第36話 渾身の新必殺技と、哀しき万能調理器具
大荒野を抜け、俺たちは活火山が連なる灼熱の岩場へと足を踏み入れていた。
標高の高い断崖絶壁。そこが、今回のターゲットである『火吹き鳥』の営巣地だ。
俺の心は、静かに、しかし熱く燃えていた。
昼間のベヒモス戦。ミクの放った『暗黒重界・滅殺破砕衝』という、ギミックと視覚効果に溢れた超必殺技。それに対して、俺の技はあまりにも地味すぎた。
三十四歳のおっさんが、ただ首をポチッと消すだけの作業を『スーパー・ギガ・ディメンション・ストレージ・ブレイド』などと叫んでしまったあの屈辱。
(俺だって、管理者権限を応用すれば、ド派手な必殺技の一つや二つ……!)
ギェェェェェェッ!!
上空から、鼓膜を劈くような甲高い鳴き声が響いた。
見上げれば、翼長十メートルを超える巨大な怪鳥が、全身に炎を纏いながら急降下してくる。新大陸の空の覇者、火吹き鳥だ。
怪鳥が大きく口を開け、数千度に達するであろう業火のブレスを吐き出そうとした瞬間。
「ミク、手出しは無用だ」
「えっ? はい、アツシさん!」
俺はミクを制し、堂々と一歩前へ出た。
飛んでくる業火のブレスを、俺は視界に捉えて無造作に『収納』する。
火炎がシュンッと音を立てて虚空に消えたことに驚き、怪鳥が動きを止めた。その真下、俺は怪鳥の胸元のゼロ距離まで肉薄し、右手をそっと添えた。
(対象:胸部の外殻および肉・円柱状に収納)
(連続実行:収納内の大量の石塊と木片・指定座標の内部へ音速射出)
俺が組み上げた新しい攻撃プロセス。
それは、相手の肉体を『収納』で部分的に抉り取って隙間を作り出し、その内部から外に向かって、収納空間から散弾をゼロ距離で音速射出するという、内部破壊特化の極悪コンボだ。
俺はニヤリと笑い、ミクに向かってドヤ顔を向けた。
「見よ! これが俺の真の必殺技……『ギガント・ディメンション・エクスプロージョン』だァァッ!!」
ズドドドドドォォォンッ!!!
俺の手のひらから、大気を震わせる爆音が轟いた。
火吹き鳥の体内という密閉空間で音速の散弾が暴れ狂い、怪鳥の背中側から大量の火花と肉片が噴水のように吹き飛ぶ。
ビジュアルは満点。圧倒的な破壊力と派手なエフェクトを伴い、火吹き鳥はズドォォンと地響きを立てて地面に墜落した。
「ふぅ……」
俺はゆっくりと立ち上がり、軽く前髪を払いながら、ミクの方を振り返った。
どうだ。カッコいいだろう。質量兵器をシステムで制御した、俺だけのド派手な必殺技だ。
「……」
だが、ミクは俺のドヤ顔をスルーし、凄まじく真剣な表情で墜落した火吹き鳥を観察していた。
そして、コテリと首を傾げて俺を見る。
「アツシさん、領主の館や教会を壊した時、太い鉄棒みたいなの、いっぱい収納してましたよね?」
「え? ああ、バリケードや鉄格子に使われてた鉄鋼材ならあるが……それがどうした?」
俺の必殺技への賞賛は? と思いつつ答えると、ミクはパァッと顔を輝かせた。
「それです! まだこの鳥、ちょっと息があって火を吹いてますよね? その火で鉄棒を真っ赤になるまで熱してください!」
「は? まあ、いいが……」
「そして! さっき切っておいたベヒモスの大きなブロック肉に、アツシさんの今の『カッコいい音速の技』で、その熱した鉄棒をズバババッ!って刺していくんです!」
俺は絶句した。
「鉄棒が中からお肉を焼いて、外側からはこの鳥の炎で炙れば……最強のロースト・ベヒモスが出来上がります!」
「…………」
「早く早く! お肉出しますよ! アツシさん、今の必殺技でもう一回お願いします!」
ミクの瞳は、純粋な食欲と期待でキラキラと輝いている。
俺が編み出した、敵の内部を物理的に粉砕する無慈悲な超必殺技。
彼女の目には、それがただの『自動で熱い串を刺してくれる便利な調理機能』にしか映っていなかったのだ。
「……ああ。わかったよ」
俺は泣きそうになるのを堪え、システムを展開した。
鉄鋼材を火吹き鳥の炎のへ移動し加熱し、加熱された鉄鋼材をベヒモスの塊肉へと、収納して作った隙間から肉塊へ刺さる程度の速度で射出
ズドドドドドンッ!!
俺の『超極大次元圧縮・内部破壊砲(ただの串打ち機)』が唸りを上げ、赤熱した鉄棒が分厚いベヒモス肉の内部へと音速で突き刺さっていく。
ジュワァァァァッ!という凄まじい音と共に、肉の内部から極上の脂が溶け出す香りが立ち昇った。
そこへ、瀕死の火吹き鳥が最後の力で吐き出した炎が肉の外側を包み込み、表面をカリッと香ばしく焼き上げる。
「わぁぁっ! 完璧です! あとは巣から卵を取ってくれば……究極のすき焼き風ロースト肉の完成です!」
ミクが歓声を上げ、火吹き鳥の巣から巨大な卵を抱えて飛び降りてきた。
卵を割って器に入れ、完璧なミディアムレアに仕上がったベヒモスの肉を、たっぷりの中身にくぐらせる。
「いただきまーす! ……んんんっ! 美味しいぃぃっ!!」
ミクが頬を抑え、とろけるような笑顔で肉を頬張っている。
俺も一切れ口に運んだ。
濃厚な卵のコクと、暴力的なまでのベヒモスの肉の旨味。そして、俺の必殺技(串打ち)による完璧な火通し。間違いなく、異世界に来てから一番美味い食事だった。
「アツシさんの必殺技、お料理にすっごく便利ですね! またやってください!」
無邪気に笑う最愛の共犯者を見つめながら。
俺は、美味すぎる肉の味とは裏腹に、ちょっぴりしょっぱい涙の味を噛み締めていた。
(……ああ。俺、必殺技を見せても、ただの調理器具扱いなんだ……)
三十四歳の特撮ヒーローへの夢は、新大陸の活火山にて、極上のグルメと共に静かに散っていった。




