16:お嬢様と魔力3
子供ってこんなに早く身につくものなのかと常識を疑うくらいアニエスは魔力操作を自分のものにしている。
奥様と旦那様、貴族の使用人、そして神官の前で、魔力操作が出来ているかの試験が行われた。なんでも複数人で魔力壁を作りその中で魔力操作をすると出来が分かるらしい。
初耳だ。師匠から聞いたこともなかった。
「リチャさん、この速さ普通?」
「いえ。子供は感情のままに振る舞う生物ですから、もっと時間がかかります。私も時間がかかった子供でした」
意外過ぎる情報に深掘りしそうになるのを我慢する。
「アニエス、凄いわ」
奥様も旦那様も感涙するほどの才能だ。
魔力が発現して半年。齢六歳にして魔力操作の試験に合格した。
ユーレイアに安心してほしい、凄い魔法使いになりたいの気持ちで突っ走ってきた。
「えへへ。えりくのおかげ」
私は勝手にユーレイアのおかげだと思っていた。
「よし、エリク。褒美をとらせる、何か望みはあるか?」
アニエスの側にいられるなら特に望みはないが、日常の中のご褒美的なものならいいかもしれない。
「えー、おやつ長のおやつ優先権とか」
「すまん、それは私でも無理だ」
駄目か。うーん、それでは。
「ですよね。ではそろそろ申請していた、お嬢様と側務め全員の王都の外での外泊許可を下さい」
自然体験を一度は体験させたい私と渋る旦那様との間でバチバチと火花が散る。
「くっ。」
「騎士を護衛につければいいじゃないですか」
「わ、わかった。」
ようやく旦那様が頷いた。
皆の前で許可したのだから後から却下は出来まいと笑った私を
「先輩。顔が悪どいですよ」
トーマスが嗜める。
「トーマス、この顔が可愛いんじゃないか」
「リチャードさんは先輩に甘すぎます」
何故かリチャードとトーマスが揉め始めた。
まあ、いい。
「お嬢様、王都の外に出る許可をもらえましたので、側務めみんなと遊びに行きましょう」
「わーい」
「まずは準備をしなくては」
「がんばる!」
浮かれる私とアニエス。
「アーロン、騎士の選定はお願いね。」
「実力重視で選ばねば」
うんうん唸っている旦那様に
「大概のことは私がなんとかするので、索敵能力の高さや行動予測の上手い騎士にして下さい。あと、あんまり怖くない見た目の人がいいです。」
注文をつける。
「それでいいのか?」
「そのほうがいいです。何かが起こる前に対処できる人が助かります。」
「わたし、かのんくんもいっしょがいい」
「あれ?この前脈なしって言ってませんでした?」
「でもでもかわいいもん」
「ではお誘いしましょうか」
アニエスと手を繋ぎ仲良く部屋に戻る。
「お嬢様」
今日の試験の結果をユーレイア達は部屋でドキドキしながら待っていた。
「一発合格です。素晴らしい努力と才能です」
「おめでとうございます」
ユーレイアにアニエスが恐る恐る抱きつく。
この半年、私と奥様以外に抱きつくことを控えていた。
「お嬢様、よく頑張りましたね。トーマスもエリクも褒めておりましたよ。」
「うん。がんばった。ゆーれいあとぎゅーしたいもん」
「わたしもお嬢様を抱きしめたいと思っておりました」
「お嬢様、凄いですぅ」
チャーミーと
「こんな短い期間で身につけてしまうなんて信じられません。」
リンも感動して目がうるうるしている。
「トーマスもお疲れ。」
「いえ、ボクは何も。先輩の魔法には度肝を抜かれました。アレの真似をするのが大変だっただけで」
「ごめんって。なんだかんだと真似してくれるんだからトーマスは優秀だよ。ありがとう」
マジでどうやったのか全然理解できなかったが、トーマスは私の魔法、魔力の視覚化を真似した。
色はピンクだったから、南の女神の加護に関する魔法魔術だろうと想像は出来る。
大陸人の加護は結構大雑把だ。
アラバの民は南の女神が司る、南の土地にまつわる属性を持つ。属性加護に置き換えると火、土、光の複合加護といった感じ。
黄、赤、オレンジなどの暖色系を魔法で表現できるらしい。
「ゆーれいあ、おうとの外にあそびにいけるって」
「楽しみですね、お嬢様」
「じゃ、ユーレイアはお嬢様とイチャイチャしてて下さい。こっちで計画まとめるので」
「えへへ。いちゃいちゃ」
アニエスをユーレイアに任せ、自然体験宿泊プランを練る。
「お嬢様はカノンくんも一緒がいいそうなので、リンさんもお子さん達を連れて参加していいですよ?」
「それは助かりますが、よろしいのですか?」
「護衛は騎士がしますし、私もいるので安心して参加して下さい」
「ありがとうございます」
「エリクさん、私も弟達を連れていってもいいですか?」
「いいですよ。ですが、リンさんもチャミちゃんもきちんと同行者に言い聞かせて下さい、スピノザ家のお嬢様が一緒だと」
「は、はい!」
「わたくしも今一度息子と娘に言い聞かせます。」
「では場所ですが、」
地図を広げて場所の選定、それから必要な物の書き出しをする。
「ではこれで計画書を作成して旦那様に提出します。」
「先輩、ボクが作ります。」
「分かった。お願いします。あ、そうだった。」
「?」
すっかり忘れていたが、アニエスと計画していたことがあった。
「お嬢様、アレ」
「!わかったわ、……こほん」
私が声をかけるとアニエスがユーレイアから離れ、表情を改める。
「きょう、まりょくそうさのしけんにごうかくしました。みんなのおかげです。きょうりょく、ありがとうございます」
「今後貴族の一員として社交界デビューをするお嬢様から皆に渡すものがあります。」
私はベストのポケットから箱を取り出し、アニエスの前で蓋を開ける。
そこからアニエスが花のペンダントトップがついたペンダントを取りユーレイアに渡す。
「え、これは」
次にリン、チャーミーと渡し、トーマスには同じ意匠のついたチェーンブレスレットを渡す。
「お嬢様の専属側務めという証です。」
「ありがとうございます、お嬢様」
「可愛いです。」
「これからもよろしくね」
早速皆が身につける。
「この紋所が目に入らぬか」ごっこがしたくなるが、この前やったら何それとアニエスに変な顔をされたので、今日も自重しよう。
渡し終えたアニエスは再びユーレイアにくっつく。
あのネックレスは放出魔力を防ぐ機能を、女神の権能でこっそり入れた特注品だ。万が一の事態に備えて仕込んだが、出番がないことが一番だ。
「私は早めに上がります。ユーレイア、あとはよろしくお願いします」
「お任せ下さい」
「えりく、またあしたね」
「はいお嬢様。また明日。失礼します」
アニエスの部屋を出て、自室に向かい歩く。と、その途中で
「エリク殿、少しよろしいか」
仰々しい口調の男に声をかけられた。
神殿の神官で、アニエスの魔力操作に立ち会った一人だ。何故ここに。
「何か」
「貴殿の目的はなんだ。スピノザ家に肩入れして何を企んでいる」
「言っている意味が分かりません。私はスピノザ家の使用人ですので、雇い主の為に働くのは当然の事ですが?」
「しらばっくれるのか。聖女様の後ろ盾を持ち、他国の高度な技術を持つ貴殿が普通の使用人であるはずがなかろう」
さてと、どうするか。始末するか?いやここではまずい。
「聖女様に尋ねて下さい。私から貴方に言うことはありません。」
変な奴に当たったなと、無視することにしたら、
「逃げるな」
逆上された。
肩を掴まれる。
「私の後ろ盾が聖女様だと知っているのに、そのような非礼を続けるのですか?聖女様に面会してから来てください。では失礼」
気持ち悪さを抑え神官を振り切る。はあ始末したい。
廊下を曲がり姿を消す。そういう魔法を使う。
さっさと部屋に戻り、聖女宛に手紙をしたためる。
女神の権能で、手紙を直接送りつけた。
「びっくりするだろうな」
はぁとため息をつく。肩を掴まれた感覚がまだ残っている。
「気持ち悪りぃ、風呂入るか」
入浴して、今日はさっさと寝た。
朝。目が覚めても気持ち悪さが消えない。おかしいと思いつつも、出勤する。
「えりく?だいじょうぶ?」
私の顔を見るなりアニエスが心配するも
「お嬢様も、大丈夫ですか?少し疲れてみえます」
私にはアニエスのほうが心配になる。
「それはえりくのほうだよ。……でも、すこしぐあいわるい。りんがとーますよびにいってる」
「いつから?」
「まりょくのしけんのあと。へやにもどって、さいしょはね、きんちょーしてたからだとおもったの。あさになってもなおってない」
私は跪き、アニエスの額や首筋に触れる。そして脈を測る。
熱は無さそう。疲労?でも何か引っ掛かる。
昨日の出来事を思い出す。
すると、私の頭の中で師匠の声が響いた。ある日の会話を思い出した。
『エリクが解毒剤を作る場合、工夫が必要だね。水属性加護がない』
『でも作れるんですよね?』
『作れるよ。下手すると格落ちするけどね。でも、加護が無くても一級品の解毒剤を作れる人もいる。それを目指して欲しい』
『……誰が作れるんですか』
『一級冒険者のミゲルに、たしか、リオ様も水属性のレベルが低すぎて解毒剤に作用してないから加護無し向けのレシピ使ってるって言ってたな。あ、作り方は教えてあげられないけど、冒険者ギルドの資料室で勉強したらいいよ。コレに関しては教えられないから』
『そんな凄い解毒剤が流通してるのに、毒殺ってあるんすかね?』
『無くならないねぇ。あの手この手で殺そうと試行錯誤するよ。驚くよね、貴族社会こえぇって思うけど。友人の話だと如何に毒と気づかせないで毒を盛るかに移行しているらしいし』
『気づかれれば薬で回復できるからですか?』
『そう。全貴族はマクスウェル様に感謝を捧げないと駄目だね。流通量が増えたのはマクスウェル様のおかげなんだから』
解毒剤の作り方の指導は結局なかった。師匠は水属性加護のレベルが高いからマクスウェル以前の伝統的な解毒剤を作っていたから。
「お嬢様、こちらを飲んで下さい」
差し出した解毒剤をアニエスは訝しげにみつめる。
「あー、私から飲めば良かったですね。失礼しました」
余裕がなかった。自作の解毒剤を飲み干す。私の様子を見てアニエスも恐る恐る飲んだ。
「に、にがいよ、えりく」
「全部飲んで下さい」
「ぅ、うん」
涙目で中々飲まないアニエスの手を掴み、口に押し当て瓶を傾ける。
嫌がるアニエスに無理矢理解毒剤を飲ませた。
「ーー!ひどいよ!えりくのばか!」
「元気になりましたか」
「あれ?」
「具合はいかがですか?」
「だいじょうぶになった。なんで?」
「それは、良かったです。……?あ、」
解毒剤が効くとは思わなかった。つまりは毒を盛られていたということ。すぐに効果が出るってことは弱い毒だ。
「えりく?!えりくー!!」
そして、何故か私には効いていない。一瞬効いたと思ったけど。
体の力が抜けて倒れ込む。アニエスが慌て私の体を揺さぶる。
「なんでだー?」
「えりくぅ、うえぇぇぇ」
とうとう泣き出してしまったアニエスに
「お嬢様。大丈夫ですから、魔力操作は怠らないで下さいよ?」
魔力放出をしないように注意する。
「う、ぅぇ、ばかぁ。ちゃんとやってるもん!」
「ならいいんです。トーマスが来るまでここで寝てます」
「ぅ、うん。だいじょーぶだからね!」
アニエスが私の体を優しく摩りつつ涙を拭う姿に
「ありがとうございます、お嬢様」
笑うと
「わらいごとじゃないの!」
怒られた。




