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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第37話 冒険者たちの胃袋と、未知なる原住民

活火山の岩場から野営地へと戻った俺たちを待っていたのは、バーランドをはじめとする冒険者たちの、この世の終わりでも見るかのような引きつった顔だった。

彼らは大まかな解体は俺がしたとはいえ、帰還するためにはまだまだ解体すべき部分や手順が残っていたのだ。


 そんな彼らの前に俺の『収納』から取り出されたのは、表面がカリッと香ばしく焼かれ、内部からは極上の肉汁が滴る、家屋サイズのベヒモスの肉塊。そして、ミクが大事そうに抱えている、ダチョウの卵を十回りほど巨大にしたような火吹き鳥の卵である。


「……おい、アツシ。俺の目がイカれちまったのか? それ、新大陸の生態系の頂点にいるベヒモスの焼肉と、空の覇者たる火吹き鳥の卵に見えるんだが」

「奇遇だな、バーランド。俺の目にもそう見える」

「ふざけるなッ! どっちも国境警備の騎士団が総出で当たるレベルの災害級魔獣だぞ!? お前ら、数時間の散歩で何狩ってきてんだ!!」


 頭を抱えて絶叫するバーランドの横で、彼が面倒を見ているE級の若手冒険者たちも「俺たち、神罰が下って死ぬんじゃ……」とガタガタ震えながら抱き合っている。

 

そんな彼らをよそに、ミクは巨大な岩をくり抜いて即席の鍋を作り、そこに卵をたっぷりと割り入れていた。俺の必殺技(串打ち)で完璧なミディアムレアに仕上がった肉を切り分け、卵の海にくぐらせる。


「はい、バーランドさんたちもどうぞ! 冷めないうちに食べてくださいね!」


 ミクが無邪気な笑顔で、顔面蒼白の冒険者たちに肉を差し出した。

 恐怖で顔を引きつらせながらも、漂ってくる暴力的なまでの香ばしさと脂の匂いに、彼らの胃袋は限界を迎えていたらしい。震える手で肉を受け取り、一口かじった瞬間。


「……ッッッ!!?」


 バーランドの瞳孔がカッと開き、若手冒険者たちはあまりの美味さにボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。


「う、美味すぎる……! なんだこれ、肉が口の中で溶けるぞ!?」

「卵のコクが凄まじい! 俺、これ食べたら明日死んでもいい……いや、死にたくねぇ!」

「怖い! こんな美味いもん食ってる自分が怖い! でも手が止まらねぇぇッ!」


 恐怖と至福の板挟みになりながら、冒険者たちは狂ったようにすき焼きを貪り始めた。

 どうやら俺たちの究極のグルメは、彼らの胃袋を完全に掌握したらしい。俺もミクの隣に座り、ほっと息をつきながら自分の分の肉に手を伸ばそうとした、その時だった。


 ――ガサリ。


 野営地の周囲を取り囲む深い茂みが、不自然に揺れた。

 冒険者たちは肉に夢中で気づいていないが、ミクはすでに箸を止め、スッと瞳に剣呑な光を宿している。俺も無言で立ち上がり、気配のする方へと視線を向けた。

 そこから現れたのは、動物の骨や皮を組み合わせた民族衣装を纏い、顔に独特のペイントを施した数人の集団だった。

 肌は褐色で、耳はエルフのように少し尖っている。間違いなく、この新大陸の未踏領域に住む原住民だ。彼らは警戒感を露わにしつつも、その視線は俺たちではなく、鍋の中で煮えるベヒモスの肉に釘付けになっていた。

 わかりやすく、ヨダレまで垂らしている。


「#$%&*! +?><!」


 集団の先頭に立つ、小柄だが引き締まった体つきの少女が、槍を構えながら鋭い声で何かを叫んだ。

 当然、王国の公用語ではない。未知の言語だ。

 だが、その声が俺の耳に届いた瞬間、脳内でカチリと何かが噛み合う音がした。


(スキル『言語理解』が対象の言語体系を解析……完了しました)


 神との交渉で得た、管理者権限の副産物。魔法の呪文も未知の言語も、すべて『言語』として解読し、こちらの意思も翻訳して伝えるシステムハック。


「……『お前たち、外から来た者だな。その匂いの強い肉を寄こせ。さもなくば実力で奪う』……か。ずいぶんと好戦的じゃないか」

「えっ!? アツシさん、今の子の言葉わかるんですか!?」


 驚くミクを制し、俺はゆっくりと両手を挙げて敵意がないことを示しながら、少女に向かって(彼女たちの言語に変換された音声で)語りかけた。


「奪う必要はない。美味いメシは、皆で囲んだ方がより美味くなるからな。俺はアツシ。こっちはミクだ。君の名前は?」

「なっ!? なぜ我々の言葉が……っ! 私はファラ! 誇り高き大樹の部族の戦士だ!」


 目を見開いて驚くファラと名乗った少女たちに、ミクが空気を読まずにニコニコと肉の入った器を差し出す。

 警戒しつつも一口食べた彼女たちは、数秒後にはバーランドたちと同じように涙を流して鍋に群がることになった。


 すっかり打ち解け、満腹になって腹をさするファラに、俺は気になっていたことを尋ねた。

 彼女たちの背中に背負われている、異様に大きく無骨な金属の装置についてだ。民族衣装には全く似つかわしくない、複雑な幾何学模様(魔法陣)が刻まれた機械的な遺物。


「ファラ、その背中のデカい荷物はなんだ? 武器には見えないが」

「ああっ、これか。これは我々の部族に代々伝わる『前文明の魔法具』だ。これがないと、巨大な地竜からは逃げられないからな」


 そう言って、ファラは装置の起動スイッチらしきものを押し込んだ。

 その瞬間、巨大な装置の回路が淡く発光し、ファラの体がフワリと宙に浮き上がった。さらに、次の瞬間には三メートルほど離れた空間に『短距離転移』して見せたのだ。


「おおっ! すごいですアツシさん! あの子、重力魔法と転移を使ってます!」

「ああ。だが……」


 ミクは目を輝かせているが、俺の目は装置の表面に浮かび上がった魔法陣――つまり『魔法の回路プログラム』に釘付けになっていた。

 俺の『言語理解』は、その魔法具の構造すらもハッキリと解読していたのだ。


(なんだこの無駄の多いスパゲティコードは……。余計な処理ループが多すぎて、装置がこんなに巨大化してるじゃないか)


 三十四歳、元システムエンジニアの血が、静かに、しかし激しく沸き立つのを感じていた。

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