18:お嬢様と自然体験
毒殺未遂事件は旦那様の素早い動きで犯人の確保が済み、私の出番はなかった。
逮捕された神官の標的はアニエスだった。
属性加護を持ち、魔力操作も幼くして身につけた才能、若い芽は早い内に摘まないと駄目だと犯行に及んだと自供した。年齢的に弱毒でも効果があると踏んでの敢えての弱毒だった。
そしてついでに私も始末しておこうと毒棘を刺したとか。
それを聞いてブチギレた私を侍女総出で宥め、
「えりく。おこってくれてありがとう。でも気にしちゃだめよ」
アニエスから何故か諭された。
「お嬢様♡」
しばらくの間、添い寝係に任命された。
事後処理でバタバタしたが、着実に自然体験の準備を進める。
「いいのかな。あんなことがあったばかりなのに」
「お嬢様」
「どこの世界にも馬鹿はいます。まだみぬ馬鹿のことを気にして自重なんてしなくていいんです。」
「ゆーれいあ、えりくがかっこいいこと言ってる」
「偶にかっこいいのがエリクらしいですね」
こそこそ話をしているつもりのようだが、丸聞こえだ。
「二人とも聞こえてるんですが。……お嬢様、こちらが今回の同行者の一覧です。ご確認ください」
「うん、わかったわ。ありがとう」
アニエスは同行者一覧に目を通す。わからない言葉はユーレイアの説明を聞きながらも、自分の目で確認する。
「旦那様が更に護衛を増やしたいと言っていますが、いかがされますか?」
「いらないわ。わたし、今は人がふえるのがすこしこわいもの」
「お嬢様」
「えりく。ちゃんとわたしをまもってね」
「はい。かしこまりました。」
そして、自然体験当日。
朝から元気いっぱいのアニエスと私は、仲良く浮かれながら馬車に乗り込む。
護衛の騎士達はピリピリしているし、私を除く同行者全員が緊張していた。馬車は三台で向かう。
「お嬢様、実は私、楽しみすぎて昨日中々眠れなくて」
「わたしもなの。ドキドキして目がさえちゃった」
二人で仲良くきゃっきゃうふふと盛り上がっていると、馬車は王都の外に出た。
「わたし、はじめておうとの外にでたわ」
馬車の窓にかじりつくように外の景色を楽しむアニエスと一緒に窓の外を眺める。
少し王都から離れると自然豊かな光景が広がっている。
選定した場所に着くと馬車が止まった。
「着きましたよ、お嬢様」
「うん!」
馬車を降りるともう一台の馬車からリン達も降りるところだった。
「お嬢様、テントの設営を行います。その後はたくさん遊びましょう」
「はい!」
アニエスと一緒に宿泊するテントを建てる。
きらきらと目を輝かせアニエスは初めてのテントに大興奮している。
「やったー、できた!」
テントの次はトイレだ。
術式札をアニエスに渡し、作る場所を指示する。
「うん!やってみる」
ゆっくり魔力を流し魔術を発動。あっという間にトイレが完成した。
「えりく、できたよ」
「これを後一つ作りましょう」
「うん」
最後は調理場の様子を確認する。
「ゆーれいあ、おりょうりするとこ、できた?」
「はい、お嬢様。滞りなく完了しました」
「では遊びに行きましょう」
「うん」
アニエスは私の手を離すと、カノンめがけて走り出した。その後ろを小走りでついていく。
「かのんくん!あそぼう」
「お嬢様。はい、何をいたしましょう」
「お花さがしにいこう」
「かしこまりました」
カノンの手を握り引っ張っるアニエス。カノンは必死に表情を取り繕っている。
スピノザ家のお嬢様だということを誰よりも分かっているのはカノンなのかもしれない。
「カノン君、お嬢様を捕まえてて下さい。私が追いつけないので」
なので、手を繋ぐ理由をあげないとカノンに悪い。
「はい。エリクさん」
体力おばけの子供達に私が敵うはずもなく、視界に捕らえつつも息があがって追いつけない。
「この花はなにかしら」
「ナナルの一種です。」
「いろがちがうけど、あ、花びらのかたちがいっしょだわ。」
追いついたかと思ったらすぐに別の花を探して駆け回るアニエス。カノンは私を気にしてくれるけど、アニエスは花に夢中だ。
「はぁはぁ」
息を切らす私を見かねたチャーミーが
「エリクさん!私が代わります!」
代打を申し出る。
「頼む、」
「お任せ下さい!」
一応視界に入るところにいてくれるので助かっている。
チャーミーがアニエスとカノンの側にいるので、私はゆっくり息を整え歩いてついていく。
虫を鷲掴みしているアニエスに
「お嬢様すげぇ」
感心する。
「えりく、みてみて!クワクワ!」
満面の笑顔で捕まえたクワクワを私に見せつける。
「おお。ちゃんと腹に袋がついてるんですね」
「たまごはないけど」
「なくて良かったじゃないですか。」
「きょーぼーなクワクワ見たかった」
「いやいや。危ないですよ?指切られちゃいますよ?」
「でもクワクワっぽさは、たまごあるときだと思う」
「それはそうですけど。ん、カノン君?大丈夫?虫苦手だった?」
アニエスの横でクワクワから目を逸らしているカノンに気づく。その背後のチャーミーも目を逸らしていた。
「すみません。」
「謝ることじゃないよ。苦手な人もいるし、ほらお嬢様、放してあげないと」
「はーい」
アニエスはクワクワを見つけた場所に帰し、他に花が咲いていないか周囲を探す。
図鑑で見て知っている植物や昆虫の実物に大興奮している。
「お嬢様、少し休憩にしましょう。麦茶飲みに戻りましょう」
「うん!かのんくん、いこう!むぎちゃおいしいんだよ」
「はい、お嬢様」
また駆け出したアニエスをチャーミーが追いかける。
「元気だなぁ」
もう既に足がパンパンなのだが、日が暮れるまでまだまだ時間がある。
「仕方ない」
魔法で立ち乗り並行二輪車を再現する。一度は乗ってみたいと思っていた。何かのイベントの時に試乗会をやっていたが、私の運動能力では前に倒れそうだなとチャレンジできなかった。
魔法なら問題ない。
便利だ。
パラソルの下で麦茶を飲んでいたアニエスが魔法で移動する私に気づいた。
「あー!えりく、ずるい!」
その声で他の子供達も私に視線を向ける。
「何あれ?!」
「かあさん、あれ何?」
「すごいー!」
リンが言葉を選びながら子供達に説明している。
「魔法の乗り物!凄い!」
「あたしも乗りたい!」
「おねぇちゃん、ボクも乗りたい」
チャーミーも弟達にせっつかれている。
「エリクさん、すみません。弟達も乗りたいみたいで、乗せてくれませんか?」
「ん、いいよ。ほい」
子供達の背の高さに合わせたサイズの立ち乗り並列二輪車を何台も作る。
色も別々にした。
「……」
何故かトーマスが眉間を揉んだ。
乗り方を教えて、好きに遊ばせる。パラソルの下で麦茶を飲み休憩する。
「エリク、疲れていませんか?」
奥様の代わりに参加したリチャードが子供達のほうを見て、そう言う。
「リチャさん。問題ないよ、あれくらい何ともないし。走らなくて済む分、楽なくらいだよ」
「貴女くらいですよ。アレが楽なんて言えるのは」
私の返答に苦笑いを浮かべる。
アニエスは、リンの娘に教えてもらいながら乗っているが、
「お嬢様、意外と不器用?」
何処となくぎこちない。なんだかプルプルしている。
三輪車とかにすればよかったか?
「ユーレイアも乗る?」
「結構です」
「リチャさんは?」
「私も遠慮します」
「そっか。私はもう少し乗ろうっと」
マイセグセグに乗り、アニエスに近づく。
「苦戦してますね、お嬢様」
「むー。えりくにまけてるの、くやしい」
「三輪車にします?」
別の乗り物を提示するも
「いいもん!じょーずにのりこなすもん」
負けず嫌いなアニエスに断られた。
一番上手く乗りこなしているのはチャーミーの弟達で、くるくる円を描いたり片輪で回転したりして、一輪車の団体ショーをみている気分だ。
魔法で作ったセグセグだからヘンテコ挙動も可能なのだ。
じっくり練習して最初よりスムーズに乗れるようになったアニエスは満足気だ。
可愛いドヤ顔だな。
昼食を食べ、お昼寝をする。
と、体力も回復したようで、また植物観察に駆け出した。カノンも少し困った顔でついていく。
今度はセグセグがあるから楽々追いつける。
護衛の騎士の巡回エリアに近づき過ぎて
「お嬢様。向こう側は野生動物の生活圏でございます。もう少しあちらでお遊び下さい」
と注意された。
「やせいどうぶつ、イノシシとか?」
「いえ、イノシシはもう少し山のほうに生息しています」
「イタチとか!」
「はい。イタチ、タヌキ、それから大型齧歯類が多いです。あ、木の上は観察されましたか?木の上で生活するものがございますよ」
「ネネマルいるかな」
リスっぽい生物で木の上で生活している。確かこの辺でも生息していたはずだ。
「ふふふ探してみてはいかがでしょう」
「ありがとう」
今度は木の上を観察する。
肩車をしようかと思ったが、怖いから嫌の一点張り。
アニエスは背の高いリチャードに駆け寄り肩車を依頼した。
「たかーい」
肩車をしてもらって喜んでいるアニエスを横目に私は高さを出す方法を考える。
竹馬は私の運動能力的に後ろに倒れるイメージしか浮かばない。だめか。
シークレットブーツ的に底上げする?いや、厚底の靴で足首やったことあるからなぁ、だめだ。
うーん。
リチャードに肩車されているアニエスを、どこか羨ましそうに見ているカノン。
「カノン君、ありがとうね。お嬢様に付き合ってくれて」
カノンの頭をわしゃわしゃとかき回す。
あ、やっぱ駄目だ。背中がぞわぞわする。
触れられれば良かったのに、ん?私以外の誰かが触れれば問題ないか。よし、ゴーレムを作って肩車してもらおう!
思いついた魔法を早速使い、ゴーレムの肩車でカノンもアニエスの横で木の上を観察することが出来た。
自分用の肩車ゴーレムを作り、カノンの隣りで木の上にネネマルがいないか探す。
「りちゃ。わたしのかたぐるまでごめんね?」
「謝らないで下さい。まさかの手法で私も驚いています」
「お嬢様、ネネマルの巣っぽいのありますよ」
「え?!どこどこ?」
「お嬢様、あちらです」
カノンが指さして教える。
「んー。えりく、あれ、ネネマルのすじゃないわ」
「え」
「すごいよ、ドンハンルルのすだよ!」
「まじっすかぁ」
この辺りに生息する生き物の中でも目撃数の少ないレアな動物の巣を発見してしまった。リスとウサギの中間のような顔でムササビのように滑空して移動する動物だ。
しばらく観察して、巣から顔を出すドンハンルルを目撃した。
「!!」
というか、巣だけで動物を特定したアニエスが凄過ぎる。まさかここまで好きだとは思わなかった。




