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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第47話 理不尽な線引きと、ギルドの鏖殺

 グラナドスの大通りは、昼時を過ぎてもなお、胃袋を刺激する香りと人々の怒号に近い活気に満ちていた。

 俺とミクは、露店が立ち並ぶエリアで、一本の串焼きを買い求めていた。滴る脂、焦げたタレの芳醇な香り。見た目は至極まっとうな「肉」だ。


「……美味いな。なあ親父、一つ聞きたいんだが。俺たちは獣人がいない遠くから来たんでよく分からないんだ。……まさかこの肉、獣人だったりするのか?」

 俺が軽い世間話のつもりで投げかけた問いに、屋台の親父の顔色が劇的に変わった。

「ばかやろう! 何を寝ぼけたこと言ってやがる!」

 親父は手にしたトングを激しく振り回し、烈火のごとく激怒した。

「いいか、よそ者の兄ちゃん! あいつらは言葉を話す仲間だ、人間なんだよ! そんなもん食うわけねえだろ! グラナドスの掟を舐めるんじゃねえぞ!」

「あ、すまん。そりゃそうだよな……じゃあ、やっぱりこれ、高い牛の肉か?」

「はぁ!? 牛なんて高価なもん、こんな安値で出せるわけねえだろ! ミノタウロスに決まってんだろ、ボケが!」


 叩きつけられたその言葉に、俺とミクは思わず顔を見合わせた。

 ミノタウロス。知能を持ち、二足歩行し、牛の頭を持った巨大な魔物だ。そいつは「食い物」で、羊獣人の娼婦は「人間」……。俺にはその境界線が、極めて恣意的で、バグだらけのシステムに見えた。

「アツシさん、ミノタウロスってマッチョな牛獣人みたいなものですよね。……それは良いんだ」

「……まあ、この街の仕様なんだろうな。ミク、やっぱり獣人を食うなら、人目に付かないようにやるのが正解みたいだ」

「そうですね。バレなきゃいい、ですね!」

 俺たちはそんな「禁断の結論」を小声で共有しながら、再び街の散策を再開した。


 やがて、都の中心部へと近づくと、一際巨大で重厚な石造りの建物が目に飛び込んできた。

 昼飯を食える場所を探してその門を叩くと、そこは冒険者ギルド――ではなく、「探索者ギルド」だった。

 受付の男に聞けば、この街の中央には巨大な「ダンジョン」が口を開けており、そこから得られる魔物素材や宝がグラナドスの経済を支えているのだという。探索者はこの街の特権階級であり、ギルドの権力は行政をも凌駕する。


「アツシさん、ダンジョン……。なんだか、美味しそうなものがたくさん隠れてそうですね」

「……ああ。未知の素材、未知の味、か。リソースの宝庫だな。……よし、登録しておくか」


 興味を引かれた俺たちが登録を申し出ると、案の定、お決まりの「洗礼」が始まった。

 周囲にいたベテラン風の探索者たちが、アラクネ製の見事なコートに身を包んだ俺たちを「金持ちの道楽」と見なし、下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。

「おいおい、お坊ちゃんにそっちの別嬪さん。ここは遊び場じゃねえんだ。登録したきゃ、俺たちの『検定』をパスしてもらわねえとな」

 

 ミクが「アツシさん、今回は譲ります。練習してみてくださぁい」と楽しそうに一歩下がった。

 俺はため息をつきながら、絡んできた大男の前に出た。普段なら『収納』による即死切断か『爆鳴気』で一瞬で終わらせるところだが、たまには肉弾戦でも、と力を抑えたつもりで拳を繰り出した。


 ――グシャッ、という嫌な音がした。

 ミクのように『収納』を掌に乗せて、対象を削り取るように打つ「収納パンチ」は、意外と制御が難しい。加減を誤った俺の拳は、男の頭部を首から上ごと亜空間へと放り込んでいた。

 断面から鮮血が噴き出し、頭を失った巨体がドサリと崩れ落ちる。


「……あ、やりすぎたなあ」

 俺の呟きと同時に、ギルド内が凍りついた。

「なっ……貴様、殺したのか!? 衛兵を呼べ! 捕縛しろ!」

 ギルドマスターと思わしき男が絶叫し、周囲の探索者たちが一斉に抜剣する。

 その瞬間、俺の隣から凄まじい「死の気配」が膨れ上がった。


 ドォォォォォン!!

 何が起きたのか、一瞬理解できなかった。

 ミクが軽く右手を振るった瞬間、ギルドマスターのいたカウンター付近が、その上半身ごと消失していたのだ。ミクの放った『暗黒極大質量破砕拳』が、物理障壁も肉体も関係なく、その空間ごとえぐり取っていたのだ。

 騒然としていたギルド内が、今度こそ静まり返る。アラクネの最高級の絨毯が、今やただの血塗られた残骸へと変わっていた。俺も「うわぁ……」と、そのあまりの容赦のなさに顔を顰める。


「アツシさん。もう、めんどくさいから『みなごろし』でいいじゃないですかー?」

 ミクが、春の陽だまりのような、最高に明るくて素敵な笑顔で首を傾げた。

「黒王号たちも待ってるし、早く宿を決めて美味しいもの食べに行きましょうよ!」


 そのあまりに天真爛漫なサイコパス発言に、俺は一瞬ポカンとしたが、すぐに腹の底から笑いがこみ上げてきた。

「……はは、そうだな。そもそも勝手に絡んできて、騒ぎ立てて、時間の無駄だ」

 俺は周囲を見渡し、冷徹なトーンで告げた。

「さて、三つカウントダウンしているうちに選べ。……逃げるか、頭を下げて謝罪するか、殺されるかだ」


「三」

 カウントが始まった瞬間、我に返った探索者の半分が、武器を捨てて出口へと殺到した。

「二」

 残されたギルド関係者や賢い連中が、ガチガチと歯を鳴らしながら、床に擦り付けるように頭を下げた。

「一」

 だが、中には退かぬ者もいる。探索者のトップらしき、大剣を背負った大柄な女が「ちょっと待ってくれないだろうか」と口を開きかけたが。


「零。……時間切れだ」


 俺の言葉と同時に、女の首が宙を舞った。

 向こうではミクが、逃げずに剣を抜いた愚か者たちを嗤いながら叩き潰している。俺も頭部ごと座標指定で『収納』し、抵抗する者の心臓や内臓だけを抜き取り、空間を収納する刃で文字通り「存在」を切り裂いていく。

 中には覚悟を決めて肉薄してくる手練れもいたが、彼らの剣はアラクネ製の防具に傷一つ付けることすらできず、俺の『収納』からの鉄塊を纏った腕によって、物理的に粉砕されていった。


 数分後。

 かつて栄華を誇った探索者ギルドのロビーには、ただ静寂と、謝罪し続けて生き残った数人のギルド員だけが残されていた。

 その血の海の中心を、ミクが楽しそうにステップを踏んで受付カウンターへと向かう。


「すいませーん! ダンジョンに興味あるから、探索者登録お願いしまーす!」

 ミクは、怯えて失禁している受付嬢に、花が咲くような笑顔で微笑みかけた。

「あ、この人も一緒にお願いしますね!」


 俺は返り血一滴浴びていないコートの襟を正し、ミクの差し出した登録用紙を眺めた。

 グラナドスの都。

 ここでの俺たちの「自由」と「食欲」の旅は、どうやらダンジョンの底まで続くことになりそうだ。

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