25:お嬢様とお茶会
行儀作法の先生主催のお茶会に参加する。
先生の教え子はアニエスと同年代の子どもが多いので、ほぼ初めての同年代とのお茶会。
ロイドとのアレはノーカンだ。
「エリク、このドレス変じゃない?」
そわそわしっぱなしのアニエスに
「とても似合っていますよ。」
本日三度目の正直な感想を伝える。
「そうかな」
「淡いエメラルドグリーンのドレスとお嬢様の瞳の緑と色調が合っていて、とてもよくお似合いです。ふわふわの髪質とドレスのフリルが可愛らしさをより演出しているので、今すぐ抱きしめたいほど可愛いです」
私がアニエスをつらつら賛美し始めると、緊張がどこかへいったのか、
「うん、分かった」
いつものアニエスに戻った。
馬車に乗り指定の庭園へ向かう。
「いらっしゃいませ」
私は庭園入り口に控えた男性に招待状を渡す。
「お待ちしておりました。ただいまご案内致します」
中身を確認すると、すぐにお茶会の場所へ案内される。アラバは暑い国だが、魔道具のおおかげで屋外でも涼しく過ごせる。庭園のあちらこちらに冷風魔道具が設置されている。
「こちらです。」
テーブルには既に先生と二人の少女が着席していた。
「いらっしゃいませ、アニエス様」
「お待たせして申し訳ございません」
「いいえ、こちらこそ気が急いておりました。どうぞ、おかけになって」
「ありがとうございます」
私が椅子を少し引き、アニエスのフォローをする。
「アニエス様、先にこちらのお二人をご紹介させていただきます」
赤のドレスが似合う勝気な顔をした少女と淡い黄色のたんぽぽのような可憐な少女を先生が紹介する。
「カタリナ・マクス様、お父様のマクス卿は王都でも指折りの騎士でいらっしゃいます。カタリナ様も文武両道な方でございます」
「カタリナでございます。ごきげんよう」
騎士爵ではないが、騎士として名を馳せるマクス卿のご息女。
「ユリアン・サンサーン様、サンサーン家は研究者を輩出する名家でございます。ユリアン様のお兄様は学院の研究生として将来有望なお方、ユリアン様も研究職を希望されているとか。」
「ユリアンでございます。よろしくお願いします」
サンサーン家は研究者の家だ。アラバにおいて異質な貴族家の一つ。
そして、やらかし姫が彼女の妹だ。
ここで接点が出来るとは想定外だ。記憶の中の先生とのお茶会にユリアンは参加していなかった。
「皆さま、こちらはアニエス・スピノザ様。スピノザ騎士伯の御息女でございます。魔法に明るく才があり多様な知識に富んだ大変勤勉な方です。」
「アニエスでございます。本日はご招待いただきありがとうございます」
四人でのお茶会が始まった。私はアニエスの後ろで控えつつ、二人の少女を観察する。
先生が各人に話題を振り、力量をみる。試験のような実践訓練だ。
「アニエス様は侍従をお連れなのね、わたくしまだ侍女しかつけて貰えませんのに」
侍従は仕事の予定を管理する立ち位置にいる。そして、侍従に男性が多いことから女性に侍従をつけるのを嫌がる人も多い。
「彼女はわたしが産まれた時からついている侍従です。魔法の先生でもあるのです」
「魔法の先生なんですね」
「え!?女性だったの?!」
ユリアンとカタリナの声が被った。内容は全然違うが。
「カタリナ様。失礼ですよ」
先生が諌める。
「ですが、態々男性の格好をするなんて、ねぇ?」
「カタリナ様。人を見た目で判断するのは淑女としていかがかと思います。そして、それを口にするなんて、わたしに失礼を働いていると受け取っても構いませんか?」
アニエスが毅然とした態度で発言する。
心の中でどう思おうが関係ないが、口にすれば問題が生じる。主人の前で使用人に対してあれこれ言うカタリナはまだまだ教育が足りていないようだ。
「カタリナ様、謝罪を」
先生の厳しい声に肩を揺らすも
「……」
まごついて言葉が出てこない。
「カタリナ様、彼女の素晴らしさをお茶会の間、延々と語ってもいいのですけどいかがいたしますか?」
アニエスが笑顔でとても嬉しいことを言い出した。
「申し訳ございませんでした」
「うふふ。分かっていただけたのならいいのです。」
「アニエス様、魔法ってどうやって練習するのですか?」
ユリアンは興味津々といった様子で尋ねる。
「女神の加護でできることを考えたり、やってみたいことをめいかくにする練習をしますわ」
「まぁ。意外と地味なんですね」
口を挟むカタリナに
「カタリナ様、練習とは地味なものですわ」
「そうですよ。騎士の訓練は派手なのですか?」
アニエスとユリアンが笑う。
「……八割が走り込みですわ」
バツが悪そうな顔で呟く。
「ふふふ。体力が大切ですから。お父様もよく庭で素振りをしていますもの」
「研究も地味ですよ。選択肢を全部消して正解の道を探す迷路のようなものですから」
その後もカタリナは正直過ぎる発言を繰り返すも、アニエスとユリアンが上手く捌き話題を展開してお茶会は無事終わった。
「カタリナ様、貴女はもう少し厳しく躾ましょう。ユリアン様とアニエス様はその点では合格でございます。アニエス様はカタリナ様へ圧をかけたところ以外はとても落ち着いていました。まぁ、カタリナ様が全面的に悪いので仕方ないことではあります。八歳でここまで出来るのは素晴らしいことだと思います」
「八歳?!え!嘘!」
「アニエス様、歳下なの?」
先生の言葉を思わず遮るほど二人は驚いたようだ。
「こほん!お二人共、わたくしの話をちゃんと聞きなさい」
「ごめんなさい」
「申し訳ございません」
「おっほん。ユリアン様は興味のある話題とそうでない話題との興味の温度差が伝わりました。注意して下さい」
「はい」
先生から注意点を聞き、お茶会は終了した。
「ご機嫌よう」
先生が席を外すと、カタリナとユリアンが
「アニエス様、本当に本当に八歳なの?!」
詰め寄る。信じられない気持ちもわかる。
「はい。あのお二人はおいくつなのですか?」
「わたくしは十一歳よ」
「私も十一歳なの。アニエス様は私の妹と同じ歳なんだけど、落ち着いててびっくりしました」
三つも上だとは思わなかったようで、アニエスは目を丸くした。
「魔力の操作に時間がかかって二年前から先生の授業を受けているわ」
「私は魔力の発現が遅くて操作を身につけたのが一年前なの。」
「わたしは七歳から先生の授業を受けています」
「凄いわね」
「アニエス様、たくさん頑張ったのですね」
「あ、ありがとうございます」
「私も頑張らなきゃ。」
「わたくし、更に厳しくなるのが決定してしまいました」
「カタリナ様は口に出すから」
ユリアンが言うと
「我慢しなきゃ。」
カタリナがため息をついた。
「あの。カタリナ様、わたしの侍従が、わたし達の言葉はえいきょう力があるので、せきにんをもつことが大切だと教えてくれました。」
「我慢しなさいってことでしょ?」
「違います。我慢しなくても言った事にせきにんを取ればいいんです。えっと、今日のことならわたしが許さないことも仲が悪くなることも受け入れるとか。」
「ぐ」
「あとはマクス卿に迷惑がかかってもあまんじて受け入れるとか。」
私が言ったことを覚えていてそれを人に説く姿に感極まり目頭が熱くなる。が、言ってることはめちゃくちゃだ。
「くふふ。アニエス様は魔法の先生が大好きなんですね」
「ぁ、それはその。好きだけど、家族みたいなものだから!」
「ふふふ。」
庭園を後にして、馬車に乗って屋敷に帰る。
「笑いたいなら、笑えばいいのに」
「いいえ。お嬢様が私を想ってくれている事実に胸がいっぱいで、泣きそうです」
「そ。」
「本日のお茶会、いかがでしたか?」
アニエスは私の問いに考えこむ。
「お母様が喜びそうな話が出てたからいいお土産ができたわ。お父様は活かせるかわからないけど」
「ふふふ。ますます奥様に似てきましたね」
「そうかな。ちゃんと出来てた?」
「はい。とても素敵でした。」
「えへへ」
屋敷に戻り、早速奥様に報告にいく。
「おかえりなさい、アニエス。お茶会はどうだった?」
「先生に落ち着いているって褒められました」
「ふふ良かったわね」
「はい。あのお母様、報告があります。」
「聞きましょう」
アニエスが今日のお茶会の話をすると、奥様が楽しそうな真っ黒笑顔になった。
「お母様?」
アニエスも戸惑うほどだ。
「面白い話が聞けたわぁ、ふふふ」
「奥様、外面取れてますよ」
リチャードが注意すると、我に返った奥様が取り繕う。
「おほほ。ごめんなさいね、アニエス。壁を突破する為に必要な情報が揃ったものだからついつい、ね?」
ふんわりと包んで言ってはいるが、目がギラギラしている。喉から手が出るほど欲しい情報だったらしい。何がそれかは分からないが。
「こちらから出した情報も聞きましょうか」
聞けた話と話した内容を天秤にかける辺りは流石だなと思う。
「なるほど。なら、こちらから仕掛けてもいいかしら」
「用意させましょう」
「お願い。……アニエス、このお茶会は貴女の教育の進度を確認するためのものでした。想像以上にたくさんのことを吸収して自分の物にできている貴女をわたくしは誇らしく思います。」
「お母様ありがとうございます」
「ふふふ、わたくしが八歳の頃は難しいことなんて何も考えずに遊び惚けてたわ。成長の嬉しさもあるけれど、貴女に無理をさせているのではないかと心配になるわ」
奥様が切なそうに微笑む。
「わたし無理はしていませんわ。少し疲れることもありますけど、楽しいです。それにエリク達がわたしのことちゃんとみててくれるもの。」
アニエスの言葉に奥様が目頭を押さえた。
「エリク、わたくしより先に泣くのは駄目じゃないかしら」
「……なんのことでしょう」
「お母様、エリクはいつもこんな感じよ」
大号泣の私を一瞥すると、アニエスは冷静に奥様に告げる。
「お嬢様のことになると口数も表情も違いますから、少し嫉妬してしまいます」
「リチャも大変よね。でもわたしだってリチャにしっとしちゃうこともあるのよ?」
「おや、そのようなことが。エリクが号泣している間にじっくり教えていただきたい」
人が口を挟めない間に何をしているのか、リチャードにアニエスが耳打ちし始める。
満足そうな二人の表情に、もういいかと聞き出すのを諦めた。




