一番の望み(4)
久しぶりの更新。珍しく三人称になってる……
心待ちにしていることがある時、時間は早く過ぎるものだ。
のんびり過ごす神々でも、やることがあれば時間の感覚は短くなる。朝から急ピッチで用意されたパーティー会場は見事に整い、その素晴らしさと集った神々の顔ぶれには、この企画を何となく察していた双子も驚いた。
フリッグはまだ親交があるから良いとして、なんと主神オーディンまでもがそこにいてプレゼントまでくれたのだ。
セロシアには神馬とまではいかないが、かなり良い馬を。セルリアにはピクニック時に使うバスケット。ただのバスケットではなく、三十センチ四方の小さな物だが何でも入るらしい。
「「あ、ありがとうございますっ!!」」
恐縮した二人に、オーディンはそのたっぷりとした髭に隠れた口元を柔らかく緩めた。
そうして始まる双子の誕生会。
どうやらこのパーティーは成人式と結婚式を混ぜた感じになっているようで、なぜか最初に振袖を着せられて、その後何度も『お色直し』があった。
その度に二人が女神様方の着せ替え人形にさせられてしまったのは言うまでもない。
「こ、こんな高そうな衣装もらって良いんですか!?」
「し、しかもこんなに!!」
「良いの、これが女神達からのプレゼントよ。フリッグ様やフレイヤ様も加わって見立ててくださったんだから、大事にしなさいよ」
フッラが言うとおり、色々な女神が見立てたのだろう。様々な種類の服がある。従者という仕事をこなしている双子だが、『女の子』ということを考えてくれ手のプレゼントのようだ。
そして、他の神界の方も同じ考えだったようだ。
親交あるアプロディテからはなぜかモテル香水を。アテナからは逆に男を追い払う香水が届いていた。ディオニュソスも極上のワインをそれぞれに一本送ってくれている。
「一、二度会っただけなのに……」
「何か申し訳ないわよね……」
恐縮しかできない神々からの贈り物。アヌビスからのエジプト十字架や、ハデスからの『冥界行き片道切符。ケルベロスのお迎えつき』があったのはご愛嬌だ。
たくさんの温かい祝福を受ける中、双子の後ろに一人の男性が立った。
「こんにちはセルリアさん、セロシアさん。誕生日おめでとうございます」
「「バルドル様!!」」
現れたのは、真っ赤なマントの真っ赤な服の真っ赤な帽子に白い羽根。そして黒の靴。
いつもと同じく愛妻の手製の服を着た、主神の息子、バルドルだった。
にこやかな笑顔にこちらも同じ笑顔を返しつつ、セルリアは一歩下がり、セロシアは悟られない程度の警戒態勢に入った。
バルドル自身はとても優しく、良い性格をしている。 双子とて決して嫌っているわけではない。だが、彼は少々――いや、かなり天然気味だった。
「今宵は二人とも一段と綺麗ですね」
「「あ、ありがとうございます」」
ふんわり笑われて一歩近づかれる。とても綺麗な笑顔なのに、何をしでかすか分からない緊張が双子に走る。
光の神であり、博愛を司る神様は、愛されることにも慣れており、その分愛しかえすことが当然だという考えを持っている。
つまり――通常よりも愛情表現が過多なのである。
特に今までロキとヘイムダルに阻まれ、あまり交流を持てていない双子にバルドルは構いたくて仕方ないらしい。
男性恐怖症の残るセルリアに、過度な愛情表現など慣れていないセロシア。
何をされるのだろうか、とさらに数センチ足を下げると、バルドルがきょとんと首を傾げた。
「そんな照れなくても。今日はお二人とも人間でいえば成人されたそうで。それなら私からのプレゼントは決まりですね」
バチッとウィンクされて、双子はごくり、と息を飲み込んだ。そして――
「いつもいつも邪魔がはいりますが、では紳士から淑女へのたしなみ、挨拶のキスでも……」
『あ、やばい』と双子は心の中でシンクロした。
正直セルリアにいたっては男性恐怖症で涙目だ。セロシアも注意をそらそうか魔法を放とうとしたその時――
パチン、という軽い音と、ザクッという鈍い音と、ドゴンッ!という凄まじい音が響いたのは、ほぼ同時だった。
「「え?」」
驚いて顔を上げると、そこに赤い服はなく、代わりに赤い髭を生やして笑うトールの姿があった。
※ ※ ※ ※ ※
「おお、二人とも大丈夫か? 相変わらずチャレンジ精神豊富だな、バルドル」
「まったく、油断も隙もありゃしない。セルリアは男性恐怖症だ、って何度も言っといたのに!」
「ここに来るまでの罠はこいつか?」
上から順番に、ミョルニルを振り下ろしたトール。帽子を燃やしたロキ。動けないよう槍で縫いとめたヘイムダルである。
三人が若干ボロボロなのは、どうやら何かしらの罠を潜り抜けてきたらしい。
「あ~あ、せっかく綺麗なのに涙目にさせちゃって、台無しじゃないか。大丈夫かい? セルリア」
「は、はい」
ごきゅるっと赤い物体を踏んだロキは、そっとセルリアの涙を拭った。
「問題は?」
「ないです。肉体的には」
ヘイムダルも何気に踏みつけながら視線をセロシアへ向けた。
豪快にバルドルの上に座っていたトールは、その二組を微笑ましそうに見守っている。下でうめき声が聞こえるとか、痙攣しているとかは気にしない。近くのカップをとって酒を胃袋へ入れていた。
「おう、お前ら、そろそろ宴自体はお開きだが、もうプレゼント渡したのか?」
陽気なトールの声は、意外にも会場に大きく響いた。いや、神々が耳をそばだてていたのかもしれない。全員の視線がこの二組の主従に向いた。
「トール……」
「いや……ははは……」
苦笑いしながら彼はロキの厳しい視線と、ヘイムダルの冷たい視線を受け止めた。喧騒の中ならまだしも、こう全員に見守られているのでは雰囲気もあったものじゃないだろう。
「まったく単細胞が……無粋だね。というわけでセルリア」
「はい?」
「移動するよ」
言うが早いか、ロキはマントでセルリアを包むと、先程と同じように軽く指を鳴らした。一瞬にして一組が消える。
「ああ! ロキの奴っ!」
「まあフッラ。今日ぐらいは大目に見なさい。大丈夫よ、ロキがセルリアに変な事するはずないでしょう?」
「……本当にそう言えます?」
「……たぶん、大丈夫よ」
自信なさげなフリッグとフッラの会話の間に、もう一組も動いていた。
ヘイムダルは周りの視線を感じながら、おもむろにセロシアの腕を引っ張る。そのまま片手で担ぎ上げてしまった。もちろんされた方はたまったものじゃない。何せ大衆の面前だ。
「ぬあっ! どうして担ぎ上げるんですか!? ロキ様んとこみたいにパチンって」
「無駄な魔力を使えるか」
「無駄!? 無駄とか言った! 人運ぶのに無駄とか言った!!」
「うるさい。黙れないのか」
「こんな扱いされて黙ってられますか! あ、分かった。ヘイムダル様指パッチンができないんでしょう! うわダサ! あたしなんか両指できますよ。ホラ。ホラッ!!」
なにやら騒がしく、しかしあっさり会場を出て行くセロシア組み。これには神々も呆然とするしかなかった。行動もそうだが、会話も変だ。
「出来るのかしらね。指パッチン」
「出来ないんじゃないですか? 否定しなかったし」
寡黙な彼が怒った時は怖いが、こちらは先程のセルリア組みよりも安全に思えるフッラ達だった。
「さあさあ、主役はいなくなったけど、まだ料理も酒もたくさんありますわ。皆で彼女達が生まれ出た事への感謝と無事を祈りながら楽しみましょう!」
パンパンと主催者のフリッグの声に、神々はまた陽気に騒ぎ出す。それは彼らが楽しむというものでもあるけれど、誰もが心の中で仲間の生誕と出会いに感謝していた。




