230話 四傑候補⑥
オークと七支狼、双方の魔物を直接確認したミヤさんは、そこで見切りをつけた。
待っていたオークキングの持つ能力はありふれたものであり、互いの縄張り争いの戦況も膠着状態。
そこから、オークたちが陣地を形成し始めていたのが最後の一押し。
決着が長引くと判断したミヤさんの決定で、決着は見届けずに切り上げることとなった。
そうして、またまた魔境内を移動すること数日。
僕たちは、次なる四傑候補の縄張りへと足を踏み入れた。
「さて、僕の探知した範囲だとここで四傑候補の魔物はラストだね。
いやあ、このエリアを縄張りにしているなんて、いつ以来だろうか。
最後を締めくくるのに、面白そうな気配がプンプンするよ」
そう言って、ミヤさんがかなりの期待を寄せているだろうことがうかがえるこの場所はどこかと言うと――。
魔境の最奥、領域の中心にそびえ立つ大火山。
秋の終わりを告げる大噴火、その時を今か今かと待ち望みながら活動を始めている火山の麓に来ている。
「これがネフレスト大火山……。
現時点で、すでに活動は始まっているんですね」
「すごいっ。
大きくて、何もない……」
遠目にずっと見えてはいたが、麓から間近で見るとその大きさは桁違いに大きく見える。
その荘厳さを更に高めているのは、その山肌。
ほんの少し上がった所から既に生の気配が無くなり、植物ひとつ生えていないゴツゴツとした威圧感のある岩肌が果てしなく空まで続いている。
そして、山頂は雲を二層も三層も貫いた天高くに位置し、麓からはその様子をつぶさに観察することは出来ない。
そんなネフレスト大火山であるが、目に見えて噴火の予兆を見せていた。
ぱっと見でも岩肌の数か所にある亀裂から、硫黄を含んで若干色のついたガスが噴出しているし、時折、ゴゴゴゴという低い地鳴りが響いてくる。
そうした状態であるためか、周囲に動物がいる気配も一切感じられない。
「ああ、ここが魔境で唯一年を跨いでも変わらずに環境が残される場所。
そして、一年のループの始まりと終わりを告げる噴火を齎す火山。
この大魔境の核心、ネフレスト大火山さ」
前にも少し確認した気がするが、この魔境では一年ごとに火山の噴火によって環境がリセットされる。
噴石や溶岩流によって、魔物や動植物すべての生命が死に絶え、大地さえも数か月で全く別のものへと変容させる。
それを引き起こすのが目の前にあるネフレスト大火山だ。
「遠くから見ている分には絶景でしたけど、近くまで来ると火山活動の動きも相まって威圧感の方が強いですね。
にしても、こんな場所に四傑候補が?」
「うん、僕も最初は何かの間違いかと思っていたけど。
暫く観察していた感じ、そうでは無さそうなんだよね」
ミヤさんもどうやらこの場に魔物がいること自体は半信半疑みたいだ。
今でも少し自信が無さそうな感じをしている。
「魔物がいるのは山のどの辺りですか?
さすがに山頂はないと思いますけど……」
目の前の岩山は見渡す限り、歩いて登っていけるような平坦になっている道のようなものはなく、魔法を使って道なき道を切り開くしかないだろう。
その上、火山活動の影響で不意の落石だったり高温ガスの噴出、有毒な空気などなど登るには環境が悪すぎる。
「ああ、道の心配かな?
それは、問題ない。
魔物がいるのは中だ」
「中と言うと、火口ですか?」
「いや、火口ではないよ。
説明するよりも、一見に如かず。
すぐ近くだから、そこに着くまでのお楽しみとでもしようか」
ミヤさんは悪戯っぽい笑いを浮かべながらそう言うと、こっちだよと指を指し示す。
その先にあったのは、火山の岩壁と樹林の境に出来上がった細い道のようなもの。
道っぽくはあるが、誰かが通った形跡は無く、自然と出来た歩きやすい場所という感じである。
そんな道を、ミヤさんを先頭にして進み始めた。
道はあくまで、自然とできたものである為、所々で落石や枝葉が鬱蒼と茂っている場所があり、定期的にそれらを排除して草木をかき分けるようにして森を進む。
幸いだったのは、魔物との遭遇が無かったことだろうか。
そうして、道を切り開きながら歩くこと十数分――。
「お、目的地はもう目の前だ。
水の音がするのは分かるかな?」
――チョロチョロ
それを聞いて、耳を澄ませてみれば確かにその通り。
サワサワと草木が風で揺れる音の中に、僅かにだg水がか細く流れるような音が聞こえてくる。
「確かに、聞こえてきますね」
「ふふっ、そうだろう。
そして、そんな事をしている間に、もう目的地が見えたぞ」
そう言われて、前を見てみれば木々の隙間に何かがあるのが見える。
耳に意識を済ませていたせいで、周囲の確認がおろそかになっていたが、気づいたらそれが見えていた。
「あれは……洞窟、ですか?」
木々の隙間から見えたのは、岩壁あいた洞窟の壁のようなもの。
全景は見えないが、洞窟は人が横に並んで数人は入っていけそうな幅がありそうだ。
「いや、洞窟とはちょっと違うかもしれないな」
ミヤさんがそう言った瞬間、森が開けている場所へと出てきた。
先ほど聞こえてきた水の音は、ここの開けた場所に川が流れている音。
川幅は二メートル近くあって広いのだが、水深は浅く指の第一関節分しかない。
そして、その川がどこから流れてきているかというと、目の前にある火山の岩壁に出来た裂け目からである。
先ほどまで見えていた洞窟らしきものは、正確には岩壁の間に出来た峡谷の一部。
V字にできた渓谷の両側の壁は数十メートルあり、その底に目の前まで続いている川が流れていて、その両サイドに人が歩けるような道が奥に続いている。
「確かに、上が開けてるので洞窟ではないですね。
それで目的の魔物はこの奥ですか?」
「ああ、気配的におそらくこの奥だろう。
動き回っている感じはしないから、様子を見つつ静かに向かおうか」
「了解です」
そうして、僕たちは渓谷に足を踏み入れるのだった。
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