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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第38話 三十四歳元SE、古代遺物をリファクタリングす

すき焼きの鍋がすっかり空になり、満腹の冒険者たちが幸せそうな顔で眠りにつく中。

 俺はファラたち原住民が背負っている『前文明の魔法具』を借り受け、焚き火の明かりを頼りにまじまじと観察していた。


「なあファラ。この装置、重さはどれくらいあるんだ?」

「三十キロほどだな。これを背負いながら戦うには熟練の技が必要だ。我が部族でも、扱える戦士はごくわずかしかいない」

「だろうな。両手が塞がるし、重心もブレる。機動力のための装置なのに、装置自体が枷になっているぞ」


 俺はため息をつきながら、魔法具の表面に刻まれた複雑怪奇な幾何学模様――魔法陣を指でなぞった。

 俺の『言語理解』スキルは、この魔法陣を一つの『プログラム言語』として完全に翻訳し、脳内にコードを展開している。

 そして、元システムエンジニアとしての俺の評価は、極めて辛辣なものだった。


(ひどいスパゲティコードだ……。重力を制御するメイン処理に到達するまでに、無駄な安全確認のループ処理が何重にも組まれている。おまけに魔力の変換効率も最悪だ。ツギハギだらけで、とにかく『動けばいい』の精神で書かれたレガシーコードそのものじゃないか)


「どうしたのだ、アツシ? 難しい顔をして、我らの聖なる遺物を睨みつけて」

「いや。ちょっと、この無駄な回路コード整理リファクタリングしようと思ってな」


 俺は『収納』から、以前手に入れていたミスリルを取り出し、指先から他のミスリルの塊を収納で繰り返し出し入れしてハンマーの様にしながら、腕輪の形に加工していく。

 そして、魔力を指先に集中させ、脳内で最適化した『重力制御』と『短距離転移』の魔法陣を、ミスリルの表面に指先からタトゥーマシンの要領でミスリル片を出し入れして直接刻み込んでいく。


 無駄なループ処理を全削除。

 魔力変換の変数を最適化。

 三十キロの巨大な装置に組み込まれていた機能を、必要最小限の美しい構文に書き換え、腕輪という身に着けられるデバイスに押し込む。


「よし、コンパイル完了だ。ミク、ちょっとこれを着けてみてくれ」

「はいっ! わぁ、綺麗な腕輪ですね!」


 俺が完成した腕輪を渡すと、ミクは嬉しそうに左手にはめた。

 その瞬間を待ち構えていたかのように、ファラが血相を変えて立ち上がった。


「な、何を馬鹿なことを! 前文明の偉大なる遺物の力を、そんな小さな装身具に宿せるわけがないだろう! それは神々が残した奇跡の――」

「ミク、起動エンター

「はいっ!」


 ファラの叫びを遮るように、ミクが腕輪に魔力を流し込んだ。

 シュンッ!!

 音がしたかと思うと、ミクの姿が焚き火の前から忽然と消え失せた。


「なっ……消え、た!?」

「あははははっ! すごいですアツシさん、体が羽みたいに軽いです!」


 ファラが慌てて上空を見上げると、そこには地上から十メートルほどの高さを、ふわりふわりと楽しげに浮遊するミクの姿があった。

 『重力制御』による滞空。そして、そこからミクは空中の何もない空間を蹴った。


 ――バシュゥゥゥンッ!!


 腕輪の『短距離転移』と、ミク自身の『質量立体機動』のコンボ。

 摩擦ゼロの超音速突撃に、空間転移による予測不能な軌道変化が加わったのだ。

 ミクは夜空を縦横無尽に飛び回り、巨大な岩山に転移しては蹴り砕き、ズドガァァァン!と凄まじい物理音と地響きを岩場に轟かせながら、空中で楽しげに笑っている。


「これなら、死角に転移して最大質量の蹴りを叩き込めますね! 最高です!」

「ああ、完璧に動いてるな。名付けて、『マルチ・ディメンショナル・アサルト……ウデワ』だ」

「ふふっ、ウデワってww アツシさんらしいお名前ですね!」


 俺がドヤ顔で絶妙にダサい横文字のネーミングを披露し、ミクが地上へ舞い降りてくる。

 その光景を目の当たりにしたファラたち大樹の部族の戦士たちは、全員がポカンと口を開け、持っていた槍をカランカランと地面に落としていた。


「バカな……我々が何世代も命がけで守り、選び抜かれた戦士しか背負えなかった聖なる遺物が……たった一つの小さな腕輪に……?」

「安心しろ、ファラたちの装置は壊してない。あくまで回路をコピーして最適化しただけだ」

「あ、アツシ、お前は……お前たちは一体、何者なのだ……!? 創造神の使いか何かか!?」


 ガクガクと震えながら平伏しそうになるファラに、俺は苦笑して首を振った。


「ただの通りすがりの、三十四歳の元システムエンジニアさ。さて、ミクの機動力の強化も済んだことだし……」

「はい! ファラさんたちが困っているという『地竜』、サクッと倒しに行きましょう!」


 ミクが拳を握り締め、腹ペコの肉食獣のような笑みを浮かべる。

 未知の原住民に神の使いと勘違いされながら、俺たちは新大陸のさらなる奥地、未踏の地竜の縄張りへと足を踏み出すのだった。

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