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Myth  作者: 詞葉
Myth 外伝
80/83

Myth ~Ragnarok~〈Celosia 2〉

 たくさん泣いた。枯れるかと思ったけど、枯れなかった。まだ出る。

 でも、もう十分だ。


 グローブを嵌めて、ブーツを履いて、杖を握る。

 もう、大丈夫だ。


「ヘイムダル様」


 ビフレストの門の前。完璧に戦闘準備が整ったヘイムダル様の隣にあたしも並ぶ。

 あたしの姿を見て、彼は少しだけ目を見開いた。両目ともさらした彼の顔。うん、こっちの方がやっぱりかっこいいかな。


「セロシア、その剣は……」

「あたしの剣です。必要でしょう? 戦うなら」


 その言葉に何か言いかけて、彼は口をつぐんだ。

 そのまま膝を折り、あたしの目を下から見上げてくる。何でも見透かされてしまいそうな、綺麗な銀の目。


「良いのか? おそらく、死ぬぞ」

「はい……」

「あとを追おうなどと考えているなら」

「違います」


 彼の言葉を、先にさえぎった。


 最初はそう考えた。あたし達は二人で一つの双子。片方がいなくなってしまったら意味はない。だから、あの子がいないのなら、あたしも、と。

 でも、きっとそんなことしたら、あの子は怒るし、泣く。


「セルリア、きっと自分の信じたことを貫いて、それで、守りたいものを守るために、最後まで頑張ったんだろうなって、思うんです」


 あの子が見てきたロキ様の姿。それを信じて、そして守りたくて、敵わない力だと分かっていても、逃げようとはせずに向かっていったんだと思う。

 それぐらい、分かる。


「あたしが、ヘイムダル様と一緒に戦うってことは、セルリアの守りたいものと敵対するってことです」


 あの誰よりも純粋で、優しく、強く、弱かった人。

 あたしの誰よりも大切な子が、あたし以上に求め、選んだ人。

 その人と敵対することは苦しくて、悲しくて、辛い。


「セルリアを殺した人に、味方することにもなります」


 あたしの大切な子を奪ったオーディン様。それを許すことはきっと一生できない。だって、自分の一部を失っちゃったのと同義なんだもの。


「考えました。たくさん。本当にそれで良いのかって。後悔しないのかって、納得できるのか、って。で、ちゃんと答えを出しました」

「答え?」


 眉をしかめたヘイムダル様。

 良かった。この人はいつもと同じだ。何も変わらない。どんな時も、あたしの知っているヘイムダル様だ。


「あたしは、貴方の従者です」


 そう、ハッキリと宣言すれば、この人はずっと昔、同じ言葉を告げた時のように呆けた顔。なかなか見れないわよね。ヘイムダル様の目が丸くなるところなんて。


「セロシア」


 そのまままだ何か言おうとするから、思い切って抱きついてみた。


「セルリアは、自分の信じたものを貫いて、守りたいものを守って逝きました。なら、あたしもそうしたいんです」


 ギュウッと抱きしめれば、彼も少しだけ力を込めてくれる。

 うん、本当にもう、大丈夫。


「ヘイムダル様の傍に、いさせてください」


 ねえセルリア。あたしちょっと嫉妬したの。セルリアがロキ様を選んだことに。

 でもね、今ならその気持ち、よく分かるよ。

 どうしようもないよね、この気持ちは。


「セロシア」

「はい」


 ゆっくり体を離して、立ち上がったヘイムダル様を見上げる。

 これが、いつもの視線。


「離れるなよ」

「はい!」


 セルリア、怒ったりしないよね。

 あたし、胸張って言えるよ。

 セルリアの大事な人と敵対することになるけど、でも、あたしの想い、分かってくれるよね。あたしの、たった一人の半身なら。


 グッと拳を握った瞬間、遠くから、けれど、信じられないほど大きな遠吠えが響いた。


「っ! この声!?」


 聞き覚えのある、狼の遠吠え。


「始まったか」


 次の瞬間、太陽と月が、消えた。

 漆黒の闇にぽつぽつと浮かぶ、魂のような無数のかがり火。


(セルリア、見届けてね)


 あたしを、ヘイムダル様を、そしてあの人を。

 これから始まる運命の戦い。最後まで戦い抜くから。

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