卒業
貴族学院を卒業したから、いつまでも遊んでいられないらしい。
「探偵ごっこばかりするなら、お小遣いをあげないって言われたよ」
「うちも、そうやでー。知り合いの貴族たちも仕事をしてはるからなー」
仕事の当てはあった。写真館だ。
(ジュリーが写したのを持ってきてくれるはずだしね)
そういう動機で仕事を選ぶ人も多い。王家繋がりの公爵家と反逆者を懲らしめたと一躍有名になった伯爵家だ。貸してくれる店舗はすぐにみつかった。寿司屋の近くに写真館を開店したが、そんなに需要はない。
(やっぱり、大人が疲れて大変そうなのが分かるよ)
それでも、社会人として仕事をして、オトナとして扱われるのにわるい気はしない。
写真館は玄関から入るとギャラリーがあり、ロメーヌとサオリは接待用のソファーで暇を持て余していた。
「広告費は貰えなかったなー」
質屋とか骨董品店に陳列したのを写させてもらったが宣伝費を払うには「効果は期待できない」と言われた。こっちから紹介して買ったら、手数料を払う仕組み、神話時代のアフェリエイトみたいなものをやっている。化粧品店などの写真もある。
「やっぱり、探し物だね」
探偵ごっこは止める気もない。それで、利用する客はいた。鈴が鳴り引き戸が開くと浴衣姿の女性がはいってきた。
「お待ちしてました。この写真ですね」
壁に置いてあったドレスの写真を取り出す。手作りで既製品はないから、柄や裁縫技術に特徴がある。
「おっしゃった通りやでー。ハズレ質屋にありましたなー」
旦那がどこかへ持っていった、と予想していたらしい。それで、探していたわけだ。
「顔は知られずに探しておりましたので」
浴衣の女性は安心したように笑顔を向けるが、なにか真剣な表情になった。
「写真はそのまま、保管してくださいね。いつか、必要になりますから」
「よろしいですが、あの質屋のことを調べました」
「利用する人はギャンブルに使うんやなー。その金欲しさの男が多いようやでー」
「それも内密に。あの、探偵ごっこの令嬢様でしたよね。深入りなさらずに」
調査料として10マニーを渡してくれた。神話時代の千円ぐらいだ。いまの相場として、これは回転率も良い金儲けになる。浮気調査も依頼してもらえば、もっと稼げると考えていた。
これで、一仕事終わりと思ったら、戸が開いてジュリヤンカが来た。
(最近は、よく来てくれるよね。嬉しいけど、ちょっと)
探偵ごっこがばれないか心配もする。危ないから止めなさい、と言われていた。
「ちょっと、忘れものだ」
ジュリヤンカは引き返すが、浴衣の女性も出ていく。玄関の外で、なにか話しているようだ。
「ジュリーの知り合いかしら」
(なんなんだよ。いや、焼きもちじゃないからね)
気になるのは確かだし、落ち着かない。
「もしかして、あれかー。この国の御庭番やでー」
「ありえるね、話からして。と、すると。違法ギャンブルがあるとか」
手に負えないようでいて、興味はある。
「調べるだけなら、大丈夫やでー。あとは警察に任せれば良いかなー」
「なにを任せるって」
ジュリヤンカがいつのまにか戻ってきていた。
「貴族令嬢たちの護身術では敵わない悪人も多い。おとなしく写真を撮ってれば楽しいさ」
二人の話は聞こえたらしい。
(そうだけどさ。あの女も御庭番かしら。それなら)
「ほんの、お手伝い。あの方は御庭番でしょ」
「なんのことだ。まったく、遊びじゃないから」
「でもなー。乗ってしまった船やでー」
(そうだよね。ジュリーも、あの女の正体を白状したようなものだし)
「危ないと思ったら、逃げるからさ。そうそう、写真を写して後方支援ってやつ」
「落とし物探しぐらいなら良い。あとは任せておきなさい。それより写真だ、ちゃんと写せるのか」
ジュリヤンカは写真のことならアドバイスしたい気でいるらしい。
(習ってるときは楽しかったね。もっと習っちゃお)
「やっぱり、人は写してもばやけるね」
日光写真は時間がかかるし、人は動かないままということもない。たしかに魔王エーアイの魔法で作った感光紙なら、神話時代よりは早くに仕上がる。
「人物は、離れた場所から。食事の場面は服とかは綺麗に写せる」
「そうだね。あの写真は、あの野郎と分かるぐらいだったし」
麦畑で幌馬車を写していたらしい。それをワカーレルにもみせたのだ。
「それから、王城は写すなよ。スパイと思われるからな」
「そうかー。どないするか―」
(王城の中も写した写真はあるけどさ。公開できないってことかな)
「面白いところを写すのも難しいんだね。そうだ、きれいな花をみつけたって言ってたよね。写せるの」
(風で揺れるから人物より難しいと、ジュリーが言っていたけど)
「あれか。あれだ。それより、昼間の月を写すのに挑戦している」
(あれ、あれって、何。あれあれ、誤魔化したのかしら)
上弦の月は昼間から見えるが、はっきり写らない。
「昼間の月やなー。私たちもやってみるかー」
サオリが興味もあるように言う。たぶん、きれいな花、は例えだろうが、ロメーヌは気づかない。
「きれいな花よりは写しやすいかな。光の加減を調節して」
「試すのも良いさ。月と言えば、今度は中秋の名月だな」
「こんどは大使館で盛大にやりよるなー」
初夏の騒動から、和解の意味も含めて貴族が集まり合同夜会を開くのだ。
(ジュリーは王子様らしいから、ゆっくり話せないかな。でもさ、人の集まるところは苦手と言ってたよね)
「ジュリーは令嬢たちからも注目されてるでしょ。女は寄って来ても良いのね」
「いや。苦手だ。国の貴族に気を遣わるから、抜け出してビアガーデンへいくつもりだ」
「おもしろいなー。ロメーヌも一緒にどうやろー」
(うわっ、いきなり、なんてことを言うの)
「べつにさ。ただね、なんでもないよ。でも、友達だからね」
「そうだな。ノンアルコールのビールもあるし、スイーツもある。夜会は抜け出す若い貴族も多いらしい」
遠回しに誘ってもいるジュリヤンカ。証拠をつかんだ表情のサオリ。
「一緒に行くと良いでー。私は邪魔せーへんからなー」
「なんでもないって、トモダチ、だから。サオリも一緒に行こう」
(恋とかじゃないって。でも、そうかなー)
本心は知られたくないのも確かだが、自分の心は騙せない。
(会ってお喋りしたいし。月夜にデートってロマンチックよね。これって恋かな)
「まだ、分からないなー。その日に決めるでー」
サオリには何か思惑がありそうだ。
「やはり、目当ての方がいるでしょ。進展はないのかしら」
ブイバン王国の公爵領のどこかにいると考えてはいたが、探せないでいた。
「自由だな」ジュリヤンカは無理に誘おうとはしないが、何か思いがあるらしい。
「二人きりじゃないから安心して。従弟のツギダヨンが戻ってくる。ビヤガーデンで久しぶりに会う予定だ」
「騎士団長になー。任せれば良いと言っとったでー」
サオリの表情が嬉しくて自然と口元が緩むようになる。
「ほほう」ロメーヌは気づいて、つい口走った。
「ツギダヨン様のことに詳しいね。公爵家だし。状況証拠は揃ったね」
「なんのことやー。何もないでー」
「これから、あるでしょ」
(うわっ。ジュリーの前で何を喋てるんだ、私は)
「知り合いか」ジュリヤンカも特別な思いだと気づいたらしい。
「良いことだ。探偵ごっこは卒業したほうがいいよ」
それは、二人へ行っているが、ロメーヌへ柔らかな視線を向けた。
(うわっ。なんなの。いつもと違うよ)
何かを伝える意思を感じた。
「うん。でも、だね。たまに寿司屋も良いよ」
「王都にも面白い寿司屋があるらしいな。もう開いているか」
「大丈夫やでー。店番をしてるでなー」
サオリが、すべてお見通しだという表情になる。なにが大丈夫か分からないが、バレているのは感じた。
(まだ告白もしてないっつーの)
ジュリヤンカへ何気にみつめると目が合った。ロメーヌがマジで恋する瞬間だ。




