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39話

ダークエルフの女性を熊師匠が拾ってきてから、早いもので1ヶ月が経過してしまった。

おっさん的には最長でも1週間くらいで魔国にお帰り頂く予定だったので「どうしてこうなった!?」状態である。


アリシアの話だと魔国からの追求に対してあろうことかヒューマンの国は「拉致したけど何か?」みたいな感じで開き直ったらしい。

はっきり言って肝の据わったアホだと称賛したいレベルの愚か者である。

そんなアホな返答をしたもんだから流石の魔王さんもぶちギレて、おっさん宅でダークエルフの女性を保護してから3日後にめでたく魔国とヒューマンの国との間で本格的な戦争が開始されたそうだ。

そんなワケで ダークエルフの女性を保護して1ヶ月も経ってしまったワケです。


1ヶ月も経った現在、ダークエルフの女性が何をしているかって?

おっさんとしては非常に遺憾ではありますが、ダークエルフの女性はここでの生活に早くも馴染んでおります。

えんじ色のジャージを身に纏って太極拳を毎朝こなし、その後で筋トレ広場でウサちゃんズのレクチャーを受けながら肉体改造に励んでいます。

そのあとは大浴場でアルくんとサウナで我慢比べ対決を行い、水風呂に入ってサッパリとした後でおっさん達と朝食を食べている。

朝食後はドロドロに熱くたぎりまくっている復讐心を糧に、弟子入りした蜘蛛お嬢にみっちりと鍛えてもらっているようだ。

実は蜘蛛お嬢も自分の弟子が欲しかったようで、ダークエルフの女性の弟子入りを快く認めた。

ついでに言うと蜘蛛お嬢は「復讐」大賛成派らしいので、ダークエルフの女性に協力的だ。

念のため蜘蛛お嬢に「直接的な助力はしないで下さいね」とお願いしたら「愚か者め・・・復讐は己の手で成し遂げてこそ復讐なのだよ。他者に代行してもらうなど言語道断! 貴様は復讐のなんたるかをわかっていない!」とか逆に「復讐」について2時間くらい熱血指導された。

しかしまだおっさんこの世界で本格的に「復讐」したい相手がいないから、今は復讐とは無縁の日々平穏な生活! 願わくばおっさんが「復讐」する機会がありませんように。


ちなみにダークエルフの女性の名前は「シオン・アルカディア」という。

熊師匠が拾ってきたその日に「最後の○戦」を見終わって、朝食を食べた後に自己紹介されました。


それでおっさんが今何をしているかって? 製作活動です。

それで一体何を作っているかって? シオンの専用武器と防具ですよ。

さてここで問題です! 何故シオンの「復讐」に全く関係のないおっさんがシオンの武器と防具を作っているのでしょう?

それは蜘蛛お嬢に頼まれたからです! でなければおっさんこんな面倒くさい作業を自分からしません。


でシオン専用の武器は何かというとズバリ「鞭」です。


当初の予定では蜘蛛お嬢の糸をそのまま武器として使用して「糸使い」になる予定でした。


しかしここで大問題が発生しました。


蜘蛛お嬢はこの森でも相当な実力者の部類に入る御仁です。そんな蜘蛛お嬢の糸に森の外の人間が触れたらどうなるでしょう?


まあ結論を言えば触れた瞬間に指がスパンと切断されて阿鼻叫の流血騒ぎですよ。


切断されたシオンの指をおっさんとアリシアで治療して、事なきを得たけど指を切断されたシオンはガン泣きしていたからきっとトラウマになっただろう。ご愁傷様です。


そんなことがありまして武器の候補から「糸」が除外されて、何故「鞭」になったのか?


たまたま指切り落とし現場にいたデュラちゃんが「復讐する相手により痛みと苦痛を与えるには鞭が良いんじゃない?」と発言したからだ。


蜘蛛お嬢も「それだー!」とデュラちゃんの意見に賛成し、鞭なら自分の糸を是非材料に使用してくれとアリシアと指の治療を終えたおっさんに渡してきたからです。


糸を渡されたおっさんが「え? おっさんが作るの?」って思わず口から正直な心境を述べたら、その場にいた全員に「え? 作らないの?」と聞き返された。


・・・はいはい作りますよ。作ればイイんだろコノヤロー!!


あ、そんなにオロオロしないで大丈夫ですよ。別におっさん怒ってないですから。


それより指に違和感はないですか? それは良かった。


傷は治っても精神的なダメージが残っているはずですから、今日はゆっくり休んでください。


よければアロマオイルなんかもあるんで、欲しかったら言ってくださいね?


何故かおっさんがオロオロしているシオンのフォローをするはめになるこの不思議! まあぶっちゃけあなたの「復讐」関連のとばっちりだから、間接的にはあなたのせいなんですけど武器関連の主犯格は確実に2名(蜘蛛お嬢とデュラちゃん)なので、おっさんそこまであなたを恨んでいないので大丈夫です。





という経緯からおっさんが久しぶりに武器を製作する流れになったわけです。

実はもう「鞭」は完成しているんだけど・・・これを「鞭」と呼んで良いのかおっさんはかなり疑問である。

あ、ちなみにおっさんが作った鞭は「一本鞭」ね。

1ヶ月前の「最後の〇戦」からイ〇ディー・ジョー〇ズが使っていた鞭が頭の隅にあったので、それを参考にね。

考えてもみてほしい。蜘蛛お嬢の糸1本でしかも軽く触れただけで指をあっさりと切断する強度のものを、圧縮して束にしたらどうのなるのか・・・

それはもはや一般的な「鞭」ではなく柔軟性を持った「剣」である。

だって森の外のいわゆる一般人であるシオンが触れただけで指を切断される凶器の糸を、鞭にして一般人に振るったらどうなるだろうか?

まあ苦痛と痛みを与える前に、一瞬で綺麗に切断されて昇天するだろう。

実はおっさんはデュラちゃんが「鞭」というワードを出した時点で、その可能性に気がついていたのだがあえて指摘しなかった。

だって指摘したら「じゃあ他にどんな武器が良いのか?」とか聞かれそうじゃん?

武器と防具を作るだけでも正直面倒くさいのに、代案考えるのなんておっさん嫌です。


さてこの鞭(?)にも一応名前をつけておかないとな・・・何にしよう?

・・・「蜘蛛鞭スパイダーウィップ」でいっかな? まんまだけど。

じゃあ鞭も完成したことだし蜘蛛お嬢のところに持っていくかね。

この時間だとシオンもトレーニング中だから、一緒にいるだろうし。


トレーニングと言えば蜘蛛お嬢がシオンを鍛えるにあたり、まず彼女の戦闘スタイルを変えさせていた。

理由は復讐するにあたり周囲の助力を当てにせずに、単独で目標を殺すためだ。

具体的にはこんな感じ!

弓と魔法による遠距離スタイルを廃止。代わりに鞭2本による中距離範囲攻撃と近接攻撃による打撃。

魔法は主に自身を強化するものをメインに速射性と連射性に優れたものを使用する。

基本的に敵からの攻撃は避けること。おっさん作の戦闘服でダメージを負うことはまずないが、攻撃が当たればそれだけで集中力が乱れ最悪の場合足が止まることになるから。


結構無茶なことを言ってるな~とおっさんが聞いていても思う。

戦闘スタイルの変更は特に厳しいと思う。

今まで遠距離主体で戦ってきたタイプにいきなり中近距離のスタイルに変えろというのは、無茶にもほどがある。

近接主体で剣と盾の王道騎士スタイルのアリアが刀での戦闘スタイルにまだ慣れていないのに、遠距離から中近距離にスタイル変更・・・想像するだけで地獄だな。


この1ヶ月の間にシオンは自身の専用武器が出来上がるまでは基本の体力作り(体づくり)、身体強化と速射連射系魔法の習得、気配察知の訓練、普通の素材で作った鞭で武器の特性の理解に励んでいた。


体力作り(体づくり)に関しては筋トレ広場で自重トレーニングから始まり、器具を使用したトレーニング、持久力をつけるために走り込みをしていた。


近接戦闘の訓練はアルくんとの組手がメインで、通りかかったおっさんの視界に入るときシオンは大体空中に投げられているか地べたでくたばっていることが多かった。


魔法関連はアリシアが指導していた。何故アリシアが指導していたかというとノーライフキング先生から「人に教えることも自分を成長させる要因になる」と言われたからだそうだ。


とても素晴らしい言葉だがおっさんはこうも解釈した。


「2人も弟子はいらないからそれっぽいことを言ってアリシアにやらせよう」と。


ノーライフキング先生は実はわりと面倒くさがりやな一面があるから、アリシアに押し付けたとおっさんは予想!


魔法を教えている最中にアリシアから「速射と連射メインの魔法ならおっさんお手製の銃型デバイスを使用した方が効率が良いのではないのか?」と聞かれた。


まあ確かに一理あるのだがアリシアの場合はそれなりの実力者であり魔法の基礎もある程度出来上がっていて、だから武器に頼りすぎないし性能に振り回されることもない。

しかしシオンの場合は別だ。


他のメンバーに比べて根本的に下地が出来ていないうえ、戦闘経験がなさすぎる。


復讐にかられているとはいえいざ仇やその関係者を目の前にして、ちゃんと始末できるのか未知数だ。


その場合もしシオンが返り討ちにあった場合、おっさんが製作した武器が他の者に渡るのは避けたい。


という理由で銃関係のデバイスを与えるのは却下です。


あ、ついでに言うと信用してないからも大きな理由です!

まあ「蜘蛛鞭スパイダーウィップ」もヤバイ代物なので、シオンが死んだ際には回収しますけどね。


そこでおっさんは気づいた。防具関係もおっさんが製作するからもしシオンが死んだ場合はそれも回収は必須になる。


防具とインナーまで回収したらシオン全裸になるじゃん! 傍から見たらおっさんが「追いはぎ+犯罪者」みたいに見えるんじゃないだろうか?


どうしよう今からでもインナーとかは普通の素材で作り直そうかな? でもそうすると防御力が格段に落ちるしな・・・武器で自重していない分、防具でも自重しなくてもいいかな?


「むう・・・」


「ご主人様は結局、シオンに生存してほしいのですか? それとも死んでほしいのですか?」


鞭を持って唸っているといつの間にかシゼルが隣に立っていた。


「シゼルさんや、現れる前には事前に何か言ってくれないかな? 心臓に悪いからさ」


「それでは面白くありませんが、次回からは善処します」


それ絶対しないタイプの返事だよね?





「それでご主人様・・・」


「あーシオンの生き死にの話しだっけ? う~ん、おっさん的には正直どっちでも良いかな」


「どちらでも良いとは?」


「そのままの意味だよ。シオンが復讐に成功して生き残ろうが失敗して死のうが、どちらにせよこの森からは出ていくでしょ? そしたらもう会うことはないだろうからね。森から出て行って2度と会うことがない相手のその後なんておっさんには関係ないし興味もないよ」


そう、興味があるというかやらなければいけないことは装備関係の回収だけだ。


「巨乳好きのご主人様にしては珍しく冷たい対応かつ、辛辣なことおっしゃいますね」


「そうかな?」


「わかりました。そういうことですか・・・」


何故かシゼルが軽くうつむいたと思ったら、自分の胸を両手で揉んだ。


「ぐは!?」


全くのノーガードかつ絶対にそんなことをしないであろうシゼルの突然の行動に度肝を抜かれ、つい至近距離で揉まれる巨乳をガン見してしまった。クリティカルヒットである。


おっさんは膝をついた。まだ思い残すことがあるから死にたくない・・・


「何をしているのですか? ご主人様」


「その言葉はシゼルにそっくり返すよ。てか何でいきなり自分の胸を揉みしだくなんて奇行に走ったの? おっさんへの不意打ちサービスですか!?」


「まあそんなところです」


最近シゼルが以前に比べてだいぶ砕けてきているので、おっさんちょっぴり嬉しかったりする。


「冗談です。ご主人様がシオンに興味を示さないのは、もしかして「好みの巨乳」ではないからではないでしょうか?」


「何それ・・・」


「やはり一概に「巨乳好き」と言っても人によって様々な性癖・・・こだわりがあると思われるので、今回シオンの「巨乳」はご主人様好みのものではなかった。だから興味を示さなかったと私は推察しました」


なんかシゼルが無表情で変なことを言ってきたんですけど。


おっさんの「好みの巨乳」じゃない? バカバカしい。それでは「巨乳差別」ではないか!


おっさんはそんなことは断じてしない! するものか!!


・・・はあ、なんか疲れたわ。





「いきなりため息とは私に対して失礼ですね、ご主人様」


「それは悪かったね。それでシゼルはおっさんに何か用があったんじゃないの?」


「そうでした。アリシアが魔王から重要な連絡をうけたので、ご主人様と相談したいと伝えてくれと頼まれていたのでした」


「重要な連絡ね・・・嫌な予感しかしないな」


あーすでにお腹痛くなってきた。これは久しぶりに胃薬案件かな?


「それにしてもアリシアもシゼルをおっさんへの伝言係に使うなんて、よくそんな自らの寿命を著しく縮める行為をしたね。それだけ余裕がないのかな?」


自分とは比べるのもおこがましいレベルの存在のシゼルをこき使うなんて・・・おっさんには恐ろしくてできませんよ。


「何故か非常に失礼なことを言われましたがまあ良いでしょう。伝言係というよりも「お願いされた」が正しい表現ですね。魔王からの連絡内容は存じませんがかなり悩んでいる様子でしたよ」


「何それ。マジで聞きたくないんですけど・・・さらに胃が痛くなった」


「ご主人様、観念して胃薬を飲んで話を聞きにいきますよ。抵抗するだけ時間の無駄です」


「ねえ、もうちょっとメンタルが弱いおっさんを労わる気持ちとかは・・・」


「行きますよ、ご主人様」


「・・・はい。あ、そういえばシゼル自身もおっさんに用があったんじゃないの?」


シゼルがアリシアからの伝言を伝えるためだけにわざわざ来るとは考えにくいからね。絶対他に何か本題があるんじゃないかと思うんだけど。

「そうでした。おそらく気が乗らない武器製作でお忘れだと思いますが本日の昼食当番は私とご主人様です。メニューを決めるところから始めるのでそろそろ準備をしなければと思い呼びにきました」


そうだ。微妙な気分で武器製作をしていたから、すっかり昼食当番を忘れていた。


「ありがとうシゼル。完璧に忘れてたわ」


「だと思いました。すぐに自宅に戻れますか?」


「うん、大丈夫。今回はもうシャワーで汗を流してあるし、出来上がった武器は昼食の後にでも渡せば良いからね。アリシアからの話も昼食の後で大丈夫でしょう」


何より恐れなければならないのは時間通りにご飯が食卓に並ばないと、非常に不機嫌になるティアさんだ。


あの人はこの世界では「私は美味しいご飯をお腹いっぱい食べるために存在している」と自ら力強く断言している。


そんなティアさんの至福のご飯タイムが遅れれば、最悪の場合この世界が消滅する可能性がある。


まあ流石に「世界の消滅」は言い過ぎかもしれないけど、垂れ流される不機嫌オーラは周囲の人間たちに多大なダメージを与える。ティアさんの存在が存在だけにね。


「じゃあ、自宅に戻りますか」


出来上がったばかりの武器とその他防具類をアイテムボックスに収納する。


「はい、ご主人様」


2人で並んで歩きながら自宅に着くまでにメニューを決めよう。あーまだ今のところ日々平穏。




「それでどうするべきかと思うのじゃ、おっさん殿!」


和やかな昼食を終えた後のティータイムを楽しんでいるおっさんに、アリシアが緊張感(?)的な雰囲気を出しながら問いかけてきた。


ちなみに今飲んでいるのは「プリンス・オブ・ウェールズ」という紅茶のブレンドを飲んでいる。


マイルドかつコクがあって、鮮やかな色と強い香りが特徴的な紅茶である。


おっさん若い頃はアールグレイかダージリンしか飲まなかったけど、最近では色々な種類の紅茶も飲むようになりました。


若い頃だとこの味の良さは理解できなかったかもな。


まあアールグレイとダージリンしか飲んでいなかった理由は、近所のスーパーに売っている紅茶関連の商品が大体その2種類しかなかったからだけど。





あ、言い忘れていましたがお昼のメニューは「あんかけ固焼きぞば」でした。


それにスライスした玉ねぎの上に卵黄を落とし、鰹節と醤油をかけたサラダ。


スープは肉団子と野菜を入れた創〇シャンタンで味付けされたものでした。


相変わらずみんなおかわりしてましたけどね。





で、アリシアが何故若干深刻そうかというと魔王さんとの定時念話の内容が原因です。

簡単に要約するとその内容とは「シオンの同胞の所在が判明した」である。


おっさんからしたら「良かったね、おめでとう!」くらいの感想しか出てこない。





「どうするも何もシオンに伝えればいいじゃん。めでたいことだよ」


「そうなんじゃが・・・教えたとたんに高確率で助けにすっ飛んでいくと思うのじゃが・・・」


「だろうね。そこに復讐対象がいるかは別として助けたい仲間がいるんだ、復讐心をメラメラ燃やしながら突撃する未来が容易に想像できるね」


あ~紅茶が美味い。玄米茶も好きだけど紅茶も良いよね。


うん? シゼルが焼いたクッキーがあるの? 頂戴!


やっぱり紅茶にはクッキーだよね。・・・ティアさん、おっさんの目の前でクッキーをガン見しながら涎を垂らすのはやめましょう。あげますから。


いいよね、シゼル?





「やはりおっさん殿もそう思うのじゃ。それでも伝えるべきじゃと?」


「だってそれがシオンの目的のうちの1つでしょ? そのためにあんなに頑張って急ピッチで自分を鍛えているんだからさ、教えてあげなきゃ。どうせいつかは行動に移すんだから早いか遅いかの違いだよ」


そして早くこの森から祖国にお帰り下さい。おっさんの日々平穏を返して!


最近胃痛だけじゃなくて頭痛もしてくるようになったんだよな・・・ストレスかな?


「もしすぐにシオンが仲間の救出に行くと言ったら、おっさん殿はどうするのじゃ?」


何故かアリシアが悪だくみをしそうな顔でおっさんを見てくる。


「別にどうもしないよ。玄関先で「いってらっしゃい」と見送るだけだよ」


「この薄情者なのじゃ!」


「なに急に?」


「言ってみたかっただけなのじゃ」


「あっそ。まあ気持ちはわかるよ」


確かに死ぬ前に一回は言ってみたいセリフ100選には入るもんね。





「おっさんは行かないけどアリシアはどうするの? やっぱり魔国のものとしては一緒に行く感じ?」


「そうじゃな、今のところは妾も同行するつもりじゃ。表舞台から退いたとはいえ妾も魔国のもとして同胞を見捨てるわけにはいかんからのう」


「アリシアの場合は立場的にそうなるわな。でもおっさん疑問なんだけど・・・その所在が判明したダークエルフ達は「生きている」という状態なんだよね?」


一番の問題はそこだろうな。あくまで「所在が判明した」だけであって「生きている」とは表現していない。


つまり限りなく生き物として生存している可能性が低いのだろう。まあ拉致されてから1ヶ月も経っていればなおさらか。


「おそらくはまともな状態で生きているものは極わずかじゃろう。それでも生きているものがいるなら助けねばな」


「一応確認だけどその情報、罠の可能性はないの?」


「確実にないとは断言できんが魔国内で泳がせていたヒューマン国のスパイをはじめとする連中は、今回の件でほぼ根絶やしにしたようじゃから心配ないじゃろう」


「根絶やしね・・・」


「うむ。それだけ魔王も本気ということじゃ」


あの温水洗浄便座大好き魔王さんの本気か・・・なんか想像できない。





「ちなみにシオンとアリシアの二人で行くの?」


「妾も当初はそのつもりだったのじゃが、アリアも同行を志願してきたのじゃ」


「それは何故に?」


「「元王族として私にも責任がある。それに今のヒューマン国の現状をこの目で見ておきたい」だそうじゃ。アリアもいれば不測の事態にも対応できるし戦力が増えることは有難いことじゃからな、同行を許可したのじゃ」


アリアは根がクソ真面目だからな・・・本人は身内に殺されかけてから多少は良い意味で自分勝手に生きるようになってはきているけど、おっさんからすればまだ真面目過ぎるよ。





「アリアも一緒なら確かに戦力的には問題なさそうだね。奪還する日が決まったら一応教えてね? 最悪の場合、おっさん作の武器の回収という任務が発生するからそれには備えておかないと」


「妾達の心配よりも自身の製作した武器の回収の準備とは、ちと酷くないかのう?」


「そう? 前にシゼルに聞いた話だとおっさん程度のレベルでも森の外じゃ無双できるらしいから、修行して成長したアリシアとアリアの2人がいくならわりと楽勝なんじゃない?」


そうなのだ。おっさんは森の外(?)の兵士とアリシアとセレス、アリアを保護する際に2回ほど戦闘みたいなことしたがあれくらいなら今の2人が負けることはまずないと思う。


アリシアの話を聞く限りおっさんが遭遇した兵士のレベルが滅茶苦茶低かった・・・というわけではなさそうなので、あれを基準とすれば多少レベルが上がった兵士が出てきても余裕だろう。


「相変わらずおっさん殿は自己評価が低いのう。その気になれば世界征服も夢ではないのになぜなのじゃ?」


「自己評価が低い? おっさんとしては正当な評価だと思うんだけど。あと「世界征服」とかそんな面倒くさいことにおっさん微塵も興味ないから。そういうことは権力やら支配欲がある人が勝手にやってくれ。おっさんはモブ役がイイの」


「モブ役? まあよくわからんがおっさん殿も一緒に来るとよいのじゃ。どうせ武器回収が目的なら一緒に来ればすぐに結果がわかるのじゃ」


「え? 嫌だよ。そもそもアリシアとアリアが万が一死んだ場合はそれぞれの魔力が消滅すればわかるし、そしたら魔力の残滓元に転移すれば良いだけの話じゃん。おっさんの引き籠りレベルを舐めるなよ! コノヤロー!」


「なんじゃ、その言い回しは?」


「言ってみたかっただけ♪」


シオンはともかく、ノーライフキング先生とデュラちゃんにしごかれた2人が死ぬことはまず間違いなくない。


でも居候組のお出かけが心配じゃないと言えば噓になる。でもな・・・森の外ね~正直干渉したくないな。万が一顔バレでもしたらヒューマン国から指名手配とかされそうだし。


「でしたら変装していけばよろしいのでは?」


おっさんの心の声を無断で読んだシゼルが「変装」とかいうヤバげな提案をしてきた。


てかおっさんの心を無断で読まないでくれます? プライバシーの侵害だ!!


「シゼルさんや、おっさんの心を勝手に読むのはやめて下さい。おっさんにも羞恥心というものがあるので。それより変装って本気?」


「はい、本気です。要は身元がバレなければ良いのでしょう? でしたら変装すればその点は解決します」


一体何が解決したのかは疑問だけど何故そこまでおっさんを森の外に出したがるのか・・・需要な「何か」があるのだろうか?


「いえ、特にありません。ご主人様もたまには見聞を広めたらどうかと思っただけです」


「見聞ね・・・」


なーんかシゼルの態度というか雰囲気がいつもと違う気がするんだけど、やっぱり「何か」あるのかな?


「ご主人様に対しては本当に何もありません。ただ・・・まあ今はいいでしょう」


「えー何その思わせぶりな感じ! 滅茶苦茶気になる!! また心を読んだし」


「気にしないで下さい」


バッサリと一言で切られた。うーん上手く言えないけどシゼルの機嫌が微妙に悪そうだ。マジでおっさんなんかしたかな? でもシゼルは「おっさんには何もない」と言ってるしな・・・


「わかったよ。変装してなら一緒にいくよ」


「ホントなのじゃ!」


おっさんが「同行する」と言った途端、アリシアがはしゃぎだした。子供か!


ピコーン!!


あれ? なんかゲームでよくある効果音が聞こえたぞ。ちょっとステータス確認してみるか?


・・・とくに変わったところはなさそうだけど。うん? アレちょっと待って。称号が! 称号が変化している!!


称号:神隠しにあった哀れなおっさん

   おっさんversion1.40 

   未だに成長し続ける奈落の樹海の弱者おっさん

   熊師匠の愛弟子

   奈落の樹海の猛者達の教え子

   虎鉄と小雪の飼い主

   引きこもりversion2.5

   スローライフを目指すがイマイチ出来ていないおっさん

   世界との関わりを拒みながらも片足を世界に突っ込んだおっさん



「世界との関わりを拒むおっさん」から「世界との関わりを拒みながらも片足を世界に突っ込んだおっさん」に変化している。

しかもメッセージ欄的なところに『ついにようやく長い年月を経て異世界に一歩踏み出したおっさん。ついでに世界征服とかやっちゃう? 新しいおっさんの幕開け、ハッピーバースデー!』とか書いてあるし。


何が「ハッピーバースデー」だ! おっさんの誕生日は今日じゃねーよ!!


ホント何なのこの称号システム。てか絶対誰か遥か上の方からおっさんのこと高みの見物してるヤツいるだろう! おいコラ、ちょっと面見せろや!! コノヤロー!!


おっさんが空を不機嫌そうに睨みつけていると、いきなり脇の下をくすぐられた。


「ひゃい!?」


後ろを振り返るとそこにはレヴィさんがニコニコとした表情でいた。


「あらあら、お空をそんなに睨みつけて神様に向けて苦情でも言っていたのかしら? うふふ」


「・・・まあそんなところです」


相変わらずおっさんの心を見透かしたような発言をするな、レヴィさんは。


たぶんその気になれば他人の心を読むなんてレヴィさんたちには容易いだろう。


まあ3人ともその辺の節度はきっと守ってくれていると・・・思う。




「アレ? シゼルがさっきまでここにいたと思うのですが・・・どこに行ったんだ?」


おっさんに変装を勧めて外出を促した張本人の姿がない。


「シゼルちゃんなら珍しく上機嫌と不機嫌の中間のような表情で、変装用の衣装の製作を始めていたわよ。うふふ」


「上機嫌と不機嫌の中間のような表情」とはどんな表情なんだ? やっぱり今日のシゼルはどこか変だ。心配だからあとでもう一度話してみるか。



「あらあら、シゼルちゃんが心配なのかしら? うふふ」


「そりゃーもちろん心配ですよ。家族ですから」


おっさんが迷うことなく「家族」という言葉を口にするとレヴィさんは目を真ん丸にすると、うれしそうな笑みを浮かべた。


「あらあら、シゼルちゃんは本当におーちゃんに愛されているのね。羨ましいわ・・・」


「何を他人事のように言っているんですか? レヴィさんもティアさんもおっさんの家族ですよ?」


おっさんの言葉を聞いたレヴィさんは今度はポカーンとした表情をしたかと思うと、いきなり抱き着いてきた。


「あらあらあらあら♪ おーちゃんは私をこんなにも喜ばせてどうするつもりなのかしら。うーん今回の件はシゼルちゃんに任せようと思ったけれど、おーちゃんの今後のために私も一肌脱ぐことにするわ♪」


おっさんに抱き着きながら何やら決心(?)らしきことをほのめかすことを言ったレヴィさん。


シゼルといい今回の「外出」に何かあるのか? おっさんには全く心当たりがないんだけど。


「というわけで私もおーちゃん達と一緒に行くわ♪」


おっさんへ抱き着き行為をやめたレヴィさんが急にそんなことを言い出した。


「マジですか?」


「あらあら、大マジよ♪ そうと決まれば私の変装用衣装もシゼルちゃんに作ってもらいましょう。うふふ」


そもそもおっさん以外が変装する必要があるのだろうか? あ~でもアリシアとアリアは立場的に顔バレするとマズいのか。変装ね・・・嫌な予感しかしないな。


 


「ご飯の人よ、いよいよ食の神髄に迫るために世界に打って出るというのは本当か!?」


レヴィさんがシゼルの元に向かったかと思えば、今度は瞼を閉じた一瞬のうちにティアさんが目の前に現れた。


しかも両手に焼き鳥を数本握りしめ、口の端にタレをつけて。あれ、さっきまでクッキーを食べていませんでしたっけ?


「何か大きな誤解があるようですけど、おっさんはほんのちょっと森の外に外出するだけです。用が済めばマッハで帰ってきますよ?」


「そうなのか?」


「そうです」


なんで露骨にションボリするんですか。とりあえず口についている焼き鳥のタレを拭きましょう。あ、今ティアさん両手が塞がっているからおっさんが拭きますよ。


持ってて良かったポケットティッシュ! しかも水に流せるタイプ!!


はい、拭けました。ところでティアさんは焼き鳥はタレ派なんですか? 持っている焼き鳥が全部タレのようですが?


「さっきまでは塩に辛味噌をつけてで食べていた。でもタレの味が恋しくなって後半からタレで攻めている」


「そうですか」


「ご飯の人よ、1つ訂正すると右手に持っているのが焼き鳥で、左手に持っているのは豚串だ!」


「そうなんですか。ところでそれは自分で準備して焼いたんですか?」


「いや熊の人が獲物を捕ってきて、捌いて焚き火でじっくりと焼いてくれた」


「熊師匠でしたか・・・さすが良い仕事しますね」


「うむ、素晴らしい焼き加減だ」


焼き加減の感想を力強く力説しつつ、右手の焼き鳥をバクバクと食べ始めた。


串まで一緒に食べないかと一瞬心配したが大丈夫だったようだ。


「ご飯の人は森の外に行くようだから、私も一緒に行こう」


左手に残った豚串を一瞬でたいらげて、ティアさんまで同行すると言い出した。



あ、また口の端にタレがついてますよ? はい、ティッシュどうぞ。え、おっさんに拭いて欲しい? 今は両手空いてますよね。いいから拭けと・・・了解です。

ティアさんからのご要望でおっさんが口についたタレを拭くことに・・・なんかこの展開最近多いな。


「ティアさんまで来るなんてどういう風の吹き回しですか? シゼルやレヴィさんも今回は同行するし・・・なんかこの世界のラスボスが出てきそうなフラグが立ちそうですね」


こんな過剰戦力な面子が行動したら絶対になにか起こる予感しかしないよ・・・おっさんの悪い方の予感って結構当たるんだよな。


「この世界のラスボスとやらが何かは興味はないが、私とご飯の人の食の道を阻むなら一瞬で消してやる」


ティアさんの眼光が鋭くなる。


つーかティアさんならラスボスどころか食のためならマジで世界を滅ぼしかねないな。


「まあせっかく一緒に来るなら、時間があれば森の外の料理も味見がてら買ってみます?」


「やはりご飯の人はよくわかっている!」


おっさんの何となくの提案にティアさんは力強く頷き、おっさんに握手を求めてくる。


「ティアさんも行くようならシゼルに変装用の衣装をつくってもらった方がいいですよ? 一応顔バレは後々面倒ですし」


「その心配はございませんご主人様。ティアの分の衣装も既に製作済みです」


またもや気配を消したシゼルが一仕事終えた職人のようなオーラを出して、おっさんの背後に立っていた。


「もう全員分の変装衣装を作ったの?」


「はい」


「・・・仕事早いね」


「恐縮です」


ホントなんで今回に限ってみんなお外に行く気満々なんだか。あー胃が痛い。それに最近頭痛がするんだよな・・・肩とか首からきているのかな? 原因はやっぱりアレかな?





おっさんが胃のあたりをさすりこめかみに指を当てていると、シゼルの表情がほんの一瞬だけ冷徹な表情に変わった気がした。


ん~おっさん今日シゼルを怒らせるようなことしたかな? こういうことには男は鈍感だと相場が決まっているから、あとでレヴィさんにでも聞いてみよう。





「変装用の衣装もできたらしいからアリシア、シオンに同胞の監禁場所が判明したことを話してきなよ」


「わかったのじゃ! しかし話を聞いた途端に特攻しそうになった場合はどうするのじゃ?」


「え、とりあえず打撃で気絶させるか状態異常系の魔法でダウンさせれば大丈夫でしょ」


「おうなのじゃ・・・おっさんどの妾の気のせいかも知れんのじゃが、シオンに対して当たりが強くないか?」


「えー別に気のせいじゃない? まあおっさんの日々平穏な生活を邪魔されたとか、行きたくもない森の外に行く原因を作ったからといって別に何とも思ってないよ?」


「・・・今の言い方でおっさん殿がイライラしているのがよくわかったのじゃ。くわばわくわばらなのじゃ」


自身を抱くように腕を体に絡ませて震える仕草をするアリシア。


大げさな・・・誰だってちょっとイライラすることはあるでしょ。今のおっさんの状態もそれよそれ!


「それと行動に移すのは日が落ちてからだからね。そしたら全員で変装用の衣装を着て転移で目的地に行く予定だから、その旨をちゃんとシオンに説明しておいてね?」


「了解なのじゃ! さっそく伝えてくるのじゃ~」


逃げるように無駄にハイスピードで移動するアリシア。そんな速度で走ってると・・・ほらコケたよ。あのコケ方なら顔面ダイブじゃなさそうだから大丈夫だろう。まあパンツは丸見えだけど。


お、立ち上がった。で周囲を確認しておっさんの方を向いて・・・はい赤面~


今度こそホントに逃げるように走っていったな。





「ご主人様、日が落ちてから出発ということはその前に早めの夕食を取りますか?」


アリシアの珍行動を見ていたおっさんに、シゼルが夕食について聞いてきた。


「腹が減っては戦はできぬ」って言うしね。食事は大事! でも絶対に「戦」にもならないとは思うけど・・・


「そうだね。ガッツリ食べちゃうと動きづらくなるし眠くなるからおっさん達は軽食で、熊師匠達にはいつも通りの夕食を準備しとく感じで良いんじゃない?」


「わかりました。では準備しておきます」


「アレ? 夕食の当番はシゼルじゃないでしょ。なのにシゼルが準備するの?」


「今日の夕食当番はアリシアとティアなのですがアリシアは先ほどの様子ですと失念していそうですし、ティア1人に料理させると食材の消費量がおかしな量になってしまうので。主に味見と称するつまみ食いで」


「あー確かに・・・」


そうなのだ。ティアさんが食事当番の時は毎回食材の消費量がおかしいのだ。作る料理の量自体もおかしいのだが、それよりも料理途中のつまみ食いの量がもはや主食クラスなのでよくシゼルから注意されているのだ。


そしてもしアリシアが夕食当番を失念していた場合、ティアさん1人での調理となる。


・・・はいアウト~!!


「とくに用事もないからおっさんも手伝うよ、シゼル」


「助かりますが、良いのですか?」


「流石にティアさん1人に夕食の準備をさせるのはちょっと・・・ね」


「そうですか、助かりますご主人様」


「メニューは何にしようかな? 昼食が固焼きそばだったからな・・・」


「ご主人様、カレーはいかがでしょうか?」


「カレーか・・・最近食べてなかったね。よし、カレーにしよう。夕食はカレーだとしておっさん達出かける組はサンドイッチとかにしとく?」


「そうですね。そうしましょう」


「じゃあ家に帰って準備しますか。昼食に引き続きよろしくシゼル」


「よろしくお願いされました、ご主人様」


ホント昼食と同じ感じの展開だよ。これぞデジャブ!





予想通りアリシアは夕食当番を忘れていたのでおっさんとシゼル、ティアさんの3人でカレーを作った。


余談だけどカレーの方はつまみ食いするものがなかったからしなかったけど、外出組用のサンドイッチの具材をティアさんは大いにつまみ食いしまくりシゼルに説教されていましとさ。





もう一つ余談としては熊師匠達重鎮に出かける旨とメンバー、理由を告げた際に「朝帰り? お赤飯の用意はした方が良いか?」と真面目に聞かれたことと仲良し3人組(セシル、虎鉄、小雪)に今回はお留守番だと伝えたときに「ブーブー!!」とブーイングを受けた。


「朝帰り=赤飯」って・・・その知識は一体誰の入れ知恵ですか?


それとブーイング組、変われるならおっさんが君たちと変わりたいよ! ブーブー!!


はあ・・・今日の夜は長そうだ。

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