20:お嬢様と自然体験3
「かのんくんあそぼー」
ユーレイアと夕食の支度をしていたカノンは困った様子で、ユーレイアを見る。
「お嬢様。もう少しで夕食の時間です。カノン君の手伝いが必要ですので、お食事のあと、就寝前にしていただけますか?」
ゆっくりとだが、日も暮れている。暗くなると危ない。
ユーレイアの言葉に
「わかった。わたしもてつだう」
アニエスが頷きお手伝い宣言をする。
「かしこまりました。ではお嬢様、こちらにあるお皿をテーブルに並べて下さい」
「はい!」
皿を運ぶお嬢様を応援していたら、
「エリクも運んで下さい」
ユーレイアから他の食器を渡される。
大人しくアニエスと食器を並べて食事の支度をする。
「次は食事の時間だとリンに声かけをしてきて下さい」
「はーい!」
楽しそうにアニエスがリン達のいる場所へ走る。
「りん、ちゃみ。ゆうしょくのじかんですよ」
置いてけぼりにされた私の耳に風が運んできた声が届く。可愛い。
食卓を囲み楽しく夕食を取る。
「かのんくん、りょうりできるの、すごいね」
アニエスの言葉に困ったように
「ありがとうございます、お嬢様」
カノンが返す。
「おやお嬢様、好き嫌いはいけませんよ?お野菜が少し残ってますよ」
「ぅ。たべるもん。」
苦味のある野菜は子供の舌に合わないのは知っているが、食事を好き嫌いで残す習慣はつけさせたくない。
「あ、そういえばその野菜、カノン君が切ってたな。」
思い出したようにそう言うとアニエスは
「!!」
勢いよく残った野菜を口に入れた。その姿に少し複雑な気持ちになる。
「んー今度ちゃんと料理、習おうかな」
呟くと
「わたしもならう」
アニエスも習いたいと真剣な顔で言った。
食事の後は、通常は入浴だが、外で湯に浸かる訳にもいかないので、簡易テントサウナとシャワーで汗を流す。
「ふわぁ」
お風呂上がりの麦茶を手にアニエスと並んでベンチに腰掛ける。夜は少し暑さもやわらぎ風が気持ちいい。
「お嬢様、ほら夜空が綺麗ですよ」
「きらきらいっぱい」
「あれ全部星です。綺麗ですね」
この世界の星空なんて観たことなかったことに気づいた。
「お嬢様、今日楽しかったですか?」
「うん。たのしかったけど、」
言葉を切った。
「るねくんがかのんくんのことわるくいったのが、いやなきもちになってくるしかった。」
胸に溜まった気持ちを吐き出す。
「そうでしたか。」
「るねくんはかのんくんのことしらないのに、なんでそんなこと言うの?って言いたかったけど、」
「言えなかった?」
「そんなこと言ってはだめよってりんがるねくんにちゅういしたからわたしは言ってない。」
「言いたかったですか。どんな風に言う予定でしたか?」
「かのんくんはわたしのわがままをかなえてくれてるの。そんな風に言わないで下さいって」
「レディとして正しい答えです。」
「わがままだってわかってるもん。」
麦茶をくぴくぴ飲みながらアニエスは小声で言う。
「わたしはおじょーさまで、かのんくんはしようにんのこどもだって、言われなくてもわかってるもん」
やほど悔しかったのか半泣きで言う。
アニエスの頭を優しく撫でる。
「身分違いの恋はつらいことばかりですね」
「ぐすっ」
「テントで恋バナしましょうか。ユーレイアも誘いましょう」
「うん」
テントに戻る。
アニエスはユーレイアと同じテントだ。
先にテントに戻っていたユーレイアに
「ゆーれいあ、こいばなしよー」
アニエスが抱きつく。
「お嬢様」
「えりくのこいばなきけるよ」
「参加しましょう」
まさかの条件でユーレイアの恋バナ会参加が決まった。
二人の満面の笑みに負け、自身の恋バナをする。
恥ずかしい。
「えりく、りちゃのどこが好き?」
「顔?頭良いとことか?」
「何故疑問系なのですか」
「いやーあんまりよく分からないんだよね。恋愛」
「もーえりくってば」
「以前のリチャードさんはとっつきにくかったですが、最近は表情も優しくなりましたよね?」
「うん。うん。りちゃ、やさしい」
よくわかってないけど何故か楽しそうに頷くアニエス。
まあ、確かにそうかも。以前は表情が読めない人だったけど、今はだいぶ表情が柔らかくなった。
「あのお二人に聞きたいんですけど、リチャさんは私のどこが良くて付き合ってると思いますか」
同僚がモテ期で困っていても、普通付き合おうとはならない。リチャードは私だからと言った。
でもそれが理解出来ていない。ずっと。
「えりく。それはね、すきだからよ」
「は?」
「エリクはリチャードさんが誰彼構わず付き合うような人だと思っているのかしら?」
「思ってませんけど、情が湧いたのかと思って」
「??」
アニエスがよくわからないって顔をして私を見る。
男女の関係になってるとは流石に口にし辛い。
そんな私の雰囲気を感じ取ったのか
「抱きしめたい、抱きしめられたいって思ってる時点で既に好意を抱いている以外の何者でもないのですから受け入れればいいんですよ」
ユーレイアがズバッと男前なことを言った。
「すきのかたちはいろいろよ!」
「……ありがとう、ございます。すっごく恥ずかしい」
「えりく、みみまっかよ」
「お嬢様ぁ」
アニエスをギュッと抱きしめる。
「一番はお嬢様なんですぅ」
「それは、しってるわ。えりくにわたしいがいのたいせつな人がいるのはうれしいけど、ちょっとやきもち、やいちゃう」
「お嬢様、可愛い♡」
「もうしかたないわね」
といいつつ、抱きしめ返すアニエスにデレデレしていると、
「お嬢様の初恋はエリクですものね」
ユーレイアがポロリと爆弾を落とす。
「あ!ゆーれいあ、それないしょ!」
「…………」
「?えりく?」
「……」
一瞬時が止まった。何も考えられないまま
「よしお嬢様、私と結婚しよう」
と気づけばとんでもないことを口走っていた。
「しないもん!」
が速攻で断られた。
ユーレイア達の馴れ初めをニヤニヤして聞いていたら、頬マッサージ(強)をお見舞いされた。
「かのんくん、かわいい」
「お嬢様も可愛い多用してるじゃないですか」
「だってかわいいもん!」
「確かにカノン君はおっちゃん似じゃないな。奥さん美人だもんね、お母さん似かカノン君は」
「かわいくて、やさしくて、すき」
「ふふふ。気遣いも出来て料理も出来る」
モテるだろうなぁとは言わなかった。
「あのね、かのんくん。そろそろがっこーにかようからおうちからでちゃうんだって」
「それは寂しくなりますね。あ、それで誘ったのですか?」
「それもあるけどかのんくんとあそびたかっただけだもん」
アニエスはもじもじと答える。
「あのね、かのんくんにプレゼントしたいの。なにがいいとおもう?」
「お勉強のために家を出るのだから、ペンとか鞄とか」
「ペン、かばんかぁ。かあさまにたのんでしょーにんをよぼうかしら」
「お嬢様。それだとカノン君を贔屓していると反感を買うのではありませんか?」
「ひいき?」
「他と区別して、特別に可愛がることです」
「ちょーあいってやつね。」
アニエスの台詞にユーレイアから睨まれた。
「花言葉の時に覚えたんですよ、私が仕込んだ訳じゃないです。」
「贔屓をされる側は他から妬まれるので、避けたほうが良さそうです。」
「なんで?」
「カノン君が嫌がらせされちゃうかもってことです」
「それはだめです!じゃ、じゃぁどうしたらいいんだろう」
子供が持っていても問題のない贈り物か、うーん。
何か教えられそうな手作りの品とかあったかな。
「あ、栞はどうです?押し花とか」
「しおりつくります!」
「押し花ですか。かなり古風な方法を知っているのですね」
え、押し花って古風なの?
「わたしの祖母の時代に流行したと聞いています。いいかもしれません。お嬢様がご自身で作った栞を贈りましょうか」
「うん!たのしみ」
「それでは明日押し花にする花を探しましょう。今日は早くお休み下さい」
「はーい」
私はアニエスのテントを出て自分のテントに戻る。
「ふぅ。さてと」
テント周辺に術式札を使って魔力壁を張る。
何もないことを祈りつつ目を閉じた。
「虫除けの香を焚いてるんだけど、結構音がするんだな。昼間は他の音があったから気にならなかったけど」
眠れなくてテントの外に出る。
焚き火の後が残っている。その前に魔力ソファを作り座る。薪を足し火をおこす。
ぼーっと火を眺める。
「すぅすぅ」
眠気がピークに達しそのまま寝た。
目が覚めた時には火は消え、空は少し白んでいた。
「ふぁ。テントに戻るか」
自分のテントを開けると、何故かリチャードが眠っている。
あれ?テント間違えたか?
一旦閉めて、隣りのテントを覗き状況を理解した。
「カノン君、寝相悪かったのか。なるほど」
入り口を閉めて、避難してきたらしいリチャードの隣りで横になる。
「落ち着く」
完全に夜が明けるまでもう一度眠りにつく。
朝になり目を覚ますと、リチャードにがっちりホールドされていた。珍しい自体にそのまま観察することにする。
無い胸に顔をつけても面白くないだろうにと思いつつ、そもそもリチャードが胸に関心が薄いことを思い出した。
「太もも好きだよな、リチャさんは」
「おはよーえりくー、あ」
テントの入り口を捲ったアニエスと目が合う。
目を丸くして私とリチャードを見ると、凄い速さで閉めた。
「みてないから!」
「いやいや目合いましたよね?」
「みてないからー!」
バタバタと走り去っていく音が聞こえる。
「ん、エリク?」
「おはようございます、リチャさん。あの離してくれると助かります」
眠そうなリチャードは顔を上げ状況を確認すると、また顔を埋めた。
「おい」
「エリクを堪能してから起きます」
「もう目ぇ覚めてんじゃねぇか。さっさと起きろ」
やれやれと渋々起きたリチャードは、
「いつもと逆ですね」
と誤解を招く発言をする。
「寝起きの悪さの話な」
「いつも中々離してくれなくて」
「寝起きの悪さの話な」
「そうでしたか?」
「リチャさん、朝から絶好調だな」
着替えてテントを出ると、何故かアニエスとチャーミーとトーマスが私達のテントを見張っていた。
案の定、リチャードが出てくると
「きゃー」
騒がしくなった。
よし、トーマスとチャミちゃんはお仕置き決定だな。




