212話 幕間:勇者ラフィーネ⑥
「はぁ、はぁ、やっと……」
獣魔王の討伐から、ひと月と少し。
人目を避けるように森の中を移動して、私の故郷の村の近くにやっとたどり着いた。
獣魔王の討伐直後のイーリスたちの裏切り。
あの時の彼女たちの話しぶりからして、どうやらそれは旅の始まりの時点で計画されていたみたい。
ただ、それを知っていてなお、ドライクは私の味方をして逃がしてくれた。
その後に流れてきた噂で、私は自分の結末を知った。
王国は獣魔王討伐の達成を高らかに宣言し、獣人族の勇者は魔王と相打ちになって死んだと発表した。
私は、公的にはすでにこの世にいない存在となった。
だが現実には、生きている。
死んだはずの勇者が生きている。
その事実は、貴族・教会の連中にとってはあまりにも都合が悪い。
そのためか、このひと月、私には何度も刺客が差し向けられた。
どれも退けることはできたが、そのたびに足を止められ、ここまで辿り着くのに余計な時間をかけることになった。
ただ、ここ一週間は刺客の姿は見ていないし、やっと撒くことが出来たのだろう。
「なに、これ……」
やっとのことで、たどり着いた故郷の村の様子は悲惨だった。
そこに、私の暮らしていた頃の村の様子は一切ない。
外周を囲んでいたはずの丸太の柵は焼け落ちぼろぼろに。
中にある家々も、黒く焦げていたり、つぶれていたりと散々なありさまだった。
「誰か、誰かいないの!?
ナギお兄さん!!」
崩れた家の間を進み、村の奥へと向かう。
声を張り上げて、呼びかけるも応えはない。
とにかく、無心に歩き続け、村の反対側へ――ナギお兄さんと暮らしていた家に向かった。
「ナギお兄さん!」
ナギお兄さんと住んでいた家は、無事に元の形を保っていた。
足早に玄関に向かうと、勢いよくドアを開ける。
だが、中から返事が返ってくることは無い。
「お兄さん……」
家の中は特に荒らされた様子はない。
だけど、ナギお兄さんはいない。
村の様子から考えれば、襲撃にあった村の人たちに付いて行ったんだと思う。
私は家の中でしばらく、なにか行き先のヒントが無いか探すことにした。
「ん?」
と、その時だった。
悪寒を感じて、私は近くの窓から身を家の外に投げ出す。
その直後。
――ズドォォォォン
三方向から飛んできた巨大な火球が、家へと直撃した。
最初の衝撃で半ば崩れ落ちた家の残骸が、私の背後でダメ押しとばかりに炎に包まれる。
周囲を見渡せば、いつの間に集まってきたのか。
完全武装をした至人教の騎士たちが私を囲んでいる。
「勇者ラフィーネ……いや、元勇者ラフィーネよ。
貴様の役目はもう終わった。
大人しく、消えるがよい」
そう言いながら、声の主が騎士たちの間よりゆっくりと姿を見せる。
その人物は大司教レオグラン。
私をこの村に迎えに来た男だ。
「そんなの、受け入れるわけないでしょ!」
「フンッ、獣風情が一人前にわめきおって――」
アイツの口を塞ぐため、私はその言葉が言い終わる前に剣を持って飛び出していた。
私とアイツとの間に、障害は無い。
これなら、すぐに首を――。
「これでもか?」
そう思って、剣を振りかぶった直後。
レオグランが足元に置いていた何かを、片手で引き上げて掲げた。
「――っ!?」
ソレを認識した瞬間、私は反射的に剣を止めていた。
刃はレオグランが持ち上げたモノの直前でピタリと止まっている。
「お前っ!」
ソレの正体――ぐったりとした獣人の少年に気が付いた私は、怒声を上げた。
アイツらは、獣人を人だとは思っていない。
それが、まざまざと見せつけられて頭に血が上っていた。
私は、いちど距離を取ってレオグランをにらみつける。
「ハハハハッ――、さすが勇者。
コレはさすがに切れませんか。
ならば僥倖、お前たち、やれッ!」
レオグランは高笑いをしながら少年を見せつけるように振り回すと、周囲にいた騎士たちを私にけしかける。
だが、それに屈するような鍛え方を私はしていない。
これ位の事ならば、障害にもならない。
「はぁっ」
騎士たちが剣を抜いて近づいてくるのを脇目に。
私はひたすら剣を研ぎ澄ませる。
そうして、騎士たちの包囲の輪が狭くなった瞬間、レオグランの表情に満面の笑みが浮かべられたその時。
誰の目にも留まることのない、一瞬の高速移動。
そして、私は剣を素早く振り抜いた。
「ハハハッ、死ねe――――」
高笑いしていたレオグランの首がゆっくりと重力に従って落下し、ボトリと地面に転がる。
そんなことには目もくれず、レオグランだった骸から私は獣人の少年を奪い返した。
抱えこんだ少年の体はまだ暖かく、口元からはかすかに呼吸音が聞こえる。
まだ、死んでない。
「ヒィッ――」
血に塗れたままの剣を近くにいた、レオグランの従者であろう男に突きつける。
男は私がにらみつけると、そんな情けない声を上げると、腰を抜かしてその場に座り込んだ。
そうして、周囲にいる騎士たちの腰が少しだけ引けたのを確認すると、私はその隙に少年を連れてその場を離脱した。
* * *
あれから、私は獣人族の集団に合流することが出来た。
その集団は教会騎士に襲撃を受け、村を追われた獣人たちの集まりだ。
そこには私の故郷の村にいた人たちも合流していて、奇跡的に助けた少年を無事に家族の元へと届けることが出来た。
そこで、ナギお兄さんの事も聞けた。
村の人曰く、魔王討伐の直後に襲ってきた教会騎士団から村の人たちを逃がすために殿を務めたらしい。
けど、それ以降は戻ってこずに行方不明とのこと。
すぐにでも、探しに行きたかったのだが何も手がかりが無かった。
それに、直後に布告された宣言によって、私の行動は大きく制限されることになる。
――獣人族掃討宣言
それが、ヒューマニスト王国と至人教が共同で出した、宣戦布告とも見て取れる宣言の名前だ。
今回で終わらせるつもりだった、けど無理でした……。
なので、次回、幕間完結‼
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