もう一歩!(3)
いつも、投稿用に書いた状態のギュウギュウづめなので、今日はちょっと行間を開けたりもしてみましたが、どういう形で載せるのが読者の皆様には読みやすいんでしょうかね?
次の日。セロシアは何だか納得いかないまま目が覚めた。
「むう……結局、何も変わらんかった……」
昨日、まずビフレストの麓に行ってヘイムダルに謝った。何はともあれ、普段やっている昼食を持っていくことをしなかったのだ。怒られても仕方がないと思った。
しかし案の定、彼はその事実に気づいていなかった。と言うよりも、どうでも良さそうだった。
セルリアの所は食事を一緒にとっているようだったので、こちらも見習ってみようかと二人分門に持って行った。食べやすいようエビフライ入りのサンドイッチとスープを。
一緒に食べはした。今日あった出来事を報告してみたりもした。
「で、返ってくる言葉が、『ああ』『そうか』だけですか……?」
もともと無口だというのは分かり切っているが、意気込んだ決意が簡単に挫かれてしまい、今日は頭痛がしてきた。
何だかこれでは、必死に親のご機嫌取りをしている子供のようである。そう考えて、セロシアはふいに吐き気がこみあげてくるのに気づいた。
(あいつにやってたようなことを、今でもやるなんて……)
思い出されるのはあの女。思い出したくもないが、消えてもくれない。
あの日、初めて我侭を言ったセルリアを突き放して出て行ったあの女。いつも話しかけていた自分を、ゴミでも見る様な冷たい目で見ていたあの女。
薄ぼんやりとした記憶が思い起こされて、セロシアは首を振った。朝から最悪だ。
「ああもう、ダメダメ! とっとと気分を変えようっ」
吐き気や気持ち悪さはあるものの、そんなものすっとした空気を吸えば治る。そう思い彼女は急いで着がえると、部屋を飛び出した。
今日はいつもより早く起きた。朝日が昇っていないのだから、時間的にはまだ夜。もうしばらくしたら昇るだろうという、とても早い時間である。
「えっと、昨日発酵させたパンを焼いて、んで添えつけのサラダと。新鮮な野菜が入ったから。スープはミネストローネで良いかな? 後は食後の飲み物を……」
ヒミンビョルグは砦らしく石造りである。冷え込む時間帯はとても寒い。水などは一応、水道管らしきものを通してくれてるのだが、それでも冷たい。
しかし、ここでは自分でなんとかしなければご飯が食べられないのだ。
「神様は毎日食べなくても良いらしいけど、あたしらは違うしね……」
神々によって差はあるものの、北欧神は年に数個、イドゥン神のリンゴを食べれば餓死することはない。あとは娯楽か、食欲はあるのでそれを満たすために食べているだけだそうだ。
だがセロシア達のように、人間から従者になった者は別だ。神籍に入りはしたものの、まだ半分は人間の状態。神よりもお腹は空くし、栄養もリンゴからだけでは採れない。従者を持った神は、彼らに合わせて食べているだけなのだ。
「あたしはセルリアみたいに、普段から作んないのよ……」
なぜ従者養成学校で料理の授業ががあったのか、今更ながらに分かった。
サラダとスープの用意ができ、パンの良い匂いが厨房に漂い始める。ちょうどその時、朝日が厨房に差し込んできた。
「うしっ、初、『ヘイムダル様起こし』に行きますか!」
今日の早起きの目的はこれである。
『ドッキリ! ヘイムダル様の寝顔を拝見!』
「じゃなくって! あたしも少しはできる、ってとこを見せとかないとね」
無論、従者なんぞに起こされて慌てふためくあの人を見たい、というのもある。
石造りの廊下。非常に寒い。隙間風が寒すぎる。窓からようやく太陽が昇り始めているのが見えた。果たしてヘイムダルの部屋は光が入る仕組みになっているのだろうか?
(あの人の部屋だと、何だか真っ暗なイメージがあるんだよね)
いや、聞いた話だと『光の神』とか『波間から現れる太陽の化身』だとか『白き神』なんて呼ばれているらしい。と言うか、実際そうらしい。なので、本来のイメージは白のはずなのだが――どうにも彼の性格から白はイメージできない。
「むしろ灰色だよね。それとも闇色?」
しかし、確かに瞳は両眼とも美しい銀色だ。
そんなことを考えている内に、もう彼の寝室の前についてしまった。複雑な砦だが、彼は門番であるゆえ、何かあるとすぐに出られるように奥には作っていないのだ。逆にセロシアの部屋が奥にあるぐらいだ。
「ヘイムダル様~。朝ですよ~。って起きてるんでしょうけど、朝食できましたよ~。冷めますよ~」
コンコンッと扉をノックしながら言ってみる。さて、どんな顔をして出てくるか。
「…………? あれ?」
十秒待ったが返事がない。あのヘイムダルが、必要な時には即答するヘイムダルが、返事を返さないなどあるだろうか。それ以前に、顔も見せないことがあるだろうか?
「あの……もしも~し、ヘイムダル様? あっさでっすよ~」
もう一度コンコンッとしてみる。今度は三十秒待ってみた。
「ヘイムダル様? あの、ちょっと、ホントに!? そんなオチなわけ? え、嘘だよね、ちょっと、ヘイムダル様! 朝だっつってんでしょうっ! いるんなら返事ぐらい……っ!」
ドンドン扉を叩きながらそこまで怒鳴り。次いで、息を吸うと同時に、セロシアは体を捻って腰を落とした。そして――
「しろやっ、この根暗門番っ!!」
バキッと、セロシア的に心地よい音を響かせて、ドアは開いた。ぶっ飛ばしたともいう。
開いた時に舞った小さな破片。それを振り払いながらセロシアは部屋の中に入った。
落ち着いたというよりも、何もない殺風景な部屋。とりあえず見回し、次いで部屋の隅から隅まで漁る。いや、捜索する。
そしてひたすら十分間、部屋の中を走り回った後、セロシアはガクゥッと膝をつくしかなかった。
「……いない……」
落とされた言葉は、ほんの少し、泣き出しそうな声だった。
セロシア、空回る、の巻(笑)




