37.8話 ~side カナメ~
「送られてきたデータによるとあの廃村ね」
夜の暗闇の中、暗視スコープで殺害対象が潜伏していると思われる廃村の様子を確認する。
「静かね。馬車はあるのにギルマスが餌として購入した綺麗どころの奴隷と、護衛で雇った表の冒険者の姿もない。予定通り餌に食いついたのかしらね」
「この距離から得られる情報はもうないから、近づくしかないわね」
暗視スコープをしまい特注の片目用の暗視ゴーグルを左目に装着して、右手にはハンドガン左手は手ぶらにしておく。
夜間戦闘用のスキルも併用するが、スキルを無効化する能力持ちだった場合に困るので準備は怠らない。
闇に紛れて廃村に接近しながら、先日のギルマスとのやり取りを思い出す。
「仕事内容はとある人物の殺害よ」
「そう。代わり映えしないわね。何故仕事を断っても良いなんて注釈を入れたのかしら?」
「今回の相手が異世界人だからよ。しかもおそらくカナメちゃんと同じ原理でこの世界に来た類いのね」
ギルマスの言葉を聞いた瞬間、不覚にも感情が少し揺らいでしまった。
「問題ないわ。それにその依頼を私に振ったということは、かなり厄介な相手なのでしょう?」
「ええ、能力は判明しているもので異常な再生能力らしいわ。すでにうちの子達が3人犠牲になっているわ。ちなみに表の連中は100人単位で犠牲者がでているわ」
「裏の傭兵ギルドメンバーから3人も犠牲者がでたということは、保有している能力は最低でもあと1つはありそうね」
「そうね。そう考えておいた方がいいわね」
「殺害対象の潜伏場所は特定できているの?」
「うちの子達が探し出したわ。殺された3人の友人達が手段を選ばずにね」
「止めなかったの?」
「私のカワイイ子供達を3人も殺したのよ? 落とし前はきっちりつけさせるわ」
「スマフォ越しから殺気が駄々漏れよ?」
「あら、ごめんなさい♪ ホントは私が直々に手を下したいのだけれど・・・子供達に止められてね」
「今のあなたには立場がある。手足である私が処理するわ」
「ありがとう。でもくれぐれもやり過ぎないようにね? カナメちゃんは目的のためには手段を選ばない筆頭だから・・・」
「まるで危険人物みたいな言われようね」
「事実危険人物でしょう。本題に戻るけれど対象の潜伏場所はヒューマンの国の南西、そこにある廃村よ」
「それは朗報ね。廃村なら人的被害と周辺被害を気にしなくていいもの」
「・・・お願いだから程々にね?」
「善処するわ」
「対象はかなりの頻度で廃村の元領主屋敷にいるわ。獲物を持参してね」
「獲物? 人間の死体かしら?」
「半分正解ね♪ 人間の死体でも若くて綺麗な女性限定よ♪」
「ホルマリン漬けにでもしてコレクションにしているのかしら? それとも死体にしか興奮できない性癖で一晩限りのダッチワイフかしら?」
「もう・・・カナメちゃんは。年頃の女の子なんだから、もう少し慎みを持ちなさい!」
「私ももうそんな年齢なのね・・・」
「年寄りみたいなこと言わないの!」
「それで私が廃村に到着する日に対象は確実にいるの?」
「話を戻して逃げたわね・・・まあ今回は大目に見ましょう。ちゃんとカナメちゃんが到着する日に合わせて美味しそうな餌をまいておくから大丈夫よ♪ きっと食いつくから」
「ちなみにその「美味しそうな餌」って何?」
「よくぞ聞いてくれたわ! 表の奴隷商で大枚はたいて購入した上玉の貴族令嬢奴隷よ! しかも購入後に私自らメイクアップを施したわ!」
「没落貴族か借金のかたかしらね。でも購入された彼女達は困惑したんじゃない? 何故自分達が綺麗な服で着飾ることになっているのか」
「ええ、最初のうちは生まれたての小鹿のようにビクビク震えていたわ」
「それはギルマスを見たからじゃない?」
「もう辛辣ね~私だって傷つくのよ?」
「ささくれ程度でしょ?」
「酷いわね。で、簡単な取引をしたのよ。私の仕事を1つ引き受けてくれたら奴隷から解放してあげるわよって♪ しかも金貨100枚つきで」
「失意のどん底にいた奴隷達に希望と大金を目の前にぶら下げて、断るという退路を断つ。極悪人ね」
「何とでもおっしゃいなさいな。仕事内容は「護衛付きの馬車に乗って指定されたルートを通るだけ」っていう簡単なお仕事よ♪」
「表面的な意味では間違っていないけれど、1つ重要な単語が抜けているわよ。「命がけ」っていう」
「でも嘘はついてないも~ん♪」
「それで護衛の冒険者は表の人間?」
「そうよん♪ しかも Aランクパーティーの・・・名前は忘れたけれど、表じゃそこそこ有名なパーティーよん♪」
「その冒険者パーティーにはどんな餌をぶら下げたのかしら?」
「金貨100枚と指定エリアまで奴隷の馬車を護衛出来たら、中にいる奴隷を好きにして良い権利よ」
「控えめに言ってゲスね」
「お褒めの言葉をありがとう♥ 大方の人間なんて目の前に大金を積まれればすぐに飛びつくわ。それに男なんて性欲の塊。加えて冒険者は常に死と隣合わせ、人やモンスターを殺した興奮を色欲街で発散させている体の半分以上が股間のような生物よ。目の前に依頼を完了すれば性欲を無料で発散できる女性がいれば、依頼の最中は常に勃起状態で我慢汁垂れ流し状態でしょうね」
「生々しい表現ね。それで奴隷達は冒険者たちの餌に自分達が使われていることは知っているの?」
「もちろん知るわけないじゃない♪」
「ゲスの極みを越したかしら? 上手い表現が出てこないわ」
「軽蔑したかしら?」
「今の話のどこにギルマスを軽蔑する要素があったの? 綺麗事だけで生きていけるほど世の中甘くないし、この世界は優しくない。いくらどん底に近い状態にいても、 常識的に考えればそんな上手い話があるわけないことは予想出来るはず。ワンチャン狙うならそれなりのリスクと覚悟を背負わないとね。それに奴隷の女性達は別として、冒険者達は確実に死ぬのでしょう?」
「あら、なんでそう思うのかしら?」
「ギルマスが「殺害対象がいるかもしれない」なんて不確定な情報で、私に仕事を振るはずないもの。おおよその未来を見たからこんな一般人が聞いたら非人道的と罵られそうな作戦を立案したんでしょう?」
「大正解♪ なにか景品をあげちゃうわ♥」
「いらないわ」
「たまにはノッてきてよ♪ カナメちゃんの推測通り馬車は廃村で確実に対象に襲撃されるわ。そしてその際に冒険者達は殺されるわ。それもかなり鋭利な刃物で体を切断されてね。奴隷の女性達は元領主の屋敷に連れていかれるわ。でもその後の未来は不確定で1つには絞れなかったわ」
「十分よ。奴隷の子達も運が良ければ生き残れるのだし、対象の行動と攻撃手段が予想できるだけでも助かるわ」
「相手の能力が未知数だからくれぐれも無理はしないでね、カナメちゃん。それと私からのお願いなのだけれど・・・可能な限り奴隷の子達を助けてあげて」
「可能な限りね」
「それとこの任務が終わったら、うちの亡くなった子達の葬儀をするから参列してやって」
「わかったわ。でもその言い回しはやめてもらえる? 死亡フラグに聞こえるから」
「あらやだ、確かにそうね。でも大丈夫よ♪ 今回は助っ人を呼んでおいたから♥」
「私の腕を信用してないの?」
「怒ったの?」
「冗談よ」
「んも~いけずなんだから♪ 今回は相手が異世界人だし不確定要素が多いから、念には念を入れておくに越したことはないわ。だから最強の助っ人を呼んでおいたわ♥ その助っ人はね・・・」
「確かに色んな意味で最強の助っ人だけれど、私あの人苦手なのよね」
隠密行動で元領主の館までたどり着いたけれど、ここまで待ち伏せやトラップの類は1つもなかった。
「対象は1人と聞いていたけど、余程実力に自信があるのか単に異常者なのか・・・どっちかしらね」
それにしても・・・
「昔から芸術的感性はなかったけれど、流石にこれは悪趣味ね」
私の前には一種の芸術的なオブジェがある。
地面から高さがそれぞれ異なる4つの槍に切断された頭部、腕、胴体、足の4部位が元の人体の部位とはことなる順番で刺してある。それが合計4人分。
「ギルマスが雇った表の冒険者ね。確かに切断面は鋭利だけれど、それよりも特出すべきなのは皮膚の腐食の方かしらね。一種の毒の類いを広域で散布したのかしら・・・でも周囲に腐食の形跡はないのよね」
周囲の地面や朽ち果てた建物が腐食された形跡はない。
「毒だった場合、おそらくは即効性のタイプね。胸部が腐食して穴が空いているもの」
死体オブジェの下には、死体を食べたであろう小動物と小型のモンスターの死骸が転がっている。
「毒のタイプはあくまで私の予想でしかないから、念のため万能薬(長時間持続タイプ)を飲んでおこうかしら」
遅効性の毒だった場合、この廃村に足を踏み入れた時点で吸っている可能性がある。消せる不安要素は先に消しておくに越したことはない。
館の正面扉は朽ち果てていたので、難なく建物内に侵入することができた。
「不用心ね。侵入する方はラクでいいけれど」
己の気配を完全に消しつつ、建物内の気配を探る。
「館内にはいないわね。となると地下かしら?」
地下の気配を探ると、さほど深くない位置に比較的大きな空間をみつけた。
「ここね」
今度は気配だけでなく、生命反応を探る。
「人数は対象を入れて全部で7人か。そのうち生命反応があるのは2人・・・いえ、1人になったわね」
2つ残っていた生命反応が1つになった。つまり餌だった奴隷は全滅か。
「運がなかったわね。私としては面倒ごとが減って助かるけれど」
余裕があったら助ける予定だった奴隷が全滅したので、いったん館から出る。
「とりあえず地中貫通爆弾でも落とそうかしら」
対象がまだ地下にいることを確認して、館の遥か上空に地中貫通爆弾を召喚し自由落下だけでは不足なので、ロケットブースターでさらに加速させた。
そして地中貫通爆弾が領主の館を貫通して、そのまま地下まで突き刺さり爆発した。
館は跡形もなく砕け散り、地中貫通爆弾が着弾した場所は地下で爆発したため地面が大きく盛り上がっていた。
「これで死んでくれるとラクなのだけれど、そうはならないわよね」
爆心地を見ていると不意に地面が不自然に盛り上がり、土の中から男が現れた。
「全く・・・誰だい、吾輩の楽しいひとときに水を差したのは?」
その男は黒い帽子にペストマスク、肩からは黒いローブという出で立ちだった。
遠目から観察すると破れたローブから見える欠損部位が、通常ではありえない速度で再生されていく。
再生能力は事前の情報通りのようね。
「今夜は新鮮な食材が沢山手に入ったから、色々と部位ごとの味比べができると楽しみしていた気分が台無しだよ。あーレアが一番美味しい子宮もウェルダンに・・・」
男はよく焼けた子宮を自らの口に運び咀嚼しだした。その表情は恍惚で変態そのものだった。
「これは!?・・・ウェルダンでも中々。いつもとは違った風味と食感だね。ふむ、悪くない」
ブツブツと自らに世界に浸っていた男が、急にこちらを向いた。
「そこにいるのは把握していますよ、お嬢さん? 何せ物凄く良い香りがしますからね。恥ずかしがらずに出てきて下さい。でないと吾輩の方から迎えに行きますよ?」
対象・・・というより変態がこちらに両手を広げて、満面の笑みを浮かべながらゆっくりと歩いてくる。
パン!
気持ち悪かったので反射的に対象の眉間に銃弾を撃ち込んでしまった。
眉間を撃ち抜かれた対象は地面に大の字に倒れた。しかし5秒後には何事もなかったかのようにむくりと起き上がった。
「ナイスヘッドショット! 吾輩、初見の女性に眉間を撃ち抜かれたのは始めての経験だよ。この心トキメク感覚は何なのだろうか? まさか・・・これが恋!?」
パン!
見ていて不快だったので、とりあえずもう一度眉間に銃弾を撃ち込んだ。
すると先程の焼き直しのような光景が目の前で起こった。
「せっかちなお嬢さんだ。人の話は最後まで聞くようにと教わらなかったのかい?」
「そうね。他人の話は話し半分に聞くようにとは教わったわ」
あの再生能力は想定より厄介ね。セオリーでいけば再生速度を上回る速度の攻撃を加えるか、一撃で細胞まで消し去る攻撃をするかの2択ね。
対象の処理方法を思考していると、懲りずに対象が話しかけてきた。
「ところでお嬢さん。初見ということだからお互い自己紹介しようではないか」
「嫌よ」
「まあそう言わずに。では吾輩から・・・」
パララララ!
ワンマガジン分の銃弾を撃ち込んで頭部を粉々にした。
「・・・お願いだから少しは吾輩の話を聞いてくれないか」
「嫌よ。会話することで発動するスキル持ちの可能性があるから」
「そんな特殊なスキルを吾輩保有していないのだ」
「その話を信用するしないかはおいておいて、何故そんなに会話したいの?」
「よくぞ聞いてくれた! そう、あれは吾輩がこの世界に降り立った数年前・・・」
「・・・その話、長い?」
「銃を構え直さないでくれ! わかったのだ、要約すると寂しいから単に話し相手が欲しかっただけだ」
「・・・」
「何か反応してくれないと、吾輩気まずいのだが・・・」
「あなたがさっき殺した女性達と会話はしなかったの?」
「彼女達は吾輩の姿を見るなり悲鳴をあげるわ、失神するわでね。そもそもこの世界に来てから女性とまともに会話をしたのはお嬢さんで2人目なのだよ」
「あらそう。で、その最初にあなたと会話が成立した女性はどうしたのかしら?」
対象と会話を続けながらも相手の挙動に細心の注意を払う。
「こんな容姿の吾輩にも優しく接してくれる慈愛に満ちたシスターだった。故に彼女の乳房や尻、子宮は今でも忘れられないほどに極上のものだったのだよ」
そう言うと対象は夜空を見上げながら、ペストマスクから器用に涙を流し始めた。
「やっぱり殺したのね」
「違う! 彼女は死んでなどいない。吾輩の血肉となり未来永劫共に生き続けるのだ!!」
涙を流したかと思えば、今度は感情を高ぶらせ大声を出した。随分と情緒不安定ね。
「これは失敬。吾輩としたことがつい取り乱してしまった。さて、大分回り道をしてしまったようだが自己紹介をしようではないか。吾輩の名はジョン・ドゥだ。お嬢さんのお名前は?」
「ジェーン・ドゥよ」
「素敵かつ賢い返答だ。同じ時代かどうかはわからないが、やはり同郷の人間と話すのは心踊るな。吾輩、ホームシックになりそうだ」
「じゃあ、帰れば?」
「残念ながら吾輩、自力で帰る手段がないのだよ。もし帰る手段があったとしても吾輩は帰る気はないがね。この世界での生活が充実しているから戻るなんてゴメンなのである」
「この世界にとってはいい迷惑ね」
やはり私と同じ経緯でこの世界にきたタイプか。
「さあ、楽しいお喋りはこれくらいにしてお嬢さんも吾輩の血肉となり永久を生きようじゃないか!」
「お断りするわ」
私が返事をするのと同時に足元の地面から刃物が数十本、左腕目掛けて飛んできた。
右に回避行動をして、大方は回避できたけれど2本左腕を掠めた。
厄介ね。殺気が感じられないうえに速い。攻撃を予想しづらいタイプね。
傷口を見ると紫色に変色し、周囲の皮膚に広がり始めたのでハイポーションと万能薬を傷口にぶっかけた。するとすぐに肌の変色は収まり傷口もふさがった。
パチパチパチ
「実に迅速かつ適切な判断だ。ますますお嬢さんと1つになりたくなってきたよ」
拍手をしながら私の行動を称賛するジョン・ドゥは、逃げようとも隠れようともしない。
自分の再生能力に絶対の自信があるのか、それとも他に奥の手を隠し持っているのか。
それにしても・・・
「ジョン・ドゥは元は外科医だったのかしら? 医療用メスを武器にするなんてあまり誉められた行為ではないわよ」
ハイポーションをかける前に見た左腕の傷は、文字通り鋭利な刃物によるものだった。
これが死体の鋭利な切断面の原因ね。
「その通り。吾輩、これでも元の世界では優秀な外科医だったのだよ。数多くの命を救ってきたのだよ。いわゆる名医というやつなのだよ」
「今では救った命の総数より、奪った命の総数の方が多いんじゃない?」
「誉めるな。吾輩照れるではないか」
私の言葉に何故かハニカミながら照れるジョン・ドゥ。気持ち悪いわ。
鋭利な切断面よりも気になるのは傷口が紫色に変色し、肌を侵食し始めたこと。
侵食速度が速かったからすぐに万能薬をかけたけれど、特殊な毒の類いかしらね。メスに事前に毒を塗ってあったのか、それとも毒自体を作り出せる能力なのかはわからないけれど、ユニーククラスの能力だった場合は厄介ね。
さて、やられたからにはしっかりとやり返さないとね。
M134、いわゆるミニガンを召喚する。
現実的に考えたら私のような体格の女性が携行兵器として使用するには重量と射撃時の反動を考えると不可能なのだけれど、そこは身体強化をすれば可能になる。異世界補正ね。
いまだに私の眼前に姿をさらし続けるジョン・ドゥに毎分2,000~4,000発の弾丸を撃ち込む。
一瞬で細かい肉片になったジョン・ドゥをダメ押しの大量の焼夷手榴弾で焼き尽くす。
「汚物を消毒出来たかしら?」
「残念だが吾輩のハートはこの程度の温度では燃え尽きんよ」
またもや一瞬で体を再生して、ペストマスク以外一糸まとわぬ姿で仁王立ちをするジョン・ドゥ。
「汚いものを見せつけないでもらえる?」
「おっと、これは失礼。吾輩の能力では体は元に戻せても着ている衣服までは再生できないのでね。ところで・・・どうかね? 吾輩自身では中々立派なものだと自負しているのだが」
ジョン・ドゥが腰を前につき出したので、立派なモノとやらが「ぶら~んぶら~ん」と揺れている。
あまりに不快な光景にもう一度ミニガンを構えようとすると、突如胸に痛みが走り呼吸が苦しくなった。
次に体から力が抜け地面に膝をつく形になった。ミニガンが消失し口に鉄臭さを感じて手で拭うと、手の甲に血がついた。
「かは!? これは・・・警戒はしていたけれどやられたわね。あなたの能力は超速再生と毒の生成の2つなのかしら?」
「近からず遠からずというところだね。吾輩の能力は「超速再生」、「腐食」、「念力」の3つなのだよ。お嬢さんの胸部の痛みの理由はこの廃村一帯の空気を極めて薄く腐食していたからなのだよ。つまりお嬢さんが呼吸する度に腐食された空気を肺に取り込み、そして徐々に肺を腐食されていたのだよ。ちなみに「腐食」は吾輩のユニークスキルだから、一時的に万能薬で侵食を遅らせることはできるが完治は難しいのだよ」
完全に自分が優位に立ったことを実感したからか、誇らしげに自身の能力を説明しながら私に近づいてくる。
独白した能力が本当かどうかは判断しかねるけれど、今後の行動戦略の参考になるのはたしかね。
「さあ、お嬢さんはどんな味がするのかな? 吾輩楽しみでビンビンになってしまったよ」
「はあはあ・・・汚物がさらにワンランク上の汚物に昇華したわね。ふう・・・1つ忠告してあげるわ。ちゃんと足元を見ながら歩いた方がいいわよ。でないと小石に躓くわよ」
「小石? 何のことかなお嬢さ・・・」
ジョン・ドゥが私の忠告を無視してさらに歩みを進めると、地面が爆発した。
「だから忠告したじゃない。足元には危険がいっぱいだって」
アイテムボックスからエリクサーを取り出して飲む。体調が回復したのを確認して防毒マスクを装着する。
「完全に腐食とやらを防げるとは思わないけれど、しないよりはマシよね」
膝に力が入ることを確認して立ち上がって対象から距離をとる。
「廃村を探索しているときに色々とトラップを仕掛けておいて正解だったわね。備えあれば憂いなしね」
ジョン・ドゥが地雷を踏んでくれたおかげで、体勢を立て直すことができた。
「今回は長丁場になりそうね。仕事の前に軽食をとっておいて正解だったわ。ジョン・ドゥがトラップに引っ掛かっている間に遠距離戦に切り替えようかしら?」
バン、ドン!
アンチマテリアライフルを召喚していると、再び地雷を踏んだのか遠くから爆発音が断続的に響いている。
「警戒心がないのか学習能力がないのかどっちかしらね? もしかしてわざと地雷原に突入しているのかしら。変態だからその可能性大かもね」
タンタンタンタン
地雷だけでなくRWSエリアにも入ったようだ。トラップで時間稼ぎをしている間に、ジョン・ドゥを確実に消滅させる方法を考えなければこちらがじり貧になってしまう。
消滅方法を思考しながら廃屋の屋根に移動して、アンチマテリアルライフルを構える。
「まあひとまずジョン・ドゥの頭部を吹き飛ばして、気分をスッキリさせてから考えましょう」
引き金にストレスを乗せて引く。
ジョン・ドゥの頭部を吹き飛ばしてから2時間程経過しただろうか。
私も健在だしジョン・ドゥも健在だ。あれから何度もジョン・ドゥを消滅させようと手段を講じた。
至近距離でショットガンを連射してから火炎放射器で焼きつくしてみたり、四肢を吹き飛ばしてから再生する前に穴に大量のC-4と一緒に落として爆破してみたりと、その他も色々試したが結局消滅させるには至らなかった。
腐食された防毒マスクを外して肺を治すために8本目のエリクサーをあおり、新品の防毒マスクをつける。
メスで服が何ヵ所か切り裂かれて、着ている服がダメージ加工された感じになった。
「吾輩結構前から聞きたかったのだが、そんなにがぶがぶとエリクサーを飲んで色々大丈夫なのか?」
「色々って何?」
「そうだね・・・例えば消費されたエリクサーはどう補充するのか? そんな高価なものをバンバン消費して大丈夫なのかとか?」
「大丈夫なんじゃない? 消費した備品は全部経費でおとすから後のことは知らないし興味ないわ」
「吾輩、お嬢さんが所属している組織の上役の心労が心配になってきのだよ」
「敵であるあなたが心配する必要はないと思うけど?」
「まあそうなのだが。それとお嬢さん、大量にエリクサーを飲んでお手洗いは大丈夫なのかい?」
「そうね。確かに水分のとりすぎでトイレには行きたいけれど、殺し合いの最中にそんなことをしている暇はないでしょう。こんなことならオムツを履いてくれば良かったわ。最悪漏らすからいいわ」
「良くない! お嬢さんはもっと女性としての羞恥心を持つべきだ!」
「同じようなことを最近誰かに言われた気がするわね」
「それに漏らすなんて勿体無い! 漏らすくらいなら吾輩ビーカーを持ってるからそこにするのだよ。終わるまで吾輩、待っているから」
「漏らすよりかはマシかもしれないけれど、仮に私がビーカーに用を足したとしてそのビーカーはどうするのかしら?」
「お嬢さんから出た貴重な黄金水だ。吾輩が美味しく頂くに決まっているだろう!」
「やっぱり漏らすことにするわ」
「何だと!? ならば吾輩はお嬢さんの黄金水が染み込んだ地面を直接舐めるのだよ」
「本格的に嫌悪感を覚えてきたから、今すぐに消滅してくれない?」
お手洗いの問題もあるけれど、アイテムボックスに入っているエリクサーの数にも限りがある。
この辺りで勝負を決めないと私が不利になるわね。
「どうしたのだ? お嬢さん難しい顔をして考え事かい?」
「いい加減にあなたをこの世界から消し去る方法を検討していたのだけれど、もうこの方法しかないみたいね」
「吾輩まだこの世界の女性を味わい尽くしていないので、消し去られたくないのだが・・・ちなみにどうやって吾輩を消し去るつもりなのかね?」
「戦略核兵器を使うのよ。私たちを囲むように360度から多数の核ミサイルを撃ち込めば、あなたの再生速度とダメージ許容量を上回るでしょう。ここが廃村で良かったわ。流石に私も民間人がいたら多少は躊躇したもの」
私の言葉を聞いたジョン・ドゥは顔を真っ青にして後退り始めた。流石に私がやろうとしていることが自らの生命を脅かすことが可能だと判断したのだろう。
「その様子だとこの方法ならあなたを消滅させられそうね」
「お嬢さん・・・正気なのかね?」
「ええ、正気よ」
「ちなみに周辺への汚染などは考えているのかね?」
「戦いに犠牲はつきものでしょう?」
「お嬢さんは私と心中するつもりなのかね?」
「あなたと心中するのなんてゴメンこうむるわ」
「ではお嬢さんは核爆発の中でも助かる術を持っているということかな?」
少しでも自身が生き残れる可能性が目の前にぶら下がったことで、ジョン・ドゥの血色が戻り始めた。
「残念ながらその方法は1人用なうえ、成功率が極端に低いのよ。神頼みをして10%くらいかしらね」
私の言葉を聞いたジョン・ドゥは分かりやすいくらい、再び血色が悪くなった。
「それではお嬢さんも死んでしまうのではないか? 吾輩と心中するつもりがないと言いつつ、このままでは結果的に死ぬことになるのだよ。それでいいのかい?」
「それが私の仕事だから」
「その年齢で仕事人間とは・・・難儀なお嬢さんだ」
ジョン・ドゥも何かしらの覚悟が決まった様子に見える。
「それじゃ、あなたを消滅させるわ。神頼みする時間が必要かしら?」
「来世でもお嬢さんに出会えますように」
「死んでもお断りね」
私が最後の攻撃を仕掛けるために多数の核ミサイルを召喚しようとすると、月明かりが遮られ何かが私に影を落とした。
「ガハハハッ! こんな夜更けに女が1人で出歩くものではないぞ! 強姦や変態に襲われたたらどうする」
「・・・たった今私の前に変態が1人プラスされたけれど?」
「ガハハハッ! カナメ嬢ちゃんは相変わらず言葉にトゲが多いな」
私が変態と称した男、人呼んで「ブーメラン健」。
ギルマスが事前に言っていた頼もしい助っ人だ。
実力は私が知る限りではかなり強者の部類だ。人格的にも問題はない。
問題があるとすれば格好である。
頭に麦わら帽子、極限まで鍛え上げた肉体に真紅のマントを纏い深紫色のブーメランパンツを履くというスタイルを普段からしている。
初対面の人間にしたらTHE変態である。
「ガハハハッ! 遅くなってすまなかったな。ギルドの仲間と筋トレ談義に花が咲いてしまってな、仕事のことをすっかり忘れておったわ。ガハハハッ!」
「相変わらず仕事より筋肉が優先なのね」
「当たり前だ! この世に筋肉より優先すべきことなどないわ!」
右手を力強く天に突き上げる姿は場所によっては肉体美もあいまって神々しく見えるかもしれないが、隣で見ている私からしたらただの変態でしかない。
「で。あの変な仮面をした全裸のヒョロッこいのが対象か?」
「そうよ」
「いかん、アレではいかんな! 筋肉が足りていない。儂としてはあの男の体つきが納得いかん!」
「私としては何故あなたが全裸であることに対して、違和感を抱かないのかが納得いかないのだけれど?」
「これは儂がきっちり指導してやらねばならんな!」
「・・・もう好きにして。私は疲れたから少し休ませてもらうわ」
「そうか、何時に起こしてほしい? 筋肉目覚ましでスッキリ起こしてやるぞ?」
「そんなに本格的に休まないわよ。気力と体力を回復させるだけよ」
「残念だのう。筋肉目覚ましの感想を聞きたかったのにな・・・」
「今回は遠慮しておくわ。またの機会にしてもらえる」
援軍が到着したことで核攻撃をしないで済んだので、ほんの少し緊張がほぐれた。
「あんな変態に苦戦するなんて、私も鍛練が足りないわね。そうだ、今のうちにお手洗いを済ませておこうかしら?」
「吾輩は今猛烈に不機嫌なのだ!」
「奇遇だな。儂も不機嫌だ!」
ペストマスクをつけた全裸の男と、ブーメランパンツ一丁のマッチョが向かい合って大声を出している。
「吾輩、男は大嫌いなのだ! 特に貴様のようなガイムチ野郎は!!」
「儂もお前のような筋肉が足りていないヤツは認めん! 何故己の体を鍛えあげない? 何故筋肉の素晴らしさから目を背けるのだ!?」
私から見れば変態同士が己の主張を好き勝手に叫びあっている絵面なのよね。
「吾輩とお嬢さんの死のランデブーを邪魔してくれたこと、後悔させてやるのだ!」
「己の体を鍛えず筋肉を信じない愚か者め、儂が直接指導してやるわ!」
変態同士の戦いの火蓋が切って落とされた。
さきに動いたのはジョン・ドゥだった。
自らを守るように空気の腐食濃度をはっきりと視認できるレベルまで引き上げた。
「空気が濃い紫色に見える。腐食の濃度を急激に上げたみたいね。触れただけでも皮膚は腐食しそうね」
用を足した私は廃屋に背を預けた状態で、戦いを観戦している。
ブーメラン健が動いた。
見るからに毒関係の類いだと分かっているはずなのに、堂々とした足取りでジョン・ドゥに向かっていく。
そして高濃度に腐食された空気の前で足を止め、あろうことか大きく深呼吸した。
すると腐食された空気がブーメラン健の口にどんどん吸い込まれていく。
ジョン・ドゥは目を真ん丸にして、目の前で行われているありえない光景に驚愕している。
10秒ほどで腐食された空気が全てブーメラン健に吸収された。
「ゲップ。ふむ、色味と同じでほんのり葡萄味だな。儂としてはもっと濃い味の方が好みではあるな」
味の感想を言うブーメラン健を化け物を見るような目でジョン・ドゥが見ている。
「吾輩驚愕なのである。肺活量もさることながら、高濃度に腐食された空気をあれだけ大量に摂取して何故なんともないのである?」
攻撃の切り札であるユニークスキルを非常識な方法で無効化されたことに焦り、冷や汗をかき始めるジョン・ドゥ。
「そんなもの鍛えているからに決まっておるだろう! ガハハハッ!」
「何の説明にもなっていないのである!」
「全ての道は筋肉に通じる!」
「そんな道は存在しないのである!」
ユニークスキルが効果のないことに錯乱したのか、真っ正面からメスを投擲する。
一方ブーメラン健はその場を動かないどころか、避ける素振りすらしない。
一直線に投擲された数十本のメスは、ブーメラン健の鍛えぬかれた大胸筋に接触した瞬間に粉々に砕け散った。
「ありえないのだ。メスの方が砕け散るだと!?」
「儂の大胸筋を舐めるでないわ!」
サイドチェストポーズをキメ顔でするブーメラン健。
「私の銃弾ですら通さない筋肉の鎧だもの。メスごときでは掠り傷もつくはずがないわ」
これで対象に残されたスキルは「超速再生」のみ。しかしそれもブーメラン健の前では無意味だろう。
「儂がお前に教えてやろう。鍛え抜かれた肉体はそれだけで最強の武器であることを! いいか? これからお前に向けて左腕を振るう。歯を食いしばれよ」
「?」
ジョン・ドゥとブーメラン健との距離はおおよそ20メートル弱。
私はこれから起こるであろうことに備えて結界をはった。
ブーメラン健が左腕を無造作に振るう。
ただそれだけの行為で轟音、衝撃波、破砕音の三重奏が奏でられた。
数十秒経ち土煙が晴れるとそこには扇形に破壊し尽くされた惨状と、上半身が再生途中のジョン・ドゥしか残っていなかった。
「結界をはっていなければ土埃まみれになっていたわね。それにしても身体強化していない生身の状態でこれだものね。ホント非常識」
「ちゃんと歯を食いしばれと言っておいたではないか! 何だそのザマは。筋肉に謝罪しろ!」
「・・・吾輩が完全に再生されないことに筋肉は関係ないのである。再生されない原因は貴様が来る前、お嬢さんとの逢瀬の際のダメージ蓄積量が再生の限界を超えていたからである」
「なんだと!? こんな夜更けに年頃の男女が逢瀬だと、けしからん! 儂は認めんぞ!!」
「あなたに認めてもらう必要はないし、逢瀬じゃなくて殺し合いの間違いよ」
「むう、そなのか? ところでもう休憩は終わりか?」
「ええ、エリクサーを飲んだし、お手洗いも済ませてきたから万全の状態よ」
私がそう言うとまだ上半身の再生が済んでいないジョン・ドゥが、膝から崩れ落ちて辛うじて再生された右手を地面に叩きつけた。
「くそ! こんなガチムチ野郎に構っていたせいでエリクサーより貴重なお嬢さんの黄金水を試飲する機会を逃してしまった・・・は!? 待て、まだ希望はある。お嬢さん! どこでお手洗いを済ませたのであるか?」
「それを聞いてどうするの?」
「決まっているのである! すぐにその場所に行く。そしてもし地面が土だった場合は神に感謝して、顔を地面に擦り付けながらクンカクンカして香りを楽しむ。さらに黄金水が染み込んだ土を採取して、どんな手段を講じてでも黄金水を抽出してみせる!」
再生途中の上半身を私の方に向け、戯れ言を言い放った。
「カナメお嬢ちゃん、儂でも引くレベルの冷たい殺気が漏れ出ておるぞ?」
「久々に最上位の嫌悪感を覚えたわ。やっぱり今すぐに周辺もろともジョン・ドゥを消滅させるべきなのかしら?」
「落ち着くのだ! そんなことをしたら後処理に膨大な経費がかかって、ピンキーゲンのヤツが昇天するぞい。ほれ深呼吸じゃ、ヒッ・ヒッ・フー」
「それはラマーズ法よ。大丈夫よ、もう落ち着いたから」
何年かぶりに感情的になりかけたわ。裏ギルド所属の人間としては失格ね。
「遅れてきた件があるから、アイツの処理は儂がやろう」
「あら、私は助かるけれどいいの?」
「今のカナメ嬢ちゃんにやらせたら、何をしでかすかわからんからな・・・」
「小声のわりにはしっかり聞こえてるわよ」
「聞こえるように言ったのだ」
ブーメラン健の纏う空気が変わった。次で終わらせる気ね。
「待たせたな。これ以上お前を生かしておくとカナメ嬢ちゃんが暴走しそうなんでな、これで終わりにするぞ」
腰を落として右腕を後ろに引く。
「まだだ、まだ終わらんよ! 吾輩はお嬢さんの黄金水を飲むまで死ねないのだ。この気持ち・・・まさしく愛!」
もう完全再生するほどの余力がないのだろう。中途半端に再生途中の上半身をあげたかと思うと、右手で自らの眼球をくり貫いて遠くに投擲した。
何をしたいのか一瞬理解できなかったけれど、ブーメラン健は対象の意図を即座に理解したようで「やられたわい」とぼやいていた。
対象が私の方を向いた。生理的嫌悪がするわね。
「お嬢さん、いや吾輩の運命の人よ! また会おう。それまでにもっと魅力的になっていておくれ」
それがジョン・ドゥの最後の言葉になった。
ブーメラン健が右腕を正面に振り抜くとジョン・ドゥは消滅し、その後方にあった森だけではなく遥か彼方の山まで一直線に貫いた。
「相変わらずデタラメな威力ね。でも私が核ミサイルを撃った後始末よりはマシかしらね」
「やられたわい。仕留め損ねた」
「今になってジョン・ドゥの行動の意味が理解できたわ。ジョン・ドゥの再生能力があれば、眼球1つでも残っていればそこから他の部位が再生可能。だから眼球だけを森に投げたのね」
「その通りだ。これはピンキーゲンに小言を言われるわい」
ボリボリとブーメランパンツの上から尻を掻きながら後悔を口にする。
「仕方ないわね。自然破壊は趣味じゃないけれど、今後ジョン・ドゥに出会わないためには必要な犠牲ね」
「やめておけ。数分前なら核ミサイルによる広範囲攻撃の効果が期待できただろうが、今となっては無意味だろう。あのヒョロっこいのも馬鹿ではあるまい。すでに遠くに逃げおおせておるだろう。気配も感じんしな」
周囲を警戒しながらもどこかリラックスした状態で、プロテインを飲み始めたブーメラン健。
「仕事は失敗ね。対象の能力が大方判明したのは行幸だけれど、私は対象が生きている限りストーキングされることになるのね。気が重いわ」
これからド変態のジョン・ドゥを殺すまでストーキングされることを考えると、今まで以上に常時戦場の心構えでいなければならない。精神的に参りそうね。思わず大きなため息が出た。
「ため息なんぞつくな、幸せが逃げるぞ? それに若白髪と小皺が増えそうな陰鬱な顔をするでない」
筋肉質の大きな手で無遠慮に頭を撫でられた。
「生憎逃げるほどの幸せは持ち合わせていないわ。それと女性に対しての発言にあなたはもう少し気を配ることをオススメするわ。子供じゃないんだから頭をワシワシするのはやめて」
手を払い除けようとするが、力の差がありすぎてできない。
「儂から見たらカナメ嬢ちゃんは子供みたいなもんだ。それにな、子供の尻拭いは年長者の仕事だ」
私の頭から手を離すと飲み終えたプロテインの容器を洗ってアイテムボックスにしまい、眼球が投擲された方向に歩きだした。
「あいつの追跡と処理は儂が引き継ごう。遅れてきた負い目もあるがカナメ嬢ちゃんとあいつは相性がよくなさそうだ」
「変態がド変態を追跡する素敵な構図の完成ね」
「軽口を叩けるなら大丈夫そうだな。ピンキーゲンに連絡して後始末を頼んでおいてくれ。表の連中の亡骸を家族の元に返してやらんとな」
「そうね」
「じゃあ、頼んだぞ」
最後にそう言ってブーメラン健は暗闇の森に姿を消した。
「もしもし、今大丈夫?」
「大丈夫よ。それで首尾の方はどうなったかしら?」
「しくじったわ、ごめんなさい」
「今回はカナメちゃんが無事ならそれでいいわ。それにしても2人がかりで仕留め損なうなんて、相当な手練れだったのかしら?」
「戦闘技術だけで言えば素人に毛が生えたレベルよ。厄介だったのはスキルの方ね」
「どんなスキルだったの?」
「確認できたのは超速再生、腐食、念力の3つよ。詳細は戻ってから話すわ。それと1つ訂正しておくけれど2人がかりではないわ。助っ人は大幅に遅れて到着したから」
「はあ~あの人はホント時間にルーズね。自由奔放過ぎるにもほどがあるわ」
「その分実力でカバーしているから問題ないんじゃない?」
「だから余計タチが悪いのよ!」
「遅れてきた件と対象の逃亡を阻止できなかったから、ブーメラン健が仕事を引き継いで対象の追跡に向かったわ」
「女性にしか興味がない対象にとっては、ガチムチにストーキングされるなんて御愁傷様ね♥」
私も対象にストーキングされている身だが、その話題を振るとやぶ蛇になりそうなのでやめておきましょう。
「後処理班が到着したら引き継ぎ業務をして戻っていらっしゃい。疲れたでしょうからゆっくり休んでちょうだい」
「ええ、そうさせてもらうわ」
精神的な疲労が主なので、湯船に浸かって心と体を癒したいものね。
「他に何か報告または確認事項はあるかしら?」
「1つ経費関係で確認したことがあるのだけれど・・・」
「あら珍しいわね。何かしら?」
「裏の傭兵ギルドに所属している人間の経費はギルマスが補填しているのよね?」
「ええそうよ♪ 正確にはギルドの金庫から出ているわよ。それがどうかしたのかしら?」
「今回の戦闘で備品をいつもより多く消費したから、少し気になっただけよ」
「何か不吉な予感がするわね。一体何の備品をどのくらい使ったのかしら?」
「万能薬を少しと・・・」
「うんうん」
「エリクサーを8本」
「・・・え~!? エリクサーを8本って1本いくらすると思っているの! カナメちゃん、これは戻ってきたら一度経費関係についてじっくり話し合いま・・・」
「疲れているから切るわね。じゃあまた」
「ちょっと待ちな・・・」
戻ったらギルマスからのお小言が待っているかと思うと、自然と帰る足取りが重くなるわね。
どこかで遅い夜食を食べてから帰りましょう。
結局ギルドに戻って報告を終えた後、ギルマスに経費関係の話をみっちり3時間された。
これからは少し経費も意識した戦闘を心がけようと、ほんの少し思った。




