Myth ~Ragnarok~〈Celosia 2〉
たくさん泣いた。枯れるかと思ったけど、枯れなかった。まだ出る。
でも、もう十分だ。
グローブを嵌めて、ブーツを履いて、杖を握る。
もう、大丈夫だ。
「ヘイムダル様」
ビフレストの門の前。完璧に戦闘準備が整ったヘイムダル様の隣にあたしも並ぶ。
あたしの姿を見て、彼は少しだけ目を見開いた。両目ともさらした彼の顔。うん、こっちの方がやっぱりかっこいいかな。
「セロシア、その剣は……」
「あたしの剣です。必要でしょう? 戦うなら」
その言葉に何か言いかけて、彼は口をつぐんだ。
そのまま膝を折り、あたしの目を下から見上げてくる。何でも見透かされてしまいそうな、綺麗な銀の目。
「良いのか? おそらく、死ぬぞ」
「はい……」
「あとを追おうなどと考えているなら」
「違います」
彼の言葉を、先にさえぎった。
最初はそう考えた。あたし達は二人で一つの双子。片方がいなくなってしまったら意味はない。だから、あの子がいないのなら、あたしも、と。
でも、きっとそんなことしたら、あの子は怒るし、泣く。
「セルリア、きっと自分の信じたことを貫いて、それで、守りたいものを守るために、最後まで頑張ったんだろうなって、思うんです」
あの子が見てきたロキ様の姿。それを信じて、そして守りたくて、敵わない力だと分かっていても、逃げようとはせずに向かっていったんだと思う。
それぐらい、分かる。
「あたしが、ヘイムダル様と一緒に戦うってことは、セルリアの守りたいものと敵対するってことです」
あの誰よりも純粋で、優しく、強く、弱かった人。
あたしの誰よりも大切な子が、あたし以上に求め、選んだ人。
その人と敵対することは苦しくて、悲しくて、辛い。
「セルリアを殺した人に、味方することにもなります」
あたしの大切な子を奪ったオーディン様。それを許すことはきっと一生できない。だって、自分の一部を失っちゃったのと同義なんだもの。
「考えました。たくさん。本当にそれで良いのかって。後悔しないのかって、納得できるのか、って。で、ちゃんと答えを出しました」
「答え?」
眉をしかめたヘイムダル様。
良かった。この人はいつもと同じだ。何も変わらない。どんな時も、あたしの知っているヘイムダル様だ。
「あたしは、貴方の従者です」
そう、ハッキリと宣言すれば、この人はずっと昔、同じ言葉を告げた時のように呆けた顔。なかなか見れないわよね。ヘイムダル様の目が丸くなるところなんて。
「セロシア」
そのまままだ何か言おうとするから、思い切って抱きついてみた。
「セルリアは、自分の信じたものを貫いて、守りたいものを守って逝きました。なら、あたしもそうしたいんです」
ギュウッと抱きしめれば、彼も少しだけ力を込めてくれる。
うん、本当にもう、大丈夫。
「ヘイムダル様の傍に、いさせてください」
ねえセルリア。あたしちょっと嫉妬したの。セルリアがロキ様を選んだことに。
でもね、今ならその気持ち、よく分かるよ。
どうしようもないよね、この気持ちは。
「セロシア」
「はい」
ゆっくり体を離して、立ち上がったヘイムダル様を見上げる。
これが、いつもの視線。
「離れるなよ」
「はい!」
セルリア、怒ったりしないよね。
あたし、胸張って言えるよ。
セルリアの大事な人と敵対することになるけど、でも、あたしの想い、分かってくれるよね。あたしの、たった一人の半身なら。
グッと拳を握った瞬間、遠くから、けれど、信じられないほど大きな遠吠えが響いた。
「っ! この声!?」
聞き覚えのある、狼の遠吠え。
「始まったか」
次の瞬間、太陽と月が、消えた。
漆黒の闇にぽつぽつと浮かぶ、魂のような無数のかがり火。
(セルリア、見届けてね)
あたしを、ヘイムダル様を、そしてあの人を。
これから始まる運命の戦い。最後まで戦い抜くから。




