233話 四傑候補⑨
「ナギお兄様、とっても凄かったです!」
「お疲れ様、ナギ君。
とても良いものを見せてもらったよ」
戦闘を終えて泉の縁に戻った僕を出迎えたのは、待っていた二人のそんな声だった。
僕は水でひたひたになった足元を魔法で一気に乾かすと、ユメの手を借りて地上に上がる。
「ふう、お待たせしました」
「いやいや、待たせたなんてとんでもない。
僕もユメ君も、とても楽しませてもらったさ」
チラリと見たユメの目にはキラキラとした羨望の眼差しが浮かんでおり、ミヤさんの方も口元が少し緩んでいた。
待たせてしまったというのは、どうやら僕の杞憂だったみたいだ。
「まあ、とりあえずここにいるのもアレだし……。
続きは戻りながら話そうか」
そう言って、ミヤさんが視線を向けたのは泉の中。
僕が打ち負かした剣豪スケルトンは、未だに先ほどの体勢のまま泉の中にいた。
今回は倒し切ることなく寸止めで留めてあり、アイツからは確かな魔力反応を感じている。
戦っている最中に、剣豪スケルトンからは確かな意思が感じられた。
まだ確かに存在はできているはずなのに動こうとしないというのは、よほど今回の敗戦が堪えたのかもしれない。
そうして、僕たちは剣豪スケルトンに背を向けると、静かに来た道を引き返すのだった。
「ナギ君、剣豪スケルトンと戦ってみて、どうだったかな?
戦った本人の率直な意見を聞かせてほしい」
「そうですね、技という観点で見れば非のつけようがないレベルで仕上がっていましたね。
ひとつの流派を打ち立ててもおかしくないくらいには」
しばらく歩いたところで、ミヤさんが話を切り出した。
あの剣豪スケルトンを慮って、話し声を立てずに移動してきたが、そろそろいいだろうとの判断かな。
「技と言う観点、と前置きしたということは他に何か問題があったのかな?」
「ええ、と言っても傍から見れば本当に些細なことですが。
魔物としての本能とでもいう部分でしょうか、どこか勝利への執着、他者への圧倒。
そういった部分が剣筋に出すぎていて、いくらか悪手な動きになっている時がありましたね」
「そこは……魔物であるが故、仕方のない部分ではあるだろうね。
この生存競争の激しい魔境の中でなら、なおさら」
ミヤさんは、僕の感想を聞いて色々と考え込んでいた。
刀を使うスケルトンと言う極稀な事例な上、自身のあまり詳しくない刀の扱いの分野。
考えることは、たくさんあるのだろう。
その後も、ミヤさんからは戦闘時における細かな機微を根掘り葉掘り聞かれることとなり、僕はそれに一つ一つ丁寧に答えていくこととなった。
ちなみに、僕の話を横で聞いていたユメは終始真剣な目つきで話を聞いていて、自分の剣を刀に見立てて素振りなんかもしていた。
刀に興味が出てきたっぽいので、魔境から帰ったら、ユメ用に刀を一振り打ってあげるのも良いかもしれない。
* * *
気づけば魔境に入ってから、もう一月以上が経っていた。
それに気が付いたのは、最後の四傑候補の魔物を確認し終えた後、ミヤさんにいったん村に戻ろうかとの提案を受けた時のこと。
改めて、考えてみれば当初の目的であるユメの特訓については一段落ついている。
今はユメの身体に因子操作を馴染ませていっている状態で、時に身を任せるほかない。
そして、ミヤさんの方の用事もつつがなく完了したとの事。
そう思うと魔境内に留まる必要性は、特にないということに気が付いたのだ。
ということで、ミヤさんの提案に賛同した僕たちは、魔境の入り口となっている村へと戻ってきていた。
「よし、三人とも何事もなく戻ってこれたね。
ひとまず、門を開けてもらおうか」
魔境内は秋が深まって来ており、魔物の縄張り争いが激化しつつある。
だが、弱者が淘汰されつつあったことで、逆に僕たちの実力を察することのできる魔物たちが多くなり、行きよりも手こずらずに戻ってくることが出来た。
ミヤさんは目の前の巨大な門に備え付けられていた魔道具の鐘を打ち鳴らす。
これは村内にあるペアになった鐘と繋がっており、そちらを鳴らして連絡するためのものだ。
門はこの音を聞いた門番が開けてくれることになっているらしい。
だが――。
「おかしいな……、中々開けてもらえない」
鐘を鳴らしてから待つこと数分。
未だに門が開く気配はなく、僕たちは待ちぼうけを食わされていた。
前回は十数秒ほどですぐに開いたはずなんだけど、今回はその何倍もの時間を待っているが音沙汰がない。
「もう一度、鳴らしてみようか」
そう言って、ミヤさんは再び鐘を鳴らした。
それから1分ほどした後。
――ギギギギィ
重苦しい音を立てて、門に人が通れるくらいの隙間が開いた。
その瞬間を待っていた、僕たちはすぐにその隙間を抜けて村の中へと入る。
「申し訳ありません、お待たせしましたっ!」
村に入るなり、僕たちは頭を下げた門番にそう出迎えられた。
彼の肩は荒い息で大きく上下しており、急いで門を開けてくれたのは確かだろう。
「いや、特に何かあった訳でもない、気にしなくていいさ。
それよりも、対応が遅れたというのは村内で何かあったのかな?」
「い、いえ、それは……」
そのまま、門番に話を聞こうとしたが、返ってきたのは歯切れの悪い返事だけ。
それだけで何か人には言えない事情がありそうだと察せられた。
「あっ! ミヤさんっ! ちょうど良い所に!
お力をお貸しくださいっ」
その時、目の前の大通りを走って横切ろうとしていた男が、こちらに気づいて勢いよく足を止めたのだった。
最近、週2更新が復活しつつありますが……、次回の更新、最悪は来週の日曜になりそうです。
と言うのも、シルバーウイーク中に泊りがけの用事がありまして、移動時間に執筆できるもののどこまで完成させられるかが、ちょっと不透明です。
ですので、完成すれば次の20日・23日に更新、無理であれば26日の更新とさせてください。
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