表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

第二王子が反逆するらしい

 写真館があった。

 ロメーヌはナガイタニ男爵領の繁華街にきたところだ。店員に尋ねる。

「ジュリーが来てなかったですか」

「コミュニティーセンターへ行くとか話してましたよ。朝の内は、そこにいるはず」

 ジュリーは、ブイバン王国のフリーの写真家と名乗っていた。

「ジュリーが人の集まるところへ行くのは、珍しいなー」

 サオリが言うように、一人でのんびり写真を撮っていた。

「行ってみよう。人ごみの中は苦手と言ってたし、周辺にいるはず」

(人付き合いに気を遣わない自由人みたいだよね。そういう生き方も良いと思う)

 ビーチで撮影している場面に出会い、仲良くなったのだ。それで、カニクバル伯爵領へ戻ったときは、いつも会っていた。

(この辺りのことに詳しいみたいだからね)

 軌道馬車の通る公道を渡り、魚屋の並ぶエリアの角を曲がれば、広がる駐馬車場。煉瓦造りのコミュニティーセンターが建ち、向こうに標高五百メートルの山脈が見えた。そこからはタクラム侯爵領だ。

「停めてるかな。それとも遠出か」

 ジュリーの荷馬車を探す。繁華街の周りにいるなら、ここへ停めているはずだ。

「これやなー。写真機は置いたままかー」

 大きな箱が積まれた荷馬車が見つかった。魔女の魔法で作った感光紙を利用する日光写真と呼ばれたものだ。

「茶店で休憩かな。行ってみよう」

 ガーデンパラソルが並んだ場所へ歩いて行く。

「あそこだ。あれっ。れれれ」

 ちょっと言葉を探せない。ジュリーがポニーテールで髪をまとめた女と座っていた。二人ともジレとボトム姿。流行りだし、シャツやブラウスの上から着る若者は多い。

離れた場所に座り、ようすを窺う。ロココ調のドレスが目立つ。

「そりゃあね。知り合いもいるでしょうが。近すぎでしょ」

「大声で喋られへんから、近づくのが普通やでー」

 サオリが向かいに座って言う。知り合いと話すときは、身体も前かがみになるのが自然だ。

「いいけどさ。なにを話してるんだろう」

「あとから誰と会ったか聞いてみようか―」

「焼きもちだと思われるでしょ」

「こういうのを嫉妬というんやでー」

(そうかもしれない)

 ロメーヌは分かってもいる。ジュリーが目の前にいても話せない寂しさがあった。

(べつに、会う約束はしてないもんね。平気だよ、友達でしょ、たぶん)

「帰るようやでー」 

 ジュリーたちが立ち上がった。

(おっと、観察しそこなったね)

 婚約破棄よりも、衝撃のあることで、冷静に観察できないでいた。

「別々になるようだね。安心、いや、違うけど」

(まずは、ジュリーに声をかけよう)

「正直が良いでー。でも、あの女は気になるなー」

 サオリが目で追う。ロメーヌも目をやると、足早に歩く相手に、不自然さを感じる。

「どこへ。なにか急いでいるよね」

 好奇心をくすぐる出来事だ。

「どうするかー」

 サオリの問いにロメーヌの答えは決まっている。

「ポニーテール女の後を着けてみよう。脇道へ行くみたいだよ」

 十メートルぐらいの距離を置いて、あとを追う。瓦屋根の倉庫らしい建物の裏になり、麦畑が広がっていた。

「ここで、用心してるんかー。ゆっくり歩くなー」

あぜ道の木立ち沿いに、納屋の方へ歩くポニーテール女。気配を悟られないように近づくふうだ。

「何かあるよ。あれは大型幌馬車」

 納屋越しに高い天蓋が見えて、馬の荒い鼻息も聞き取れた。木立から納屋の後ろへ忍び寄るポニーテール女。

(あっ、気付かれた)

 女が振り向いたが、いまは声を出せる状況でもないらしく、ロメーヌたちの出方を待つふう。

 なにかあるの、と口だけ動かして近づく。ポニーテール女が耳に手を当てて、聞け、と言う仕草。

(そうだね。何か話し声が聞こえる)

「コンビニ弁当では物足りないであるな」

 ウワキムンの声だ。

(この野郎は、なにをしてるのだろう)

ロメーヌは息を飲むが、音をださないように、とゆっくり息を吐いた。

「侯爵屋敷へ着けば、お望み通りですわよ」

(フーリンネ様だよ。謹慎じゃなかったかしら)

 脱走かと予想してサオリへ目を向ければ、うなずく。

 ほかにも誰かいるらしく、急かす声。

「王子様、追手が来るかも知れませぬ。急がなければ」

「狭くて嫌じゃ。侯爵家の馬車は来ぬのか」

「領境で待っていますから」

 フーリンネが言うと、椅子から立ち上がるような音が響く。

「同じ姿勢でしたから疲れてませんか。肩でも揉みましょうね」

「助かるであるな。伯爵の娘は気の利かない子供じゃった」

(ここで、私の悪口かよ。同じ歳でしょ)

 声のする方へ進み出た。

「気が利かなくて悪かったわね」

大型幌馬車は中がカーテンで仕切られて窺えないが、折り畳みテーブルを前に椅子へ座るウワキムン。

「あっ」口を開けて、情報を整理するように目玉が蠢く。

「二人だけです」

 カーテンの中から現われたのか、狐目の女が、遠くも眺めて報告すると中へ隠れた。

「城を抜け出したのね。往生際のわるい男だよ」

 元婚約者に未練はない。そこがジュリーへ対するときと違う冷静さがあった。

「追手を気にしてたなー。なにか匂うでー」

 サオリが隣に並ぶ。フーリンネはウワキムンの後ろで驚いた表情をしていたが、なにか思いついたらしい。

「王子様。ここは、最初の予定通りで」

「そうであるな。予定通り、ロメーヌ様と婚姻をいたそう」

「なにをお考えですの」

 ウワキムンがタクラム侯爵の企みに加担していると予想した。それを教えてくれるか。

「両国の侯爵が手を結び、新しい国をつくるのじゃ。俺が王様になる」

「王様たちが、黙っているかしら」

(第二王子なのが不満なのね。でも王様になれる器量はないと思うけど)

「俺も考えている。妃を人質にすれば、手出しもできまい」

「なるほどね。ブイバン王国の王女様なら、あの王国も手をだせないと」

(私より利用価値はあったわけね。ま、いいけどさ)

 いま、婚姻をすると言い出したのも駆け引きに使うつもりだろう。

「そっちが余計なことをするから縁談はなしになった」

空になった竹の折箱を片付ける。鳥の手羽先が、半ば肉は残されたままだ。

「だが、俺と一緒に侯爵領へいくなら許してあげよう」

 誰が悪いことをしたのか分かってないらしい。

(行かないっつーの。いや、待てよ。ちゃんと侯爵と約束してるのかしら。うん、この野郎が反逆する証拠になるよね)

「王様にするなんて、侯爵は本気かしらね」

 それに応じたのはフーリンネ。

「正式な契約書がありますのよ。ロメーヌ様も王女になるのが、おいやですの」

「あなたと不倫してるでしょ」

(敬語なんか使ってあげないからね)

「役目でしたのよ」

 フーリンネの瞳は虚ろに暗い影を帯びて、マインドコントロールされたような口調だ。

「この地方は侯爵家が正当な領主。私は選ばれた救済の女神なり。王子様も割り切っておられます。ここまで話しました。いやとは言わせませんからね」

「その契約書なー。見たいわなー」

 サオリも、ちゃんと証拠を見たいらしい。

「見せよう」ウワキムンが合図すると、カーテンの中から現われた狐目の女が紙筒を渡した。戻るのも身軽だ。

「侯爵たちのサイン入りじゃ。武力があってこその国であろう。最強の軍隊じゃ」

 侯爵領が協力すれば、伯爵たちが敵わないのは確かだ。

「なるほどね」

 蓋を開けて、ウワキムンに返す。契約書を広げて読むと、紙筒だけ返した。

「でもさ、同盟国も多いし、こことブイバン王国だけじゃないからね」

「それも返すのじゃ。大切な書類でな」

 ウワキムンが伸ばした手。契約書を後ろ手で隠して、避けた。

「反逆罪だよね。騎士へ報告するから」

 後ろへ一歩下がる。

「ボーチラ、捕まえなさい」

 フーリンネが言うと、幌馬車から飛び出てきた二人の男。剣を構えて近づく。

「いやとは言わせないとフーリンネ様がおっしゃてたよな。観念しろ」

(駆け足で逃げられるかしら)

 ちょっと足は竦んでいた。しかし、剣を振り上げた男の額へなにか当たった。

「うぎゃっ」悲鳴で動きが止まるし、食い込んだらしい鉄の球が落ちて、額に窪みができた。

「何者」もう一人が警戒して剣を前に伸ばして構えるが、喉元に鉄の球がぶつかり、悶えて倒れる。

「御庭番か。出合え」

 フーリンネが叫ぶと、幌馬車から顔を出した狐目の女。

「退去なされ」

テニスボールみたいな球をいくつも投げてきた、煙玉だ。煙幕が張られた。

「煙が消えるのを待とう」

「そうやなー」

「なにしとんや」後ろから声がして、腕を引っ張られた二人。

「あわわっ」尻もちをつくが、煙幕から長刀の刃が三本飛び出して宙を切り、きらりっ、と太陽光を反射して引き戻る。

「危なかったね」

「またくるでー」

 警戒するが、立てないでいる。

「起きや。逃げるやんか」

 前に来て急かすのはポニーテール女だ。だが、馬のいななきと蹄の音が響き、シャリンシャリンと遠ざかる幌馬車の姿。

「未熟やんか。せやない、あの男たちを縛るんや」

「えっ。あの。紐は」

 ロメーヌは状況を分かったつもりだが、知らない。

「ショボドボ王国の御庭番は準備もしとらんのかい」

「おにわばんって、なんやー」

 サオリの問いに、ポニーテール女は「はあっ」疑問とも驚きともつかない表情をした。

「縛るのが先やんけ。ほら、これな」

 ロメーヌは短い綱を渡されたが、使い方は分からない。

「たぶん、こうやでー」

 サオリが飲み込みは早い。輪っかがあって、そこへ通すらしい。革製の紐で穴に通すと、きゅっ、と締まる仕組みだ。二人が練習してる間に、ポニーテール女が二人の男を縛り終えたらしい。

「テーブルは証拠物件になりよる。調べるんや、いや、御庭番ではないんだったかい」

 溜め息ひとつで、説明する。御庭番は王家の直属だが、神話時代の忍者と同じらしい。

「わてはシノビメや。われは何者や」

 問われて自己紹介をした。

「二人のことは聞いとるがな。探偵ごっこのお嬢ちゃんたちやな」

「やっぱり、ジュリーから聞いてますか」

(ついでに関係も知りたいよね)

「ジュリーと呼ばてるんかい。仕事を一緒にしとる、ここへ来る予定や。容疑者を捕まえそこなったやんけ」

「でもさ。なにか企んでいたよ。この契約書に書いてある」

 持ったままだった紙をみせる。

「そうやったな。手柄やんか」

 機嫌を良くするシノビメ。どうやら、タクラム侯爵とウワキムンの関係を探っていたらしい。

(おおごとになるよね。あの野郎は逃げてしまったし、侯爵がなにか行動をおこすかな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ