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聖女の教育係  作者:
PR
12/28

11:お嬢様と新しい侍女

なんだかんだ言ってもロイドが帰ったのが寂しかったようで、アニエスは部屋で不貞寝している。

眠るまでもご機嫌斜めだった。

「エリク。お疲れ様」

抱っこのまま寝かしつけた私をユーレイアが労る。

「いいえ。久しぶりにお嬢様が抱っこをねだられるので、嬉しくて」

「ふふふ。」

「それにしてもユーレイアはモテモテですね。お嬢様だけではなく、ロイド様にもモテモテで。ユーレイアが結婚したら大変なことになりそうです」

「結婚ですか、……エリク。あの、実は、少し相談があるのですが」

「はい。私で良ければ」

時間的な余裕がないから少し探りを入れようと話を向けると、

「結婚を考えている方がいるのですが。今の生活のまま結婚って難しいのでしょうか。」

進行具合の分かる相談をされた。

「差し支えなければ、お相手を教えてくれますか?」

「ぇっと、庭師のアークです。」

「ぁぁ、あの方ですか。」

若い庭師の中でも、おっちゃん達からも目をかけられている有望株の一人だ。性格は温厚、行動に瞬発性があっていい人だ。

以前、アニエスの庭散歩の時に会ったことがある。段差のある箇所でアークがアニエスに手を差し出してエスコートしようとしたことがあった。

アニエスが私とアークの手を交互に見ながら戸惑っていたのを思い出す。そのあとアニエスの様子に気づき、何も考えずに手を出していたと弁明していた。

同類かと親近感が湧いたのはユーレイアには黙っておこう。

「……今現在も住み込みですよね。なら側務めを増やす方向で話を進めているので、結婚したとしてもそこまで大幅に変わることはないかと。夫婦部屋に移るでしょうけど」

「そ、そうかしら」

「結婚だけ、ならです。その先の妊娠出産を考えれば変化は大きいでしょう。ユーレイアがこの先もお嬢様の侍女として働きたいと考えているなら、私は力を貸します。」

「エリク」

「ユーレイアはどうしたいですか?」

アニエスの為に残ってほしいけれど、ユーレイアの意志を優先させたい。

「お嬢様の侍女でいたいです」

「ふ、なら私に任せて下さい。」

「何故かしら安心感と不安感が同時に存在するなんて」

「ユーレイア、ここは安心ですってだけでいいんですよ。あ、そうだ。アークさんとも今後の仕事や生活についてしっかり話し合って下さい。今の仕事量と生活ペースも変わるでしょうし、」

「あ、ありがとう。エリク」

「いえいえ。ユーレイアのためは、ひいてはお嬢様のためになるのです」

「ふふ、それなら安心です」

アニエスのためと言われたほうが安心するとは思わなかった。

「ユーレイアはむきむきな方がお好きなのですか?」

ボディビルのポーズをとりながら聞いてみる。

「そういう訳ではありませんけど」

「アークさんむきむきっすよ?」

労働環境から庭師は結構ムキムキが多い。

「体型で好きになった訳ではありません」

「ほほぉ。ではどういったところを?」

「……内緒です。」

照れているユーレイアもとても可愛らしい。


「お嬢様、新しい侍女を紹介します」

ロイドが帰って数日後。

アニエスに新しく側務めになった三人を紹介した。

「チャーミーです。よろしくお願いします」

「リンでございます。お嬢様、よろしくお願いします」

「彼はお嬢様付きの侍従で」

「トーマスです。健康管理とお勉強の手伝いをします。よろしくお願いします」

「ちゃみ、りん、とーます、よろしくね。」

「チャミちゃんとリンさんはユーレイアから説明を受けて下さい。トーマスには私から話をします。」

「うん。おねがいね。」

アニエスは大人しくお絵描きに戻る。その横でユーレイアが侍女達にアニエスの部屋の物の位置などの説明を始めた。

「トーマスはお嬢様のお勉強担当です。教育方針は分かりやすく、且つお嬢様が自ら学びたくなるように工夫する、押しつけないの三点を重視していきましょう」

「はい」

「現在、絵本を復唱しながら読むことと、お名前は書けます。あと生き物や花の名前も一部書けます」

「もう文字の練習を?」

「いえ、お絵描きしながら文字も真似して書いてもらっています」

「なるほど。すごく教育の進度が速いように感じます。」

「やりたいことを妨げない、それにちょっと便乗くらいの気持ちだったんですけど。あ、私の部屋のお嬢様から貰った絵のコレクションみます?」

「拝見したいです」

「ではあとで。今日は普段のお嬢様の様子を見て計画に必要な情報を得て下さい。」

「はい」

「お嬢様、トーマスと一緒にお絵描きをみてていいですか?」

「いいよ。でもこれはあげないからね」

アニエスは私をじとっと睨み頬を膨らませて言う。

「上手に描けてますけど」

「これはれんしゅー。えりくはすぐぜーんぶもっていっちゃうんだもん。」

図鑑を広げて蛙の絵を描いている。

「この練習途中な感じがいいのに」

「だめ。とーます、えりくのこといっぱい、めってしてね?」

「は、はい」

トーマスは少し困りつつ、請け負った。

「この目のところ、可愛いです。」

「うん。ちからいれた」

「これはマママユカエルですか?」

「ちがう、ここのパパパルカエルだよ」

「あー、お腹の模様が違いますね。失礼しました」

「えりく、はやとちりするから、とーますがちゃんとみててね?」

「かしこまりました、お嬢様」


ユーレイアにアニエスを任せトーマスを連れだす。

部屋を出る時にコレクションの自慢と言ったら

「とーます、いやだったらいやっていうのよ」

と真顔で言われた。

私の部屋に入るとトーマスが自信なさげに

「先輩。あのボク必要でしょうか。先輩はお嬢様の誘導も出来ていますし、」

そう言った。

「トーマスはお嬢様に必要な人材です。私はお嬢様のためならば何だってします。そんな私とは別の視点を持つ人がお嬢様には必要なんです。それに貴族の侍従も必要です。ま、それはさておきトーマスはトーマスらしくお嬢様にお仕えして下さい。」

「ボクらしく」

「私を諌めるのはユーレイアやリンさんでも出来ます。トーマスはお嬢様を私から守る防波堤になってくれると助かります」

「お嬢様を守るですか?先輩はお嬢様を害する人ではありません」

「何が害のあることかをトーマスに判断してほしいのです。間違っているならそれを正して下さい。お願いします」

間違える気はないが第三者の目は必要だ。

「分かりました。」

さっきまでの自信の無さそうな表情は消えた。

「あ、この壁の絵が先輩のコレクションですか?素敵な絵ですね」

「さて、これがお嬢様のお絵描きコレクションです」

本棚の一段丸々コレクションだ。壁にかかっているのは厳選した絵だ。

「!?これ全部ですか?!何冊作ったんですか?!」

トーマスが驚く。本棚から一冊取り出し開く。

「これは最初期です。ふふふ、このぐるぐるは私です」

「先輩、ボク、頑張ります!」

急にトーマスが真剣な顔でそう宣言した。どこに決意させる要素があったのか。

「ん?おぅ、その意気です。で、このあたりから線がしっかりしていきます」

「ここから名前の練習を始めたのですか」

画家みたいにサイン入れないんですか?と言ったら、喜んで文字を書くようになった。

「ええ。ここから私のリクエストに答える絵が始まります」

コレクションの説明を嫌な顔をせずに、むしろ興味津々な様子で聞いている。いい後輩だ。

ついつい熱が入り過ぎておやつの時間を過ぎていた。

慌ててお昼寝部屋を覗くとアニエスが膨れっ面をして寝る準備をしていた。

「お嬢様、遅くなってしまい申し訳ございません」

「べつにいいもん。」

「お嬢様ぁ」

急ぎ側に寄るとアニエスは、ぷいっとそっぽを向く。

「お嬢様。添い寝をしてもよろしいですか?」

「べつにいいけど」

「ありがとうございます。」

私に背を向けて眠るアニエスをみつめる。

「ごめんなさい、お嬢様。お嬢様の素晴らしさをトーマスに語っていたら時間を忘れてしまいました。寂しくさせてすみませんでした」

「……」

「おやすみなさいませ」

「……」

ごろんとアニエスが寝返りを打ち、私の胸に顔を埋めた。

「えりくはあした、やすみのひにしたから」

「??」

「ちゃんとやすんで」

「ありがとうございますお嬢様。」

休みはちゃんと取っているけどなぁと思いつつもお礼を言う。

アニエスの背中をぽんぽんとしているとすぐに寝息が聞こえてきた。


何故か休みを言いつけられた。

「謎だ」

いつもの休みの日と同じく、アニエスの部屋に行ったら

「おはようございます、先輩。さ、おかえり下さい」

トーマスから入室拒否された。

「え、どーしよ」

屋敷内をぶらつくも、何もすることがない。

「エリクさん、どうしたの?珍しく一人でいるなんて」

侍女の一人に声をかけられた。すると次々に声がかかる。

「エリク」

「エリク」

そんなに一人が珍しいのか?何故か囲まれた。

「お?いやぁお嬢様の部屋に行ったら立ち入り禁止になりまして、」

事情を説明をすると

「わたしの部屋にくる?」

「わたしの部屋よね?」

「俺の部屋だ」

部屋に誘われた。何故だ。

「いやいや、君達仕事に戻りなよ。私は自室に戻りますから」

誘いを断り部屋に帰る。

「はぁ、暇だぁ」

ベッドにダイブする。

「なんで急に休みにしたんだろ。怒ってる感じじゃなかったけど。んー」

理由はわからないが、休みでもアニエスに会いたい。

「食堂に行くか?いや、絶対他の人に絡まれるし、時間を合わせていけばいいか。それまで、は、すぅ」

いつの間にか眠っていた。


「お嬢様。何故エリクさんを休みにしたのですか?」

チャーミーが尋ねるとアニエスは

「だって。きのうしょくどうで、えりくがいつも、わたしといるってはなしてたから」

昨日のおやつ時間に聞こえてきた話をする。

「それでお休みにしたのですね。」

お優しいですお嬢様とチャーミーが手を叩く。

その横でユーレイアがトーマスと話している。

「え、トーマス。エリク、追い返したの?」

「?はい。お休みの日なので」

「……トーマスは侍従歴二年よね。」

「?」

「リン、わたし少し様子を見てきます」

ユーレイアの申し出をリンが神妙な顔で

「お願いします。」

許可した。

少し慌てた様子でユーレイアが部屋を出て行った。

「りん、ゆーれいあ、どこいったの?」

アニエスが不思議そうに尋ねる。

「エリクの様子を見に行っただけです。すぐ戻りますよ」

「なんで?」

返答を逡巡したリンだったが、ゆっくり言葉を選んでアニエスに説明する。

「お嬢様、お嬢様が生まれる前のことですが、エリクはとてもモテました。奥様が心配になるほどです」

「えりく、もてもて?」

「はい。エリクを奪いあって喧嘩がおこるほどです。」

「!!」

アニエスだけではなく、トーマスもチャーミーも驚きで動きが止まる。

「お嬢様が生まれてからは、ずっとお嬢様の側から離れていません。ですからユーレイアは心配になって様子を見に行ったのです」

「ど、どどど、どうしよう!けんかになってたらたいへん」

「大丈夫です。そうならない為にユーレイアが行ったのですから」

「うん。」

ユーレイアが戻ってくるまで三人はそわそわと落ち着きなく過ごした。

「リン、大丈夫でした。今日は部屋で寝て過ごすようです。」

ユーレイアの安心した様子にアニエスも胸を撫で下ろした。




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