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聖女の教育係  作者:
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6:お嬢様とレッツ、お友達作戦

最初の分岐をクリアして、奥様は健やかに仕事に励み、アニエスは伸び伸びと成長している。

旦那様は奥様愛、娘愛に拍車がかかっている。

アニエスの三歳お祝いパーティで、アニエスに魔力があり、貴族として登録したことが発表された。

加護内容については公表しないものだという。

因みに南の女神の加護と、風の属性加護がついていた。

旦那様と奥様は殊の外喜んだ。

属性神の加護はそんなに喜ぶものなのかと改めて実感する。

私に闇、火、土、金の属性加護があることは秘密だ。

なんでこんなについてるんだろうと疑問に思い女神に聞いたら、

「こんな頓珍漢な人物に属性加護がつかない訳ないじゃない」

と酷いことを言われた。

ソルシエールの国民を敵に回しかねない。

三歳の誕生日以降、アニエスは子供部屋に移った。

貴族として認められた証なのだが、寂しくて夜は奥様の部屋で眠ったりしている。

そしてレディ教育も開始され、アニエスは日々奥様やユーレイアのような淑女を目指して頑張っている。

決して私のようにはなってはいけない。

「えりく。おえかきしよ」

「はい。お嬢様」

アニエスは絵本やお絵描きが好きなようで自由時間になると絵本やくれよんを手にしている。

私には絵心もないので、

「えりく、これなに?」

とよく聞かれる。

「ライオンです」

「ひまわりじゃないの?」

と言われるのも日常茶飯事だ。

「これえりく、こっちはゆーれいあ。」

子供視点からもユーレイアの特徴は一目瞭然だった。

「お嬢様、ひまわり描いてください」

私はアニエスのお絵描き好きを利用して色々なものを描いてもらう。

アニエスが分からないものは図鑑を見せて描かせる。

「もう、えりくはわがままさんね」

「ふふふ。お嬢様ってば、知ってるくせに」

そして私は出来たその絵を額に入れて飾る。

私の部屋の壁はアニエスの描いた絵で埋め尽くされていた。流石に恥ずかしいからやめてと最近言われるようになった。

なので、古い順に綴り画集を作った。それが本棚にずらりと並んでいる。

壁には厳選した絵だけを飾っている。

「ひまわりって横に書いてください。あ、ちゃんとお嬢様のサインも入れて下さい」

文字も少しずつ書けるようになった。

「わかってるもん。」

「うへへ」

「お嬢様。奥様がお呼びですよ。」

ユーレイアが私達を呼びにきた。

三人で執務室に行くと、

「アニエス。実はアニエスにお願いがあるの。」

「?」

「知り合いの子供を預かることになったの。お友達になってほしいの」

そう奥様に頼まれた。

初めて遭遇するイベントだ。奥様が生存していることで発生するイベントがあるってことか。

友達かぁ、難しいな。頼まれてなるものではないし。

「奥様。私はお嬢様が友達になりたいと思ったなら友達になればいいと思うので反対です」

「エリクの物言いには異論はありますが、わたしも無理に友達になるのは反対でございます」

私とユーレイアが反対するも

「いいですわ、かあさま」

アニエスは受諾した。

「お嬢様、よーくお考えください。いままで年の近い子と遊んだことのないお嬢様に急にお友達は」

難易度が高い。

「むー、できるもん!」

こうなったアニエスは頑固だ。

「分かりました。ですが、私と一つ約束して下さい。」

アニエスの隣りに跪き手を取る。

「なに?」

「どうやっても無理だと思ったら私かユーレイアに言うこと。ですが、お嬢様がやると始めたこと。中途半端に放り投げることは許しません。」

「う、ん」

「ご自身の言葉に責任を持って下さい」

「せきにん?」

「友達になると言ったのだから、どうやったら友達になれるのか、お嬢様に出来ることを全て試しなさいということです」

「うん」

理解しているのかは分からないが、アニエスは頷いた。

「おともだちになります」

奥様の前に一歩進み出てアニエスが宣言した。

預かる子供は、ライプニッツ伯爵の五男で、アニエスより一つ歳上の四歳。

アラバ南方に位置する伯爵領の一つ、ライプニッツ伯爵。奥様の遠縁にあたる。

ライプニッツ伯爵家には幼い子供を他家に預けて生活させる習わしがある。

「明後日には到着するのよ。ごめんなさい、急で」

「かしこまりました。急ぎ準備します」

「おともだち。えりく、どきどきするね」

「初めてのお友達ですね。まぁ、何事も経験です、頑張って下さい」

「エリク、貴女先程と言っていることが変わっていませんか?」

「お嬢様が決めたのですから、私はそれを支持します。決まったのなら私の意見なぞどうでもいいんです。」

選択するのはアニエスであるべきで、その前の選択肢を提示すること、そして責任をとらせるのは私の役目だ。

「それはすごいわ」

「ゆーれいあ、ともだち、だめ?」

「いいえ。世の中には優しい人間だけではないので、心配になっただけです。お嬢様が嫌な思いをするのではないかと」

「ありがとう、ゆーれいあ」

アニエスがユーレイアに抱きつく。

「アニエス。よろしくお願いしますね」

「はーい。ねぇかあさま、どんな、こなの?」

そわそわしているアニエスも可愛いなぁとでれでれしているとユーレイアに腕をつねられた。

「ロイド君と言ってアニエスより一歳歳上の四歳で、活発な子と聞いているわ。お外で遊ぶのが好きみたいなんだけど、」

アニエスはどちらかといえばインドア派だ。友達以前に気が合うのか不安になってきた。

まぁ失敗も経験値に変わるからいいんだけど。

「おそとかぁ。」

「お庭でぬいぐるみぶん投げればいいんじゃないでしょうか」

「そんなことしないもん!」

「お部屋で作戦会議でもしましょうか」

「うん」

「よろしくね」

執務室を出てアニエスの部屋に戻る。

「さてと、えー、第一回お嬢様はじめてのお友達大作戦の作戦会議を始めます!」

ぱちぱち

元気よく拍手したのはアニエスだけでユーレイアは呆れた眼差しで私を見ている。

「ロイド・ライプニッツ君は四歳、お外で遊ぶのが好きな活発な子。どうやって友達になりますか?!」

「はい!」

元気に挙手するアニエス。

「はい!お嬢様」

「おかしとこーちゃで、もてまします」

「もてなし、ですね。素晴らしい。他には?」

「はい!」

「はい!お嬢様」

「おにわをさんぽします」

「初めて来た場所の案内!素晴らしいです。」

その後もアニエスは自分に考えつく案を絞り出す。

「ユーレイア、お嬢様がこんなに頑張って考えているのですから、ユーレイアも発言してください」

「お嬢様、では申し上げます。ロイド様にとってスピノザ家は初めて訪れる場所、知っている人の少ない土地で、慣れない生活をするのです。とても緊張していることでしょう。」

「……」

「ですから過剰な歓迎は不要かと存じます。優しく笑顔で迎える、ご実家でどのような生活をしていたのか、ロイド様のお話を聞くことから始めてはいかがでしょうか」

「おぉ」

ぱちぱちとアニエスと私は手を叩く。

「ゆーれいあ、すごい」

「流石ユーレイアです。私とは出来が違います」

アニエスのユーレイアを見つめる目がキラキラと煌めいている。

「お嬢様もお一人で眠る時は寂しいですよね?ロイド様はご家族と寂しくても会えない距離で生活するのです。その気持ちに寄り添っていきましょう」

「うん」

ロイド・ライプニッツとの接点がここで発生するとは思わなかった。

彼は学院時代のアニエスの友人の一人で、アニエスのわがままを許容し続け更には聖女の権力に便乗して好き勝手した男だ。

十六歳で聖女の力に目覚めるまで、学院で目立つ学生ではなかったアニエスを、力に目覚めた途端、真っ先によいしょして、担ぎ出した人物だ。

私の中の印象は最悪だ。

だが、ここはやり直しの世界。幼い頃だし、同一人物でも色々違うこともあるだろうと、考えた心優しい時間が私にもありました。

「うるさい、ぶーす」

初めましての挨拶、お茶会室でのもてなし、旦那様達が席を外した後アニエスが話しかけた時の台詞に

「……」

私はロイド・ライプニッツの排除を決定した。

「?ぶーすってなあに?」

「アンタのことだよ」

「?わたしはあにえすよ。」

二人の噛み合わない会話の後ろで

「ユーレイア、お嬢様をお願いします」

私は相手方の侍従に笑顔で近寄り、防音の魔力壁を張り

「おい、こら。てめぇらさぼってんじゃねぇよ。てめぇらの上司にチクんぞ。」

怒りをぶち撒ける。

「な、」

「アレを御するのもてめぇらの仕事だろうが。」

「我々は身の回りの世話だけで、言動については指示を受けて」

「ねぇーわけないだろうが。こちらが穏便に済ませている間に仕事しろや」

奥様から今回の受け入れの内容と双方で交わされた約束などを纏めた資料を受け取っている。

あくまでも他家で生活の世話になるが、教育はライプニッツ家の侍従が受け持つと注意書きも確認済みだ。

「どういうつもりかは知らんが、スピノザ家に厄介事を持ち込むようなら容赦はしないからな。忠告はした」

実力行使もやむを得ないとぱきぽき指を鳴らす。

防音の魔力壁を解除し、アニエスの後ろに戻った。

「ろいどさまはおつかれみたい。おへやにあんないしますわ」

アニエスが笑顔で対応している。

まじ可愛い。

「は」

何か言いかけたロイドを顔色の悪い侍従が遮り

「ロイド様、部屋に参りましょう」

お茶会は終了した。

ロイド達を部屋に案内して、私達も一度部屋に戻る。

「お嬢様、よく頑張りました♡」

アニエスを抱きしめる。

「えりく、くるしいよ」

「あ、すみません。つい力を込めてしまいました。大丈夫ですか?痛かったですか?」

「だいじょうぶ」

頭を撫で撫でするとアニエスが

「えりく、あのね、ぶーすってどんないみ?」

先程のロイドの言葉の意味を

「あのね、えりくがおこってたから、だめなことだとおもうんだけど」

もじもじと上目遣いで尋ねる。

「駄目な言葉だと分かっているのですね?」

「うん」

「それでも聞きたいんですね?」

「うん」

「単語としての『ぶす』の意味は、顔や心が美しくないこと。……ですが、ロイドサマの様子だと意味も分からずに使っているようでした。単語として簡単で投げつけやすい言葉だっただけでしょう。」

アニエスの様子を見ながら、ゆっくり話す。嫌すぎて途中ロイドの名前が片言になってしまった。

私の説明した言葉の意味に凹んだ様子をみせる。

「うつくしくない」

「お嬢様は心も体も美しいです。アレと私の言葉、どっちを信じますか?」

そもそもロイドの言葉に意味なんてない。虫の居所が悪かったぐらいの軽い憂さ晴らしだろう。

そんな言葉に傷ついてほしくない。

「えりく」

「ふ、でしょ?」

「エリク。アレ呼ばわりはいけません。お嬢様、エリクの真似はしていけませんよ」

「あれ」

「あれ」

「こら。二人共。言葉遣いが乱れています」

ユーレイアの頬マッサージ(強)を受け、アニエスと二人赤くなった頬を摩った。




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