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聖女の教育係  作者: 朔
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32/37

31:お嬢様と思春期3

ユーレイア発案のお泊まり会にアニエスと私は首を傾げる。

「お泊まり会って何?」

「言葉の通りです。今日はお嬢様の部屋で三人で寝ます」

「は?!」

「え?!」

「わたしが色々支度する間に、エリクはお嬢様が体調不良でお勉強は休みにするとトーマスに連絡して下さい。お嬢様はベッドで待機して下さい。では、また後で」

ユーレイアは言うだけ言うと部屋を出て行った。

「強引なユーレイアって新鮮」

「うん、そうだね。初めてみたかも」

アニエスも呆気に取られ、言われた通りベッドで待機する。

私は茶器を片付け、

「では連絡に行ってきます。」

部屋を出る。

トーマスに伝えると、

「かしこまりました。今日はゆっくり休ませて下さい。」

あっさりと休みを承諾した。

意外な返答にびっくりしていると、

「先輩が落ち着いているので、相当悪いことはないのだろうと想像がつきますし、お嬢様は真面目な方ですからたまには休みも必要だと思います」

トーマスが肩をすくめた。

しかも仮病なのもバレている?

だが、ユーレイア発案なんて思ってもいないだろう。

「先生の授業がない日で良かったです」

「緊張と緩和、大体気が緩んだ時にどっとくるんで、そうなのかなと思ってる。ありがと、トーマス」

「いえ。ボクも最近余裕のないお嬢様が気になっていましたから。先輩、よろしくお願いします」

「分かった。ありがとう」

部屋に戻ると、アニエスは眠っていた。

ユーレイアも戻ってきていて

「戻りました。トーマスにはなんか仮病なのバレてるっぽいです。すみませんユーレイア」

食事の支度をしていた。

「いえ、構いません。トーマスが休ませていると言ったほうが信憑性があります」

「……信用がないのか、私は」

「嘘がバレるので」

「トーマスならいいかと私に行かせたのか」

「ええ。」

「策士め。……手伝う」

「ありがとうございます」

遅めの朝食をとり、昼間はダラダラと過ごす。

しばらくして起きたアニエスは

「ユーレイア。お泊まり会の前もこんな感じでいいの?」

戸惑って尋ねる。

「勿論です。お嬢様には休息が必要でございます。思う存分ダラダラして下さい」

本棚の前でアニエスは立ったまま本を読む。

ぱらぱらページを捲っていた

「ユーレイアの口からダラダラって言葉が出てきたことに驚くわ。……痛」

アニエスが急に蹲る。

「お嬢様?!」

「お腹痛い」

「生理痛かもしれません。抱きかかえます、お嬢様。失礼します。」

私はアニエスをベッドに運ぶ。

「温めます。」

お腹の辺りの温度を魔法で調節する。

「ポカポカする」

「子宮の収縮運動で痛みが出ることもあります。酷い場合は医官に相談しましょう。」

「うん。…痛い」

「楽な体勢になって下さい」

アニエスが横を向く体勢になる。腰を摩る。

「ぁ、ありがと」

「私も生理痛が酷いほうなので、痛くて辛いのはある程度理解できます」

「そうなんだ。知らなかった」

「ふふお嬢様の顔を見たら痛みが引くので」

「また大袈裟に言う」

「本当です、……?ユーレイア?どうしました?」

ユーレイアが目を丸くしている。

「あの、わたし。生理痛は殆どなくて、あっても一年に二回あるかどうかで」

「え?そうなの?」

勝手にユーレイアも生理痛が酷い仲間なのでは?と思っていた。

「わたしは量が多いので、それだけが大変です」

「量かぁ、私は量は少ないから、そこは助かってる。」

「ねぇ、そんなに違うの?」

アニエスが尋ねる。

「個人差がありすぎて、理解が行き届かないんですよ。皆自分の体験している生理が普通で、人も同じと判断しがちですから。女性の敵は女性って場合も多いんですよ」

生理が軽い人は重い人の気持ちや生活がわからない。自分の尺度で物事を測るからというのもあるが、なまじ経験があるのがいけない。

「ふーん」

「人によっては起きられない、毎回医者にかかる、薬飲んで症状を抑えたりと色々です。」

同級生に薬を飲んでいる子もいた。辛そうだったのは覚えている。

「わ、わたしはどうなんだろう。」

「今は始まったばかりですから、次の月経まで間があくと思います。そこから次第に周期や量、症状が安定してくると思うので、ゆっくり自分の体と向き合っていきましょう。」

「ぅん。エリクがまともなこと言ってる」

酷ぇ評価だ。

「ちょっと痛み治ったかも」

「突発的な痛みの場合もありますから。専用下着でも痛いのは辛いですね」

「そっか軽減効果があるのに、これが続くと嫌かも」

「歳を重ねるにつれ体質が変化することもありますよ」

私は二十歳を過ぎてから生理痛が酷くなった経験を伝えると、

「それに近いことはわたしもありました」

ユーレイアも自身の経験を話す。

生理前の体調不良が増えたらしい。

「あー、あれ辛いですよね。吐き気がするので私もあれは嫌です。そうだ、症状に効くお茶があるので、お裾分けしますよ」

「あ、ありがとうございます。十一年一緒に働いていて知らないこともたくさんあるのですね」

「まぁ、生理について話したことなかったから」

生理についての説明概要に個人差はでないから、自分の経験から予測して大体そうだろうと完結させて話してこなかった。

「私は不順気味で」

「不順?」

「周期が乱れて、定期的に生理がこないんで。医官様に相談したり婦人薬を飲んだりしてます」

「エリク、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。医官様からも病ではないと言われているので」

「ふぅん。大丈夫ならいい。」

「ご心配いただきありがとうございますお嬢様」

「ほらエリクもユーレイアもベッドでダラダラしよう。」

「はい」

三人でベッドに横になる。

「ねぇ、他にも生理のこと、教えてほしい」

アニエスが私の袖をくいくいと引っ張る。

「はい、お嬢様。喜んで」

食欲が増すと言ったら、驚愕の表情を浮かべた。

「大変ですよね、わたしもついつい食べちゃいます」

ユーレイアが苦笑する。

「うん、あれは抗えない」

「これは共通なの?!」

その他にも訳もなくイライラしたり、憂鬱になったりと感情面の変化があったり、倦怠感や頭痛などの症状があったりと話す。

「大変そう」

「子を作るための準備と考えると大変なのも仕方ないんだろうと思っています」

「エリクはリチャと結婚しないの」

「しません。リチャさんの家庭事情もですが、私が結婚できないので、それを前提に付き合っています。」

「結婚できない?」

「言い方を間違えました、子どもが出来ないので、結婚はしませんという意味です。」

この世界だからではなく、元々そうなのだ。

「……ごめん」

「いいのですよ。お嬢様。」

「じゃあわたし、エリクにとって子どもみたいなもの?」

「いえ、そんなつもりは一切ありません。一目見た時からお慕いしている大好きなお嬢様です」

「ふぅん、エリクぎゅー」

「はい。ぎゅー」

久しぶりにアニエスを抱きしめる。

温かくて胸がいっぱいになる。

気づいたら寝落ちしていたらしく、おやつ時間になっていた。

「エリクも食べる?」

アニエスの申し出に腹の虫が答えた。

「……物語みたいな返事ね。」

「すみません」

起きると、瞼が腫れぼったいのに気づく。

寝ながら泣いていたようだ。

アニエスが優しいのはそのためかもしれない。

今日のおやつはふわふわパンーケーキだ。

「おいひぃ」

「エリクはパンケーキ好きだよね」

「お嬢様はドーナツ派でしたね、ユーレイアは何が好きですか?」

「わたしはクッキーが好きです」

「あー、確かに。」

言われてみればウキウキ度が違う。

「エリクはクッキーが苦手ですから、お裾分けくれるのでいつもありがとうございます」

一枚食べた後に残りはユーレイアの皿にこっそり回していた。

「いえいえ。」

「そんなことしてたの?わたしもユーレイアにクッキーあげたい」

「お嬢様、そんなことしたらユーレイアが緊張でおやつを楽しめないじゃないですか」

「む。それはたしかに」

パンケーキをはむはむしながら、膨れっ面をする器用なアニエスに笑いがこみあげる。

おやつの後にユーレイアは夕食の支度を始める。

私が手伝うとアニエスも横に並んで手伝い始めた。

「料理も作れるなんてお嬢様はどちらの方向を目指しているのですか?」

「なんでもやってみたいもの。」

今日の夕食は水餃子のような料理だ。

包むのが難しいのか、アニエスは悪戦苦闘している。

「お嬢様、ここをこう、曲げて、水でここを湿らせて、こうです」

実演してみせる。

「こういうところは器用ね、エリクって」

「ありがとうございます」

せっせと包み、何個か混ざっている味のある形の包みも鍋に入れる。

可愛い。

「あとはわたしが見ておりますので、お二人はお待ち下さい」

「はーい」

テーブルの上を片付けて、料理が出来上がるのを待つ。

「エリク。ここ何て読むの」

年齢が上がるにつれ本棚にはトーマスが厳選したちょっと難しい本が追加されている。

「諫言です」

「かんげん。ってどんな意味?」

「目上の人の問題行動を指摘することです。」

「ありがと」

歴史読み物で、臣下の諫言をめぐる話だった。

「エリク。も、もしも、もしもよ!わたしに好きな殿方ができて、その人と身分差があったら、反対する?」

「身分差がどの程度かの確認はします。振られる前提でカノン君に告白したお嬢様の心意気は認めておりますから、告白することは反対致しません。」

「……」

「ですが、成就を願っている場合は細かく要望を確認して、選択肢を提示します。」

「ふ、ふぅーん。そ、それでどんな選択肢をくれるの?」

「魔力がない方の場合は、愛妾です。魔力があって、身分が低い場合は手柄をあげさせて引き立てるってところでしょうか。まぁこの場合、お嬢様が身分を下げることも考慮しないといけません。あまりおすすめしたくないですね、えっと相手の身分が高い場合はこちらが大きな貢献、実績を残さないといけませんのでかなり無理をすることになります。」

「な、なるほど」

アニエスがごくりと真剣に選択肢を吟味している。誰か意中の相手でもいるのだろうか。思い当たらない。

「ですが、お嬢様。シモン殿はやめておきなさいとだけ申し上げます。貴族に向かない男です」

「ち!違うわよ!」

「ん?違うのですか?では他に意中の相手が」

「いないわよ!もしもの話って言ったでしょ!」

違ったらしい。




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