211話 幕間:勇者ラフィーネ⑤
「■■■■■■■■■■■■!!!!」
――ズガガガガッッッ
獣魔王の肥大化した腕に備え付けられた鋭い爪が、地面に五本の筋を刻みながら迫る。
「俺が受ける」
大盾をすでに構えていたジールがその攻撃の射線に入る。
そうして、獣魔王の切り裂き攻撃はそこで阻まれた。
「ドライク、ダムド、いくわよ!」
ジールが獣魔王を抑えたタイミングで、イーリスが残りの二人に声を掛けて連携をとる。
「おう、準備は出来てるぜ!」
「……ああ」
二人は同時に返事を返す。
それを確認したイーリスは、用意していた魔法を発動させた。
「ライトニング・レーザー」
杖の先端から放たれた白いレーザーが放たれる。
一直線に放たれたそれは、狙いを違わず獣魔王の左目を貫く。
「グガ■ァ■ガ■■ァァァ!!!」
痛みに獣魔王がのけぞると同時に、ジールが盾を押し込む。
その勢いでグラリと獣魔王の体が揺れる。
「よっしゃ、じゃあ行くぜ!」
直後にドライクが動き出す。
「行けっ!」
後方に構えていたドライクは、助走をつけてジールの背に向かって走り出す。
そして、タイミングよく掲げられたジールの盾を足場に、宙へと踊り出した。
「食らえッ!」
獣魔王の頭を飛び越える高さまで飛び上がったドライクは、そのまま飛びつきながら剣を振るい、残っていた右目を切り裂いた。
「グガ■ァ■ガ■■ァァァ!!!」
黒々と染まった血しぶきが飛び散るとともに、再び獣魔王が絶叫する。
だが、攻勢はそれだけでは終わらない。
「おら、よっ!」
切り抜けて獣魔王の背後に回っていたドライクは、するりとその懐に飛び込んで脇腹に力強い蹴りを差し込む。
「グ■■ル■■ッ■」
両目を失い、バランス感覚を喪失した中での衝撃。
獣魔王はよろめき、フラフラと横に数歩移動する。
――カチッ
ドシンッ、ドシンッと響く力強い足音の中に、そんな小さな音が紛れて聞こえてきた。
その直後。
――ドガァァァァンッッッ!!!
獣魔王の足元から、爆風が巻き上がる。
爆風の原因はダムドが設置した地雷トラップ。
トラップの威力は馬鹿にできず、その場に小さなクレーターを作りだしていた。
その直撃を食らった獣魔王は、体中に吹き飛んだ地面の破片が突き刺さって黒い血を体中から垂れ流している。
「ダムド、準備は?」
「できている」
イーリスは音もなく傍に現れたダムドに、短く確認を取る。
「ありがとう。
それじゃあ、『四方基陣・光縛魔封』」
魔王の周囲を囲うようにして、方形を描く四点から光の柱が発生する。
そして、その中に魔方陣が展開されるとともに、ガクンと獣魔王が膝をつく。
同時に起点となる四点から光線が生まれ、一点に収束すると四角錐の結界が展開。
そのまま頂点が下がっていき、中にいる獣魔王を押しつぶしていく。
「勇者様!
最後、お願いしますっ!」
「うん、みんなありがとう!」
そうして、バトンが最後に私の所へと回ってきた。
私は剣を握りなおすと、みんなの奮闘の間に溜めていた力を一気に開放する。
「獣魔王ッ! これで、終わりにするよっ!
〈ホーリー・ドライブ〉!」
魔力を溜め続けた私の剣から、黄色い聖なる光が迸る。
解き放たれた力と共に飛び出した私は、一条の光となり獣魔王の心臓を貫いた。
* * *
そうして、獣魔王の討伐は完了した。
世界の脅威が取り除かれたことで、ナギお兄さんとの平和な暮らしがまた再開できると思っていたのだけど――。
私の地獄は、むしろここから始まった。
「『領域封鎖』」
いきなり、私の足元に魔方陣が広がった。
直後には魔法で作られた光の鎖が私の全身に絡みつき、動きを阻害している。
「ダムド、お願い」
「ああ、手早く済ませる」
私を拘束する魔法を発動させたのは、イーリスだった。
イーリスに声を掛けられたダムドは、懐から短剣を抜くと私の方に刃を向けて真っすぐ向かってくる。
「イーリス、これはどういうこと?」
「獣もどきがっ! 私に声を掛けないで。
オマエの役目は獣魔王を倒すことだけ。
分かる? もう用済みなの」
イーリスからそう告げられるとともに、ダムドの刃が目前に迫っていた。
その刃は明確に私の首を狙っている。
私はその刃が届く前に何とか拘束を抜け出そうと、もがいて手足をじたばた動かしてみるが鎖はきつく締まっていて、抜け出せるような気配はない。
――カァァァン!!
刃が私の首筋に届く寸前。
甲高い音が響く。
直後に、遠くでカランと短剣が地面に転がった。
「ドライク?
貴方、その獣もどきを庇う気?」
私を庇うように背を向けたドライクが、私の前に立っていた。
ドライクは割り込むと同時に、ダムドの持っていた短剣を弾き飛ばしている。
そうして、得物を失ったダムドは曲芸的な動きで、イーリスの傍へと戻っていった。
「ああ、イーリスこそなんで勇者様を殺すんだ?」
「そんなの貴方も分かっているでしょう。
そいつは獣人、獣もどきよ!
そんな奴と一緒に過ごしてたなんて、虫唾が走るわっ。
それに、貴方も聞いていたでしょう」
「陛下の話か?
勇者を殺せだとか言ってた奴」
「そうよ、だからそこをどきなさい。
私の出世だって掛かってるんだから」
杖をこちらへ向けたイーリスが、ドライクにその場をどくように迫る。
だが、ドライクは私を庇ってどくつもりはなさそうだ。
二人が話している隙に何とか鎖を抜け出せないかともがいていたところ、鎖の一部に脆弱な部分があることに気が付いた。
そういった箇所があるのならば、話は早い。
その個所にひたすら魔力を込め、キャパオーバーによる魔法の崩壊を狙う。
――カシャン
狙いは的中。
もろい部分から鎖が砕け散ると、その崩壊は魔法全体に広がっていき、一瞬の内にすべての鎖が消え去った。
「勇者様! すぐにここから逃げてください!
この魔王討伐部隊のほとんどが、貴方の命を狙ってます」
「で、でも、ドライクはっ!」
「俺は大丈夫です。
たとえ捕まったとしても、死ぬことは無いですから。
だから、行ってください」
ドライクはじりじりと下がり、私の傍に来ると逃げるようにと私の体を押す。
「ドライク、その選択でいいのね。
手加減はしないわよ」
「ああ――俺は、そのつもりだ」
そうして、イーリスの魔法が放たれると同時に、ドライクはその魔法に向かって飛び込んでいく。
その背を見て一瞬、ほんの一瞬だけ次の行動に迷った。
それでも私は、ドライクに背を向けることを選んだのだ。
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