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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第25話 潮騒の街と、終わらないカウントダウン

魔族領の最西端、

潮の香りが漂う港町「ポルト」。


俺たちは防波堤に腰掛け、

海風に吹かれながら

獲れたての海の幸を堪能していた。


「んん〜っ!

この『大王ホタテ』のバター醤油焼き、

最高に美味しいです!」


ミクが深いワインレッドの

ロングコートの袖をまくり上げ、

大きな貝柱に齧りつく。


俺も漆黒のコートを羽織ったまま、

蟷螂族の鉈で捌いた

深海魚の刺身を口に運んだ。


「ああ。

脂の乗りが人間の領土の魚とは違う。

魔力を含んでいるからか、

旨味が異常に濃いな」


俺たちが舌鼓を打っていると、

屋台の主である魚人族の親父が、

嬉しそうにイカ焼きを追加してくれた。


「おうおう、食いっぷりがいいな人間!

お前さんたちみたいに、

俺たちの飯を美味そうに食う奴らは初めてだ!」


「親父さんの腕がいいんだ。

この魚醤も絶品だぞ」


「へへっ、だろ?

ほら、うちのガキどもにも

人間のパンケーキってやつを食わせてやってくれよ!」


親父の後ろから、

魚人の子供たちが興味津々に顔を出す。

ミクは笑顔で、

「収納」から甘い焼き菓子を取り出して

子供たちに配り始めた。


種族の壁などない。

美味い飯を前にすれば、皆ただの「客と店主」だ。


平和な昼下がり。

だが、その平穏は

無骨な金属音によって破られた。


「……見つけたぞ。人間のスパイだ!」


通りに現れたのは、

黒い鎧に身を包んだ「魔王軍」の一小隊だった。


数十人の武装した兵士たちが、

俺たちの屋台を半包囲する。


「おい、人間!

貴様ら、なぜこんな所にいる!

どうせ聖王国の偵察だろう!」


部隊を率いる、

爬虫類のような顔をした指揮官が、

剣を抜いて怒鳴った。


「問答無用だ!

捕縛して、奴隷として鉱山に送れ!」


兵士たちが槍を構えて距離を詰めてくる。

俺は刺身を噛み砕きながら、

冷ややかに彼らを見返した。


せっかくの飯が不味くなる。


「ま、待ってくだせえ隊長さん!」


その時、

屋台の親父が両手を広げて

俺たちの前に立ち塞がった。


「この人たちはただの旅人だ!

俺たちの飯を美味いって言ってくれる、

大事なお客なんだ!」


「退け、下等な魚人め!

人間に尻尾を振る裏切り者が!」


指揮官が親父を容赦なく蹴り飛ばす。

ドスッという鈍い音がして、

親父が屋台に叩きつけられた。


「お父ちゃん!」


子供たちが泣き叫び、

親父に駆け寄る。


「チッ……目障りだ。

こいつらも人間を匿った罪で捕縛しろ!」


兵士たちが、

親父や子供たちまで乱暴に縛り上げようとする。


「……」


俺は手に持っていた串を置き、

ゆっくりと立ち上がった。

隣で、ミクの目から光が消えるのがわかった。


「おい、トカゲ野郎」


俺の声は、

自分でも驚くほど冷え切っていた。


「……あ? なんだと?」


「今からとお数える。

その間に、そいつらから手を離して

俺の視界から消えろ」


「十数える前にやめねえと、

お前ら全員、ぶち殺すぞ」


指揮官は一瞬キョトンとし、

次の瞬間、腹を抱えて大爆笑した。


「ギャハハハ!

聞いたかお前ら!

この非力な人間、俺たちを殺すだとよ!」


兵士たちも下劣な笑い声を上げる。


「十」


「九」


「八」


俺は淡々とカウントを始める。


「いい加減にしろ!

おい、そのガキも縛れ!」


指揮官が苛立たしげに、

泣きじゃくる魚人の子供の腹を

思い切り蹴り飛ばした。


「ギャッ……!」


子供が宙を舞い、

砂地に無惨に転がる。


「……ゼロだ」


俺は数えるのをやめた。


「え? まだ八……」


指揮官が間の抜けた声を上げた瞬間。

俺の隣から、

深紅の旋風が吹き荒れた。


「十も待てるわけないでしょ、バーカ!」


ミクだ。

常人の倍以上の脚力で砂を蹴り、

一瞬で指揮官の懐に潜り込む。


「なっ……速っ!?」


指揮官が剣を振り下ろそうとするが、

遅すぎる。


ミクは右拳を後ろに引き絞り、

振り抜く「インパクトの瞬間」に、

『収納』から巨大な花崗岩を

拳の先端に出現させた。


物理法則を無視した、

岩石の質量が上乗せされた凶悪な一撃。


ドゴォォォォンッ!!!


「ゲボァッ!?」


指揮官の上半身が、

文字通り弾け飛んだ。

鎧ごとひしゃげ、

血の雨となって防波堤に降り注ぐ。


「た、隊長ォォ!?」


「おらっ! 次!」


ミクは止まらない。

岩を収納にしまい、

身軽な体術で次の兵士の首を刎ね、

さらに別の兵士の心臓を『収納』で抜き取る。


一方的すぎる殺戮。

俺は一歩も動かず、

ただ視線を巡らせた。


『ターゲット:逃げようとする兵士の足首』

『実行:収納』


「ギャアアアッ!?」

「足が! 俺の足が消え……!」


バタバタと兵士たちが倒れ伏す。

俺は、親父や子供たちを縛っていた

縄だけを正確に『収納』し、

彼らを解放した。


「……掃除、完了です」


わずか一分後。

港の通りには、

物言わぬ鎧の残骸だけが転がっていた。


「アツシさん、

服が汚れちゃいました」


ミクがワインレッドのコートについた

返り血を払いながら戻ってくる。

ビートルの装甲裏地のおかげで、

刃こぼれ一つしていない。


「時間修復しておけ」


俺はため息をつき、

腰を抜かしている親父たちを振り返った。


「怪我はないか」


「あ、ああ……

あんたら、一体……」


「すまないな。

飯の途中で騒がしくして」


俺は未完成のイカ焼きの代金として、

金貨を数枚、屋台の板に置いた。


「だが、これでハッキリした。

この国のトップは、

少し教育が足りていないらしい」


「……アツシさん」


ミクが俺を見る。

その目は、新しい遊びを見つけた

子供のように輝いていた。


「行きますか? 魔王城」


「ああ。

文句があるなら直接言いに行く。

俺たちの平穏な食事を邪魔した

落とし前は、きっちり払わせるぞ」


俺たちは、

繋いであった黒王号とクイーンに跨った。


目指すは、この大陸の中心。

魔王の玉座だ。


海風に乗って、血の匂いが遠ざかる。

俺たちの怒りは、

もう誰にも止められない。

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