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聖女の教育係  作者:
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11/28

10:お嬢様とアレな坊ちゃん4

ロイドとお友達計画は順調に進み、一週間経つ頃には、

「アニエスーあそぼー。ユーレイア付きで」

「いいけど、えりくならつけてもいい」

ユーレイアを取りあう微笑ましい友情が築かれた。

庭で遊ぶか、お昼寝部屋で積み木やボール遊びをしたりする。

今日は庭で遊ぶことになった。やはりロイドは走るのが好きらしい。

剣の稽古をつけられないかとリンから相談を受けるも、

「旦那様に絡まれるだけで剣は振えないんですけど」

それには応えられない。

「えっと、素振りしてみて下さい」

奥様に相談するとしても情報はあったほうがいい。

「うん」

ロイドの素振りのフォームを観察する。

素人目には振り慣れているようだとしかわからなかった。

「いつもどれくらい練習するんですか?」

「あさ、にいさんがいる時だけ。にいさんいそがしいから。いつもじゃないけど」

「ふむふむ。指導が受けられるか、確認してみます」

奥様に相談したら、何故かリチャードが稽古をつけることになった。

「え。リチャさん剣も出来るの?!」

「はい。貴女もこれを機に覚えてはいかがです?」

「遠慮します」

そんな体力はない。

ロイドに指導している様子を眺める。

「基礎は出来ております。では打ち合ってみましょうか」

「えりく、りちゃすごいね」

「ええ全く。完璧超人です。私が勝てるところはお嬢様への愛の深さくらいでしょうか」

「ゆーれいあ、むぎちゃ、のみたい」

私の台詞はスルーされた。

「かしこまりました」

アニエスはパラソルの下でお絵描きをするのが最近楽しくなってきたらしく色々設備を整え始めた。

魔法のパラソルや椅子ではなく本物だ。

麦茶は熱中症対策にと用意したらファンを増やす結果となった。

「ロイド様も落ち着いてきましたし、何事もなく残りの時間を過ごせるといいですね」

剣の稽古をするロイドをみつめユーレイアが微笑む。

確かにその通りなのだが。

確かにロイドの言動も落ち着いてきたし、表情も柔らかくなってきたし!確かにその通りなのだが!

言ってはいけない場合もある。

「ユーレイア、駄目それ、絶対フラグだから」

「?」

当然ながら理解はされなかった。

今日のおやつは何かなぁと食堂へ向かう途中。

「ロイドー!!」

大声でロイドを敬称抜きで呼ぶ女性が物凄い勢いで走って近づいてきた。

こわっ

思わず魔力壁を張る。瞬時に壁をぷよぷようぉーるにしたのは突っ込んできたのが女性だったからだ。

「ぎゃ」

女性が勢いよくぶつかり壁に跳ね返され床を転がった。

「ははうえー!?」

ロイドが驚き叫ぶ。

ははうえ?母上?!

「ら、ライプニッツ伯爵夫人?!」

やべぇ、やっちまった。

女性が走ってきた廊下の先から奥様が慌ててこちらに向かってくるのが見えた。

壁を解除すると、ロイドも女性に駆け寄る。

「ははうえ、だいじょうぶですか?」

「ロイドー」

ライプニッツ伯爵夫人は体を起こすとロイドを抱きしめた。

「ははうえ?」

「わたくし、何も気づかずに貴方に怖い思いをさせてごめんなさい」

「ううん。だいじょうぶ」

「伯父上と叔母上は排除したから、もう大丈夫だよぉ」

うわぁ、ドロドロだな。

「はぁはぁ、ライプニッツ夫人、はぁ、だ、大丈夫ですか!?どこか、痛いところは」

息を切らし奥様がようやく辿り着く。

「大丈夫ですわ。ぶつかりましたけど、思ったより痛くありませんでしたし」

ライプニッツ伯爵夫人が立ち上がる。

良かったぁ、ぷよぷようぉーるにした私グッジョブ。

「伯爵夫人、申し訳ございません」

「いいのよぉ。ロイドを守ってくださってありがとうございます」

猪突猛進に突っ込んできた方とは思えないおっとりとした話し方にギャップが凄すぎて頭が追いつかない。

「ははうえ。どうして?お仕事は?」

「仕事は旦那様に押しつけてきたわ。スピノザ夫人から手紙を貰って居ても立っても居られなくて、馬を飛ばしてきちゃった。」

「ひとりで?」

「途中まで一緒だったんだけど、クルトを置いてきぼりにしちゃった、てへ♡」

「あ、あにうえも。ははうえ、怒られるよ?」

「分かってるわ。でもロイドに少しでも早く会いたくて、気づいたら速度あげてたのよね」

ライプニッツ伯爵夫人の台詞に

「危ないからやめてよ」

ロイドが冷静に注意する。

心なしかユーレイアとアニエスの視線が痛い。何故私を見るんだ。

「ライプニッツ夫人、ここではなんですから」

「あ、ごめんなさい」

二人はお茶会室に移動し、

「ロイド様、よろしいのですか?」

「おやつのほうが大事」

私達は食堂で本日のおやつを頬張る。

ロイドもすっかりおやつに夢中だ。

躊躇いや怯えがとれて子供らしい表情になった。

おやつを食べた後は、お昼寝タイム。

二人を寝かしつけると、

「エリク。奥様がお呼びです」

呼び出しがかかった。

お茶会室に入室すると、そこには知らない男性が一人増えていた。

彼がロイドの兄か?なんで貴族ってイケメン多いんだろう。妻や夫に美人を求めるからか?

「エリク、こちらはライプニッツ伯爵のご子息のクルト様。」

「君が、彼等の悪業を見抜いたのか」

「いえ。仕事しろと苦情を入れただけです」

私の返答にライプニッツ夫人とクルトが驚く。

「ただの偶然です」

「それでも、ありがとう」

「弟を助けてくれてありがとう」

二人からのお礼に戸惑いつつ受け入れる。

「ロイド様はこのままお二人とお帰りになるのですか?」

「ええ。そうなるわ。」

「かしこまりました。現在お昼寝中ですので、お目覚めになったらお伝えします」

「いえ、それはわたくしのほうからお話ししますわ」

「かしこまりました。よろしくお願いします」

「それでここでロイドはどんな風に過ごしているのかしら」

ライプニッツ夫人にロイドの一日を話す。

朝は読み書きの練習、音楽、ダンス。昼食後は庭や部屋でアニエスと遊び、おやつタイムからのお昼寝タイム。それから夕食までの間に行儀作法の練習。夕食の後は入浴と就寝。

「剣を習いたいと要望がございましたので、剣の心得のある者が本日練習をみています。」

「そうか」

「おやつも美味しそうに召し上がっていました。」

「良かったわぁ」

実家では遠慮してあまり食べないことが多かったらしい。恐らくその頃から食べるのが怖かったのだろう。

「あの子あまり喋らないでしょ?体を動かすのは好きみたいなんだけど」

「え?結構お喋りですよ?」

「え?」

夫人が驚く。

「まだ言葉遣いは未熟ですから話すのが怖かったのではないでしょうか」

「そ、そうなのかしら。」

この一週間、ロイドの話を聞いて不思議に感じたことがある。折檻があるのは、侍従の気分次第だったようで、家では侍従の様子を窺って生活していた。が、外出先での言動に制限されることはなかった。外で自由に振る舞った日は折檻されなかったらしい。

「アニエス様とも仲良く、……気安い関係が築けています」

当初のお友達計画から少しズレたが、二人は打ち解けている。

ユーレイアを巡るライバルのようだとは口が裂けても言えない。

「走ることが大好きで、ほぼ毎日庭を走り回っています。」

「え、あの子そんなに走るのが好きなの?」

夫人が驚く。知らなかったようだ。

「家の庭は中庭が主流で、外庭は畑と騎士の訓練場だから走れないとおっしゃっていました。」

「走れる庭にしなくては」

愛情溢れる夫人と兄弟仲も悪くないだろう。私の夫人の実子ではないのでは?という想像は外れていたようだ。

それにしても何故ロイドだったのか。

遅かれ早かれ気づかれていたはずだ。ん?伯父と叔母を排除ってこの人さっき言ってたな。……あー、虐待されているロイドを伯父と叔母が助け出して、家族の仲にひびをいれ、いいように使う駒に仕立てあげるつもりだったとか。

うわぁ、それは嫌だな。でも記憶の中の我儘放題のロイドは終始伯爵家に迷惑をかける存在で、ソレを考えるとあながち間違いでもない気もする。

……考えるのやめよ。

暗い思考を彼方に追いやる。


昼寝から起きたロイドにライプニッツ夫人が明日帰ることを伝えると、

「イヤだ」

見るからに絶望感漂う表情と気持ちのこもった声で拒否する。

「なんで?!」

夫人もびっくりだ。

「え?アニエスちゃんと離れたくないの?」

「そんなわけないじゃん」

「ろいどさまはかえればいいとおもう」

息の揃った返答にますます困惑を深める。

「ユーレイアといっしょなら帰る」

「ゆーれいあは、わたしの!」

二人の間で身動きの取れないユーレイアは困った表情を浮かべている。

「ユーレイアさん?貴女、ライプニッツに来ない?」

ずいっとユーレイアとの距離を縮めた夫人の肩を掴む。

「夫人?そんな横暴しませんよね?」

引き抜こうとする夫人に笑顔で圧をかける。

「じょ、冗談よぉ。」

「そうですよねぇ、あはは。アニエス様を泣かせる輩を排除するのは私の信念でございます。あはは危うくライプニッツ家を吹き飛ばすところでした。あはは」

乾いた笑いに夫人の頬が引き攣る。

「えりく、どうどう」

アニエスに宥められ

「お嬢様。失礼致しました」

言い過ぎたと反省する。

「ははうえ、エリクは頭おかしいからけんか売ったらだめだよ。ちゃんとじっこうするよ?」

ロイドの評価が酷い。

「ライプニッツ伯爵夫人、申し訳ございません。わたしはアニエス様の侍女でございます。ライプニッツ領へは行きません」

改めてユーレイアが断ると、アニエスが目を煌めかせた。

「じゃあ、帰らない」

「かえっていいよ」

「アニエス。」

奥様が口が過ぎると注意するも、そっぽを向く。

「わたしのゆーれいあを、ほしがるろいどさまがわるいもん」

まあ確かにそりゃそうだ。が、その言い方は

「アニエス様、言葉遣いが乱れていますよ?おっしゃりたいことは全くもってその通りですけど。」

レディの言い方ではない。

「……ろいどさまは、おかあさまといっしょにおかえりください」

奥様はそうじゃないと天を仰ぎ、ロイドは意に介さず、夫人は笑いを堪えている。

「ロイド。ご令嬢もこう言っていることだし、僕達と一緒に帰ろう?」

「あにうえ。」

部屋の入り口で事の成り行きを見守っていたクルトが口を挟む。

「ユーレイア殿、弟は随分貴女を慕っているようだ。申し訳ないのだが、弟の貴女に会えない寂しさを慰めるようなものをいただけないだろうか。」

「あにうえ」

「ロイド様、ではお手紙をお送りしてよろしいでしょうか」

「ユーレイア。うん、お願いします」

ロイドが帰領を決めた。


翌日。

馬車に乗り込むロイドにアニエスがバスケットを手渡す。

「ろいどさま、はい。おやつちょーのおやつ。」

「え、いいの?」

「きょうのおやつはとくべつで、たくさん、はいってます。」

「ありがとう」

「……ひろいにわで、はしりたくなったら、たまにだったら、あそびにきてもいいよ」

「アニエスさまも、エビフライ食べたくなったら遊びにきてもいいよ」

「……あにえすでいいよ」

「ぼくもロイドでいいよ」

「うん。じゃあね、ろいど」

「うん、バイバイ。アニエス。」

互いに手を振り合い別れる二人の姿を少し離れたところから見守る。

馬車が出発し、見えなくなるまでその場で見送る。

少し寂しそうなアニエスは、

「きょうはおへやにいる。えりく、だっこ」

私に抱っこをねだる。

「はい。お嬢様」




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