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聖女の教育係  作者: 朔
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30:お嬢様と思春期2

シモンがクマ型魔獣を一頭仕留めて帰ってきたが、結局引き上げることにした。

クマとサルを討伐したとはいえ、他の魔獣に遭遇しないのは問題だ。魔素濃度が低い可能性の情報を持ち帰ることにした。

魔獣討伐隊に同行した後からアニエスは気持ちが落ち着いたのか、前より無視の回数が減った。

旦那様と奥様とも話をしたようで、

「トーマス。ここ教えて」

魔法に加えて術式を勉強するようになった。

簡単な魔術文字を組み合わせて術式構築パズルを解いている。

何度も繰り返し挑戦することで術式に慣れる。

「エリク、勝負よ!」

「ふふふふ。私に勝てるとお思いですか!」

「今度は負けないわ」

そして最近のアニエスは、私に負けたくないようでパズル勝負を仕掛けてくる。

現在九割は返り討ちにしている。

問題はトーマスが選択する。

「はい、これです」

問題を確認すると一気に解答用紙に書き込む。

さらさらさら

かりかりかり

「はい」

「……正解です、お嬢様」

「ふふ、どうかしら!いつも負けてばっかりじゃないんだから!」

最高にキラキラしたドヤ顔で私を見る。

「ふ、負けてしまいましたか。ほい、私の解答」

解答用紙をトーマスに渡す。

「……先輩。いつからフリースタイルになったんですか。この前まで、外枠派でしたよね?」

私の術式を見て唖然とする。

「いやぁ、憧れ?かっこいいでしょ、フリースタイル派。型に捉われない術式構築力。」

「上手く組めればですよ。あ、ここ、途切れているので、発動不可です」

「な!まじかぁ。」

私の術式は完成していなかった。

「ちょっと、エリク!手抜いてたの?!」

「違いますよ、お嬢様。新しい構築法を練習しているので、それで戦ったまでです」

「何よフリースタイルって」

トーマスが私の解答用紙を例にアニエスに術式構築法の説明をする。

基本の枠組み法、通称外枠型や建築術式型。枠を決めてその中で術式を収める方法。持続性の高い魔術に使用されることが多い。

術式札や魔道具の術式を組む際に多用される効率重視の事象羅列型。

キチキチすぎて組み直しが難しいが、効率はダントツだ。

そして自由度の高いフリースタイル型。形に捉われないので、色んな場所に活用できる。ハート型の魔法陣とか描いてみたい。

他にも個人個人でアレンジを加えるので、スタイルは様々だ。

「むー、でもわたしの勝ちは勝ちだからね!」

「えぇ。それは勿論。次は勝ちますよ」

「次もわたしが勝つもん」

そしてまた術式の勉強に戻る。

最近成長痛も落ち着いてきたアニエスは、夕方の自由時間に絵を描いて過ごすことが増えた。

画材はスケッチブックからキャンバスに、クレヨン、ペン画を経て絵の具にシフトしている。

キャンバスになってから、作製に時間がかかるのと、ある程度の大きさがあるので、絵を貰えなくなった。

が、今日は違った。

「やっぱり下手になってるわ。…エリク、これあげる」

「ありがとうございます♡」

ブランクで腕が鈍ったらしいが、私には全然判別出来ない。とても味のあるいい絵だ。

「ふふふ。どこに飾ろうかなぁ。へへへ」

絵を持ってうきうきしている私に

「えりゅくぶー」

側務め控え室から脱走したユークが突撃する。

「いた」

「ぶー」

アニエスから貰った絵をユークに掴まれる。

「あ!ユーク君、離しなさい」

「えりゅくやー」

ぶんぶん勢いよく首を横に振る。

「すみません、エリク。ほらユーク、これはエリクの物でしょ?手を離しなさい。見たいならちゃんと見せてって言ってからでしょ」

ユーレイアが慌ててユークを説得する。

「ぶぅ。」

ユークは渋々絵から手を離した。

「手を離してくれて、ありがとうユーク君。ほら一緒にお嬢様の絵を見ようか」

並んでアニエスの絵を観賞する。

キリリとした顔で絵を指さして

「ちゅき」

言う。

「ユーク君は見る目がありますね。」

「えりゅくもいいこ」

「でしょでしょ」

「あにーちゃま、ちゅき」

「ふふふ私もお嬢様大好きですよ、仲間ですね」

仲良くお喋りしていると、

「ユーク。帰りますよ」

ユーレイアの退勤時間になった。

「はぁい」

「お嬢様、お先に失礼致します」

「あにーちゃま、またあしたでしゅ!」

ユークの可愛さ爆発の挨拶に二人を平然と見送った後に、

「可愛いぃぃぃ」

アニエスが両手で顔を覆い悶絶する。

最近は外面というお姉さん面が大分板についてきた。

そんな時は見て見ぬ振りをする。同意したら五月蝿いって言われるのだ。理不尽だが、思春期なんてそんなものだ。

静かに頷いておく。

さて、どこに飾ろうか。


十一歳頃に初潮が始まった。

「ち、でた」

動揺で泣き出したアニエスをユーレイアが抱きしめる。

「お嬢様。大丈夫でございます。」

「ユーレイアぁ」

泣きたい気持ちは、良く分かる。

急に下着が血で汚れたあの日、私は何かの病気で、死ぬんじゃないかと本気で怖くて涙が出た。

これが生理なのだと落ち着けば分かったのに、知識が追いつかず、ただただ不安と恐怖でパニックになっていく感覚。

「お嬢様、大人に近づいたこと、ひとまずお喜び申し上げます」

アニエスの側に跪き、口を開く。

「エリク、今は!」

ユーレイアに咎められるも続ける。

「部屋を出れば皆から祝われるのです。心構えは必要です。」

「……」

アニエスに睨まれても伝えることは伝えなければいけない。

「動揺していることは、百も承知です。気持ちが追いつかないでしょう。何がめでたい、何がいいのか。それでも笑って受け入れなくてはいけない。」

「……」

「初潮を迎えることは、体が大人に向かって成長している証。女性として、子どもを産むための準備を体が始めたのです。」

「それは、習ったわ」

「はい。実際何がめでたいのか、私には理解できませんでした。が、人類、いえ、生物にとって非常に大事なことに繋がるのだとすればめでたいのでしょう。子孫繁栄、いつの世も変わらない人の望みです。」

「……そうね」

「その願いが根底にあるので、皆一様に祝いの言葉を口にするでしょう。貴女の気持ちとは関係なく。事実に対して言葉を手向けているだけです。傷つかないで下さい。」

「エリク」

「失礼は承知の上です。ここで気持ちの整理をつけてください。部屋の外に出る前に」

「!?」

「私が受け止めましょう。怒りも悲しみも不安も混乱も全て私にぶつけて構いません」

アニエスはしばらく私を睨むと、ユーレイアに抱きつき

「まだはやいよ」

ぽつりと呟く。

「年齢的には順調の成長なさっております。早すぎることはありません」

「でも早いの!」

心情的な早さだった。怒りでもなんでも感情を吐き出させる。

「そうですね、早いですね。あんなに小さかったお嬢様がこんなに大きくなるのもあっというまでした。」

大きさを親指と人差し指で表すと

「そんな小さくないもん!」

怒られた。

「ふふふ。確かにそこまで小さくはありませんね」

「ユーレイア?」

笑ったユーレイアをアニエスが不思議そうにみつめる。

「でもとても小さかったです。」

「小さい時はあっと言うまで、すぐに髪の毛もふさふさになってさっさと大きくなって」

「ふふ、エリクはずっとデレデレで、でも不器用だから抱っこになれるまで時間がかかりましたよね」

「ユーレイア、それ本当?」

「ええ。」

「ふーん」

「お着替えをしてから、お茶をしながらお話しをしましょうか」

「うん」

汚れた下着の代わりに

「お嬢様。こちらをどうぞ」

新しい下着を渡す。

「生理期間専用の下着です。水属性の加工がされているので、清潔で過ごせます。」

流石魔法のある世界だ。生理の煩わしさが極力軽減されている。生理用品が下着と融合している。しかも変えるまでの時間が長い。

「特注品ですよ、一週間まるまる使用しても大丈夫です」

「……一般的な専用下着は一日が限度ですが。どれだけお金をかけたのですか」

ユーレイアは茫然とし

「え、下着は一日で変えたい」

アニエスは引いた目で私を見る。

「……なんですと?!」

「エリク、逆にそれは不潔な気がします」

「うん」

「……くっ。しくじった!」

確かに!落ち着いて考えればそうだ。一週間同じ下着は嫌だ。

「取り敢えず、今日はこの下着を穿きましょうか」

ユーレイアに促され

「分かった」

専用下着を穿いたアニエスが、

「涼しい。なんで?」

驚く。

水属性加工のおかげで経血の気持ち悪さとムレとおさらばだ。しかも生理痛も軽減される。

「全ては水属性加工のおかげです」

「トイレや洗濯に使われている水石の応用、すごい技術ね。」

「お嬢様、お茶にいたしましょう」

ユーレイアに促され部屋でお茶にする。

「ふぅ」

お茶を飲んだからか、落ち着いた様子のアニエスにユーレイアが

「今日はお嬢様と一緒にお喋りして過ごしたいです」

微笑む。

「ぅ、うん。ぃぃょ」

照れて小声になるアニエスを挟むようにユーレイアと私が席に着く。

「お嬢様がこんくらいだった頃の」

「またそれ言う」

「それは奥様のお腹にいる時の大きさですよ、エリク」

「そんなの覚えてないもん」

「その大きさの時は屋敷にいなかったわ、そういえば」

「エリクはまたいい加減なことばっかり言って」

アニエスは、ぷりぷりと頬を膨らませる。

「お嬢様、エリクは昔からお嬢様が好きすぎてお嬢様から嫌がられるのを繰り返しているんですよ。ふふ」

「?」

ユーレイアの言葉に首を傾げるアニエス。

「お嬢様がイヤイヤ期の時はとても面白かったですよ?」

「え、何それ」

「あ!駄目ですよ!?ユーレイア、内緒って言ったじゃありませんか」

「お嬢様にはしっかり教えてあげたほうがいいと思います」

「聞きたい」

興味津々のアニエスと

「ですよね?エリク、お嬢様に教えていいですよね?」

「……はい」

ユーレイアの圧に負けて頷く。

「エリクはいつものようにお嬢様にベタベタくっついていたのですけど、二歳過ぎた辺りからお嬢様がくっつくエリクを嫌がるようになって、」

「いつものエリクだね」

冷静な相槌を打つアニエスはお茶を飲み、

「エリクがお世話をするとイヤイヤと泣くので、エリクが距離を取ろうとしたんですけど、それもイヤイヤと泣いて。二人でお嬢様が泣かない絶妙な距離を見つけ出して、ふふ。」

「もうやめよーぜ?ユーレイア」

「エリクは離れすぎないよう真剣な顔でお嬢様を見つめるし、お嬢様は何度もエリクを確認してて。可愛らしかったです」

咽せた。

「ずっとお互いを大好き同士なのにちょっとしたことですれ違うのは悲しいです。お嬢様だって分かっているでしょう?エリクがお嬢様のことしか考えていないことは」

アニエスの背を摩りながらユーレイアが言う。

「分かってるけど」

「エリクもエリクです。他人の言うおめでとうに他意はないと伝える為に小難しく回りくどいです」

「ぐ、それはそうですけど。」

確かに単刀直入に言ってしまえばよかったのだろうけど。

「言葉を変に勘ぐられたり、誤解されるのを防ぐ為なのは分かっています。」

ユーレイアが私とアニエスをみつめ、笑顔で、

「なので、お嬢様に初潮が来たことは一旦内緒にして、三人でお泊まり会をしたいと思います」

そう宣言した。

ん?お泊まり会ってなんだ?



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