19:お嬢様と自然体験2
合間合間に休憩を取りつつ、たっぷり自然体験を満喫していた。
日が傾き日差しが和らいだ頃。
「アニエス様、お絵描きしませんか?」
リンの息子が画材を持ち声をかけてきた。
「いいの?あなたのどうぐでしょ?」
「はい。一緒にお絵描きしたいなと思って持ってきたんです。かあさんからアニエス様はお絵描きが好きって聞いていて、その僕も絵描くの好きなので」
アニエスが頷くとリンの息子はアニエスの横に座って道具を広げる。絵の具がメインの画材のようだ。
絵の具はまだ使ったことのない画材だ。興味津々で見入っている。
仲良く絵を描き始めた二人を見ていたカノンがそっと離れた。調理場で作業しているユーレイアに近づきそのまま手伝い始めた。
恋の迷探偵さんを応援したい気持ちもあるが、カノンの姿勢も尊重したい。
この場をリンとリチャードに任せ、周辺の警備情報を集めに向かう。
騎士達に声をかけて接近する脅威がないか確認する。
「夜行性の動物が多いので、今現在は静かですが、日が暮れてからは警戒を強める必要がありそうです。」
と全員がだいたい同じ意見だった。
「夜はテント周辺に魔力壁を張っておきます。」
「エリク殿。日中あんなに魔力を消費して更に夜もというのは流石に無理があるのでは」
と全員に言われたので、
「あはは。騎士の皆様に期待します」
やるつもりだとは言わず笑って誤魔化した。
そして、夕食の支度をしているユーレイアとカノンに近寄る。
「私も手伝います」
「カノン君がいるので、エリクの手伝いは不要です」
ユーレイアに断られてしまった。
「いやいや。私も料理出来ますよ?」
自炊してたこともある。
「カノン君がいるので、エリクの手伝いは不要です」
あれ?聞き間違いかな?全く同じ事を言われたのだが。
「エリクさん、料理下手なんだ。意外」
「カノン君。あれは料理という名の危険物です」
「ユーレイア。言い過ぎだよ、ただ半生だったり焦げたりしてるだけだし。」
火加減が下手なだけだ。
「エリク、貴女のことだから夜も魔法を使うつもりでしょう?休憩してて下さい。お嬢様の側でお昼寝してるといいですよ」
「いや、流石にそこでは寝られないかなぁ」
「ではテントで仮眠してきて下さい。夜が大変ですよ」
「はーい」
ユーレイアの勧めで仮眠を取る。
ぐーすか昼寝をしていると、
「エリク」
「ふぇ?」
起こされた。
「あれ、リンさんどうしたんですか?」
「すみません。お嬢様が魔法の練習をしたいとおっしゃっていまして、トーマスやリチャードさんが練習をみていたのですが、どうしてもエリクがいいと」
「!それは嬉しい限りですが、あの二人で駄目ってどんな魔法なのか不安になってきました」
テントから出てアニエスの元に戻ると、待ってましたと笑顔で歓迎された。
「えりく、ネネマルをまほうでつくりたい!」
「あー。魔力人形をネネマル型にすると。なるほど、ん?トーマスとリチャさんは出来なかったのですか?」
「ネネマルがわかんないって。りちゃはドンハンルルつくってくれたけど、ネネマルがいい」
分からないものを作るのは無理だ。
「あー、分かりました。こんな感じですか?」
手乗りネネマルを作製する。
「うん!これ!」
「お嬢様、魔力操作の練習を始めた時に私が言ったことを覚えていますか?」
「まりょくそうさをおぼえたら、すごいまほうつかいになれる」
「はい」
「かんさつとそうぞうりょく!」
「その通りです。あと、その時にやったことも覚えてますか?」
「えっと、しんこきゅうとボールつくった。」
「はい。魔力操作の練習で魔力を集める方法を試しました。それと根本は一緒です。」
「まりょくそうさで、まりょくにんぎょうをつくるの?」
「はい。では実際にやってみましょう」
「うん」
「魔力の密度を上げましょう」
「みつど?」
「中身をぎっしり詰めましょう。魔力で」
「ぎっしり、ネネマルになるーネネマルになるー」
アニエスは集中して手のひらに魔力を集めてネネマルの形をした魔力人形を作る。
「お上手です。」
密度が上がると視認性が高まる。
「動いている姿を想像して下さい」
「うん!」
アニエスの手のひらの上でネネマル人形が動き出す。
「できたぁ!」
「おめでとうございます、お嬢様」
「ありがとう、えりく。」
アニエスはリチャードとトーマスにネネマル人形を見せる。
「これがネネマル」
「可愛いですね、お嬢様」
アニエスの作った魔力人形を見て二人が似せた人形を作る。
「えへへ。ネネマルいっぱい」
可愛いねぇと笑うアニエスが可愛くて、胸が熱くなる。
「魔力人形を複数作れるようになれば」
魔力操作は完璧だ。
「流石に早すぎます、先輩」
「お嬢様、そんなことが出来るのは魔力量が多い人間だけです。あまり無理なさらないように」
「わかった」
といいつつアニエスはネネマルの乗っていない手のひらを見つめ、
「ネネマルになーるネネマルに」
呟く。
一体目より大分こぶりだけど、ネネマル人形を追加作製できた。
「!!」
「素晴らしいです。お嬢様」
「ふー、たいへん」
二体目に力を注ぐと一体目の形が崩れる。
「どちらも形を保つためには慣れが必要です」
「ネネマル、ネネマル」
どちらも同じ形だからネネマルを意識すると形の崩れは元に戻る。
「お上手です。飲み込みが早いのは、素直なお嬢様の才能です。」
「柔軟性があるのは先輩のおかげでしょうか」
「えりく、いつもおどろかせてくれるもの」
そのあと何故か三人で私の悪口で盛り上がり始めた。
しつこく話を聞く割に興味がなさそうだとか、外見の変化に気づく割に心情には気づかない鈍感だとか、物知りなのに単純なことを知らないだとか。
「おーい、本人の前で言うことですか、それ」
「きこえるよーに言ってるの!」
「おふ、まじか。」
一応弁明しておかないと、と全員の文句に答える。
「リチャさん、私の生態として、情報があると落ち着くんです。あればあるほど落ち着きます。なので、興味より先に自身の安心を先に求める傾向がありまして、すみませんでした。」
興味がなくとも聞きたがるのは悪癖と言われればそうだ。なので、素直に謝る。
「トーマス。トーマスはそれ出来てるの?リンさんが今日いつもより髪さらさらだとか、ユーレイアが前髪ちょっと切ったとか、チャミちゃんが弟達の手前張り切って髪を結ぶ位置ちょい高めとか!」
「それは気づきませんでした」
「でもトーマスは心情の変化に気づくのが上手いでしょ。だからって私は心の機微に敏いのに外見変化に気づかないんかい!と思わないよ。」
「ぅ。すみません」
変化に気づくのは適性もある。そして、
「外見の変化に気づくのは親父が女性の変化を見落とすのを許さなかったから鍛えられたのもある」
環境と訓練も必要な場合だってあると思う。
出来るのにやらないなら文句言われるのも心情的に分かる。出来ないことを言われるのは困る。
「さてと、お嬢様?」
怒られると思ったのかアニエスが
「だって、えりく、まほうのこととってもくわしいのに!まどうぐのつかい方わかんなかったって、ちゃみが言ってたもん。」
捲し立てる。
「ほぉ。チャミちゃんが。」
「あとね、えっとえっと、にわでまいごになってたって」
「あーあれか」
「色んなことわかるのに、わたしに合わせてわからないふりしてるって、はなしきいた」
少し決まりが悪い顔をしたアニエスに笑いかける。
「ふふ。違いますよ、お嬢様。屋敷で使っている魔道具の一部は使ったことがなかったので、知らなかっただけですし、庭で迷子になったのは庭が広すぎで単純に自分の位置が分からなくなっただけです」
魔道具はサイス領で使っていたけど、アラバと型が違うので、使い方が分からなかった。
記憶はアニエスのものだから、使用人の感覚は分からない。
まさか見ていたチャーミーにばらされるとは思わなかった。
庭は薬草園以外の深いところに行ったことがなかっただけだ。
「知識があっても迷子にはなります」
「ごめんなさい」
小声でアニエスが謝る。
「いいえ。最初にエリクはと言い出したリチャさんが悪いんで、そこまで気にしてません。ですが、周りが言うからそこまででもない事柄を絞り出して話を合わせるのは良くありません。」
「はい」
「ここはちょっとだけずらして話すんです。お嬢様が困ったわと思ったことを言えばいいんです。」
「かわいいばっかり言う」
「あら、かわいい」
「むー。またからかう」
「そうです、エリクは私のことを揶揄ってばっかりなの。とか言えばいいんです。あまり良く分からないことを分かっているように言ったり、嘘を交えて話すことはしないと約束して下さい。後から苦しくなってしまうことも追い詰められることもあるのですから」
小さな嘘が回り回って自身を苦しめることはいくらでもある。知らないことを知った風に言うのは知らないことが露見した時に信用を失う危険性がある。
「うん。えりく、ごめんね?」
「許します。リチャさんは後でお仕置きしておきます。」
「喜んで」
笑顔で言うことではない。
「……あんな駄目な大人になってはいけませんよ」
「……うん!ならない!」
「先輩!ボクにも罰を」
「やらんよ。トーマスは自分で反省しなさい」
「はい」
「じゃ、私はもう少し休憩しているので何かあれば呼んでください」
テントに戻ろうとすると
「えー、えりくとあそびたい」
アニエスが頬を膨らませる。
「何して遊びますか?」
すぐさま手のひらを返した私にリチャードが肩を震わせる。
「リチャさんは結構笑いの沸点低いですよね。」
「そこがいいのよ、大人のぎゃっぷっていうらしいわ」
「どこで覚えてくるんですか。チャミちゃんか」
「ううん、しょくどーでおやつ食べながらおはなししてたよ」
他の使用人達の話を聞いたらしい。
ん?そんな話してたかな?
全然記憶にない。
「では何をして遊びましょうか?チャミちゃんの弟達はお昼寝してますか。リンさんの子供達はお絵描きしてますね。お嬢様、いいんですか?お絵描き」
「いい。」
少し不機嫌そうな口調に何かあったな、と思ったが何も言わない。
「そうですか」
「かのんくんもいっしょでいい?」
「えぇ勿論です。あちらでユーレイアのお手伝いをしていたので行きましょうか」
「うん!」




