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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい
帰還戦国編

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第56話:淳志、山賊を狩ったが途方に暮れる

怒鳴り声のする方へ、様子を窺いながら近づいた。無警戒で首を突っ込むほど、さすがにバカじゃない。


だが、着いてみると、既に何もなかった。踏み荒らされた草むらと、争ったような跡だけが残っている。誰かが誰かと揉めて、もう決着がついた後らしい。


まあ、いいさ。関わる義理もない話だ。


俺は方角を変えて、別の道を探すことにした。しばらく歩くと、荒れた街道に出た。轍の跡があるって事は人が通る道だ。少なくとも、完全な無人地帯じゃないってことだけは分かる。


その安心が、油断だったのかもしれない。


「動くな」


声と同時に、両脇の藪から人影が飛び出してきた。五、六人。薄汚れた身なりで、手に手に竹槍や鎌を持っている。前後を挟まれる形で、退路も塞がれていた。


「おう、兄さんよ」


先頭の一人が、こちらを見てにやりと笑う。他の連中も、じりじりと距離を詰めてくる。慣れた動きだった。何度もこういう真似をしてきたんだろう。


「一人旅とはご苦労なこったな。荷物、置いてってもらおうか」


まあ、そういう類の連中か。


俺は驚きもせず、その場に立ったままだった。


「悪いが、荷物ってほどの物は持ってないぞ」


「へぇ、そりゃ困ったな。じゃあ命でいいや」


男が竹槍を構えて突っ込んでくる。


遅いよな。


踏み込みを見切って、懐に入る。得物に手をかける必要もなかった。拳を一発、みぞおちに叩き込む。反動もクソもない、ただの身体能力任せの一撃だったが、男は白目を剥いてくの字に折れた。


「な……! 何しやがった!」


二人目が横から鎌を振り上げてくる。振りかぶりが大きすぎる。避けて、手首を掴んで軽く捻った。骨が軋む感触がして、鎌が地面に落ちる。悲鳴を上げる暇もなく、そのまま押し倒した。


「て、てめえ……!」


残りの三人が、じりじりと後ずさりながらも槍衾のように構えを作った。数の利で押そうとしてるんだろうが、この程度の連携じゃ意味がない。


一人目の間合いに入って、竹槍を掴んで奪う。抵抗する暇もなかった。奪った竹槍を、そのまま二人目の脛に叩きつける。呆気なく崩れ落ちる。


最後の一人は、既に戦意を失っていた。竹槍を放り出して、逃げ出そうとする背中に、軽く足を引っ掛けてやった。


「ぐえっ」


情けない声を上げて転がる。


正直、これは戦いとも呼べる代物じゃなかったな。どうやら『ガルズ』で鍛えられた俺は、この世界基準では上澄みの強さを持ってるようだ。無双とまではいかないが、雑魚相手なら苦戦のしようがないわ。


数分後、街道には五人が転がっていた。死んではいない。殺す理由もない。うめき声を上げながら、それでも動く気力もなさそうだった。


「……で、と」


俺は転がった連中の懐を漁った。


小さな巾着。中には、丸っこい形をした銭がいくつか。それと、使い込まれた鉈と、まあまあ状態のいい脇差が一振り。あとは襤褸に近い着物と、干し飯らしきものが少々、竹の水筒。


一つずつ、収納に放り込んでいく。荷物にはならないしな。それだけが唯一の救いだった。


銭を掌の上で転がしながら、俺はしばらく考え込んだ。


丸い穴が開いた、鉄でできた銭。刻印がうっすら見えるが、どこの時代のものかまでは判別できない。数えると、全部で二十枚ほどあった。


「……これ、いくらなんだろうな」


全く見当がつかない。


異世界なら、金貨が何枚でどのくらいの価値か、すぐに分かった。市場に行けば商人が教えてくれたし、俺自身、交渉で値をつり上げる側だった。相場も、モノの価値も、体感で掴めた。


だがここは違う。米一升がいくらするのかも、宿を一晩借りるのにいくら要るのかも、そもそも「宿」というものがどういう仕組みで動いているのかすら分からない。銭の種類も一種類じゃなさそうだし、この巾着の中身が「大金」なのか「はした金」なのかの判断すらつかない。


「……詰んでるわ、これ」


武力はある。物はある。だが、使い方が分からない。


この時代の生活の「常識」というOSが、俺の中には一切インストールされていなかった。異世界に落ちた時は、少なくとも言葉と収納さえあれば何とかなった。ここは、それだけじゃ足りない。


仕方なく、街道を歩き続ける。


途中でいくつか小さな集落を見かけた。藁葺きの家、井戸端で立ち話する女たちも見た。だが、身なりの怪しい男が一人でふらついていれば、当然のように警戒される。声をかけようとしても、住人はさっと戸を閉めてしまう。一度、井戸端の女に「すまん、道を聞きたいんだが」と話しかけただけで、悲鳴のような声を上げられる。


仕方なく、集落は避けて歩いてく。


日が傾き始めた頃、俺はとうとう、道端にへたり込んだ。


腹は減っている。だが、何をどう食えばいいのかも分からない。持っている干し飯は、水で戻すのか、そのまま齧るのか、見た目だけでは判断がつかなかった。試しに一粒齧ってみたが、硬くて、味もほとんどしない。


「……情けねえな、これは」


あれだけ勝手していた男が、飯も食えずに座り込んでいる。ミクがいたら、絶対に笑うだろうな。「アツシさん、それお水で戻すんですよー」とか言いながら。


その時、背後から声がした。


「……なんじゃ、お前さん。行き倒れかね」


振り返ると、腰の曲がった婆さんが、薪を背負って立っていた。俺を見て、値踏みするように目を細めている。


「怪我はしとらんようじゃが……妙な形をしとるな。どこの生まれじゃ」


「……遠くから来たんだよ」


それしか答えようがなかった。


婆さんはしばらく俺を眺めていた。上から下まで、じっくりと。スーツも、革靴も、この時代には存在しないはずの生地の光沢も。何を思ったのか、やがてふっと笑った。


「変わったお人じゃの」


そう言うと、薪を背負い直して歩き出す。


「まあいい。ついてきんさい。飯くらい食わせてやる」


俺は、一瞬迷った。得体の知れない相手についていくことのリスクくらい、分かっているつもりだった。だが、腹は減っていたし、他にどうしようもなかったんだよな。こんな婆さんにどうこうされないだろうし。


「……悪いな」


立ち上がって、俺は婆さんの後をついていった。


小さな背中を追いながら、俺はふと思った。


この人は、俺が何者かも知らずに、声をかけてくれたな。

異世界じゃ、こんなことは一度もなかったわ。

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