探偵ごっこは終わった
王家の食卓へ普通は入れない。しかし、親戚である公爵家令嬢サオリと、まだ婚約期間が続くロメーヌを止める者はいない。
ドアを開けると、三人で丸テーブルを囲んでいた。
「急用ですか」
女王が立ちあがる。王様とウワキムンは、何事かという風にワイングラスを下げた。
「お見せしたいものが」
ロメーヌは貴族服を袋から出して女王へ差し出した。
「クリーニングへ。ん、香水ですか」
匂いに気づいたらしい。
「風呂に入っても匂うのか」
ウワキムンが不思議そうに言う。服の匂いに鈍感な男性も多い。王様は分かったように頷く。
「朝帰りであったな。遊郭へ行ったか。うまくやらんと」
「へんなこと教えるんじゃありません」
女王が釘をさしてから話す。
「サオリ様も、なにかご持参ですね。関係ありますの」
女の勘というか、探偵ごっこでとんでもないモノを探し出すのは知っていたらしい。
「言うて良いかなー」教える気はまんまんの笑みで、シーツを取り出して話す。
「ワカーレル様のお屋敷にありました。寝室って、フーリンネ様お一人ですよねー」
出されたシーツからはさらに強い匂いが広がる。女王も気づいたらしい。
「同じ匂いですね。ウワキムン、義姉とご一緒でしたか」
「なにかな。香水をつける女は飲み屋にも多かろう。昨日は遊んできたんじゃ」
機嫌を悪くしたように、グラスのワインを飲み干した。何かから逃げたいらしく、瓶からつぎ足す。
「さようですか。髪の毛も見つかりまして、いかがです」
「これやでー」
髪の毛が張り付いた部分を見せる。
「ブリーチをする者は多いのじゃ。俺を疑うのであるか」
ウワキムンは、グラスを横に除ける。
「伸びた黒い部分と長さ」
ロメーヌは探偵ごっこの醍醐味を感じながら話す。
「これが同じというのは少ないと思います。比べてみますか」
「俺は知らない、分からないことじゃ」
ウワキムンは言葉だけで逃げたいらしい。王様が解決方法を出した。
「夜はどこの飲み屋へ行ったのであるか。店へ確認すれば済むことじゃ」
(子爵の屋敷だと、フーリンネ様が言ってたからね。嘘をついてもバレるって)
「酔っぱらって覚えておらぬでな」
酒のせいにしだした。
「朝はお酒の匂いもしませんでしたよね」
(今もワインをがぶ飲みして、酔っぱらてたはないでしょ)
飲みすぎればアルコールは昼頃まで残るはず。
「ウワキムン、こっち向いて」
王女は優しく言うが、なにかを探るような瞳。
「いや。そういうことは」
言いながらも目を逸らすウワキムン。
「嘘を付くときは分かってます。過ちを謝りなさい」
母親を誤魔化せる子供は少ない。
「ほんとうです。ちょっと最近はストレスがたまって」
精神的な不安定が招いたことだと言い訳を考えたらしい。自分で認めたことになる。さすがに、全員一致で疑惑を持った雰囲気になり、それぞれの、ため息が響く。
「もうよい。食事が終わってからじゃ」
王様は長引かせないようにと判断したらしい。
「上弦の月であろう。ワカーレルへ帰ってくるように伝えよ。侯爵家にもフーリンネの処遇を相談したいと連絡いたせ」
今から早馬でも夜になるが、月は出ているから安全だし、活動する者は多い。夜明け前に出発して王都へ来るようにとのことだ。
「婚約破棄の話し合いもございます。お時間は」
仲人を介している場合でもないらしい。
「それが先であろう。カニクバル伯爵へ使いを送り、明日の予定じゃが」
王様も考えるふうにするが、決断は早い。
「同時進行である。ブイバン王国との縁談話も待ったなしじゃ」
キャンセルというわけにもいかないはずだが、その縁談相手の第二王子のスキャンダルだ。王様も悩むところだろう。
「あの妃も呼びましょう」
女王が、フーリンネの強制召喚を決めた。
「子爵家へも使いを送ろう」
ここは王様が執事へ指示する。フーリンネへ事情聴取することになった。
(これで、事件は解決だね。なるほど、私も冷静だね。惚れてもないからかな。好きでもないのに付き合ったのは反省するよね)
「昼時やなー。寿司屋へ行こうかー」
「ちょっと違うけどね。お祝いだ」
探偵ごっこが終わったら寿司屋、と決まってもいた。
(疑問に思ってた匂いだったし。新しい縁談の噂を聞いたから、いまのうちに、とサオリに相談したんだよ)
一人で解決したいプライベートな案件ではあった。それでも、二人で協力して捜査することになっていただろう。
三の丸の門から出ると商店や飲食店が並んで、王城を一周する形だ。その角にカニクバル領の出店した寿司屋はある。
寿司といっても趣は違う。新鮮な魚など届けるには遠いし、干物や燻製した魚。そして野菜やフルーツ類の巻き寿司。神話時代には、日本以外で流行ったらしい。
「やっぱりあれかー。スパイスで誤魔化してるんやなー」
「うん。新鮮な魚は旨味も違うけど。生臭いから」
古今東西、魚の匂いが嫌いな人も多い。海の近いロメーヌは慣れてもいるし、ここの寿司もどきも楽しい。
「さてと。自由になったし。恋人でも探そうか」
「自由やでー。そうやなー、ロメーヌの好きな男は、知ってるでー」
隠しても、さすが探偵ごっこの仲間だ。何かに気付いているらしい。
「いないよ、まだ。婚約してたし」
(うん、気になる人はいるけどね。恋というほどじゃないね)
「恋は、そういうもじゃないらしいでー」
「それよりさ。サオリはブイバン王国の公爵領へ詳しいね。だれか好きな人がいると思ってるけど」
「隣同士の公爵領だからなー。なにもあらへんでー」
「動揺してるって。調べてみようっと」
「あの、カメラマンやろー、私が調べやすいなー」
お互いに、恋人未満の相手を探りだした。
(お節介だっていうのよ。そのまえに、なにかデートみたいなこともあるといいね)
それでも、探偵ごっこの延長で、あら探しをするかもしれない。
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貴族学院で学んでたころ、答案用紙紛失事件があった。そのときに、あれこれ推理する学院生の中で、靴跡を発見した。
「これは大人用のハイヒールかしら。女の先生かもしれない」
「歩幅が有りすぎやなー。冤罪狙いやでー」
ハイヒールの主を特定して、振られたという男を見つけた。あとは校長に任せるしかなかったが、見事に犯人は捕まった。それから、二人は探偵ごっこにはまってしまったのだ。




