232話 四傑候補⑧
「さて、ナギ君、向こうはやる気の様だ」
刀を構えた剣豪スケルトンは、そのまま動きを止めると、僕たちの事を待っている様である。
そんな様子を見て、僕とミヤさんは顔を見合わせた。
剣豪スケルトンの意図の確認とどちらが相手をするか、その相談である。
「アイツ、僕たちを待っているみたいですね。
そしたら、ここは僕に行かせてください。
アイツも同じ刀使いが相手をしたほうが嬉しいでしょうし」
「そうだね、じゃあナギ君に任せるよ」
剣豪スケルトンの実力は、立ち上がるちょっとした動作を見ただけで、洗練されたものであることが窺えた。
ユメが相手をするとなると未だ力押しである部分が否めないため、恐らくだが剣豪スケルトンに上手くいなされてしまうだろう。
そんな判断もあって、ミヤさんとの確認では僕が名乗りを上げることにした。
相手をすることになった僕は、〈アイテムボックス〉から神鉄製のただただ頑丈なだけの刀を取り出すと、剣豪スケルトンの待つ泉の中へと足を踏み入れる。
――ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ
泉の水深は足のくるぶし程度で、思った以上に浅い。
水中にある苔の生えた石に足を取られないようにだけ気をつければ、特に気にする必要は無さそうだ。
僕は剣豪スケルトンの待つ泉の中央付近に向かいながら、足元の状態を確認する。
そうして、相手から三メートルほどの所にたどり着くと、足を止めて、ゆっくりと刀を構えた。
――――――。
――――。
――。
些細な物音ひとつない、完全な静寂が場を包み込む。
そんな中で、僕と剣豪スケルトンは距離を取りながらも目を見合わせている。
戦いの火蓋は切られており、どちらが先に動き出すかの我慢比べが既に始まっていた。
――――――。
――――。
――。
静寂が体を蝕み、時間感覚がマヒしていく。
本当に数ミリだけ足や腕を動かし、剣豪スケルトンの動きを誘ってみるものの、こちらの意図は向こうも分かっているようで、動きに乗ってくることは無い。
それどころか、僕の動きに合わせて逆に挑発の動きを見せてくる。
微細なフェイントと動きの読み合いが幾重にも張り巡らされ、動きがなく膠着したにらみ合いが続く。
――――――。
――――。
――。
そうして、先にしびれを切らしたのは剣豪スケルトンの方だった。
――ピチャッ
水が跳ねる音と共に、剣豪スケルトンが一歩を踏み出した。
刀を振り上げると、水があるにも関わらず静かな足取りで、一気に距離を詰めてくる。
向こうが先に動いてくれたのであれば、好都合。
剣豪スケルトンの刀の間合いに入る、ほんの直前。
僕は一歩、前に踏み出した。
それが、剣豪スケルトンのテンポを狂わせる。
アイツは僕が接近をそのまま待つと睨んでいたのであろう。
僕が一歩前に出たことで、間合いに入るタイミングが早くなり、直後には焦ったようにして刀が振り下ろされた。
その軌道は読みやすく、ちょっと右にズレるだけで回避できる。
僕はその振り下ろしを回避した直後、手薄な胴を狙って袈裟斬りを――。
だが、そう上手くはいかなかった。
――ジャバッ!!
僕の回避とそこからの反撃を悟った剣豪スケルトンは、剣を振り下ろしながらも、物凄い水音を立てて、突進するかの如き勢いで僕の横を抜けていった。
止まって切り込んでくると読んで、振り抜かれた僕の反撃はそれを裏切られる形となり宙を空しく薙いだ。
そうして、体勢を立て直すと、互いに先ほどとは真逆の位置取りで向かい合う。
――――――。
――――。
――。
再びの読み合い。
そして、静寂。
――ピチャッ
――ピチャッ
今度の動き出しは、ほぼ同時だった。
互いに前進し、一気に間合いが詰まっていく。
――キィンッ!
刀同士がぶつかり合い、甲高い音を立てる。
そして、刀を引き戻すと互いに横向きのステップを踏みながらも、二合、三合と打ち合いを繰り返す。
刀が振るわれるたびに、キンッと響く甲高い音。
数秒の激しい攻防の末、刀の鍔をすり合わせると近距離でにらみ合うことになった。
「ふぅ、中々やるみたいだね」
鍔迫り合いの最中、剣豪スケルトンに声を掛ける。
向こうは喋れるようなレベルでは無かったらしく、返答はカタカタと顎骨を上下させるだけ。
そんな音から意図を読み取ることなど全くもって出来やしないが、何となくこちらの実力を認めているような雰囲気があった。
そんな一幕を挟んだ直後。
互いに再び距離を取って仕切り直しを図る。
――――――。
――――。
――。
そんなこんなで、僕と剣豪スケルトンの戦いは動きの読み合いと一瞬の激しい交錯。
静と動を繰り返しながら、互いの読みが、刀の冴えが、相手の一歩先に届くまで繰り広げられた。
* * *
「――王手、僕の勝ちだ」
刀の打ち合いから一転、静けさを取り戻した空間に僕の声が響く。
目の前には片膝をついてしゃがみこんだ剣豪スケルトン。
その脊椎には数ミリの間を開けて、僕の刀が突きつけられている。
そして、ここから数メートル離れた水中には一本の刀が沈んでいた。
カクッと頭蓋が大きく項垂れると、そのまま力なく水底に両手をつける。
その姿からはもう一切の戦意が感じられない。
どうやら、僕の勝利宣言を受け入れたようである。
それを確認した僕は、そっと刀を引くと〈アイテムボックス〉へと収納する。
そうして、動きのない剣豪スケルトンに背を向けると、ミヤさんとユメの待つ泉の縁へと戻ることにした。
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