第21話 八本足の悪魔の試着室
俺たちは、
スレイプニルに跨り、
山岳都市「ハイランド」の門前に到着した。
「ひ、ヒィィッ!?」
「魔物だ! 魔物の襲撃だァ!」
門番たちが槍を落として腰を抜かす。
無理もない。
体高3メートル近い、
八本足の巨獣が二頭も現れたのだ。
「落ち着け。家畜だ」
俺は黒王号(命名済み)の首を撫で、
冒険者カードを提示した。
「テイムしてある。
通行許可を頼む」
「て、テイム!?
スレイプニルをか!?」
「正気かあんた……」
門番たちは震えながらも、
道を開けた。
圧倒的な「暴力」を飼い慣らす者には、
誰も逆らえない。
街に入ると、
俺たちはその足で
一番大きな「革細工工房」を探した。
「いらっしゃ……ひぃっ!?」
工房の親父が、
俺たちの後ろに控える二頭を見て絶句する。
「仕事だ、親父」
俺は「収納」から、
以前の森で狩った
「大猪の革」と「ワイバーンの皮膜」を
取り出した。
「こいつらの鞍と、
旅装用のバッグを作ってくれ」
「ス、スレイプニル用なんて、
作ったことねえよ……!
それに、こんな高級素材……」
「金貨20枚だ。
設計図は俺が書く」
「やります!
やらせてください!」
親父の目が金貨になった。
職人は現金だ。
俺は羊皮紙を広げ、
サラサラと図面を引いた。
俺の黒王号用は、
機能美を追求した「軍用スペック」。
黒革をベースに、
衝撃吸収用のクッションを内蔵。
八本の足の動きを阻害しない、
特殊なサスペンション構造だ。
「ここにはホルダーをつけてくれ。
水筒や、すぐに取り出したい武器を差す」
「へい! わかりやした!」
一方、ミクの方は……。
「親父さん! ここにリボンです!
あと、フリルも付けてください!」
「お、お嬢ちゃん……
魔物の鞍にフリルかい?」
「はい!
この子(奥さん)、可愛いのが好きなんです!」
ミクが白馬の鼻先を撫でる。
奥さん(命名:クイーン)は、
「その通りよ」と言わんばかりに
鼻息を荒くしている。
「色は白とピンクで!
あと、お尻の方には
大きなリボン結びをお願いします!」
「……わ、わかったよ。
とびきり可愛くしてやるよ」
親父は困惑しながらも、
プロの意地を見せた。
数時間後。
特注の装備が完成した。
俺の黒王号は、
漆黒のボディに
マットブラックの革装備が映える、
重厚な「装甲車」のような仕上がり。
そしてミクのクイーン号は……。
ピンクのフリルと白い革、
そして無数のリボンで飾られた、
「パレード用」のような派手さ。
「かーわーいーいー!!」
ミクが大はしゃぎで飛びつく。
クイーンも満更でもなさそうだ。
「……目立つな」
「いいじゃないですか!
女の子はお洒落が命です!」
俺たちは試乗に出た。
街の大通りを、
黒とピンクの二頭が練り歩く。
「すげえ……」
「なんだあの装備……」
住人たちの視線を釘付けにする。
恐怖よりも、
その堂々たる姿への「畏怖」と「感嘆」。
乗り心地は最高だった。
親父の腕は確かだ。
俺の設計したサスペンションが機能し、
揺れを完全に殺している。
「これなら、
コーヒーを飲みながらでも走れるな」
俺はホルダーに
革袋(中身はワイン)を差し込み、
満足げに頷いた。
その夜。
俺たちは宿の厩舎(もちろん特大サイズ)に
二頭を預け、
久しぶりにゆっくりと食事をとった。
「アツシさん、見てください」
ミクが窓から厩舎を指差す。
そこでは、
黒王号とクイーンが、
寄り添って眠っていた。
新しい鞍をつけたままで。
よほど気に入ったらしい。
「仲良いですねぇ」
「飼い主に似たかな」
「あら、アツシさんたら」
ミクが嬉しそうに笑い、
俺のグラスにワインを注ぐ。
「明日はどうします?」
「装備の慣らし運転だ。
このまま山を降りて、
次の国境を目指す」
「魔族の国、でしたっけ?」
「ああ。
人間より美味い野菜を作るって噂だ」
「楽しみです!
野菜スティック食べ放題ですね!」
平和な夜。
殺戮も、策略もない。
ただ、
新しい「愛車」を手に入れた喜びと、
明日の旅路への期待だけがある。
「……悪くない」
俺はワインを干した。
足を手に入れた俺たちは、
もう誰にも止められない。
風よりも速く、
どこまでも自由に行ける。
さて、
黒王号の初陣は、
どこのどいつになるかな。
俺はニヤリと笑い、
ミクと共に
ふかふかのベッドへと潜り込んだ。




