2:果ての四国、南の国
暑い。
聖女の生まれる南の国、アラバ。
王政国家で、王都レフルノミドは領土の北の国境付近にあるが、暑い。
日差しがキツイ。万年室内生活のひょろひょろにはキツイ。
早く屋内に行かなくては。この暑さのためか、アラバの建物には冷房魔道具が完備されている。
「サイス領は、冬だったからか?でもなぁ、春までいたけどこんなに日差しキツくなかったぞ?」
早速女神の権能を使い日傘を出し、差す。
「よし魔力はじゃんじゃん使っていこう。」
服の下をひんやりさせる魔法を使う。
ワンピースにすれば良かっただろうかと一瞬考えるがいやいや断然パンツスタイルだろうと一蹴する。
「うひぃ、涼しいー」
目指すは神殿。場所は何度も観たので分かっている。
まずは今代の聖女への面会依頼を出さなくては。
「神殿長に面会を。女神の眷属が来たと言えば分かるから」
はったりもはったりだが、取り敢えず神殿長に会わないと始まらない。
しばらく待つ。
慌てた様子で神殿長がやってきた。いつ見ても細い。
なんだかんだと最後まで聖女の味方だった人だ。
アニエスの味方ではないけれど。
聖女の身柄の拘束に反対したり神殿が身元引き受けをすると訴えた。
三人の聖女候補の記憶の中でも変わらない。
神殿長とは名ばかりで権力は神官長が握っているため肝心な時に動けなかったが悪い人ではない。
お飾りの神殿の長、仕事内容は主に聖女対応係だ。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。……貴女様が女神の眷属様ですかな?」
「そうだよ」
「大変失礼ですが、証明する物は。いつもいらっしゃる方と違うものですから」
「あー、アイツか。これでいい?」
手乗り女神像を作ってみた。
「なんたる不敬!」
駄目だった。顔にモザイクを入れたからだろうか。
それともにゃんにゃんポーズだからだろうか。
「それが許されてるんだよ。ほらコレとか」
眷属のアイツの像も作る。その他にもこの時代にアラバで有名な眷属の像を幾つか作り出す。
「な」
「まだ信用ねぇのな。浮けばいいとか?」
その場でちょっと浮いてみる。
「大変失礼致しました。」
「ん、別にいいよ。」
偉そうな態度は崩さない。眷属は基本的に高圧的だ。
「本日はどのようなご用件で」
「聖女に会いたいから、紹介状を書いてほしいんだ」
「聖女様にですか、あの、申し上げ難いのですが、何故直接訪問されないのですか」
「ん?いきなり知らない眷属が来たら吃驚するでしょ?私が警備の人に刺されたらどうすんの?」
「そ、」
その言葉をそっくりそのままお返ししますと言いたげな神殿長に手のひらをみせる。
「紹介状書いてくれるよね?」
「はい。少々お待ちください」
言いたい事を全部飲み込んだ神殿長は、紹介状を準備する為に下がる。
神殿長が下がった後はわらわらと何処から湧いて出たのか神官達が私を取り囲む。
「眷属様!」
「私達に世界の神秘を解き明かす知恵を」
「え、やだよ。自分達でやりなよ」
「そこを何とか」
「人体実験なんてやってるから教えないよ」
「な、何をおっしゃっているのか。」
目が泳ぎっぱなしだ。
「過去に何度か雷が神殿に落ちたでしょ、その度にバレて非人道的だと摘発されているのに懲りないね」
「そそれは」
「今落としてもいいんだけど」
「ひい」
神官達が蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。
「眷属様、お待たせしました」
神殿長が戻ってきた。
「ありがとう。神殿に雷落とすよう進言しとくから、これを機に権力握りなよ?」
紹介状を手に神殿を後にし、王城を目指す。
ファンタジーテーマパークのような豪奢な城が聳え立っている。
貴族から聖女になった以外の聖女は王城に住む。
年頃の女性が聖女になった場合、王族の愛妾にされることもしばしば。囲い込む為にさまざまな手段を取るのは何処の世でも変わらない。
「はぁ。」
次の聖女がその力に目覚めるのは聖女が死んでから。
女神の声が聞こえたら名乗り出るよう通達が各領に出されて眷属による確認があって聖女、姫騎士に認定される。
姫騎士は聖女の下位互換。
聖女の術を使えるが、体力を消費して使用する。
声を聞くことは出来るがノイズがかかる。聖女は女神と雑談できるが、姫騎士は一方通行。
姫騎士は聖女が聖女の役目を全う出来ない時のための保険だ。病で倒れたり、城を離れたりした場合に一時的に代行するのが姫騎士なのだが、
「アニエスの時は、役割が逆転してて姫騎士の子が可哀想だったわ」
顔色の悪さが心配になるほどだった。
城の門番に紹介状を見せ、門の前で入城許可が下りるのを待つ。
城の周辺に家臣の屋敷が建つのは理にかなっているからなのだが、サイス領もそうだったなぁとふと思い出した。
暑さの差がそうさせるのかもしれない。
土地持ち貴族は各領の管理で、王都にはいない。土地無し貴族は王都の役人として働く。そのための屋敷が城の周辺に密集している。
「豪華な屋敷ばかりだなぁ、文化の差以上の何かがありそう。豪華すぎて緊張するわ」
ぶつぶつ独り言をしていると門番に声をかけられた。
聖女が面会を許可したようだ。
「どうも」
案内され通されたのはアニエスの家と同じくらい高級な調度品で整えられた部屋だ。
あんなに記憶を見続けたのに高級感溢れる部屋に全然慣れない。
「眷属様、お待ちしておりました」
室内に居たのは今代の聖女。穏やかな笑みを浮かべるお婆さんだ。
招かれ椅子に座る。紅茶を飲みながら話を切り出す。
「やぁ。聖女さん、私はとある使命を受けてこの土地に来たんだ。まずは貴女に挨拶をしようと思ってね」
「使命でございますか?」
「そ。それでちょっと教えてほしいんだけどいい?」
「はい。なんなりと」
「こっちで二十年くらい人に紛れて生活しないといけないんだ。出来るだけ人の良さそうな貴族を紹介してくれない?夫婦円満なとこがいいな」
「……」
驚きすぎて聖女が困惑している。
「でしたら、スピノザ騎士伯のお屋敷はいかがでしょうか。騎士伯は真面目な方でございますし、奥方様も朗らかで良い方です。」
夫婦仲がすこぶる良いと評判なのは知っている。
「ん、じゃあ紹介状書いてくれる?」
素知らぬ顔で頼む。
「かしこまりました」
この時期のスピノザ騎士伯は、先代騎士伯の悪名を払拭するために粉骨砕身王家に尽くしている。
そして聖女からの紹介なら断れないのも計算づくだ。
たとえ相手が怪しげな女でも。
「私のことは眷属とは明記しないでくれると助かるわー」
「かしこまりました」
すらすらと紹介状を書く聖女の手元をみつめる。
「ねぇ、聖女さん。」
「はい」
「聖女って大変?」
四人の記憶を観ても理解出来なかったことを聞いてみたくなった。
「大変な面もございますが、とても重要なお役目であると思っております」
「そう?他の土地では聖女がいなくても生活してるのに?」
「はい。眷属様は、地揺れに遭遇した経験はございますか?」
「大きいのはないけど、まぁまぁ揺れるのはあるよ」
正直に答えると聖女が少し悲しそうに微笑む。
「建物の下敷きになったことは?」
「いやないけど」
「わたくしの家族は眷属様と同じく聖女の役目に懐疑的でございました。そのため地揺れが起こるという聖女の言葉を無視して避難をしませんでした。結果両親は命を落としました。姉と兄は大怪我を負い、聖女の言葉に従ったわたくしと幼い弟だけが無事でした。」
「……」
「家を失い、後遺症の残った家族を養う為にわたくしは様々なものを犠牲にしました。そして、聖女の言葉を無視した姉と兄は村で除け者にされ、元々周囲との仲は良くありませんでしたが、このことで溝は決定的なものとなり、とても生きづらそうでした。」
「それは除け者にした奴らが悪いんじゃ」
「いいえ。この土地で生活する以上、それは想定すべきこと。懐疑的であったなら土地を離れても良かったのですから」
「……そう。私の考えが足りず、不快にさせたね。何かお詫びにしてあげられることはない?」
「いいえ、眷属様。わたくしはもう何も望みません。十分すぎるほど受け取りました」
「それは聖女になって受け取ったものでしょ?私の詫びとは別問題だよ。肩揉む?」
「ふふふ。眷属様は愉快な方ですね。ではお願いします」
聖女の背後に立ち肩を揉み揉みする。
「眷属様は肩揉み下手ですね」
「やったことないからさ、仕方なし」
「ふふふ。やったことがないのに、申し出たのですか?ふふふ」
「気軽に頼めそうだったからさ、言ってみたけど、難しいな」
しばらく肩揉みをしていると、私の手に聖女が触れる。
「ありがとうございます。眷属様、貴女様の行先に幸多からんことを」
「……ありがとう。女神から話でもあった?」
「とても不敬で愉快な人だそうです」
「あの女神め。よし、これあげる」
紹介状を受け取り私は王城を後にした。
聖女の部屋に、にゃんにゃんポーズの手乗り女神像を残して。
スピノザ騎士伯の屋敷を目指す。
王都の中でも広い敷地面積を有するスピノザ騎士伯。
王都貴族の二公の次に爵位が高く、軍人を輩出する家。
「さてと」
これから自分が生活することになるスピノザの屋敷を眺める。
「頑張るぞー」
気合いを入れてから、屋敷の警備係に近づき、紹介状を渡す。
「ではこちらへどうぞ」
紹介状を一瞥した警備係は門を開け、屋敷の玄関まで案内してくれた。そこで侍従に引き継ぎ持ち場に戻っていった。
侍従に案内されたのはお茶会室だった。
「しばらくお待ち下さい」
椅子に座り侍従の淹れるお茶を飲みながら、お茶会室をじっくり見回す。
あれもこれも高そう。庶民には眩しすぎる。
「お待たせしました。」
スピノザ夫人がお茶会室に入ってきた。もうだいぶお腹が大きくなっている。そろそろ臨月だ。
「聖女様からのご紹介のようですが、どのようなご用件ですか?」
「私の名前はエリク。私をお屋敷で雇って下さい」
この世界でくらい男名を名乗ってもいいだろう。ちょっとやってみたかったんだ、男装コスプレ。
「直球ですね。聖女様とはどういったご関係で?」
「仕事上の知り合いです。」
「仕事、神殿関係者でしょうか。」
「まぁそのようなものです。」
「いいでしょう。職種は」
「侍従を希望します。お嬢様の」
私の言葉に夫人の目尻がぴくりと動いた。
「子が女児であれば、ね」
「はい。お坊ちゃんだったら解雇して構いません。聖女様の顔を立てて自分から辞めます」
「……分かりました。では明日から屋敷で住み込みで働いてもらいます」
「ありがとうございます。奥様」
「よろしく頼みます。」
明日からの屋敷勤めが決まった。




