↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい
帰還戦国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/88

第67話:淳志、婆さんの仇を知る

浦部の城を落としてから、四日が経った。


 城の中は、まだ落ち着かない。


 広間の方からは、朝から年寄りの家臣たちの声が聞こえてくる。年貢がどうの、境の村がどうの、亡き殿の葬儀の段取りがどうの。その真ん中で、十五、六の少年が一人、必死に頷いたり首を傾げたりしている。


 浦部小太郎義直。この城の、新しい当主だ。


「……若殿、それでは先代様の頃と勘定が合いませぬ」


「う、うむ。では、どうすればよい」


「それをお決めになるのが、若殿にございまする」


「…………」


 縁側で寝転がりながら、俺はそのやり取りを聞いていた。


 大変そうだな。


 正直、口を出す気にはならない。この家のことはこの家の連中が決めればいい。俺が当主になったわけじゃないし、なる気もない。義直を当主にしたのは俺だが、それは義直の親父が腹を切ってまで頼んだことだからで、別に浦部を乗っ取りたかったわけじゃない。


 ……まあ、実際には乗っ取ってるようなもんだが。


「旦那ぁ! 見てくだせえ、城の飯は米が白いですぜ!」


 台所の方から、五郎が椀を掲げてにこにこしながら歩いてくる。炊き出しを手伝ってるうちに、ちゃっかり一杯もらってきたらしい。


「村の稗粥とは大違いだ。こりゃ毎日でも食えらあ」


「お前、すっかり馴染んでるな」


「へへっ、旦那のおかげでさ」


 平和だ。


 平和なんだが、一つだけ、片付けてないことがある。


「五郎。義直を呼んでくれ。広間の年寄りどもに捕まってるだろうから、俺が呼んでるって言えばいい」


「へい!」


 ◇


 しばらくして、義直が小走りでやってきた。顔に「助かった」と書いてある。


「お呼びでございましょうか、小鳥遊様」


「聞きたいことがある」


 俺は収納から、布の切れ端を一枚取り出した。


 婆さんの村を襲った連中の旗だ。あの時、死体を山に捨てる前に、旗指物だけは剥いでおいた。いつか、どこの誰の仕業か確かめるために。


 黒地に、白で染め抜いた家紋。


「この旗、どこのだ」


 義直が切れ端を受け取って、ひと目見た瞬間、顔色が変わった。


「……増田にございます」


「増田?」


「西の、二千石ほどの国人で、増田弾正長久という者が治めております」


 義直は、切れ端を握ったまま、少し言い淀んだ。


「……父が、生前、気にしておりました」


「何をだ」


「増田は、ここ一年ほど、甲斐の武田と頻繁に使者を通わせていると。武田が佐久から峠を越えて上野へ入ってくる時の、道案内を務めるつもりではないかと」


 義直は、声を落とした。


「近頃、浦部の領内の村があちこちで荒らされておりました。父は、増田が武田に手柄を立てるため、浦部の力を削いでいるのだろうと……」


 そうか。


 俺は、義直の手の中の旗を見下ろした。


 徴発と称した略奪。浦部の村を荒らして、浦部の力を削ぐ。武田が峠を越えてくる時の、下ごしらえ。


 婆さんは、そういう大きな絵図の、どうでもいい端っこで死んだのか。


 家の前に立ちはだかって、槍で一突きにされて。


「……そうか」


 腹は立つ。


 だが、不思議と怒鳴る気にはならなかった。前の俺なら、たぶんこの場で増田の城の方角に向かって、片っ端から石をぶん投げてただろう。


 今は、ただ、やることが一つ決まっただけだ。


「義直。浦部で、すぐに動かせる兵はどれくらいいる」


「は、はっ。急ぎ集めれば、百ほどかと。ですが、まだ家中が落ち着いておらず、父の葬儀も……」


「五十でいい」


「ご、五十?」


「残りは城を守らせろ。お前は城にいて、年寄りどもの相手をしてろ」


 義直が、目を丸くした。


「五十で、二千石の増田を……?」


「若殿」


 いつの間にか戻ってきていた五郎が、椀を片手に、欠けた歯を見せて笑った。


「旦那にとっちゃ、数ってのはあんまり関係ねえんでさ」


 ◇


 その夜、俺は義直の部屋で、増田のことを根掘り葉掘り聞き出した。


 城の場所。曲輪の数。門の向き。兵の数と、その中で名の通った武者。当主の長久の性格。武田とのやり取りの頻度。増田の領内の村の数と、その村々が増田をどう思っているか。


 鞄から手帳とボールペンを出して、聞いたことを書き付けていく。インクは有限だから、字は小さく、要点だけ。


 義直が、俺の手元をじっと見ていた。


「……それは、何でございますか。筆も墨も使わずに、字が……」


「遠い国の筆だ」


「は、はあ……」


 五郎は「修験の技でさ」と横から口を挟んで、勝手に納得させていた。便利な言葉だな、修験。


 書き付けた内容を眺めながら、頭の中で整理する。


 増田は二千石。動かせる兵はせいぜい五十から六十。浦部の城を落とした話はもう伝わってるだろうが、所詮は千石の城を一つ奪っただけの流れ者だと侮ってるはずだ。城は平城に近い。攻め口も多い。


 ――まあ、やり方はいくらでもある。


 問題は、どうやるかより、どう見せるかだ。


 俺はこの先、武士の世界で上がっていかなきゃならない。名前を轟かせて、どこかにいるあいつの耳に届くまで。そのためには、ただ強いだけじゃ足りない。卑怯者だの妖術使いだの言われたら、誰もついてこない。


 だから、作法には付き合う。名乗りも、一騎打ちも。


「……面倒くせえな」


「旦那、なんか言いやしたか?」


「なんでもない」


 ◇


 翌朝。


 大手門の前に、五十の兵が並んだ。


 浦部の家臣たちは、明らかに戸惑った顔をしていた。つい先日まで、自分たちの城を攻め落とした男だ。その男に率いられて、戦に行けと言われても、そりゃあ素直には頷けないだろう。


 俺は馬上から、ざっと兵の顔を見渡した。


 何を言えばいいのか、正直よく分からない。気の利いた演説なんて、SE時代の朝礼でもやったことがない。


 だから、思ったことだけを言った。


「これから、婆さんの仇を取りに行く」


 兵たちが、きょとんとした顔をする。婆さんって誰だ、と顔に書いてある。


「ついでに、お前らの村を荒らした連中もな」


 何人かの兵が、はっとした顔になった。


 増田の略奪で、自分の村を焼かれた奴がいるのだろう。家族を失った奴も、いるのかもしれない。


 浦部の兵たちの視線が、初めて、真っ直ぐに俺の方を向いた。


 それで十分だ。


 俺は馬の腹を軽く蹴った。


 五郎が、槍を担いで横に並ぶ。


「旦那。今日は、名乗りの作法、ちゃんとやるんですかい?」


「……やるよ」


 俺は、ため息を一つついた。


「面倒くせえけどな」


 ◇


 増田の城の広間に、物見が転がり込んできたのは、昼過ぎのことだった。


「申し上げます! 浦部の兵が、こちらへ向かっております!」


 上座の増田弾正長久は、四十がらみの、腹の出た男だった。浦部が落ちたという報せは、既に昨日のうちに届いている。


「ほう。浦部の小倅を傀儡に据えたという、流れ者か」


 長久は、鼻で笑った。


「千石の城を一つ奪っただけで、図に乗りおったわ。して、その数は」


「は……五十ほどにございます」


 一瞬、広間が静まり返った。


 それから、長久が腹を抱えて笑い出した。


「五十! 五十とな! 舐められたものよ!」


 居並ぶ家臣たちも、つられて笑う。


「よかろう。城門の外で迎え撃て。その流れ者の首、武田様への何よりの手土産にしてくれるわ」


 長久は、上機嫌で盃を傾けた。


 自分の兵が、つい先日、浦部の村で一人残らず消えたことを。


 その二十人を消したのが、まさにその流れ者であることを。


 増田弾正長久は、まだ知らなかった。





『原作で心を壊されて退場するモブに転生したけど、推しのメイドがクソ女だったし、作者の設定がガバガバなので好きに魔法いじって好きに生きる ~ショボい魔法しかないと笑った連中、全員ザマァ~』

https://ncode.syosetu.com/n7080mv/


新しく投稿始めました。応援よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。