空騒ぎなのか
シノビメはヒガシ湖でギルドの対立を煽っている者がいると、捜していたらしい。話すところへ来たのが、王家の四頭立て馬車。先導しているのは荷馬車だが、ジュリーが「逃げられたか」と叫びながら近づき、降りる。幌馬車も近くへ停まり、ワカーレルが下りてきた。後ろには騎士と罪びとを乗せる金網の設けられた荷馬車。
「ワカーレル様。わざわざ男爵領へご用事でしょうか」
やはり、王家へ挨拶するのが礼儀だ。
「ウワキムンが夜中に城を抜けたのじゃ。侯爵領へ向かうと思って追って来たのである」
ジュリーたちの存在は知っていたらしく、情報を聞いて、ここへ来たのだ。
「おにわばんとか、私たちの国にもいるの」
(探偵みたいで興味があるよね)
「正体は明かせないのじゃ。探偵ごっことはわけがちがうぞ」
「そうかー。私たちも役に立っったでー」
「そうだよ、あの、シノビメさんのお陰だけど」
「困った令嬢さんたちであるな。遊びではないのじゃ」
ワカーレルが、それぞれの家にも連絡しなければならないと言い出す。
「そうだ。反逆の証を手に入れたよ。優秀でございましょう」
ここで、有能なのも教えたい。例の契約書を見せる。
「だから。ほんとうにオテンバじゃな」
反逆の証拠には関心もしめしたようすだ。
ジュリーはシノビメと話していたが、近づいて来た。
「この男たちがヒガシ湖でギルドの対立を煽っていたと思われます」
「どれどれ、ん、この顔は覚えているぞ」
リーダー的な役割をしていて、ワカーレルも顔は覚えていたらしい。
「罪びとを金網の中へ乗せよ」
騎士たちに合図した。
「あとは、逃げたあの野郎だね」
慌てたのはシノビメ。
「あんたらには無理や。すべてばれとるさかい。軍隊を動かしよるかもしれんのや」
「窮鼠猫を噛むだね」
呑気に言うが、何が起こるか予想つく。
(いやいやいや、まずいでしょ。武力衝突になるよ)
「探偵ごっこをしたいのか」
ジュリーが尋ねる。当然うなずく。
「近くから応戦やなー。カニクバル伯爵領の騎士団がおりよるでー」
「君たちは、もう」
ワカーレルは叱りたいようすだが、何か思いついたようだ。
「カニクバル伯爵の応援は欲しいところだ。連絡して、そのまま、王都へ戻るのがいいである」
「王都か―。縁談の話も気になるなー」
「あの野郎、じゃなくて。ウワキムン様の反逆を話せば、ブイバン王国も理解してくれると思う」
そういうわけで、カニクバル伯爵へ早馬で連絡に行かせる。
「着替えてから王都へ、なっ」
ジュリーが提案した。確かめると、ドレスには乾いた土や枯れ葉が、汗でくっつく。契約書をドレスの襞のポケットへ納めると、ハンカチを取って汗を拭く。
「写真館の近くに、ドレスショップがあったでー」
まずは、幌馬車に乗る。ジュリーは侯爵領へ様子を探りに行くらしい。
(また、一緒かな。ちょっと嫌だよ)
シノビメがどうするのか気になった。
「これで和解しよるやろ。連れて行くでな」
罪びとを乗せた馬車に乗り込むシノビメ。
(やっぱり、仕事だけの関係だよ)
ロメーヌはなぜか安心もした。これは恋かも知れない。
町営のこじんまりした迎賓館がある。町役場の隣だ。騎士団はここへ集結する。
風呂も借りて着替えたところに、ワカーレルが近くのスグソコ男爵と騎士たちを連れてきて、相談をしていた。テラスで成り行きを眺めると、片隅には舞台が設けられて提灯がさがる。
「十五夜祭りの時期やなー」
「ナガイタニ町は賑やかだよ」
のどかに話しているところへ、ナガイタニ男爵が会いに来た。
「公爵様のお嬢様が、何事でござるか」
やはり、爵位の高い方へ話す。
「不倫の連絡は届いておるるやろー。ウワキムン様がなー。逃げたんよー。それを追いかけてワカーレル様がいらっしゃってはるでなー」
ちょっと驚く男爵。
「侯爵様がお引き取りすると聞いてござる。これは、兄弟の私怨でございましょうか、迷惑でござる」
男爵は町の領主で頑固な者も多い。
「反逆ですね。新しく国をつくるとか」
契約書を取り出して見せる。
「両国の侯爵領から軍隊が攻めて来るかもです。ナガイタニ男爵様にも、防衛の依頼をするはずですけど」
(肝心のナガイタニ男爵様には話を通してないのかしら)
そのまえに、騎士を集めることが優先だったのだろう。
「そんなはずは、ござらん」
ナガイタニ男爵が言い切る。
「いまも、騎士団長が、ここへおいででござれば、呼んでまいろう」
(すぐに争いが起りそうにはないね。侯爵が指示をだしてからかしら)
それにしても呑気な町だ。舞台では太鼓が響いて、踊りの予行演習も始まる。
「騒がせるのは何者だ」
二人の騎士が小走りで来た。あとを追うナガイタニ男爵。
「ワカーレル様もいらっしゃってござる。穏便に」
「この女たちは、あっ、公爵令嬢様」
気づいたのはショボドボ王国の騎士団長。
「話は聞いた。内乱か」
ブイバン王国の騎士団長らしい男が、詳しく聞きたいようす。内乱へは関わりたくないらしい。
「両国の侯爵領を併せて建国する野望が発覚しております」
ロメーヌは契約書を見せる。二人の騎士団長がなかば呆れたように笑う。ナガイタニ男爵が代弁するように話す。
「任命したのは女王様であらせられる」
「さよう。騎士道として、誰につくか」
「おろかな。騒ぎを起こすは、反逆でござろう」
二人の騎士団長の意見は同じらしい。
「余興の練習中でござれば」
「貴族は勝手に騒がれなされませ」
茶番に付き合っていられないと、舞台のほうへ歩いて行った。
さて、カニクバル伯爵がかき集めた、貴族の連れた騎士たちも集まりだした。
「王都へ戻ろう。見つけられたら叱られる」
ロメーヌは、無茶をするな、と両親から言われてもいた。
「時間稼ぎやけどなー。縁談のことも知りたいでー」
(そりゃやね。いま叱られるか、あとから叱られるかの違いだけど)
先伸ばしして、相手の感情を和らげたい。良いところへワカーレルが来た。
「男爵から聞いた。敵はあの侯爵だけだ」
反逆罪で捕まえるらしい。当然だろう。これで、離縁の話が無難に済んでいたら、王都の十五夜祭りへいってみようと、話しながら軌道馬車へ乗った。




