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『ただの収納スキルですが、時間は止まるし、生物もしまえます。――さて、邪魔者はどこですか?』  作者: だい


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第22話 国境の畑と、トマト外交

「ヒヒィィィンッ!」


黒王号が嘶き、

断崖を風のように駆け下りる。


サスペンション付きの鞍のおかげで、

衝撃は驚くほど少ない。

俺は揺れる背中で、

優雅に地図を広げた。


「アツシさん! 見えてきました!

あれが魔族の国ですか?」


並走するクイーン号の上から、

ミクが指差す。


眼下に広がるのは、

鬱蒼とした森と、

その合間に開かれたパッチワークのような畑。


「ああ。

人間領とは植生が違うな」


俺たちが目指すのは、

国境付近にある「亜人の隠れ里」だ。


情報によれば、

ここでは人間界では流通していない

「魔界野菜」が栽培されているらしい。


「楽しみです!

お野菜! ビタミン! 食物繊維!」


ミクが目を輝かせる。

最近、肉ばかりだったからな。

体が緑黄色野菜を求めている。


俺たちは速度を落とし、

村の入り口へと近づいた。


その時だ。


「止まれッ! 人間!」

「それ以上近づくな!」


村の柵の向こうから、

鋭い声が飛んだ。


現れたのは、

犬や猫の耳を持つ獣人や、

肌の青い小鬼(ゴブリンの上位種)たち。


手にはくわや粗末な弓を持っている。

殺気立っている。


「聖王国の騎士か!?

ここは通さんぞ!」


「帰れ! 侵略者め!」


敵意の雨あられ。

無理もない。

人間は彼らを「害虫」と呼び、

殺しに来る存在なのだから。


俺は黒王号を停止させた。


「……おい、人間」


村の長らしき、

白髪の狼獣人が前に出る。


「その馬……スレイプニルか?

貴様ら、何者だ?

魔物を従えるなど……」


彼らの視線が、

俺たちではなく、

二頭の巨獣に釘付けになる。

恐怖と、畏敬の念。


俺は鞍の上から、

努めて穏やかに(営業スマイルで)言った。


「怪しいものじゃない。

ただの通りすがりのグルメだ」


「は……? グルメ?」


「ああ。

噂を聞いてな。

この村には、世界一美味いトマトがあるって」


長老がポカンと口を開ける。

後ろの若者たちも顔を見合わせる。


「……トマト?

偵察じゃなくてか?」


「トマトだ」


俺は「収納」から、

ずっしりと重い袋を取り出した。


チャリ……。

硬貨の擦れる音。


「金は払う。

聖王国の金貨だが、

貴金属としての価値はあるだろ?」


「いや、しかし……

人間が我らの作物を食うだと?

汚らわしいとか、毒だとか……」


「御託はいい」


俺は黒王号から降り、

スタスタと長老の前に歩み寄った。

弓を構える若者たちを無視して。


そして、

近くの籠にあった

真っ赤な果実を一つ手に取った。


大人の拳二つ分はある。

皮がパンパンに張り、

魔力を帯びて微かに光っている。

「魔界トマト」だ。


「食っていいか?」


「あ、ああ……」


俺はそのまま齧りついた。


ジュワッ。


口の中に、

濃厚な甘みと酸味が爆発する。

青臭さは微塵もない。

まるでフルーツのような糖度。

そして、溢れ出る魔力が

細胞に染み渡っていく。


「……ッ」


「どうですか、アツシさん!」


ミクがクイーン号から身を乗り出す。


俺は親指を立てた。


「Sランクだ。

前世で食ったどのトマトより美味い」


「やったー!

おじいさん、私にもください!」


ミクが飛び降りてくる。

そして、

警戒する亜人たちの手から

トマトをもぎ取り、

豪快に齧りついた。


「んん〜っ!!

濃いです! 太陽の味がします!」


「おいしい〜!

これ、最高ですよ!」


ミクが満面の笑みで、

口の周りを赤くして叫ぶ。


その屈託のない笑顔に、

亜人たちの毒気が抜けていく。


「……なんだ、こいつら」

「本当に食いに来ただけか?」

「俺たちの野菜を……美味いって……」


長老が、

肩の力を抜いて溜息をついた。


「変わり者だな、あんたたち」


「よく言われる」


俺は袋を投げ渡した。


「ここにある在庫、全部くれ。

あと、キュウリやナスもあるなら頼む。

言い値で買うぞ」


「……わかったよ。

商売なら拒まねえ」


「おい、みんな!

武器を収めろ!

上客だぞ!」


村の空気が一変した。

敵意が、好奇心と歓迎へと変わる。


「兄ちゃん、こっちの瓜も食ってみな!」

「姉ちゃん、スレイプニル触ってもいいか?」


子供たちが集まってくる。

ミクはトマトを齧りながら、

子供の頭を撫でている。

黒王号も、

村の家畜たちに挨拶しているようだ。


「へぇ、人間にも

話がわかる奴がいるんだな」


長老がパイプをふかしながら、

俺の隣に来た。


「聖王国の連中は、

畑を焼くことしかしねえからな」


「俺たちは政治には興味ない。

美味いものを作る奴が正義だ」


俺は即答した。


「あんたたちは、いい仕事をしてる。

それだけだ」


「……へっ、違いねえ」


長老がニカっと笑った。


その日、

俺たちは村で大量の野菜を買い込んだ。

新鮮なトマト、

水晶のように透き通ったカブ、

巨大なカボチャ。


すべて「収納」へ。

これで当分のビタミン不足は解消だ。


「また来なよ。

秋には芋が美味くなる」


「ああ、期待してる」


帰り際、

村人たちは手を振って見送ってくれた。


俺たちは

トマトの箱を積んだ鞍に跨り、

再び走り出す。


「いい人たちでしたね!」


ミクがトマトをもう一つ齧る。


「ああ。

野菜を作るのに、種族は関係ない」


「ですね!

次はマヨネーズ付けて食べたいです!」


俺たちは笑った。


人間だろうが、魔族だろうが、

「美味いもの」の前では平等だ。

そして、

俺たちの旅を彩る「食材」だ。


さあ、

次はどんな味が待っている?


国境を越えた俺たちの旅は、

ますます「味わい深く」なっていく。

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