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面子と意地の張り合いが戦争の危機を招く

 夕焼け空の王都の駅で軌道馬車からおりると、なぜか慌ただしく庶民が行きかう。三の丸の門をくぐる。王都の子爵屋敷は玄関で、マヤ―が荷物を積んでいた。とうぜん、追い出されたフーリンネの所持品らしい鏡台や小物を運び出しているのだろう。それにしても、緊張した表情で貴族たちが行きかう。

「マヤ―、なにがあったの。騒がしいね」

「お聞きになってない、お出かけでしたのでしょうか」

 それでも、かいつまんで話す。王家同士の縁談の話は、契約違反の違約金を拒否するショボドボ王と王女への慰謝料も請求するブイバン王の対立になり、ここまで話を進めた面子で下がれないとお互いに意地を張ったらしい。それで、明日の朝十時に最終会談が行われるようだ。

「お互いに貴族や騎士を集めておられます。庶民には関係ないことで争うようでございます」

「子供じゃないよね。ワカーレル様は戻ってこられるかしら」

(侯爵領のことを話せば収まるよね)

 王城へ行くには遅い時間だ。

「明日の朝いちばんやでー。侯爵領の騒ぎが早う終わればなー」

「そうだね。冷静にさせるのはワカーレル様しかいないよ」

(ジュリーがなにかしてるかしら。侯爵領へ行くとか言ってたけど、おにわばんとからしいし)

 うまく収める手立てを考えているかも知れないが、それなりの権力がないと難しいのも確かだろう。


 朝早くに王城へ出かける。親戚のサオリと妃になりそうだったロメーヌを断るわけにもいかない王様だ。

「独立じゃと。ワカーレルに任せれば何とかなるであろう。それよりじゃ、法外な慰謝料など払えぬではないか。税金を上げねばならなくなる」

 王様は庶民のことを考えていると話す。

「王家に余裕はあるはずでございます」

「そうやなー。離縁は庶民と関係ないでー」

 王家の公私混同だとサオリも言う。

「男として下がれない意地もあるのじゃ。ブイバン王から無理やり持ってきた縁談でもある。そっちも被害者であろう」

(そりゃね。婚約破棄の原因だし。でも違うでしょ)

「おおごとにして戦争とは、庶民が苦しむだけでございます」

「だから、十時から話し合いじゃ。用心のために騎士も集めておる」

(もぉっ、このわからずや)

「ブイバン王様に話してみるから。勇気ある撤退が庶民の支持を得るのだよ」

「噂に聞くじゃじゃ馬じゃな。オトナの問題でもある」

(やってるのは子供の喧嘩でしょ)

「侯爵領からワカーレル様が戻られてから、会見なさるのが良いと思います」

「待ったなしの状態でもある」

「分かったでー。しゃーないかー」

 サオリが、話は切り上げようと合図した。

(そうだね。やっぱり、あっちへ話した方がいいかな)

 ブイバン王国には、御庭番がいる。ジュリーたちが何か解決策を持っているかもしれない。


 大使館で話し合いは行われる。国境にある共有施設だ。時間に間に合わせてショボドボ王はでかけるらしい。それでも、ゆっくりはしていられないだろう。 

 ロメーヌとサオリは軌道馬車に乗って国境の駅で下りた。商売人や旅行客は自分の国へ戻るのか、混雑していた。大使館へ続く道にも騎士と貴族の馬や馬車が並んでいた。

「ここまで来たけど。ブイバン王様に会えるかしら」

 深い考えもなかったと気が付いた。

「すぐには会うてくれへんやろーなー」

 ショボドボ王国の貴族がいれば、とりあえずは大使館の中へ入れると考えた。侯爵家と伯爵家の令嬢でも、ただ会いに来たでは入れないのが大使館。

「あれっ。あの人だ」

 ポニーテールを揺らせて小型馬車に乗る女はシノビノだ。

「あっちの王様に会うんやなー」

「知らない仲じゃないし。事情も分かると思う」

 そういうわけで、小型馬車の前に小走りで出ていった。

「なんや、探偵ごっこをやってるんかい」

「ブイバン王様にお会いして、侯爵領の企みをお伝えしたくてまいりました」

 例の契約書もみせる。

「それが有ったんやったな。わても、ギルドが和解しとるのを知らせるためやんけ」

 役に立つと考えたらしい。二人乗りだが、後部座席が荷物も置くためにある。昭和時代の軽自動車みたいに狭いが、ロメーヌとサオリは乗り込む。

「侯爵も一味やんか。ギルドを扇動しとった張本人や」

 シノビノが反逆の真相も突きとめたようだ。証拠としてウワキムンが王様になる契約書は物的証拠として重要だろう。

「のんびりしとんなー。早よう進めんかー」

「馬車には緊急サイレンがあったね」

 紐を引っ張れば、ゼンマイで鐘を揺らせて鳴り続ける仕組みだ。慌てたように言うシノビノ。

「御庭番は目立ってはいかんのや。直ぐつきよる」

 それを待てないというか、せっかちな二人、顔を合せて了解のサイン。

「あれやろー」

 サオリが助手席の天蓋から下がる紐へ手を伸ばす。

「ほれ、あかんいうたやんけ」

 シノビノが手を伸ばして遮る。

(今だ)ロメーヌは助手席へ身を乗り出して、紐を引っ張った。かんかんかん……

 鳴り響く緊急サイレン音。馬車が停まり、道を開ける。

「おまんら、御庭番は失格や、って。しゃあなか、最初から、そうじゃなかったんやな」

 それでもシノビノは、サイレンを止める気はないらしく、鞭をひとふり、小型馬車は大使館の玄関へ急ぐ。かんかんかん……

 玄関から出てきたブイバン王と何人かの従者たち。シノビノが下りた。

「ヒガシ湖での争いやけど。扇動してた者が分かりましたねん」

 和解の書類が入っているらしい丸筒を、すぽん、と開けて見せる。

「侯爵が。騒ぎを他所で起こして、独立を謀ったとな」

「王女様の縁談も、必要なきかと」

「ショボドボ王から断りが来てるでな。落とし前を着けさせるために会談をするのじゃ」

(こっちも同じことを言うんだ。そりゃ、わるいのは、あの野郎だけどさ)

 ロメーヌとサオリは馬車から下りると、いちおうは自己紹介をした。

「王家とカニクバル伯爵家が縁組を取り交わしておりました。不倫により、両家とも破談になったのでございます」

 契約書を見せながらも、もう一言加えたい。

「カニクバル伯爵家としては、横やりを入れたブイバン王家にも落ち度があったと考えております」

「そこは、大人の高尚な交渉で考証することである」

(もう、わざわざ難しくしたいのかしら。子供の喧嘩じゃないっつーの)

 ここで、サオリが「あのなー」と話す。

「そちらの公爵はんは、どなん考えてはるんやー」

 経済を支えているのが各国の公爵家で、オキマリパタン公爵領とは隣接していて、経済圏も作ってはいた。ヒガシ湖が境界にあり、ギルドは争っていたわけだ。

「そのほうは公爵の令嬢ともうしてたな。経済は経済じゃ。政治は複雑である」

「それなら王様たちだけで喧嘩なさったらよろしいかと。庶民も巻き込むのはいかがしら」

(もう、怒ったからね。十五夜遊びもできなくなるじゃん)

 ささやかな平穏な生活を望むのが庶民だし、貴族も同じだ。

「国を治める立場として喧嘩などできぬでな」

「やろうとしてるじゃん。どうせ、お城の奥で眺めてるんでしょ、臆病よ」

「いいすぎやんか」シノビノが止める。

「会見まで待つんや。侯爵領はなんとかなっとる」

 なにか思惑でもあるようだ。

(そうだよね、ジュリーが何かするのかしら。ワカーレル様も侯爵領へ向かったはず)

 取りあえずは馬車へ戻ることにした。しかし、集まった騎士や貴族たちが騒ぎだして、片隅へ逃げて行く。騎士が走ってきて伝えた。

「軍隊でござる。会見を邪魔する者が現れてござる」

「どこぞの国であるか」

「紋章は掲げてござらぬゆえ、我らは避難いたしたい。お許し願いたし」

(これだから、貴族も軍隊じゃない騎士も戦争なんて無理だってば)

 胸内で考えてる間にも、広場へ入って来たのは、四頭立て馬車を先頭に、装甲騎兵隊。馬も鎧を被り、戦車と呼ばれる二輪車がついて、弓矢と剣を持つ騎士たちが乗る。

「確かめるんや。そうか、持っとらんか、お庭番ではないんやったか」

 シノビノは言うとオペラグラスを目に当てる。

「あるでー、なー」サオリが声をかける。ここは自慢したい。

「とうぜん、探偵ごっこの必需品だから」

 さっそくオペラグラスを取り出して、先頭の馬車を眺める。

「ジュリーだ。なんとかしたね」

「そこしか見ないんかー。ワカーレル様も乗ってるでー」

「そうだ、とすると。侯爵領の軍隊だよね」

 話す間にも馬車が近づいて来た。シノビノは役目としてだろう、報告する。

「ジュリヤンカ様やねん。お話になられたら、王様」

「あの風来坊か。止めても聞かないであるな」

(ジュリーは王様にもすぐ会えるんだ。えっ、ジュリーやんか、じゃないよね、さま、と言ってたし)

 ジュリヤンカという名前を縮めてジュリーと名乗っていたらしい。

 やがて、四頭立て馬車がすぐ近くへ停まり、ジュリヤンカとワカーレルが下りた。

「ショボドボ王国第一王子ワカーレルじゃ。詳細はシノビノからきいておられるであろう」

「それで、王様。素直に謝って、会談は終わらせたらいいよ」

 対等に喋るジュリヤンカ。しかし、引き下がらないブイバン王。

「謝るなぞできん。ラセーヌの縁談を破棄されたのじゃ」

「えっと。だれ。あの王女様かしら」

 小声でシノビノに尋ねる。

「そうや。ラセーヌ王女様やんか。これで月見もできるやんか」

 平穏が一番だろう。ため息ひとつのジュリヤンカ。

「八歳の妹を嫁がせるだの、時代錯誤だ。朦朧したか、引退なされよ」

「ぅわっ。あんなこと言っていいの」

「かまわないやんか、いつものことや」

「妹とかいうとったなー。あれかー」

「そうだよね。兄で、妹は王女ということは」

「王子様あ」びっくりして声も大きくなった。

 それより、ブイバン王も少し考えるふうにしたが反撃に出た。

「引退させたいなら、政治に関心を持つのじゃ。いつまでも遊んでおらんでな」

「政略結婚はいやだね。それに、きれいな花を見つけたから」

「それは構わん。せめて国へ近いところにおれ。ナガイタニ町は遠すぎるでな」

「侯爵領の騒動も収まったし。良いが、もう変なことを考えないでくれ」

「なにもおかしなことは考えておらんでな。ここで余計なことはいうな」

(この王様も、なにか企んでいるのかしら)

 探偵ごっこは止まらない。

「王様も、ギルドの対立のほかに、思惑がおありで」

「この国のことじゃ」

 無視したいらしいブイバン王。

「ジュリーなら知っとるかなー。ロメーヌは被害者やでー」

「そうだな。幼い妹を嫁に出して後見人をつけるつもりだったようだ」

「あの野郎、じゃなくて。ま、いいや。あいつのことだから、後見人とやらに操られてたよね」

「侯爵たちと同じことを考えてるのだよ、まったくお年寄りがすることは、分からないな」

「いや、そこまでは。これからは、皆の思いも尊重しようでないか」

 ブイバン王は丸く収めたいらしい。事件は解決したし、ことを荒げることもない。

 そうもならないのが国同士の仲。蹄の音が響き、大きな声がした。

「ショボドボ王様から伝言でござる」

 必死の形相で駆け付けた騎士。

「会談の席へ軍隊とは卑怯なり。当方も軍隊を呼ぶとのこと。返答ねがいたいと仰せられた」

 なるほど、王家の馬車と騎士が入口に固まっていた。ショボドボ王が着いたところだ。

「知らせてないのであるか」

 ワカーレルが尋ねる。

「ちゃんと伝えましたし、契約書もお見せしました。埒があかないので、ここへ来たのでございます」

(ほんと、めんつと意地の張り合いだね)

「俺だ。騒ぎは収まった」

 ワカーレルが前に出て、答える。

「まずは、対面じゃが。王様ふたりでは収まらんであるな。取りあえず、安心しておいでませ、と伝えるのじゃ」

 使者も事情は半分飲み込めたらしい、戻っていく。


 会談は二人の王子。ワカーレルとジュリヤンカが主導権を取り行われた。王様たちは形だけいるというふうだ。

「カニクバル伯爵の功績は大きいである」

 ワカーレルが話す。

「侯爵領の騎士団はカニクバル伯爵へ任せて良いであろう」

 ショボドボ王へ確かめるようにいうが、頷いて応じるしかない状況だ。

「さて、こちらとしては」

 ジュリヤンカがブイバン王へ提案と言うより、決めたような表情で言う。

「公爵家の次男、ツギダヨンに侯爵家騎士団は任せよう」

 ブイバン王も頷いて応じるしかない状況だ。

「遠くなるがなー。いい選択やでー」

「なにが。知りあいかしら」

 公爵家同士で顔見知りらしいが、なんでもないでー、と誤魔化したサオリ。

「それより、十三夜やんか」

 シノビメは意味ありげに笑って言う。

「だれかを誘って、祭りに行くのも良いやんけ」

 平穏は守られた。束の間に探偵ごっこは休んでいいかもしれない。


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