長谷川がグラウンドを見る。


「ここから作っていくんでしょ?」


その言葉。


どこかで聞いたな。


隠岐を見る。


隠岐も笑っている。


何もないから、自分らで作れる。


長谷川がグラウンドへ一歩入る。


「俺たちがここから勝って、環境をもっと良くしていったらいいだけですよね?」


「そのとおり」


岡本さんが答えた。


「でも確かに土やけど、いいグラウンドやで、ここは。それに食堂、トレーニングルームと、体を鍛えるために必要なものは揃っとる」


皆を見渡し、


「あとは勝つだけや」


「そうですね、監督。やってやりますよ!」


「おう! やろうぜ!」


岡本さんと選手たちがやる気を見せている。


俺は少し離れて、その光景を見る。


岡本さん。


隠岐。


伊東。


佐藤さん。


そして二十人の選手たち。


春には。


監督もいなかった。


選手もいなかった。


スカウトもいなかった。


練習する場所も。


食事をする場所も。


身体を鍛える場所もなかった。


今は。


監督がいる。


スカウトがいる。


キャプテンがいる。


二十人の選手がいる。


食堂がある。


トレーニングルームがある。


ロッカールームもある。


グラウンドも。


……まあ、土だけど。


それでも。


大分、形になった。


京南FC。


ようやく。


サッカークラブらしくなってきた。


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