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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第39話 マッハパンチと、次なる空の神

ズシンッ、ズシンッ!

 新大陸の奥地、鬱蒼と生い茂る巨大樹の森に、局地的な地震のような地響きが鳴り響いていた。


 俺たちの目の前に立ち塞がっているのは、体長二十メートルはあろうかという巨大な『地竜』だ。全身が岩盤のように硬い鱗で覆われ、太い尻尾が薙ぎ払われるたびに、樹齢数百年はありそうな大樹がマッチ棒のようにへし折れていく。


「GYAOOOOOOOッッ!!」


 地竜が鼓膜を破らんばかりの咆哮を上げ、口から周囲を石化させる特殊なブレスを吐き出そうとした。

 だが、そのブレスが放たれるよりも早く、空中の『何もない空間』から唐突にミクが現れた。


「ふふっ、遅いです!」


 俺が加工した『マルチ・ディメンショナル・アサルト・ウデワ』による短距離転移。

 そこからの『質量立体機動』のコンボだ。

 摩擦をゼロにし、高速のミサイルと化したミクの踵落としが、地竜の脳天に容赦なく突き刺さる。


 ――メキョォォォォンッ!!


 岩盤の鱗が砕け散る凄まじい衝撃音と共に、地竜の巨体が大きくグラついた。

 だが、ミクはすでにそこにいない。反動を利用して再び虚空へ転移し、今度は地竜の背後、真下、左右の死角から、縦横無尽に超質量の打撃を浴びせ続ける。


(相変わらず、ミクの戦闘は華があって主人公感が凄いな……)


 空中を舞うように圧倒的な連撃を叩き込むミクを見上げながら、俺は少しだけ三十四歳の哀愁を感じていた。

 俺だって、チート能力なら負けていない。だが、俺がやるとどうしても地味で、そして『調理』になってしまうのだ。

 地竜がミクの転移攻撃に翻弄され、完全に意識を上空へ向けたその瞬間。俺は静かに『収納』の座標指定を使い、地竜の無防備な腹部の真下に立った。


(対象:腹部の鱗と肉・極小サイズで収納)

(連続実行:収納内の『水』百リットル・対象の体内へ音速射出)


 俺は腰を深く落とし、右手の掌底を地竜の腹部へとピッタリと当てた。

 そして、心の中で渾身の、そして絶妙にダサい必殺技名を叫ぶ。


(食らえ……『マッハパンチ』!!)

「トウッ!!」


 俺の口から出たのは、昭和の特撮ヒーローのような気合いの掛け声だった。

 だが、その威力はえげつない。

 掌底が触れた部分の鱗と肉が『収納』によって無音で抉り取られ、できた穴から、超高圧の『水』が音速で地竜の体内へと撃ち込まれる。


 ボジュルゥゥゥゥッッ!!


 内臓が水圧で破裂する鈍い音と共に、地竜の全身の穴という穴から、大量の血が噴水のように吹き出した。

 ただのパンチに見せかけた、ゼロ距離からの体内水圧破裂攻撃。ついでに、一瞬で全身の血抜き(下処理)を完了させるという、俺の理不尽極まりない暗殺兼・調理技である。


「G、GYA……ァ……」


 外傷は腹部の小さな穴だけ。だが内部を完全に破壊され、血を抜き取られた地竜は、白目を剥いてゆっくりと傾き――。


 ズドグゥゥゥゥゥゥンッッ!!!


 大地を激しく揺るがす轟音と土煙を上げて、その巨体を地に沈めたのだった。



 数時間後。

 俺たちは巨大樹の森に野営地を作り、地竜の討伐を祝う宴を開いていた。

 もちろんメインディッシュは、俺の『マッハパンチ』で完璧に血抜きされた地竜のステーキだ。分厚く切った肉が鉄板の上でジュージューと音を立て、暴力的な脂の匂いが漂っている。


「ん〜っ! お肉柔らかいです!」

「ああ、血抜きが完璧だからな。臭みが全くない」


 幸せそうに肉を頬張るミクと俺の向かいで、同行してきた原住民のファラが、信じられないものを見るような目で俺たちを見つめていた。


「お前たち……本当に何者なのだ……。大樹の部族が数十人がかりで、何日もかけて追い払うのが精一杯の地竜を、あんな一瞬で……しかも、食べるなんて……」

「淳志サン、地竜って美味しいですけど、ベヒモスとあんまり味の方向性が変わらないですねぇ。ちょっと飽きてきちゃいました」

「空を飛ぶ『龍』ならもっと美味しいんですかねぇ?」


 ファラのドン引きした呟きを完全にスルーし、ミクが恐ろしいほどの贅沢な感想を漏らす。

 その言葉に、ファラは慌てて首を振った。


「お、おいミク! そういうことはあまり大声で言わない方がいい! 空を飛ぶ龍もいるが、あれは『神様』だ。あまりにも地竜が暴れた時には代わりに倒してくれるし、何より我々人と同じ言葉を話せるのだから……食べるとか、絶対に言うなよ!?」

「えっ!? 人と同じ言葉が話せる龍ですか!?」


 俺からファラの忠告を聞いた瞬間、ミクの瞳にピカッと星が輝いた。

 そして、肉を持ったまま立ち上がり、俺の方を勢いよく振り返る。


「アツシさん! 話せるんなら、交渉して背中に乗せたりしてくれませんかね!? 私、本物の龍の背中に乗って空を飛んでみたいです! 探しに行きましょう!」


 神様を乗り物扱いする気満々の、腹ペコバーサーカーからの無邪気な提案。

 俺は手元の地竜のステーキを一切れ口に運びながら、深く、長くため息をついた。

 どうやら俺たちの新大陸グルメツアーは、いよいよ『神の領域』へと足を踏み入れることになりそうだ。


(……やれやれ。次はどんな必殺技(下処理)が必要になることやら)


 三十四歳、元システムエンジニアの気苦労は絶えない。

 俺たちは地竜の肉を平らげた後、空飛ぶ龍の神を求めて、さらなる人跡未踏の奥地へと旅立つことになった。

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