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今日も森の木々の間から見える空は快晴。気温も春先くらいの温度に感じる。

早朝から熊師匠と虎鉄、小雪の4人で渓流釣りに来ています。

糸を垂らしているのはおっさんと熊師匠で、虎鉄と小雪は河原で遊んでいます。

そんなにびしょ濡れになって・・・君たち、あとでシャンプーね。

朝から熊師匠が鮭(?)みたいな魚を釣り上げたので、その場で鉄板を出して鮭モドキのちゃんちゃん焼きを作って朝食代わりに4人で食べました。

しかし朝からこのメニューはおっさんには少々ヘビーでした。胃薬よ、また世話になる。

朝食後ももう少し釣りをして、自宅組のお土産にしようという話になり熊師匠と魚を釣り上げています。

相変わらず見た目の色は食欲をそそらないな。

成果は上々。今日の夕食は魚づくしのメニューになるな。それにしても熊師匠は釣りの才能があるのか? 朝から一定のペースでどんどん釣り上げているのだが。

しかも合間に焚き火で釣った魚を焼いて食べてるし。

遊び疲れた虎鉄と小雪が「ドライ」の魔法で自分自身を乾かして、焚き火のそばでウトウトし始めた。おーいあんまり焚き火に近づくと毛が焦げるぞ。

そんな穏やかな時間を満喫していると、熊師匠が空に向けて鼻をヒクヒクし始めた。

「どうしました? 熊師匠。もしかして天気がくずれそうですか?」

おっさんの問いに鼻ヒクヒクを終えた熊師匠が、不吉なことを言い放った。

「ぐぅあ~ぐぅ、ぐぁぐぁ」

「え? 何ですかその自宅に帰りたくなくなる不吉な情報は」

熊師匠曰く、これからお土産を持ってお楽しみの昼食を食べに帰ろうとしている自宅から、嗅いだことのない匂いがするそうだ。

しかも何故かシゼルと非常によく似た匂いのように感じるそうだ。

その情報を聞いたおっさんは、途端に自宅に帰りたくなくなったよ。シゼルとよく似た匂いって、まあ良い香りなんだけれどそれって確実にこの世界の住人じゃない存在だよな。

触らぬ神に祟りなし!

「熊師匠、虎鉄、小雪。今日は久しぶりにサバイバル訓練も兼ねてキャンプしましょう。天気も良いし。大丈夫、アイテムボックスにキャンプ用品と食材は十分あるから」

現実逃避するための提案に3人はおっさんに気を使って快く承諾してくれたが、そうは問屋が卸さない。

『ご主人様、火急の要件があるので今すぐに自宅に戻ってきてください』

えーマジか。帰らなければ厄介ごとを回避できると思ったのに・・・計画失敗。

おっさんの表情の変化からシゼルとの会話の内容は聞こえていないはずなのに、すでに熊師匠が憐れみを込めた目でおっさんを見ている。

『ご主人様、聞こえているのでしょう? 返事をしてください』

『おかけになった電話は現在電波が届かない場所にあるか、電源が切れている状態です。ご用件のある方はピーという発信音の後にメッセージをどうぞ。ピー』

とりあえず最後の抵抗を試みてみる。

『ご主人様、くだらないことをしていないで早くこちらに来てください』

『行かなきゃだめ?』

『面倒なのでこちらに強制送還します。せめて服は着た状態でいてください』

相変わらずおっさんに一切の拒否権はない。すでに足元に強制送還専用の魔方陣が出現している。

最後の希望を求めて熊師匠の方を見ると、釣竿を持っていない方の手を振って「バイバイ」している。く、熊師匠でさえもシゼルに敵わないというのか。

虎鉄と小雪に至っては遊び疲れて爆睡しているし。ええいままよ。

「熊師匠。すみませんが一足先に強制的に戻ります。虎鉄と小雪、お土産の魚の確保をよろしくお願いします」

その直後、おっさんは熊師匠達の前から光と共に消えた。



おっさんが目を開けるとそこはいつもの自宅。それも庭にあるウッドデッキの上である。

そして目の前にはシゼルと見たことのない女性が2人、計3人でティータイムを楽しんでいる。

しかしその穏やかな光景とは裏腹に、おっさんの心臓は爆発寸前です。

何故かって? 熊師匠が言った通り目の前の2人の女性からは、シゼルと同様の気配を感じるからです。

あらゆるものの頂点。絶対強者の気配だ。シゼルと同じように力をかなり抑えてくれてはいるけれど、意識とは無関係に体の生存本能が怯えて震えている。

目の前の存在の機嫌を損ねただけで、おっさんの命はあっけなく消えるだろう。シゼルで少し馴れたつもりだったけど、とんだ驕りだったな。

おっさんの異変を感じ取ったシゼルが、急いで椅子から立ち上がりこちらに来る。

目の前までくるといきなり抱きしめられた。しかもおっさんの顔がちょうどシゼルの胸元にくる形で。

おっさんからは見えないがシゼルの後ろから「あらあら」、「これは異常事態」という声が聞こえた。

え・・・えええ!? 何この状況? あのシゼルがおっさんを正面から人前で抱きしめた。

しかも巨乳好きのおっさんに嬉しい形で。ああ・・・これは、夢か。

「幸福感に浸っているところ申し訳ありませんが、これは現実であって夢ではありませんよ」

どうやら現実の出来事らしい。では何故シゼルはこんな行動をしたんだ?

「その様子ですと落ち着いたようですね、ご主人様。今回は私のミスです。私との生活で多少馴れたとはいえ、いきなり2人の前に強制送還したのは軽率な行動でした。ですから、この行為は謝罪と反省の意味合いとショック療法の意味合いで行いました。残念ながらご主人様が期待しているような、深い意味合いはありません」

シゼルが言うおっさんが期待していることが何なのかは不明だけど、幸せな気分になったおかげで先程までの恐慌状態は収まっていた。何だかんだ気遣いの人だよね、シゼルは。

「ありがとう、シゼル。おかげで落ち着いたよ。それとおっさんとしては非常に好ましいシチュエーションなんだけど、人前では恥ずかしいのでそろそろ離して頂けないかと・・・」

おっさんにとっては見知らぬ女性、しかしシゼルの知り合いとなればおっさんだけではなくシゼル自身も恥ずかしいだろう。ここはお互いのために早く離れなくては。

「そうですね。ご主人様も落ち着いたようなので名残惜しいですが、離れましょう」

何故かおっさんの耳元でそんなことを囁くシゼル。最近シゼルによくからかわれるな。おっさん何かしたかな? まあ、それでシゼルが楽しんでいるなら別にいいか。

シゼルの抱擁から解放されて、改めて椅子に座る2人の女性に目を向ける。

紅茶を飲みながら微笑んでいる女性。

美人であるがシゼルと同様に不純ないやらしさがない。しかもシゼルよりもボンキュッボンだ。何てすごいスタイルなんだ。

淡い水色の髪でクルクルふわふわの巻き毛が、柔らかい雰囲気を醸し出している。

青色のドレスのような服を身に纏い、腕には蛇の細工がされた腕輪をしている。

そしてもう1人、ケーキを上品に黙々と食べている女性。

こちらの女性も不純ないやらしさがない美しさだ。プロポーションはおそらくシゼルと同じくらい。

特徴的なのは左目の下に泣きボクロがあることだろう。

腰まで届く長い銀髪の髪先を蛇の髪止めでまとめている。

グレーのパンツスーツを着こなし、無表情でキリッとした雰囲気を身に纏っているのだが口にケーキのクリームがついている。

「ご主人様、改めて紹介します。もうお分かりだと思いますがこの2人は私と同じ世界の存在です。2とも自己紹介してください」

「あらあら、真名は伏せた方がいいのよね? そうね~私はレヴィよ、よろしくね」

見るからにゆるフワ系と思われるレヴィと名乗った女性が、丁寧に頭を下げて自己紹介をする。

「・・・ティアだ」

一言で自己紹介を終えたクール系のティアと名乗った女性。おそらく無駄に話すのが嫌いなタイプとおっさんはみた!

レヴィと名乗った女性は全てを見透かすような瞳で、おっさんを見つめてくる。値踏みされているのかな?

一方でティアと名乗った女性はもうおっさんに興味がないのか、行儀よく黙々とケーキを食べている。彼女の目の前の皿には様々な種類のケーキが山積みになっている。アレ全部食べるのかな? 極度の甘党か?

「ご主人様も自己紹介をお願いします」

シゼルに促されて、おっさんも自己紹介をする。初対面ですもんね。

「えーとおっさんです。この森で暮らしています。元はこの世界の住人ではないのですが、神隠しみたいな現象にあいましてこの世界に来ました。シゼルさんにはいつもお世話になっております?」

最後の方が変な感じになってしまった。隣にいるシゼルが若干呆れ顔になっている。

「あらあら、こんなに楽しそうで穏やかなシゼルを見たのはいつ以来かしら。よっぽど今のこの生活が好きなのね。うふふ」

おっさんとシゼルを見ながら微笑むレヴィさん。そうなのか? おっさんは今のシゼルしか知らないから、昔がどんな感じだったのかな気になるな。

「皆さんは昔からの知り合いなんですか?」

以前のシゼルのことが気になったので、3人の関係性について踏み込みすぎない程度に質問してみる。

「あらあら、気になる? 話せる限りで教えてあげるわ。でもその前にあなたもシゼルも座ったら? うふふ」

そういえば恐慌状態をシゼルに収めてもらってから、2人とも立ちっぱなしだった。

「そうですね。ではお言葉に甘えて」

レディーファースト。さきにシゼルに座ってもらうために、おっさんが椅子を引くと「ありがとうございます」と言ってシゼルが腰をかけた。さて、おっさんも座ろう。

「あらあら、2人は面白い関係性なのね。うふふ」

どうやらレヴィさんはおっさんとシゼルの一挙手一投足が面白いようだ。

「私達の関係性についてだったわね。う~ん簡単に言っちゃえばこことは別次元の世界での幼馴染みなの。うふふ」

「・・・訂正を要求。ただの腐れ縁」

一体何個目かわからないケーキを口に運びながら、ティアさんがボソッと呟いた。

「あらあら、ティアちゃんは相変わらず照れ屋さんね。うふふ」

「照れ屋さん」という言葉を聞いたティアさんはケーキを口に運ぶ行為を中断しレヴィさんに何か言いたそうな表情をしたが、ニコニコしているレヴィさんを数秒見つめて再びケーキを食べ始めた。

「えーとその皆さんの関係性は何となくわかりましたが、シゼルの幼馴染み御二人が何故この世界に来たんですか?」

シゼルの場合は完全に事故で誤召喚してしまったけれど、この2人の場合は一体どうやってこの世界にやって来たのだろう? 自力でこの世界にやって来たのだろうか? でも以前にシゼルが他世界への干渉行為は困難で、基本的に禁止みたいなことを言っていた気が・・・

「あらあら、私たちは自力でこの世界に来てはいないわよ。そんなことをしたら色々と問題になってしまうもの。だ・か・らシゼルちゃんに召喚してもらいました~うふふ」

シゼルが召喚した? 真偽を確かめるためにシゼルの方を見ると、彼女にしては珍しく苦虫を噛み殺したような表情で肯定した。

「この2人が四六時中念話で召喚要求をしてくるのです。『あらあら、楽しそうね。面白そうだから私も呼んで~さもないとシゼルちゃんの恥ずかしい過去をあなたのご主人様に念話で教えちゃうぞ♪』とか、『シゼルだけ何故そんな美味しそうなものを毎日食べている。不公平。私にも美味しいご飯を要求する』と。家事をしている時も就寝しているときでもです。流石の私も我慢の限界だったので、非常に遺憾ではありますが召喚することにしたのです」

おっさんに2人の召喚の経緯を説明しているシゼルのこめかみがヒクヒクしている。

これは相当なストレスだったんだろうな。

アレ、じゃあおっさんがシゼルに最近頻繁にいじられていたのは念話のストレス解消のためだったのか?

「そうだったのか。あれ、でもどうやってこの世界に召喚したの?」

「ご主人様が以前私を召喚した魔方陣を流用しました。現状ではその方法が最も確実で世界への影響がありませんから」

あの魔法陣はセレスの落書きとかで、かなりのアレンジが足されたやつだよね。アレを再現したっていうの?

「シゼル、あの魔方陣覚えていたの? むしろよく再現できたね」

「かなり奇っ怪かつ複雑なものでしたが、一度見れば覚えられますので再現しました」

召喚方法はわかったけど、レヴィさんとティアさんは何が目的でこの世界に来たのだろう?

まさか単純に娯楽と食べ物が目的なわけないよな。いや、ティアさんは食べ物が目的の可能性がかなり高そうだけど。レヴィさんに関してはよめないな。

「あらあら、私の顔に何かついているのかしら? そんなに情熱的に見つめられたらドキドキしちゃうわ♪」

頬に手を当ててコロコロ笑うレヴィさん。

2人がこの世界に来た目的がわからずに思考に耽っているうちに、どうやらレヴィさんの顔を凝視していたようだ。初対面の女性の顔を正面からガン見。うん、結構失礼な行為ですね。おっさん反省。

「すみません。ちょっと考え事をしていたもので」

「あらあら、人と話しているときに考え事をしちゃ駄目よ♪ うーん考え事の内容は私たちがこの世界に来た本当の目的とかかしら、うふふ」

レヴィさんの優しいそうな目が細められる。この人はシゼルとは違った怖さがあるな。

「大当たりです。もしかして心が読めたりします?」

「あらあら、心を読まなくても今の状況から考えればそう思うに決まっているでしょう? でもね、心も読めるわよ。うふふ」

読めるんかーい! これは下手なことを考えられないな。

「あらあら、そんに身構えなくても基本的に心は読まないわよ。プライバシーの侵害ですもの。それにもし心を読んだときにエッチなことを考えていたら、反応に困っちゃうもの。うふふ」

そんなことを言われたら、おっさんが困ります。

シゼル、何でおっさんを軽蔑するような目で見ているの? 別にレヴィさんをイヤらしい目で見てないからね?

「もしかしてシゼルを連れ戻しに来たとかですか?」

おっさんがずっと懸念していること。レヴィさんの本当の目的は、本来この世界に存在してはならないシゼルを元の次元に連れ帰ることなのではないか。シゼルがいなくなる。背筋が冷たくなっていくのを感じる。自然とシゼルの顔を見てしまう。

「ご安心下さい、ご主人様。私はあなたが老衰でなくなるまでは、お側を離れるつもりはありません」

おっさんの心の不安を感じ取ったのか、シゼルは戻らない旨を伝えて微笑を浮かべた。

その言葉を聞いた途端に、ホッとして椅子に全体重を預けて脱力する。

「あらあら、シゼルったらプロポーズ? お熱いわね♪」

レヴィさんが今まで一番嬉しそうに微笑みながら、シゼルを穏やかな瞳で見ている。

「プロポーズ? 違います。メイドとしての心持ちです」

「あらあら、ムキになっちゃって♪」

レヴィさんがコロコロ笑いながら、明らかにシゼルのことをからかっている。

当然シゼルは若干ムッとした表情をするがティアさんと同じようにレヴィさんを数秒見つめると、何も言わずに諦めたようにため息をついた。

この3人の力関係が何となくわかったような気がする。うん、シゼル以上にレヴィさんの機嫌を損ねないように気をつけよう。

「あらあら、そんなに脱力して。心配しなくてもあなたからシゼルを奪ったりしないわよ。うふふ」

レヴィさんは人を手玉にとって楽しむタイプなのか? おかげでおっさんはこの数分でかなり心労が溜まったよ。

「ところであなたが一番気になっている私がこの世界に来た目的だけど・・・内緒♪」

コントみたいに椅子から落ちかけたわ。この人は全く。

「あらあら冗談よ♪ 正直に白状するとね、あなたという人間を知りたかったからよ。だってあのシゼルが自ら趣味のメイドさんをしながら、物凄く楽しくあなたと生活してるんだもの。友人としては気になるじゃない。うふふ」

なんと目的はおっさんか!? おっさんは煮ても焼いても揚げても美味しくないぞ!

おっさんが密かに身の危険を感じていると「ケーキ・・・」とボソッとした声が聞こえた。

声のした方に目を向けると、どうやらティアさんが発したようだった。

ていうかさっきまで山積みになっていたケーキの山がきれいさっぱり無くなっているんだけど。あの量のケーキを全部1人で食べたの? この短時間で!?

しかもティアさんは空になったお皿を悲壮な表情で見つめている。もしかしなくてもまだ食べたそうな感じだ。

どうしたものかと周りを見るとシゼルは我関せずで自分の分のケーキを静かに食べているし、レヴィさんはニコニコしながらおっさんがどうするのか観察しているし。2人とも関わらんのかい!

とりあえずケーキのおかわりが必要か聞いてみるか。

「あの・・・ティアさん。よければケーキのおかわりいりますか? アイテムボックス(時間経過なし)に入っているものでよければありますけど」

おっさんの言葉を聞いたティアさんは、冷たく鋭い瞳をこちらに向けて「是非!」と言った。

空になったお皿に先ほどと同量 のケーキを乗せると、ティアさんは「感謝」と言って再び食べ始めた。

うん、少なくともティアさんに限ってはこの世界に来た目的は純粋に食べ物だな。

「あらあら、ティアちゃんたらもう餌付けされちゃったの? 食いしん坊さんね。そうそう、ティアちゃんがこの世界に来た目的は今あなたが考えている通りよ。さてと、私の目的はどうやって果たそうかしら~」

そうです。おっさんにとってはあなたの目的の方が怖いし気になります。だっておっさんの命がかかっていますから。

パンっとレヴィさんが胸の前で手を合わせる。何か閃いたのかな? 迷案でないことを祈ろう。そして揺れています、アレが。

「私もしばらくここでお世話になることにしましょう。やっぱり身近で一緒に暮らしてみるのが一番ね。うふふ」

はい残念。迷案の方でした。そしてシゼルのフォークを持つ手が止まったよ。くわばらくわばら。

「どういうつもりですか、レヴィ? ご主人様の人柄なら何度も説明済みのはずですが? それに暇潰しと称して四六時中私たちの生活を覗いていたでしょう。人柄を知るという目的なら十分に達成されたはずです」

心なしかシゼルの語気が強いような気がする。というか「四六時中覗いていた」ってどういうこと?

それはおっさんの入浴シーンもですか? プライバシー侵害の話はどこにいったんだか。

「あらあら、心配しなくても2人の邪魔はしないわよ。本音を言っちゃうと退屈しのぎよ。だって向こうの次元にいてもつまらないんだもん。シゼルちゃんだけ楽しい思いをしてるのは不公平だと思います!」

レヴィさんがついに本音をぶちまけたよ。そんなに退屈なのかな、シゼルが元いた次元って。娯楽とかないのかな?

「私もここに滞在することを希望。シゼルだけ三食美味しいご飯を食べられるのは非常に不公平」

ティアさんに至っては「ご飯」目当てだと断言した。この人見た目はクール系なのに中身が食いしん坊キャラなのか・・・おっさんの周りにはいないタイプのキャラだな。

「2人とも駄々をこねていないでさっさと帰ってください。帰りは自力で帰還できるでしょう。さあ、早く帰れ」

不味い。シゼルのメイドさんキャラが崩れかかっている。下手に気心が知れているせいか遠慮がない。

「あらあら、シゼルちゃんが虐めるわ。助けておっさん様~」

そういって椅子から立ち上がると、おっさんの横に来てその豊満すぎるバストでおっさんの腕をホールドした。あ、シゼルのこめかみがヒクヒクしてる。

「ご飯を奪われる。絶食は断固拒否」

自身の欲求を主張しつつ同じようにティアさんが逆側の腕をこちらも巨乳でホールドする。

シゼルの額に青筋が。これが天国と地獄というやつか。

「シゼルが怖いのでとりあえず2人とも離れてください。シゼルも落ち着いて、深呼吸してね?」

何故この場で一番か弱いおっさんが仲裁しないといけないのか。あー胃が痛い。

「御二人の希望はわかりました。おっさん個人としては別に滞在してもらっても構いません。でも、あくまでおっさん個人の意見なのでシゼルを含む他の住人の意見を聞いてから結論を出しましょう。あと、自分達の意見を通したいからといって武力で脅すのはやめてくださいね? 御二人はそんなことはしないと思いますけど、民主主義でいきましょう。シゼルもそれでいい?」

双方が納得しそうな妥協案をなんとか提示する。

「仕方ありません。ご主人様がそう仰るなら」

「あらあら、私もそれでOKよ。うふふ」

「了解・・・」

はあ・・・無事に話がまとまって良かった。寿命が結構縮んだわ。

その後昼食の際に集まったみんなに状況を説明して意見を聞いたところ特に反対意見が出なかったので、レヴィさんとティアさんはしばらくこの世界で暮らすことになった。

反対意見が出なかったというより、レヴィさんがニコニコしながら無言の圧力を与えていたから誰も反対できなかったのでは? もう後の祭りだけれど。

滞在が許可されて喜んでいるレヴィさんとティアさんとは対照的に、シゼルが深いため息をついていたのであとでフォローしておこう。



あれから数日が経過した。

レヴィさんとティアさんも普通にこの世界での生活に順応している。

ただ初日からシゼルが「働かざる者食うべからず」と言って、2人に仕事を手伝うことを要求した。

2人ともその要求を了承しレヴィさんとティアさんも、家事当番のローテーションに組み込まれた。

2人から特に不平不満が出なかったことにおっさんは驚いたが、シゼル曰く「自分達のワガママでここに滞在するのです。それくらいの良識は持ち合わせています。というよりも私が文句など言わせません」だそうです。

家事当番の中でもレヴィさんは洗濯が気に入ったようで「あらあら、汚れた衣服が綺麗になるのが面白いわ~」と言って、最初のうちは洗濯機の中で回転している洗濯物を凝視していた。

またレヴィさんに言わせると洗濯物を日光で乾燥させるのも新鮮らしい。彼女達の次元ではそもそも洗濯の必要性がないらしい。

ティアさんはやはりというべきか料理が気に入ったようで、毎日シゼルから色々とレクチャーを受けている。料理の上達が早いのには驚いたけれど、大量に食べたい料理を勝手に作って自分1人で食べてしまうのがちょっとね~だってその分食材が大量に消費されるからね。

もちろんその場合はシゼルからのキツイお説教の後で、消費した食材の補充を命じられる。

ちなみに現地調達できないものは、おっさんがアイテムクリエイションで製作しておく。

あれ? おっさんが製作しなくてもティアさんなら自分で製作できるのでは? 考えないことにしよう!

そして意外だったことが3つ程あった。

1つ目はティアさんが意外に協調性があり面倒見が良かったということ。

早朝にティアさんが太極拳(?)みたいな動きをしていると、遠巻きに眺めて真似していたウサちゃんズとスケルトン達に「否、そうじゃない」と自ら動きを指導したのだ。

それ以来、早朝の決まった時間にみんなで太極拳(?)を行っている。

ちなみにおっさんも健康のために参加しています。いい歳ですから。

2つ目はレヴィさんがかなりのお風呂好きだということ。

朝昼晩と暇をみつけては浴場の湯船で寛いでいるらしい。何でもレヴィさん達のいた次元ではすべて魔法や異能関係の能力で解決できるため、入浴の必要はなくまたその必要性も感じていなかったそうだ。

しかし実際に入浴してみたところあまりの気持ち良さにハマったらしい。健康ランドもどき浴場を製作した身としては地味に嬉しい。

3つ目はレヴィさんと熊師匠の気が合っていることだ。

ウッドデッキで2人でお茶を飲みながらゆったりしている光景を度々目撃する。

端から見ていると別段会話しているわけではないけれど、ボーッとゆったりとした時間を満喫している雰囲気が似ているように感じる。



「しかしこれだけ人数が増えると今の家の間取りだと手狭になってきたな。今度みんなの意見を聞いて改装か増築を考えるか。もしくはもう一軒ゲストハウスみたいな家をつくるか・・・」

家の改修について考えを巡らせていると、いきなり見たことのない空間に佇んでいた。

「!?」

強制転移されたのか? 全く気がつかなかった。でも一体誰が何の目的でおっさんを強制転移したんだ? あーでも目的は見当がつかないけど「誰が」は何となく察しがつくな。

「なんでおっさんを強制転移したんですか、レヴィさん」

いつの間にかおっさんの2メートルほど前方に現れたレヴィさんに問いかける。

「あらあら、驚かないのね。もっとオーバーリアクションを期待していたのに、うふふ」

いつものようにニコニコしながらそんなことを言うレヴィさん。でもさあ~目が笑ってないんだよね。

「いえいえ、十分に驚いてますよ。でもまあ、何となくこうなる予感があったので」

「あらあら、私との愛の逢瀬の予感かしら? あなたは実は浮気者なのかしら?」

「そもそもおっさんは誰とも正式にお付き合いはしていないですよ」

「あらあら、じゃあ私にもチャンスありね♪ うふふ」

そんな他愛ない会話をしていたのだが、嫌な予感がしたので右足を引いて半身を捻る。

数秒前におっさんの右半身があった場所に、レヴィさんが振り下ろした剣の残滓があった。

「あらあら、よくかわせたわね。ビックリしちゃった♪ 余程第六感が優れているのかしら?」

「本当にこればかりはスキルに感謝ですかね。予備動作も殺気もない攻撃とは心臓に悪いですね」

しかも完全にかわせていない。前髪が数本切られた。

「レヴィさん今更ですけど何でこんなことをするのか目的を伺っても?」

まあ、何となく察しはついているけど確証がないからな。

「さあ、何故でしょう~うふふ」

素直に答えてくれるわけないか。でなきゃ、こんな回りくどいことしないもんな。

会話をしながら全神経を集中してレヴィさんの動向に注意をはらう。

二刀流か。しかも長剣タイプ。しかしあの剣はヤバイな・・・見ているだけで本能が危険を知らせてくる。流石は違う次元の武器、ヤバさが桁違いだ。

そしてそれを扱う人物がもっと危険と。

自然体で構えらしい構えがない。次にどんな攻撃がくるのか予想できない。でもおっさんを殺すことが目的なら、初太刀で済んでいるはずだし。久々だなこの感じ。シゼルと訓練で向かい合っているときと似た感覚。

「ねえ、質問してもいいかしら?」

いつの間にかおっさんの目の前に出現したレヴィさんが、左右の腕をクロスするように斬撃を放ってきた。今度は辛うじて視認できたのでバリアブルクロークを装備すると致命傷になりうる箇所の硬度を上げ、両手にチェーンソー改を装備して斬撃を受ける。

お互いの獲物が接触して火花が散る。本来ならおっさんが使用している武器じゃ打ち合いにもならないはずだが、どうやらレヴィさんが手加減しているようだ。

「別に構いませんけど、質問するか斬りかかるかのどちらかにしてもらえません?」

「嫌よ。うふふ」

この人もしかしなくてもドSなのか!? く、若干M属性のあるおっさんにはご褒・・・厄介な相手だ。

「あらあら、巨乳好きでドMなんて素敵な性癖ね。うふふ」

「そりゃーどうも。だから心を読まないでください。プライバシー侵害だ!」

全身に力を込めてレヴィさんを剣ごと押し戻して、瞬間的に筋力を上昇させて吹き飛ばす。

右手の武器をリボルバー改に持ち換えて、クイックドロウで撃つ。

ふわりと着地したレヴィさんが軽く剣を振ると、弾は両断されて中の魔力を剣が吸収した。

「あらあら、正確な射撃ね。全部致命傷になる場所を狙ったわね。この容赦のなさはシゼルちゃんの訓練の賜物かしら。うふふ」

「だと思いますよ。ところで質問はいいんですか?」

右手の武器を再びチェーンソー改に持ち換えて、臨戦態勢のまま聞く。

「あらあら、そうだったわね。んーとシゼルちゃんのことをどう思っているかしら? 今すぐに抱きたい嫁にしたいみたいに思ってる?」

背筋がゾワっとしたので咄嗟に右手のチェーンソー改を背中にまわして、チェーンソー改の腹の部分で背後からの斬撃を防御する。

おそらくおっさんが視認できない速度で剣を振って、斬撃を空間を跳躍させて飛ばして背後から攻撃したのだろう。反応できたおっさんを素直に誉めたい。

「あらあら、これにも反応できるのね~ちょっと見直しちゃったわ♪ うふふ」

「レヴィさん、こうも心臓に良くない攻撃をされると質問に答えられないですよ? おっさんは2つのことを同時にこなせるほど器用じゃないので」

「またまた謙遜しちゃって♪」

ニコニコしているレヴィさんに、足元に火球を作ってサッカーの要領で思いきり蹴りつける。

しかしこの攻撃も着弾前に消滅する。

「あらあら、手癖じゃなくて足癖が悪いのかしら? うふふ」

「ええ、生まれつきそうなんですよ」

「うふふ」

「ははは」

レヴィさんが製作した亜空間に2人の笑い声が響く。

「攻撃がこない今がチャンスみたいなのでさっきの質問に答えます。確かにシゼルは大事な存在ですし、異性としても魅力的です。でも今のところは「家族」のように思っているので、それ以上の進展はしばらくないと思いますよ。この答えで質問の回答になっていますか?」

ようやく質問に答えられそうな合間を見つけたので、レヴィさんの質問に答える。さて、おっさんの回答を聞いたレヴィさんはどう反応するのか?

「あらあら、ふーん・・・そんな感じなのね。今はそれでOKかしらね」

レヴィさんは自問自答して、一応納得したようだ。ふう・・・これでおっさんの寿命は伸びただろう。さあ、日常に帰ろう。

「あらあら、それじゃあ続きをしましょうか♪ うふふ」

「what s ? 今なんとおっしゃいました?」

反射的に両腕の武器を体の前でクロスさせて、防御姿勢をとる。

直後、防御した武器が砕け散り数十メートルほど吹っ飛ばされた。久々に地面を思いきり転がったな。頭を軽く振って体を起こすと左胸に鈍い痛みがした。

痛みの箇所を見ると硬質化されたバリアブルクロークの表面が砕け、陥没していた。幸い生身には達していないけど場所が心臓付近だよ。下手をしたらおっさん即死だったわ。

地面に左手をついて2つの魔法を発動。空気中の水分を集めてレヴィさんを一瞬で氷柱にして、さらにコンクリートの分厚い板を生成して上下左右から囲んでプレスして密閉する。

「どうか安らかに眠ってください」

手を合わせて哀悼の意を表する。

目の前で石棺と氷柱が砕けてレヴィさんが現れる。

「あらあら、勝手に殺さないでくれるかしら? もっと湯船に浸かったり湯上がりのマッサージチェアを堪能したいのだから」

未練が全部お風呂関係って、そんなに気に入ったのか?

「レヴィさん。おっさんとしては質問に答えましたし、あなたとこれ以上戦う理由がないのでそろそろこの空間から解放してもらいたいんだけど・・・ダメ?」

「だーめ♪ うふふ」

そんな素敵な笑顔で否定されたら、おっさんときめいちゃう。

「ちなみに理由は?」

「シゼルが鍛えた人間の実力を把握しておきたいからかしら、うふふ」

「おっさんはレヴィさんより弱い生き物です・・・というわかりきった結論で妥協してもらえません?」

「だめです♪ うふふ」

はあ・・・これは覚悟を決めないとダメなやつですな。よし、久々に殺されない程度に抵抗してみるか。

バリアブルクロークの修復も終わったようだし、行くか。

瞬間移動でレヴィさんの背後に回り込み、大鋏改を取り出して首を切断しにいく。

しかしおっさんの攻撃は空を切り、「シャキン」という大鋏改の刃が合わさる音が響く。

レヴィさんは前方に少し移動しただけで、おっさんの攻撃を回避していた。

ジャマダハル改を装備して、近接戦を挑む。

レヴィさんはいまだに背中を見せたままだ。その背中目掛けて拳を突き出す。

軽く横にステップして突きをかわされたので、そのまま腕を横に振って刃で斬りにいく。

しかしその攻撃もあっさりとかわされる。回避行動が予測しづらい。動きが速いのはもちろんがだそれ以上に上手い。

まるで花びらがヒラヒラ落ちるような動きで捉えづらい。シゼルとは違ったな、ホント。

距離が多少開いたので鎖鎌改の分銅を投げてレヴィさんの剣に巻き付ける。

回避できるはずなのにわざと受けたな。でも好都合だ。

鎖を通じておっさんの出せる魔力出力限界の電撃を流す。

「あらあら、これは電気マッサージというやつかしら? 気持ちいいわ、うふふ」

「一応攻撃のつもりなんですけど」

わかっていたけどダメージなしか。しかも電気マッサージって・・・おっさんへこんじゃうな。

「あらあら、攻撃だったの? うーんこれではダメよ。相手の体に電気を流すのはこうやるのよ」

すぐに鎖から手を離し、鎖鎌改を投げ捨てたが少し遅かった。

投げ捨てた鎖鎌改は蒸発し、おっさんの左腕は肘の部分までが炭化した。

「ヤバかった。あと少しでも遅ければ全身黒こげだったな」

「あらあら、見事な判断と反射神経ね。凄いわ♪ でももうお仕舞いかしら?」

「お仕舞いにしません?」

「あらあら、往生際が悪いわね。それとも本当にお仕舞いかしら?」

「はあ・・・まだやれる」

炭化した左腕を手刃で切り落として、超速再生スキルで新たに腕を生やす。

腕の再生が終わるのと同時に蒼天雪羅を展開して、真正面から2刃で斬りかかる。

レヴィさんも2刀で涼しい表情で受け止める。

「あらあら、それが噂の魔装ね。やっぱり別次元から観察しているのと、実物はパワーもスピードも段違いに生身のときよりも上昇しているわ~うふふ」

「そりゃーどうも!」

背部の小型スラスターに魔力を込めて出力を全開にして力押しでレヴィさんの剣を弾いて、左手のオートマチック拳銃雪姫をレヴィさんのこめかみ間近で発射しようとするも左腕を切断される。

今日は左腕の厄日か? 幸い切断面が綺麗だったため一瞬でくっついた。そしてすぐにもう一度こめかみを狙いにいく。

レヴィさんの目がスウーと細められたことを認識すると、胸部に衝撃をくらいおっさんは思いきり吹っ飛ばされた。

背部の小型スラスターで威力を殺しているのにいっこうに止まる気配がない。

今日は吹っ飛ばされるdayでもあるのか。

ようやく吹っ飛び終わってレヴィさんを探すと、30キロくらい先にいた。

これはおっさんの吹っ飛ばされ記録更新だな。嬉しくない新記録。

胸の辺りに視線を落とすと胸部装甲に大きめのヒビがいくつも入っていた。

「瞳力だけでこの威力ですか・・・力の差がありすぎてもはや清々しいな。あ、そういえば胸へのダメージも2回目だ。二度あることは三度ある可能性が・・・あるかもなー」

レヴィさんがこちらに向かってゆっくりと歩いてくるので、右手の長銃剣白姫をライフルモードにして高出力の貫通重視のレーザーを発射してみた。

レヴィさんは剣で魔力を吸収するのかと思いきや、無造作に左の腕を振った。すると魔力を帯びた斬撃がレーザーを切り裂いて、ついでにおっさんの右腕も切り落としていった。切断日和なう。

すぐに回復するのだが、回復系のスキルは魔力消費が多いから消耗率が高い。

「ただでさえ勝てる見込みがないジリ貧状態なのに、さらにシリ貧のその先に行きそうだ。きっと今日は厄日だな」

「あらあら、魔力消費が激しいようだけれど大丈夫? 少し休憩する?」

「そうしたいのは山々ですけど、休憩しても終わらないんでしょう?」

「ええ、そうね」

「はあ~じゃあこのまま続行で」

「あらあら、じゃあバテちゃう前にもう1つの魔装も見たいわ。「阿修羅」だったかしら? うふふ」

あれ? もしかしてレヴィさんはおっさんの魔装を2つしか知らないのか? そっかシゼルの前では装備したことはあったけど、あれはシゼルが作り出した空間だったから知らないのか。

これは一泡吹かせるチャンスなのでは?

「あらあら、どうしたの? 急に黙り込んでしまって。少し苛めすぎたかしら?」

おっさんのことを地味に心配したレヴィさんに光学魔法で太○拳のような強烈な光で目眩ましをし、魔法を駆使して煙幕を発生させて姿を隠す。

「あらあら、眩しい~それに煙いわ。今度はかくれんぼかしら? 童心に返りそう、うふふ」

ニコニコしているレヴィさんを煙幕の外から極細の針のような形状の、各属性を込めた魔法が全方位から高速で襲う。

その攻撃の合間を縫うように小型の矢じりのような形をした飛翔体がレヴィさんを貫きにかかる。

一瞬双剣で魔力を吸収しようとしたレヴィさんだったが、自身を覆うバリアに切り替えて全ての攻撃を受けきった。

そして突風を起こし周囲の煙幕を吹き飛ばし、おっさんの姿を見て膨れっ面をして言った。

「あら~その姿は何かしら? 私、そんな魔装があるなんて聞いてないわよ」

「レヴィさん「あらあらキャラ」が崩れてますよ。それに聞いてなくて当然です。だって言ってませんから」


おっさんが今装備している魔装は碧天華瑠羅(へきてんかるら)

コンセプトはサイコキネシスを生かしたオールレンジ攻撃と強固な防御力。そしてもう1つは秘密。

頭部は武士の兜のような形で兜の両脇に鋭利な触角のような装飾が斜め上方向に延びており、ビットを操作する際のインターフェースの役割をしている。目元はオレンジのバイザーで覆われている。

全身は黄浅緑。

スカートのように腰を誘導兵器が囲んでいる。スカート部分も分離して、大型の誘導兵器になる。

基本的にスカート型の大型ビットは最後の砦として、ギリギリまで使用しない。

マントのような装甲を背中に持ち、これも小型誘導兵器の集合体。

ビットで自身を完全に覆うことができ、繭のような防御体勢をとれる。しかもその状態でビットでのオールレンジ攻撃が可能。

しかし近接戦闘が苦手。そのため近接戦の弱点を補うために多数の防御方法を持っている。

インナー装甲には多数の魔力障壁発生クリスタルが埋め込まれており、個別に魔力シールドを展開することができる。

そして全魔力シールドを一斉に展開することで、クリスタルの共鳴現象を引き起こし魔力シールドで自身を完全に覆うことができる。

ビットによる全身防御と併用すると近接戦闘の弱点を補う絶対防御になる。

一番外側の装甲はバリアブルクロークの発展型。

こちらは装甲としての意味合いが大きいため、常に硬質化された状態である。肩からかけるように前側と後ろ側を足元まで覆っている。

両肩の部分も同じ装甲で覆っている。

両腕は肘から下が巨大で手は指の一本一本が鋭利な爪になっており、爪先はくるぶし辺りまで届く。

両腕の脇には陰陽を表す大教図みたいな球体が左右に3つずつ浮いている。

背中には二翼一対の半透明の翅があり、ちょっとした攻撃が可能。攻撃内容? 内緒だよ。


空中に浮いている大量のビットを見たレヴィさんの感想は・・・

「あらあら、これはファ○ネルかしらそれともドラ○ーン? あ、でもファ○グの可能性もあるわね」

「何!? 何故その武装の名を! まさかレヴィさんあなたは・・・」

「あらあら私、あなたのいた世界のアニメ大好きよ。もちろんガン○ムも好きよ♪ うふふ」

何てことだ!? おっさんの武器の元ネタがバレた。しかもアニメ好きって、シゼルといい皆さん異世界の文化に興味ありまくりじゃん。

「ちなみにどのシリーズが一番好きですか?」

会話をしつつもビットの数をどんどん増やしながら全方位攻撃は継続する。

「あらあら、気になる~私はそんなにマニアではないけれど、一番好きなシリーズは「新機○戦記ガ○ダムW」かしら。もちろんエン○レスワ○ツ版も含めてよ、うふふ」

雷に打たれたような衝撃だった。まさかおっさんが好きだった時代のアニメを知っているだと。この世界で元の世界のそれもガンダムの話題をふれる相手がいるなんて・・・こんなに嬉しいことはない!

「レヴィさん、こんなことをしている場合ではないです! テーブルを囲んでアニメトークで朝まで盛り上がりましょう! ヒャッハー!!ですよ」

「あらあら、急にテンションが上がったわ~ そんなにアニメについて語り合えるのが嬉しいのかしら? うふふ」

いかん。興奮しすぎてテンション上げすぎた。深呼吸・・・おっさんクールダウン。

「すみません。ちょっとテンションを上げすぎました。まあ、おっさんもそこまでマニアではないですけど元の世界の話題を振れるのは結構嬉しいんですよ」

「あらあら、でもシゼルちゃんともたくさんあなたの元いた世界の話題で会話していたじゃない」

「まあそうなんですけど・・・シゼルの場合は元の世界の話をすると、会話の8割がメイド関係なのでシゼルの知識と情熱におっさんがついていけなくて・・・」

「あらあら、確かにシゼルちゃんのメイド愛はマリアナ海溝より深くエベレストよりも高いものね。私も話についていけないときがあるわ」

2人で「うんうん」と頷く。なんかシンパシーを感じる。

「あらあら、あなた、私とお話ししたいと言ったわりには攻撃が苛烈になってきているわよ」

「そうですか? 気のせいですよ」

会話しながらもビットの数をしれっと大幅に増やしたよ。だって一撃くらいは攻撃を当てたいじゃん。

ついでにちょっとした小細工もしているけどね。

「あらあら、物量で攻める気なのかしら? うーん芸がないわね」

目の前に迫る数個のビットが合体した中型の貫通専用ビットの先端を、剣の切っ先で受け止める。

「少し飽きてきちゃったわ~一旦インターバルを入れましょう。うふふ」

そう言っておそらく浮遊している全てのビットを、破壊しようとしたであろうレヴィさんの動きが止まった。あーこれは小細工がバレたかな?

「あらあら~? これは・・・あなた人畜無害そうなフリしてもしかして意外と性格悪いのかしら? 私とのお喋りは時間稼ぎで、無限に量産されるビットは注意をそちらにそらすための囮だったのね。本命は背中の翅から生成される無色透明無味無臭の猛毒だったわけね」

「バレちゃいましたか。相手が普通の生き物だったなら結構な効果を望める毒のはずなんですけど、レヴィさんにはやっぱり効きませんか?」

「あらあら、確かに私には効果はないけれど戦術としては見事よ。褒めちゃうわ♪ それに遅効性の猛毒の配合を一定時間ごとに変えているわね。簡単に解毒されないように。いやらしい攻撃ね、うふふ」

言い終わると同時にレヴィさんの周囲の全てのビットが消滅し、ゆっくりと間合いをつめてくる。

おっさんの周囲の残りのビットを円形に組み上げて、中心に魔力によるシールドを展開した盾をいくつも作り前面に重ねる。

ただし最後の1枚だけは中心部分もビットの集合体で作ったものにする。盾兼目眩まし専用。

「あらあら、今度の元ネタはメリ○リ○スのプラ○イトディフェ○サーかしら? あなた本当にガン○ムWが好きなのね♪ うふふ」

盾から10メートルほどの距離まで接近すると立ち止まり、右腕を真上に上げるレヴィさん。

すると剣が青白い光に包まれ刀身が20メートルくらいに伸びた。そして一閃。

防御のために製作した何層もの盾は一振りで全て両断された。しかしおっさんはもうそこにはいないので、今度は五体満足です。

「あらあら、あなた意外と負けず嫌いなのかしら? あれだけ私との戦闘を回避しようとしていたわりには、攻撃から「意地でも私に一撃入れてやる」っていう意思を感じるわ。ねえ、それで次は何を見せてくれるのかしら? うふふ」

おっさんの位置などとうに把握しているレヴィさんがその方向に目を向けると、視界にはおっさんの姿は映らずに代わりに漆黒の巨大な魔力と妖力をブレンドした巨大な球体が、高速で間近まで迫っていた。それも全方からである。

おっさんの保有魔力量では到底放てるはずのない威力の攻撃に、流石のレヴィさんも驚愕の表情を浮かべた。

しかしすぐに自身に迫りくる漆黒の巨大な球体を双剣で吸収する。

全ての球体を吸収しつくしたレヴィさんだったが、その表情が再び驚愕に変わる。

何体もの各属性魔力を巨大な龍の形に凝縮した攻撃が迫り、そのアギトでレヴィさんを飲み込もうとしていたからだ。

再び双剣で攻撃を吸収するレヴィさんだが、今度は足元から無数の樹木が急激に成長し絡みつこうとしてくる。同時に頭上からは巨大な雷がピンポイントで襲いかかる。

一瞬、レヴィさんの雰囲気が変化したかと思うと、彼女に迫っていた全ての攻撃が消滅した。

「あらあら、ビックリしてほんの少し力を使ちゃったわ♪ あなたの保有魔力量ではありえない攻撃の秘密はその魔装かしら? うふふ」

空中に浮遊するおっさんを何故か嬉しそうに見つめるレヴィさん。

「ええ、その通りです」


おっさんが今度装備しているのは 魔天螺異羅(まてんらいら)

ザ・魔術師のローブ姿でローブの裾からは、白とオレンジの氷柱が垂れている。

全身が白とオレンジ色で構成され、常に色の位置と形が変化しボンヤリ光輝いている。

頭部はジャック・オー・ランタンのような顔をして、形はカボチャではなく白とオレンジで半分に別れた火の玉のよう。

頭の上には白とオレンジが常に流動しているとんがり帽子。

周囲には10個の白とオレンジのジャック・オー・ランタンが浮いている。

両手にはあらゆる魔法を補助する青白い光を放つランタンを装備している。

周囲のジャック・オー・ランタンはすべて手の代わりであり、魔法を発射できる。

魔法に秀でている代わりに、物理攻撃&物理防御は皆無ではないが極めて低い。

その代わり一切の魔法攻撃が通用しない。また常に背部の2翼一対の白とオレンジ色のコウモリのような翼で周囲から魔力を補充している。そのため魔力切れがない。

以上、魔天螺異羅(まてんらいら)の説明でした~じゃんじゃん♪

ちなみにレヴィさんには聞こえてないよ?


さらにおっさんと全く同じ姿をした分身体が30体ほど出現する。

冷静に考えたらこの光景は端から見たらかなりホラーなのでは? 遊園地のお化け屋敷とかに就職できそう。

「あらあら、幻術で作ったまやかしで少しでも攻撃を避ける作戦かしら? でもね・・・」

おっさんの真後ろに転移して背後から剣を突き刺す。ぐっさりですよぐっさり。

「本体の位置がバレちゃったら意味のない行為よ。格上の相手に対してはむしろ愚作に・・・あらあら~?」

剣でぐっさりされているおっさんに向けて、残りの29体が大出力の魔法を放ち、着弾した。

多数の大出力魔法の着弾により、凄まじい爆発が発生する。

しかし爆炎が晴れた爆心地には誰もおらず、レヴィさんは少し距離をとった位置に退避していた。

そして何事もなかったかのように29体が30体に戻る。

「あらあら、幻術で作った実体がない分身体じゃなくて全て実体がある本体だったのね。少し油断しちゃったわ♪ それにしてもあなた随分と器用なことをするわね。うふふ」

魔天螺異羅は魔法特化のため物理防御力が極端に低い。中遠距離の魔法攻撃で片がつけば問題はないが、毎回そんな自分に都合の良い展開になるとは限らない。レヴィさんのような格上の相手なら尚更だ。

実は当初はレヴィさんの言う通り幻術で多数の分身体を製作して、相手を翻弄しよう考えた。しかしこの戦術は格上の相手にはすぐに本体がバレるので意味がない。

色々考えて試行錯誤を繰り返した結果、導き出された結論が「分身体が全部オリジナルだったらイイんじゃない?」だった。理想はオリジナルが無限増殖するみたな?

ただし分身体のクオリティ維持と魔力消費量の問題で、今のおっさんの実力では安パイを考慮して30体が限界だった。

「これでもやっぱり全くダメージなしですか。最初から勝てる見込みがない戦いなのは理解していましたけど、実際に色々試して全部通用しないとマジでへこみますね」

「あらあら、そんなにへこまないで。私には通用しないけれど他の生物には有効だから」

そうですよね。あなたは比べるのもおこがましいくらいに別格の存在ですもんね。

「さてと、私の目的は大体叶ったからそろそろ終わりにしようかしら? それにこれ以上あなたを苛めるとシゼルちゃんに怒られちゃうわ。うふふ」

ようやくこの地獄が終了するのは非常に嬉しいけれど、せめて一撃くらい入れないと癪だな。

この世界に来た当初、生き残るためにサバイバル生活をしていた頃を思い出せ。

野生に返るんだ、おっさん!

30体の分身体を10体ずつ3グループに分けて、2グループには各10人分の魔力と妖力を超高密度に圧縮したバスケットボールくらいの大きさの球体を作る。

そして残りの10体はレヴィさんの周囲を高速で回転しつつ、魔力と妖力を暴発寸前まで内包する。

「あらあら、これが最後の攻撃になりそうね。最後だから面白いのを期待してるわ♪」

超高密度に練り上げた渾身の魔法を2グループから同時に放つ。

魔法特化タイプの魔天螺異羅とはいえ、これまでの戦闘での消耗が激しいため、全ての分身体を維持できないので20体の分身体が消滅する。

放たれた2つの球体はレヴィさんをちょうど真ん中に挟み込むような位置で静止。

超高密度魔力の球体から糸状の魔力を形成しお互いを繋ぎ、レヴィさんとおっさん8体を鳥籠のように形で取り囲む。

「あらあら、女性を鳥籠に入れて拘束するなんて・・・束縛するタイプの男性なのかしら? 私はそういうのは良くないと思うわ」

覚悟を決めてこれから最後の攻撃を仕掛けようとしたら、攻撃方法で「女性を束縛するタイプ」みたいな誤解をされたんですけど。そもそもおっさんは女性とお付き合いしたことはほぼありません。調子狂うな。

上下の超高密度魔力の球体がそれぞれ高速で逆回転をして、鳥籠状に形成された魔力の糸を雑巾を絞るように空間を縮めていく。

超高密度魔力の球体を繋ぐ魔力の糸が中心に向けて集束し、全ての糸が1本になった瞬間にレヴィさんと8体の分身体がその場から文字通り消滅した。

「ふう・・・極端に攻撃で使用頻度が低い次元魔法がようやく役に立ったな」

おっさんが何をしたかというと上下の超高密度魔力の球体を使用して、レヴィさんと8体の分身体をおっさんが形成した次元に封じ込めたのだ。魔力と妖力が暴発寸前状態の8体の分身体と一緒に。

今頃封じ込めた次元では暴発寸前の8体のおっさんが、レヴィさん目掛けて自爆特攻を仕掛けている最中だろう。

おっさん8体分のフルパワー自爆だから、かすり傷くらいはつかないかな~と若干期待してます。

レヴィさんが次元をこじ開けて出現する前に、残り2体となった分身体のうち1体を蒼天雪羅烈式影雪に換装しておく。もう1人の魔天螺異羅の方は自爆準備をしておく。

準備万端、さあ来い! ホントは来ないで欲しいけど・・・絶対くるよな。

未来視と未来視の魔眼、超反応と超感覚、剛力スキルを発動。

背部の中型クラスになったスラスターに残りの魔力を込めて、いつでも特攻できるようにふかしておく。

左手の白姫は腰の後ろに装備して、雪姫1刀を構える。

全神経を集中してレヴィさんが現れれるであろう位置に目星をつける。やはり格上が相手だと未来のビジョンが上手く見えてこないな。

直感で「ここだ!」と感じた場所に2体で最後の攻撃を仕掛ける。

おっさんが目星をつけた位置の空間が歪み、無傷のレヴィさんが出現した。

魔天螺異羅を先に先行させ、その後ろに隠れるように蒼天雪羅烈式影雪で追随する。

背部の中型ブースターに残った魔力全てを注ぎ込んで、突きを放ちながら突進する。

こちらに気づいたレヴィさんが迎撃の意思を見せる。

「あらあら、また自爆特攻? 天丼にしては早すぎない?」

天丼よりもおっさんは牛丼の方が好きです。

先行している自爆寸前の魔天螺異羅を一閃しようと、レヴィさんが双剣を構える。

それを確認すると同時に蒼天雪羅烈式影雪の雪姫で、魔天螺異羅の分身体ごとレヴィさんを貫きにかかる。

自分で自分を突き刺す・・・まさにドM!

魔天螺異羅の分身体の腹部から雪姫が突き出て、そのまま一直線にレヴィさんを貫きにかかる。

レヴィさんに雪姫が接触した瞬間、魔天螺異羅の分身体が大爆発を引き起こした。

爆発の瞬間見たレヴィさんは、とろけるような笑顔を浮かべていた。うわ・・・変態っぽい。

煙が晴れると爆発のダメージで全身の装甲がボロボロになった蒼天雪羅烈式影雪姿のおっさんと、涼しい顔をしたレヴィさんが佇んでいた。

「あらあら、滅茶苦茶だけれどとりあえず「おめでとう」と言っておくわ。見事私の体に傷をつけられたわね。うふふ」

雪姫の切っ先がレヴィさんの腹部に「ちょこん」と当たったようだ。おっさんの目標達成かな。

しかしその代償は大きいな。今のおっさんの状態は真に満身創痍だ。

爆発のダメージもさることながら、雪姫を握っていた両腕は切っ先が腹部に接触した瞬間にレヴィさんに切断されて下に落下していった。

ついでにおっさんの腹部にはカウンターでもらったレヴィさんの剣、が深々と突き刺さっている。

もう余力が残ってなくて、超速再生もできない。血も流しすぎたな・・・あー意識が飛びそう。

「確かにシゼルお気に入りだけのことはあるわね。これなら心配ないかな・・・」

レヴィさんが何か独り言を言っているが、内容までは聞き取れないな。

レヴィさんはもう終わったつもりでいるけど、油断大敵ですよ。

項垂れているおっさんは攻撃手段も余力もなく、動けないものだと確信しているレヴィさん。

故に今が千載一遇のチャンス。

頭を垂れている状態から蒼天雪羅烈式影雪の頭部の角で、下からすくい上げるように顔面を狙う。

満身創痍のおっさんがまさか動けるとは思っていなかったレヴィさんは、ほんの一瞬初動が遅れたようで当たりはしなかったが体勢が崩れた。

角を回避するために頭を後方に上げたことで、首ががら空きになった。

その首目掛けて口を開き突進する。あわよくば首を食い千切るために。

幸いなことに先程の爆発のダメージで、蒼天雪羅烈式影雪の頭部の一部が砕けて口の部分が露出している状態だ。

腹部に刺さった剣がさらに深く根本まで刺さったが、今さら痛みもクソもないので気にしない。

あと数センチで歯がレヴィさんの首筋に届くところで、腹部の剣が引き抜かれ裏拳を顔面に叩き込まれた。

もう完全に余力がないのでおっさんは自由落下中。この高さから受け身もとれずに落ちたら、おっさん死ぬんじゃねえ? すでに瀕死の状態だし・・・転落死か、痛そう。

走馬灯が見えるか見えないかというところで、おっさんの自由落下は突如として終わりを迎え温かな光に包まれた。そう感じておっさんは意識を手放した。


意識を取り戻して疲労で重たい瞼を開くと、視界一杯に巨大な2つの膨らみが見えた。

うん? 知らない膨らみだ。 

それに頭の位置が地面より少し高い位置にある。

かなりの疲労感と精神的ダメージはあるものの、全身の怪我はレヴィさんが完治させてくれたようだ。

切り落とされた両腕も復活している。

自身の体の状態とおかれている状況を確認し始めていると・・・眠くなってきた。

「あらあら、あなた死にたいの? もう決着がついていたのにあんな無茶をして。万が一あなたを殺してしまったら私がシゼルちゃんに殺されてしまうわ」

頭上からレヴィさんの声がしたのでそちらに視線を向けると、レヴィさんが真上からおっさんの顔を覗きこんでいた。

うん、真上から? これはまさか・・・おっさん膝枕されている? 確かに意識してみると後頭部に柔らかい感触を感じる。

普段なら非常に喜ばしい状況なのだが、おっさんを見ているレヴィさんの目が据わっているのでそれどころではない。

「あのね、私はあなたと殺し合いがしたいわけではないのよ? ただ確かめたかっただけなんだから。だから最後の攻撃のような自分の命をわざわざ危険にさらすことはしないで。もちろん自分勝手な理由であなたを傷つけた私が言えたことではないけれど、謝るわ、ごめんなさい」

目的を達成したせいか、レヴィさんは急にしおらしくなった。しかしそれよりも・・・

「レヴイさんの謝罪は受け入れます。おっさんを殺すだけならこんな面倒なことはしないですからね。まあ、色々と思うところはありますけど絶滅危惧種の膝枕を体験できたのでチャラにしましょう。それと、キャラが崩れてますよ?」

おっさんの言葉を聞いたレヴィさんは目を真ん丸にして、ぽけーとした表情をした。

お、レアな表情ゲットだぜ!

「あらあらあらあら♪ シゼルちゃんが入れ込む理由が少し理解できたかも。私もあなたのこと気に入っちゃったわ♪ そうだわ、これからは今日のお詫びとして毎日膝枕してあげちゃう♪ うふふ」

何故かレヴィさんが急にご機嫌になったぞ。まあ、不機嫌よりは断然いいんだけれど。

しかし毎日膝枕か・・・魅力的な申し出ではあるけれど、おっさん最近加齢臭が気になっているからな。

いや、自分で嗅いで臭いとかは感じないんだけど感じていないのは自分だけかもしれないじゃん。

だからあんまり人に密着しすぎると、緊張と不安で胃に穴が空くかもしれないからな・・・

「非常に魅力的な申し出ですけど、遠慮しときます」

「あらあら、それだけシゼルちゃんにゾッコンなのかしら? でも浮気性な男性よりは良いわね。うふふ」

何故レヴィさんはおっさんとシゼルをくっつけようとするのか? おっさんはスローライフを送れれば残りの人生に悔いはないんだけれど。

「さてと元の次元に戻りましょうか。時間の流れが異なっているとはいえ、そろそろシゼルちゃんが気がつく頃でしょうから、うふふ」

あーこれでようやく解放されると気が緩んだ矢先、次元が裂けてシゼルとティアさんが現れた。

「あらあら、もうバレちゃったわ♪」

おどけている口調とは裏腹に、レヴィさんの気配がおっさんと戦っていたときとは比べ物にならないものに変化する。

シゼルとティアさんからもヤバい気配を感じる。え、一触即発状態ですか?

「レヴィ、どういうつもりですか? ご主人様を拉致するだけでなく生命の危機寸前まで追い込みましたね。いくらあなたでもこれは許されざる行為です。万死に値します」

シゼルの右手に槍(?)のようなものが出現した。何故槍のようなものと表現したかというと、はっきりとその形が見えないのだ。決しておっさんの目が疲れ眼で霞んでいるせいではなく、凝視してもモザイクがかかったかのようにしか認識できないのだ。

ティアさんも両手両足に何かを装備しているようだが、こちらもモザイクがかかっているようにしか見えない。

おそらく人間が直視し認識してはいけないものなのだろう。さもなければ18禁の卑猥な何かだ。

あれ、一瞬シゼルとティアさんに睨まれた。さてはおっさんの思考を読んだな。

キャーッ! の○太さんのエッチ!

あ、今度は物凄く冷めて目で見られた。はい、静かにしてます。

「あらあら、シゼルちゃんが本気で怒っているところを見たのはいつ以来かしら? 怖いわ♪ ところでティアちゃんは何で戦闘モードに入っているのかしら? ティアちゃんが私に敵意を向ける理由はないと思うのだけど?」

おっさんもそれが不思議です。3人の関係性をみる限りではティアさんが進んでシゼルに協力することは考えにくい。まさか、おっさんの身を案じて! そんなわけないよね・・・おっさんの中でも一番最初に消した選択肢だし。

「レヴィに恨みはない。でも・・・ご飯の人は奪わせない」

両目に確固たる意思を込めて、真剣な表情で構えるティアさん。

しかしおっさんを含む残りの3人は、唖然とした表情を浮かべている。

「あらあら、ティアちゃんはご飯のためにこのおっさんを奪還しに来たの?」

「肯定」

「でもご飯ならティアちゃんも、それに他の住人の人でも作れるわよね?」

「否定。自分で作った料理は修行不足で味がイマイチ。おっさんの作る料理こそ至高」

「私がご主人様を救出に行くと言った際に、頑なについてきた理由は食事のためですか」

シゼルが酷く呆れた表情で隣に立つティアさんを見ている。

「肯定。おっさんがいなくなったら本場の異世界料理が食べられない。異世界の料理の味はおっさんしか知らない。私じゃ再現できない。貴重な調味料も失われる。それは許されない」

「あらあら、確かにそうね。私達も一度味わったものなら完全に再現できるけれど、自分で作らずに無から産み出したら違反行為に触れて強制送還される可能性が高いものね」

やっぱり強大な力をもつ存在故に、色々と制約があるんだ。

「美味しいご飯のためなら、私はたとえ全ての次元の世界を敵にまわしても構わない」

己の欲望のためにおっさんを救出しに来たのか、ティアさんは。この食いしん坊め。

「理由はなんであれ戦力が増えるのは助かります。レヴィ、今回ばかりは許しません。そこで膝枕されているご主人様ごと貫いて差し上げます」

「ちょっと待ってシゼル。何でおっさんまでそのヤバげな槍(?)で貫かれないといけないんだよ! 本格的にとどめを刺す気なの? おっさんは被害者! 加害者はレヴィさん! オーケー?」

「貫かれたくなければ今すぐに膝枕の体勢から脱して、防御に全力を注いで退避して下さい。残念ながらあまり余裕がないので、巻き込んで殺さない自信がありません」

あーこれはマジなやつだよ。本格的におっさんのスローライフは幕を閉じるんじゃないか。

「はい、ストップ!! これ以上おっさんをめぐって争わないで。おっさんは誰のものでもない、皆のおっさんなんだから?」

自分で言っておいて最後が疑問系になってしまった。というか皆のおっさんって何だよ。おっさんはおっさんのものだろう。

大声でおっさんが叫ぶと3人の視線がおっさんに集中した。あらやだ、恥ずかしい。

「シゼルもティアさんも落ち着いてください。おっさんの命に別状はないですし、あとでちゃんとご飯も作ります。だから1回深呼吸して皆さん落ち着きましょう。どうどう」

この3人が少しでも力を解放したら、この世界が綺麗サッパリ消滅する。

せっかく仕事から解放されたスローライフが終わってしまう。それだけは避けねば。

「確認。ご飯は無事か? 永遠に不滅なのか?」

「大丈夫です、おっさんは無事です。永遠に不滅ではないですけど、今度ティアさんの食べたいものを作りますからその物騒なものを閉まってください」

数秒間おっさんを凝視して何やら考え込んだティアさんだったが、「了承」と言って武器をしまって放っていた物騒な気配も消えた。

問題はシゼルの方である。さて、どうしようか。

「えーと、シゼルあのね・・・」

「ご主人様。人と話す際に膝枕の体勢の場合、相手はどう思いますか?」

速攻でその場で正座をしました。

「よろしい。では2人とも私が武器を収めるに至る納得できる理由を述べて下さい。まずはレヴィからです」

この状況・・・子供の頃に遊んでいて窓ガラスを割った時に、友達と一緒に親に説教された頃を思い出させるな。

「あらあら、シゼルちゃんたらそんなに怖い顔をしないで。私はただおっさんの人柄と戦闘能力を確かめただけよ。うふふ」

「それならば普通に広場で行えば済むことです。何故わざわざ隠れるように別次元で行ったのですか?」

「そ・れ・は・・・2人っきりになりたかったからかしら♪ うふふ」

何でそこで頬を赤らめておっさんを見るんですか。あらぬ誤解を生むじゃないですか。

ほら~シゼルの後ろに般若みたいなものが見えてきちゃったよ。

「よくこの状況でふざけられますね。いい度胸です。相変わらず性格と性根がねじ曲がっているようですね」

「あらあら、誉め言葉として受け取っておくわ♪ うふふ」

「あなたに質問しても埒があきませんね。では次にご主人様、説明してください」

何故におっさんが裁判もどきにかけられなければならないんだ。あ、足が痺れてきた。

「説明と言われても・・・おっさんは外で考え事をしていたらレヴィさんに別次元に拉致されて、いきなりバトルを挑まれたんだよ。おっさん自身も訳がわからないから、これ以上は説明しようがないよ」

おっさんの説明を聞いたシゼルは、真偽を確かめるようにおっさんを凝視した。

何となくおっさんもシゼルの目をガン見してみた。数秒後、シゼルがプイッと顔を背けた。

フ、おっさんの勝利だ。

そのやり取りを隣で見ていたレヴィさんは「クスクス」と笑っていた。

「どうやらご主人様は嘘はついていないようですね。レヴィ、観念して素直に理由を話すつもりがないのなら実力行使にでますが・・・どうしますか?」

シゼルの雰囲気がさらに冷たいものに変化していく。対してレヴィさんは相変わらずニコニコしている。ティアさんは・・・なんかレジャーシート敷いて焼おにぎり食べてるし。

「あーシゼル。たぶんだけどレヴィさんがおっさんを拉致したのは、シゼルのことが心配だったからだと思うよ」

「心配? それはどういう意味でしょうか?」

おっさんの話を聞きつつも、鋭い視線をレヴィさんから外さずに話の続きを促す。

「考えてもみなよ、いきなり友人が別次元の世界に事故とはいえ召喚されて、しかも異世界からきた得体の知れないおっさんのメイドをやっているんだよ。客観的に考えてどう思う?」

「確かにそれは少し心配しますね。ですが念話で定期的に近況報告はしていましたし、2人とも状況確認もかねて私達を覗いていましたが?」

「それでも心配なんだよ。だから実際におっさんと戦って確認したかったんだと思うよ」

「何故ご主人様と戦うことが確認になるのですか?」

「人間、余裕がない極限状態に追い込んだ方が本性が出る確率が高いじゃない? その証拠にあらかたおっさんを苛めたら「目的は達成できた」って言っていたしね。まあ、ここまではおっさんの推測だから本当のところはどうなのかわからないけどね」

「ご主人様はご不満ではないのですか? レヴィにされたことに対して」

「うーん、まあ最初は驚いたし途中からムカッとはしたけれど、結果的におっさん久々に大幅にレベルアップできたからいいかな~と。それに貴重な膝枕も体験できたし」

「はあ・・・ご主人様は単純で良いですね」

「それ誉め言葉? それとも嫌み?」

「ご想像にお任せします」

武器は手にしたままだが、ようやくシゼルの雰囲気が落ち着いてきた。

「レヴィ、確認しますが今ご主人様が説明したことが今回のあなたの行動の理由ですか?」

「あらあら、どうかしらね♪ シゼルちゃんはどう思う?」

ここまできても本心を言わずにはぐらかしますか。ホントいい性格してますね。

「質問を質問で返さないで下さい。最初からあなたがまともに答える気がないのはわかっているので、期待はしていませんでしたが」

「あらあら、流石は長い付き合いのシゼルちゃん。私のことをよくわかっているわ♪ うふふ」

これ以上追求しても無駄だと判断したのか、ついにシゼルは武器を閉まった。

落ち着いてよく考えるとおっさん、世界の危機を救ったんじゃない? うん、今日のおっさんは頑張った。

「仕方がありません。今回はご主人様に免じてこれ以上は何も言いません。しかしレヴィ、覚えておいて下さい。次はありません」

「あらあら、肝に命じておくわ。うふふ」

ほんの一瞬だけ2人の雰囲気が変化した。あー心臓に悪い。

「話がまとまったようだから、最後におっさんから一言」

シゼルとレヴィさんがおっさんの方を向く。ティアさんは・・・何個目かわからない焼おにぎりを食べながら味噌汁を飲んでいる。ぶれないな、食いしん坊め。

「そろそろ疲労で意識が飛びそうだから、誰か今日の夕食当番代わってください。・・・おやすみ~」

それの言葉だけ何とか絞り出して、おっさんは今日2度目の意識を手放した。



夢を見た。ずっと昔の夢だ。

その夢の中ではおっさんはまだ幼くて、母に抱かれて眠っているようだった。

温かくて良い匂いがして、安心できたことはよく覚えている。

久しぶりに昔の夢を見た気がする。でも何でこのタイミングで昔の夢を見るんだ。

ああ、視界が白くボンヤリと・・・


ゆっくりと意識が覚醒していく。感触的にベッドで寝ていたようだ。

意識を失ったおっさんを誰かがここまで運んでくれたようだ。

まだまどろみの中にいたいので、寝返りをうって横にあるクッションを抱きしめる。

よく抱きつき専用の細長いクッションあるじゃん? アレよあれ。

いつものようにクッションに抱きついて顔をうずめ、手と足をしっかりと絡める。

あれ? このクッション何か物凄くイイ匂いがする。それに温かくて柔らかい。そもそもこんな凹凸あったか? 嫌な予感がする。このまま2度寝した方が良い気がしてきた。

「あん! あらあらそんなに情熱的に抱きしめられたら私、変な気分になっちゃうわ♪ うふふ」

どうやら嫌な予感が的中したようだ。今抱き枕だと思って抱きしめているのは、レヴィさんだ。これどーすんの! 思いきり抱きしめている状態だし、下手に動いたら手が変なところに当たる可能性がある。さらにマズいのはおっさんの顔がレヴィさんの胸元に埋もれていることだ。一般成人男性なら非常に喜ばしい状況なのだろうが、おっさんからしたら危機的状況だ。

打開策が思いつくまでは、寝たふりを継続するのが吉か。

「あらあら、この状況で寝たふりをするなんて男性として如何なものかと思うわ。私の抱き心地の感想とか、そのまま欲望のままエッチな行為はしないのかしら? うふふ」

はい、寝たふりが即座にバレました。よし、ここは作戦を変えて毅然とした態度でいこう。おっさんは紳士だ。

「おはようございます、レヴィさん。それで一体何をしているんですか? あなたような綺麗な女性がこんなことをするものではありません。もっと自分を大事にして淑女としての嗜みを・・・」

「あらあら、そのキャラ設定でこの場を打開する気かしら? 私は抱き心地の感想を聞いたのよ。素直に言わないなら私の方からも抱きしめちゃうわよ? えい♪」

レヴィさんからおっさんを強く抱きしめたことで、全身の密着度がエライことに。あと、呼吸が辛いです。幸いなことに谷間で窒息死は免れてるけど。く、どうする?

「あらあら、素直じゃないわね。あなたの体は素直なのに・・・特に股間なんて大きく固くなって逞しく反り返って・・・」

「シャーラップ!! はい、それ以上はダメです。もうおっさんの負けで良いです。抱き心地ですか? もう最高ですよ。こんな抱き枕があったら毎日安眠できますよ。あと念のために言っておきますが、股間の反応はただの生理現象です」

ふう・・・危うく変な方向に話が加速するところだった。

「あらあら、ノリが悪いわね。ちょっと残念♪ うふふ」

「何が残念なのかは聞きませんけど、それで結局レヴィさんはここで何をしているんですか?」

「あらあら、夜這いだけど?」

「真面目に答える気あります?」

「あらあら、冗談よ・・・半分はね。おーちゃんの看病を皆で交代でやっていて、今が私の番なのよ。それでね、寝ているおーちゃんの寝顔を見ていたら眠くなっちゃったから、添い寝してたのよ。さっきまではティアちゃんがおーちゃんをみていたのよ? その証拠に枕元におーちゃんに作って欲しいご飯のリクエストを書いた紙が置いてあるわよ。でも今は見ない方がいいかも。だって厚さが紙媒体の国語辞典なみだから、おーちゃんの心が折れちゃうかもしれないわ」

確かに食べたいものを作る約束をしたけれど、そんなに食べたいものがあるのティアさん。てかおっさんに作れない料理はあるからね。あーでもスキルを駆使すればなんとかいけるか? はあ・・・面倒だけど約束したからな~ゆっくり消化していこう。

「レヴィさんがおっさんのベッドにいる理由は理解しました。さあ、出ていってください。おっさんはもう大丈夫です。てか外が見えないからわからなかったですけど、もう夜這いをされるような時間なんですか? ところで「おーちゃん」って何ですか? もしかしておっさんの呼び名ですか?」

「あらあら、質問が多いわね。1つずつ答えてあげるわ♪ まず今はあなたのいた世界の時間で深夜2時くらいよ。ちなみに夕食は私が作ったわ~シゼルちゃんにお説教されたあとに、ペナルティとして夕食の担当にされちゃったの。しかもアシスタントなしでよ! 酷いと思わない?」

「プンプン」という擬音が聞こえてきそうだ。だから抱きしめるのをまずやめてください。

「2つ目の質問の答えだけど、おーちゃんはおーちゃんよ。私もあなたのことを気に入っちゃたから、あなたのことを呼ぼうと思ったときに考えちゃったのよ。シゼルちゃんは「ご主人様」だし、ティアちゃんは「ご飯の人」じゃない? じゃあ私はなんて呼ぼうかしらって」

「普通に「おっさん」でいいじゃないですか? そしてとりあえず離してください」

「あらあら、それじゃあつまらないじゃない♪ だ・か・ら親しみを込めて「おーちゃん」にしたのよ。他の人と被らないし恋人みたいに聞こえるじゃない? おーちゃんも私のことをれーちゃんって呼んでもいいのよ。うふふ」

「おっさんの質問に答えてくれてありがとうございます、レヴィさん。だ・か・らいい加減に離れてください。これ以上おっさんを抱きしめるつもりなら強行手段にでますよ」

「あらあら、怖いわ~それでどんな強行手段にでるのかしら? うふふ」

妖艶な笑みをしながら、余裕な態度を崩さないレヴィさんに最強のカードを切る。

「シゼルを呼びますよ?」

「離れるわ・・・」

そそくさとおっさんを解放して、ベッドからでるレヴィさん。

シゼルの効果すげー! マジで最強じゃん。

レヴィさんから解放されたので、おっさんも体を起こす。

ふと視線を巡らせると、サイドテーブルに紙束が・・・想像以上の分厚さだ。これはくるものがあるな。

「あらあら、見ちゃったわね。凄いでしょ? ティアちゃん凄いウキウキしながらそれ書いていたのよ」

「約束しましたからね。これは期待に応えないとな」

料理スキルがさらに向上しそうだな。

「あらあら、そろそろ交代の時間ね。私の番に起きてくれたのは嬉しかったわ♪ 運命かしら? うふふ」

そんなことを言いながら、ドアに向かっていくレヴィさん。

「ごめんなさいね」

「急にどうしたんですか?」

足を止めて急に謝罪してきたレヴィさん。

「私、不器用だからおーちゃんを試すのにあんな方法しか思い付かなかったの。傷つけてごめんなさいね。おーちゃんの予想した通りシゼルちゃんが心配だったのよ。シゼルちゃんああ見えて意外と抜けてるところがあるから、私としては心配でね。でも杞憂だったみたいね。おーちゃんは良い人だしシゼルちゃんは毎日が楽しそう。これなら心配はなさそうだわ」

「あらあら、どうしたんですか? 急にしんみりしてキャラ変更ですか? それに「いなくなる」みたいなことを匂わせる言い回しはやめてください。一体誰がシゼルとティアさんの心配をするんですか? それにもう家事当番にれーちゃんは組み込まれているんですから、今さら抜けるのは面倒なんで却下です。それに一番大事な毎日膝枕の約束を忘れていませんか? おっさん、実は内心結構楽しみにしてたのにな~」

おっさんの言葉を聞いたレヴィさんは、ドア目前でこちらに振り返って俯いてしまった。

あれ? おっさん何かマズいこと言ったかな。一応「気にしないでね」的な意味合いで言ったんだけど。

と、おっさんが心配しているとレヴィさんがいきなり走り出しておっさん目掛けてダイブしてきた。

こちらに飛んでくるレヴィさんがスローモーションのようにゆっくり見える。

これ受け止めないと危ないよね? そう思ってベッドで上体を起こしたまま両腕を大きく広げて、受け止める体勢をとる。

すると・・・何ということでしょう! 飛んできたレヴィさんが、おっさんの腕の中にスッポリと収まりました。

女性に対して失礼だが受け止めた衝撃で「ぐえ!」とかなるかな~と予想していたのだが、レヴィさんは立派なものをお持ちの割りには軽くて逆に驚いてしまった。

「いきなりどうしたんですか、レヴィさん?」

おっさんの腕の中で胸板に顔を擦り付けるレヴィさん。

「あらあらあらあら、どうしましょう~♪ シゼルちゃんを見守るだけにしようと思っていたのに、私ほんとのホントに本気であなたが欲しくなっちゃったわ。こんなの始めてよ。うふふ」

キャラ設定が元に戻ったと思ったら、感情が爆発している模様のレヴィさん。おーい大丈夫ですか?

「レヴィさ・・・ひっ!」

いつも通りのおっさんの自室。しかし数秒前と変わったところが1つある。

Replay

お分かりいただけただろうか。

そうです。シゼルがベッドの前に立っているのです。

こちらを感情をこもっていない目で見つめている。しかも何も言わずに。

おっさん、背筋に冷たいなにかを感じるんですが。

「ご主人様、レヴィ。一体何をしているのですか?」

ようやくシゼルが口を開いた。怖いよ~

客観的に見たらベッドで男女が抱き合ってる。これは何を意味するだろうか? 普通の人ならイヤらしい想像しかしないだろう。

「えーと、何でしょうね?」

「私が見る限りではベッドで男女が抱き合っているようにしか見えないのですが? これから子作りでも始めるのですか?」

「シゼルさん。おっさんの弁解を聞いていただけますか?」

「最後にせめてもの慈悲です。聞いて差し上げましょう」

最後にしないで! おっさん、まだスローライフを満喫してない。

「弁解を聞く前にレヴィ、ご主人様から離れなさい。そしてベッドから出ろ」

「・・・嫌よ」

「今なんと言いましたか?」

「嫌よって言ったの」

おっさんの気のせいじゃなければ、部屋の体感温度が急激に下がったような気が。

抱きついたままレヴィさんは器用にシゼルの方に顔を向けた。

「シゼルちゃんには悪いけれど、私もおーちゃんのこと凄く気に入っちゃったの♪ だからずっとこの世界にいることにするわ~うふふ」

レヴィさんの言葉を聞いたシゼルは、見た目は無表情だがおっさんには明らかに不機嫌に見える。

「何故ですか? レヴィ。あなたの目的は済んだのでしょう? でしたら潔く帰還するのが筋でしょう。それに「おーちゃん」とは何ですか?」

「おーちゃんはおーちゃんよ♪」

「答える気がありませんね」

「答えてるわよ?」

「先程はご主人様に免じて引きましたが、今回は許しません」

シゼルの雰囲気が変化し、右手にあのヤバイ槍(?)らしきものが出現した。

「あらあら、残念だけど今回ばかりは私も自分のワガママを通すことにするわ」

おっさんから離れてシゼルの前に立つレヴィさん。シゼル同様その雰囲気が変化して両手に剣(?)らしきものを持っている。

もうおっさんを許して下さい。何故皆でおっさんのスローライフを邪魔するんだ。おっさんが一体全体何したっていうんだ。・・・もうふて寝してやる。

もう疲れたので本気のふて寝を敢行することにした。もう好きにして。

ふて寝してから何秒か経過したが何も起こる気配がない。沈黙に耐えかねて様子を見るために、ベッドの上で体を起こすとベッドの両脇にいつもの雰囲気に戻った2人が立っていた。あれ、どしたの?

「申し訳ありません、ご主人様」

「ご免なさいね、おーちゃん」

謝られた。

「ご主人様にふて寝をさせてしまうほどストレスを溜めさせてしまうとは・・・」

「あらあら、私もおーちゃん困らせ過ぎたわ。まさかふて寝しちゃうとは思わなかったわ・・・」

キャーッ! 2人ともおっさんの思考を読んだな。エッチ!! 罰として添い寝を要求する(冗談)!

「わかりました。では、失礼します」

「わかったわ~よいしょっと♪」

またもやおっさんの思考を読んだ2人が、冗談で思考した添い寝を実行にうつした。

望んでもいない両手に花状態。温かい、柔らかい、そしていい匂い。ここは天国か!?

「あの~2人とも。おっさんの冗談を真に受ける必要はないよ?」

「ご主人様。これは私たちへのペナルティですので仕方がないので一晩添い寝して差し上げます」

そういうとシゼルはその巨乳でおっさんの右腕を挟み込む。

あ~柔らかい。

「あらあら、そうね、ペナルティですものね♪」

同じようにレヴィさんもおっさんの左腕を豊満なバストでホールドする。

こちらの柔らかさも中々・・・じゃなくて!

「いや、あのね・・・」

「「黙って添い寝されてなさい」」

「はい」

最後の抵抗をしようと試みるも、2人の一言でそれも失敗に終わった。

こうなったら開き直ってこの状況を満喫しよう。

そんなウトウトし始めたおっさんを尻目に、2人は何やら話している。

「ねえ、シゼルちゃん。さっき言った通り私もおーちゃんのこと本気で気に入っちゃったから、揉めないように半分こしない? あ、ティアちゃんも入れたら3等分かしら?」

「残念ながらご主人様は誰ものでもありません。強いて言うならご主人様自身のものです」

「あらあら、残念だわ~」

「ですがもし平等にご主人様を分けるようでしたら、3等分では足りません。最低でも10等分はしなければいけません」

「あらあら、そうなの?」

「ええ。ご主人様は大人気ですから」

眠りに落ちかけているおっさんを挟んで、物騒な会話をしないでくれませんか?

おっさんを10等分するとか、夢見が悪くなるわ! 

「おっさん本格的に眠くなってきたから、寝るね~おやすみ」

会話の邪魔をするのもあれだけど、一応寝る旨を2人に伝えておく。

「「おやすみなさい」」

意識が落ちる前に2人の優しい声が聞こえた。これなら夢見は良さそうだ。



「こんにちは。なぜ○に○デシコのコーナーよ♪」

「そんなコーナーはありません」

「あらあら、Cパートはないのかしら?」

「ありません! いきなり機動○艦○デシコネタをぶっこんでくるのはどうかと思いますよ? 確かに劇場版は今でも語り種ですけど」

「そうよね。あれは良かったわ~♪ うふふ」

「もう今日は寝ますよ、その話はまた今度にしましょう」

「え~私まだおーちゃんとお話ししたい」

「2人とも静かにしてください。そして寝なさい」

「「はい・・・」」





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