もう一歩!(7)
今日は2話更新。
「てな感じだったんですが、どう思います? 何であんな急にたくさん話したんだろう。次の日からはもう元に戻ってたんですよ」
あの珍しいことが起こった日から数日、セロシアはまたロキ邸のお茶に参加していた。主ともども迷惑をかけたお詫びと、セルリアを安心させるために来たのだ。
ちなみに、ヘイムダルは仕事でヴァルハラに行っている。
「ま、ある意味怒ってたんじゃないの、あいつも。僕の家を出た瞬間に君の危機的状況を見ちゃったんだろうね。驚いたことに走ったよ、あのヘイムダルが」
「つまり、あの饒舌は説教というわけですか……」
怒る時だけ話すようになるってどうよ、と思わずにはいられない。
「心配したっていうのもあると思うよ。困惑してたしね。ねえ、セルリア?」
「そうですね。珍しく困ってらっしゃいました」
「へぇ……あ、そういえばイムダル様怖がってたよ。セルリアが怒ったこと」
「え!?」
「ああ、あれね、僕も怖かった」
「ええ!?」
二人の会話に彼女だけが青ざめて行く。その様子を面白そうに見ながら、セロシアは抱きついた。
「ん~、でもあたしのために怒ってくれたんだし、嬉しかったよ!」
「大事な妹だもん。怒る時は怒るよ」
何でもないようにそう言ってくれたセルリアが、本当に嬉しい。
「で? その後は何とかなってるわけ?」
「まあ、話すのが本当に苦手なようですし。でも言いたいことは言うんだって分かったし。聞いてることは聞いてるようなので……時間あれば、何か一緒にするようにしてますし」
「進歩したねぇ~」
それはビックリだ、と口笛を吹くロキ。寡黙すぎるヘイムダルを知っている彼からすれば、少し想像しにくいかもしれない。
そして、セロシアは知っている。今のロキから想像できないロキがいることを。ヘイムダルからばっちり聞いた。
「セルリア、このお茶菓子貰ってもいい? ヘイムダル様もセルリアのお茶菓子好きそうだし。明日のお茶請けにしたい」
「え? うん、良いよ。ちょっと待っててね。今包んでくるから」
人好きのする笑みを浮かべて、その場を離れるセルリア。遠くに行くのを見計らって、セロシアはロキに視線を投げた。それはもう、バッチリ殺気を込めて。
「やっぱり猫かぶってましたね。ロキ様!」
「何のことだかさっぱり」
「嘘言わないでください! 聞きましたよ? ずいぶんな本性をお持ちのようで!!」
聞いただけだが、結構、今見ているのとは逆の性格をしているらしい。それが片割れの傍にいるかと思うと――
「猫って言うより、羊の皮をかぶった何とやら、だわ」
「僕の息子はそれだしねぇ」
「はぐらかさないでください! とにかく、何度も言いますが、セルリアに手出したらただじゃあおきませんよっ! あの子には良い人見つけてもらって、絶対幸せになってもらうってあたしが決めてるんですからっ!」
「君が決めてどうするのさ」
あはは、面白いねぇせロシアは、と、意気込んで言った内容もあっさり流されてしまう。この神はヘイムダルより扱いにくいかもしれない。
もうセルリアも戻ってきそうだ。ここまでか、と思った矢先。頬杖をつきながらこちらを見ていたロキがにやりと笑った。
「やれるもんならやってみろよ。俺をどうこうなんて、お前にゃ到底無理だろうけどな」
ピキンと、辺りが凍りつく。
(今、『俺』とか言った……?)
セロシアの知っている彼からは考えられない一人称。ありえない言葉遣い。再びにっこり笑うロキに、ひくつく口元が止められない。
「あれ? どうしたのセロシア? 固まっちゃって」
「セルリアァ! ダメ、絶対ダメ! ここにいたら危険だって! 今からでも遅くないから申請して他の主見つけようよ~!」
「え!? どうしたの急に?」
「ホントどうしたんだろうねぇ」
「首を傾げたって、貴方の腹黒さは消えないんですからね!!」
ダメだ。前はロキとの方が気が合うかもと思ったが、実際はヘイムダルよりもロキの相手をしている方が疲れる。
自分はヘイムダルの方が主として合っているのかもしれない。
「あ、セロシア。あれヘイムダル様じゃない?」
「ほえ?」
セルリアの指差す方向。そこには確かに黒い点が。この神界であそこまで黒尽くめなのはヘイムダルに他ならない。きっと仕事の帰りなのだろう。
「ホントだ! んじゃあたしも帰るね、セルリア、これありがとう!!」
挨拶もおざなりに、見つけた背に向かって走っていく。ここからなら追いつくだろう。セロシアは後ろで二人が笑っているのにも気づかず、ひたすら前に向かって駆け出した。




