229話
「何かあるとは思ったが、狼の魔物の方も単体では……」
森から聞こえてきた遠吠えは、複数あった。
なので、最低でも狼の魔物はその遠吠えの数ぶんはいるのだろう。
と、そんな考察をしていた所で、僕たちは衝撃的な光景を目にした。
「%$#!」
生き残ったオークたちは、森に木霊する遠吠えを聞くとリーダー格の指示によって散開して槍を構え、周囲の警戒をする。
そして、三方向を向いた部下の中心、倒した狼の魔物の前でリーダー格のオークはどっしりと構えて、同じく周囲を警戒していた。
そんな時に、それが起こった。
張りつめた緊張の中。
オークたちが周囲の森へと視線を向けていて、誰の目にも留まらぬ中、彼らの足元で赤く染まった双眸が再び開かれた。
黒い巨体の脳天からダラダラと流出していた血は、いつの間にか出口であった傷口ごと消え去っていて――。
――ムクッ
一切の音を立てずに起き上がったソレは、目の前にある無防備な頭へと自慢の牙の狙いを定める。
オークたちに気づかれることなく開かれた大きな顎は、そのままリーダー格のオークの頭部を喰らい噛み千切った。
「――#$%……グァ……ッ」
そこで漏れ出したリーダー格の断末魔が、残っていたオークたちに脅威の出現を伝える。
だが、統率者を失ったオークたちには、もうソレをどうにか出来る力など残ってはいなかった。
そうして、十数秒後。
バラバラに引き裂かれたオークの死体が、新たに三つ出来上がっていた。
「やはり、狼の魔物の方も特殊な能力を持っていたね」
惨劇が終わり、狼の魔物は死体に目もくれず森の奥に消えていく。
それを見送ったところで、ゆっくりと会話の出来る時間が生まれた。
「復活……いや、条件付きの復活か。
七匹でワンセットになっていて、その内の一匹でも生きている限り他も死なない。
復活に際しては、生きている仲間の遠吠えが必要って感じかな」
ミヤさんは確認した情報を一つ一つ口にして、整理していく。
その情報は僕が〈鑑定〉で確認したものと相違ないため、特に口を挟むことなく相槌を打つにとどめた。
「七匹はけっこう面倒ですね。
ただ、遠吠えさえ何とか止められれば……、やり様はありそうですね」
同時に倒さないといけないのに、すべてが別個体というのが厄介すぎる。
似たような同時に倒す系の魔物のヒュドラとかだと、同じ本体から首が分かれているだけなので、倒す対象はその場にいる。
だが、今回の狼の魔物はそれぞれ別の胴体を持っているため、今もそうだが数キロ離れた場所に点在しているので、それを一か所に集めるなり、その距離間で仲間とタイミングを合わせて攻撃するなりをする必要があるという事。
普通の同時討伐に比べて、労力が桁違いになっている。
「いやはや、同時討伐はある程度オーソドックスな能力とはいえ、魔境産ともなると面倒くささが段違いだね。
あの狼の魔物は七身一体と言っていいだろうから……七支狼とでも名付けようか」
「七支狼、確かにピッタリなネーミングです。
にしても、オークの方はあれを倒せるんですかね?」
「ん~、トップの支配個体がどれほどかによるね。
まだ、姿が確認できてないから詳しくは分からないけど……、彼らの使ってる武器・防具だったり、戦術を見る限り人並みの知力がありそうだ。
それこそ、参謀とかに据えられる程のね。
となると、どのタイミングでオークたちが七支狼の復活条件に気づけるかに掛かってるね」
オークたちが勝つには、まず七支狼の復活の条件を見抜く必要がある。
その上で、七匹の狼を同時に倒す必要があるため、その条件を把握した時点で倒すのに足る戦力を残している必要がある。
「七支狼がオークの戦力を削り切るのが先か、オークが復活対策に動くのが先か。
どちらが先に相手を詰ませるかの勝負ですね」
「そうなるね。
はぁ……、これは長期戦になりそうだ」
ミヤさんは眼下の森に視線を向けながら、静かなため息と共にそう漏らすのだった。
* * *
それから動きがあったのはその三日後。
昼下がり、腹ごなしがてらユメに特訓をつけている時のことだった。
「二人とも、やっとトップがお出ましだ。
あれは、オークキングに……。
珍しいっ! クイーンもいるじゃないか」
ミヤさんが僕たちのを呼んだかと思うと、すぐに歓声をあげた。
ちょうど組み合っていた僕たちは目を見合わせると、そのまま互いに手を止めるとミヤさんの元へと向かい、崖下の森をのぞき込んだ。
「二人とも、向こうだ。
かなり右の地平線に近いところ。
いま、陣地を作っているようだから分かりやすいと思うよ」
横からミヤさんの案内が入る。
それに従って、右へと視線を向けてみたが、普通に見ただけじゃ何が何だか分からない。
地平線近くとのことだったので、強めに視力強化を入れて端から流して見ていくと、そうと分かる場所がすぐに見つかった。
「ああ、あそこですか。
確かにオークたちが森を切り開いていますね。
それで、あの中心にいるデカい二体がキングとクイーン」
目に入ったのは、忙しなく動き回っている百体近いオークの軍団だ。
彼らは、木を切り、枝を払い、材木を運び、建材への加工と複数の作業を分業してこなしていた。
最終的に行っているのは、整えた陣地の外周に簡易的な木壁の展開だ。
そして、その中心でオークたちに囲まれて指揮を執っていたのは、他より一回りも二回りも大きい二体のオーク。
その二体は全身を魔物の皮や鱗などを使って作られた頑丈な鎧を着こんでおり、他のオークに比べて明らかに強そうな見た目をしている。
ひと目で、その二体が軍団を率いていると分かった。
「能力は……軍団強化系か。
特に珍しいわけでもなし、順当に数の暴力で蹂躙する感じだね」
キングとクイーンの能力を確認したが、揮下のオークの様々な能力を強化しつつ、それを自身にも還元するというものだった。
これは、魔境外の一般的なキングやクイーンも持っているもので、効果量は数段上がっているものの、特に珍しいオークと言うわけでは無さそうだ。
「うん、数日待ってみてこれかぁ。
とりあえず、確認は出来たから次の魔物を探しに行こうか」
ミヤさんはオークの鑑定結果を見て、それが一般的なものだと知るや、肩を落として残念がる。
そして、そう言い残すと広げていた荷物をとぼとぼとまとめ始めたのだった。
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