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この世界にも一応四季は存在しているが、暮らしてみて数年が経つが真夏のような暑さや真冬のような厳しい寒さとは未だに無縁である。つまり何が言いたいかというと・・・控えめに言って最高な環境。

おっさん暑いのも寒いのも苦手だし、現に元の世界では年齢を重ねるごとに体力と気力の減少を毎日のように感じていたしね。そう言えば、こっちの世界に来てからは感じたことがないな・・・はて?


「おっといかん、集中集中。もう仕上げの工程なんだからここでミスったら今までの作業が水の泡だ」

雑念を振り払ってより深く集中して目的のものをイメージし、魔力やらその他もろもろを込める。あとはお願いします「アイテムクリエイション様」。

魔力の奔流が収まるとそこには一振りの刀が鎮座ましましていた。

出来上がった刀を手にとって、出来栄えを確認する。

「うん、我ながら上出来だ」

さて、じゃあこの調子で他のも製作していきますか。

おっさんが今どこで何をしているかって? それを話す前にまず昨日の午後にプレイバックプレイバック。


「え? アリアの武器を新調してほしい?」

腹ごなしにウサちゃんズと軽くバスケットボールをしていると、デュラちゃんにそうお願いされた。

その前に何故にバスケットボールが出来るのかって? おっさんが根性だしてコートとかゴールとか備品を製作したからだよ。

筋トレや模擬戦だけじゃなくてもっと違う形で体を動かせないかと考えて、不足している娯楽もかねて試しに作ってみたら大好評。

ちなみに他にも野球場、サッカーコート、テニスコートなんぞも完備しています。

みんなルールをすぐに覚えて、結構白熱した試合展開を毎回演じている。

ただ、みんなの力に耐えうる備品をおっさんだけでは製作できなかったので、そこはシゼルに助力を請いました。

タイムをとって監督の熊師匠がメンバーチェンジの申請をする。あ、ちなみに相手チームの監督はノーライフキング先生です。

ベンチに戻りタオルで汗を拭きつつ、デュラちゃんに武器の新調について尋ねると意外な答えが返ってきた。

「アリアにあった戦闘スタイルに変更するため? え、アリアは片手剣と盾の王道騎士スタイルだったよね。そのスタイルがアリアにあってないの?」

おっさんの疑問にデュラちゃんは首から出ている魔力煙の色の変化と、手に持っている自らの頭部を器用に頷かせて肯定した。

デュラちゃんによるとアリアには刀があっているらしい。何度か動きを見たり模擬戦を重ねて気がついたそうだ。

デュラちゃんの後方に視線を向けると、アリアが体育座りで何やら落ち込んでいた。

少々心配だったので声をかけようとしたら、デュラちゃんに止められた。

何でも王道騎士スタイルに幼少期から憧れて、今のスタイルを確立したから結構ショックだったらしい。

それはご愁傷さまです。

「武器を新調するのは構いませんけど、誰がアリアに刀による剣術を教えるんですか?」

おっさんが一番疑問に思っていることを口にすると、デュラちゃんは自らの頭部を抱えていない方の手を元気よく天に向かって上げて「私、私!」とアピールした。

「デュラちゃんも騎士スタイルじゃないですか。一体どうやって教えるつもりなの?」

おっさんが問いかけるとデュラちゃんは首に自らの頭部を連結させて、さらに体全体に濃密な魔力を纏った。

纏った魔力が鎧を変質させる。

魔力が安定し収まるとそこにはいつもの騎士スタイルの姿ではなく、洗練された和風の甲冑を身に纏ったデュラちゃんがいた。そして腰には見事な業物と思われる刀を差していた。

おっさんの方を見ながら得意気に胸を張るデュラちゃん。ここは敢えて言おう。

「デュラちゃん、おっさんの勝手なイメージだけど鎧の種類を自由に変更可能で頭部があるのはデュラハンではない気がするんだけど・・・」

おっさんの当然の疑問に対してデュラちゃんは、小首を傾げた後でおっさんの肩をポンポンと叩いて「人生細かいことを気にして生きてちゃいけないよ!」と力強く言った。

細かくねーよ。

どうやらデュラちゃんはデュラハンになる前は、とある王国で騎士団長をしていたらしい。

でも途中で飽きて傭兵として諸国漫遊の旅をして、様々な土地で色々な武芸を学んで会得したらしい。その中には刀術もあるから教えられるということだ。デュラちゃん=剣術バカという公式は間違っていなかった。

「事情はわかりました。今日はもう時間が中途半端なので、明日からの作業でイイですか?」

おっさんの言葉にもとの騎士甲冑姿に戻り、頭部を外して両手で動かして頷いた。

いちいち芸が細かい。

え? ついでにスポーツブラかさらしを作ってほしい? あーなるほどね・・・アリアは非常に立派なものをお持ちだから動きづらいですもんね。アレ? でもこの前試作品だけど作らなかったっけ?

もっとしっかりした機能美とデザイン性があるものにしてほしい? ・・・要望を承りました。おっさん頑張ります。女性ものの下着か・・・何故かそこはかとない背徳感を感じるな。

「じゃあ、明日の朝から取りかかるから完成したら声を掛けますね」


というやり取りがあったから、今に至るワケです。

それにしても「アリアの武器だけ新調するのはズルいのじゃ! 妾のも作ってたもれ!」とか言いながら地面を転げ回ったアリシアには、流石のおっさんもドン引きしたわ。

しかもそれを間近で見ていたセレスが真似をして地面に身を投げ出し「わたしのくましゃんのけがもなおして~!」などと言い始めた。

ダメな大人が子供の近くにいるとこういう悪影響があるんだな~とおっさんはしみじみと感じました・・・まる。

「んじゃ、気合い入れてアリシアとセレスのも製作しますか。出来れば昼食前には仕上げてひとっ風呂浴びたいしな」

別に高温の炉で作業しているわけではないけれど、膨大な魔力を使用しながらの繊細な作業だから精神は擦りきれるし大量の汗をかくわで、結構シンドイんだよねこの作業。

しかもおっさん自身の武器じゃなくて、他の人の武器を作るわけだから余計に変なプレッシャーがかかるし・・・あ~胃が痛い。

まずアリシアの方だけど彼女の戦闘スタイルは魔術による中遠距離だから、おっさんと同じく拳銃タイプの媒介にするか。魔力消費も抑えられるし発動時間の短縮にもなるしな。

おっさん自身の銃を作った時をイメージして魔力を込める。

ただし今回はアリシアが使用するので、彼女の手に収まるサイズの大きさの銃をイメージする。

おっさんの中である程度のイメージが出来上がったので、あとは「アイテムクリエイション」にお任せする。

魔力の奔流が収まった後に現れたのは2つの拳銃。

1丁目は「アストロメリア」。銃のモデルはSIG SAUER P228。色は紫音色。

2丁目は「クロッカス」。銃のモデルはS&W M686。色は竜胆色。

性能は異なるけど、基本的なものはおっさんのと同じ・・・手抜きじゃないからね?

あとはついでにコウモリをイメージして製作した、ブローチ型のタリスマン。バット○グナルみたいな?

アリシアの戦闘スタイルだと間合いに入られると結構キツイと思うので、保険をかねてね。

アリシアクラスの実力者がこの世界に何人いるかは定かではないけど、知り合いに何か危険が及ぶのは避けたい。備えあれば憂いなし。

効力は、物理防御、魔法防御、状態異常耐性、精神異常耐性、魔力自動回復、自動治療、蘇生(1回のみ)にした。

これだけ付与しておけばとりあえず大丈夫だろう。


さて、次はセレスの何だが・・・どうしようかな?

不審者対策として強化versionのタリスマンは製作するとして、問題なのはくまのぬいぐるみだよな。ただ直すのは簡単だけど、それじゃあ芸がない。

セレスの戦闘能力は未知数だから、念のためにぬいぐるみに戦闘能力をもたせるか。

護衛対象に一定の危機が迫ると自動で起動するようにして、最優先事項はセレスの身の安全に設定。あとは・・・

この際だからくまのぬいぐるみに男のロマン武器を色々詰め込んでみるか? よし、目指せ最強のくまのぬいぐるみ。

結論から言おう。くまのぬいぐるみの改修作業に一番時間がかかりました。てへ♪


全ての作業を終えて時計を見ると、どうやら予定通り昼食前に終えられたようだ。風呂に入る時間も確保できた。

武器製作関係のことをすると必ず汗びっしょりになるから、そのまま風呂コースは必須。

「さて、着替えを持って浴場に向かうかな」

自宅の自室に戻り着替えを持って部屋を出ると、キッチンで作業をしているシゼルとアリアの姿が見えた。たぶん昼食の準備をしているのだろう。

あ、ついでだから昼食のメニュー聞いていこう。

「シゼル、アリア昼食作りお疲れさま。今日のメニューは何?」

「今日の昼食はカツ丼です。昨晩、多めに揚げたカツが余ったので今日の昼食に使用することにしました」

おーなるほどね。確かに昨日の夕食の支度の時に、アリシアのヤツが狂ったようにカツを揚げまくって余りに余ったからな。食材を無駄にせずに再利用できてよかった。

「今日はアリアがメインで作業するので、私はあくまでサポートです」

そう言ったシゼルが視線を向けた先を見ると、アリアが鬼気迫る表情で準備をしていた。

え、何? これからどこかの戦場に赴くが如く物凄い意気込みと集中力を発揮している。

アリアってそんなに料理苦手じゃなかった気がするんだけど、何故?

そう思ってシゼルの方を見ると、おっさんの心の内を読んだかのように疑問に答えてくれた。

「初めて作る料理なので緊張しているのですよ。アリアはまだカツ丼を食べたことがないので、味もレシピ通りに作るしかないので自分では想像できないですから」

「そっか。アリアはうちに来てからまだ日が浅いからカツ丼は未経験か。レシピはおっさんが適当に作って文字に起こしてるけど、アリアからすれば異世界の料理だもんな・・・」

「作業工程に問題がありそうなら私がフォローしますので、ご主人様は早く汗を流してくることをおすすめします。風邪をひきますよ」

「そうするよ。おっさんくらいの年齢になって風邪をひくと、免疫力が低下しているせいか治りも遅いからね」

シゼルの助言に従ってお風呂セットを持って、レッツ浴場!


いつもの流れで髭を剃り髪を洗い、体を洗う。そしておっさんは自分の体を眺めて唐突に思う・・・脱毛しようかな。

いやね、まじまじ自分の体を見たら脛毛が気になったわけよ。元の世界にいたころはお金がなかったことに加えて脱毛サロンに行く勇気がなくてやらなかったけど、異世界に来たからせっかくだからやってみようかなと。魔法とかアイテムクリエイションを駆使すれば何とか出来そうな気がするし。今度時間をみつけてやってみよう。

クールバ○的なヒンヤリする風呂に浸かっていると、大所帯のウサちゃんズとスケルトン達がガラス戸を開けて入ってきた。

みんな思い思いに体を洗い、湯船に浸かりに来る。

気になったのでおっさんの隣にきたスケルトンに、何をしていたのか聞くと「野球をしていた」そうだ。

さらに詳しく話を聞いてみると蟹さん率いる「チームラビッツ」VSデュラちゃん率いる「チームボーンズ」の試合だったらしい。

試合は白熱の様相を呈して9回裏1打出れば逆転サヨラナの場面で、デュラちゃんが「代打、私!」という暴挙にでて蟹さんが異議を申し立て乱闘に突入。双方入り乱れての乱闘が激しくなったときに、1人のウサちゃんが「この乱闘で破壊された備品とかは誰が直すの?」と言った瞬間、あっさりと乱闘は終焉を迎えたらしい。

そうだよね、結局修復するのはおっさんだもんね。その話の流れからするとおっさんが修復しに行った方がいいの? うん、わかった。あとで修復しておくよ。でも、楽しむのはいいけどあんまり備品壊さないでね?

おっさんがやんわり注意すると、ウサちゃんは少し耳を垂れた状態で湯船にブクブクと沈んでいった。耳だけが水面に出ている斬新な反省ポーズ。

ウサちゃんに先にあがる旨を伝えて脱衣場で体を拭いて着替える。


さて、アリアは無事に初カツ丼を完成させているかな? まあ、シゼルがついているから壊滅的な結果になることないと思うけど。

そんなことを考えながら自宅へと足を進めていると、自宅の前で落ち着きなく右往左往しているデュラちゃんを発見した。

「おまわりさーん、不審者がいまーす!!」

と、ふざけて大声で言ってみるとおっさんに気がついたデュラちゃんがこちらに猛ダッシュしてきた。

「どうしたのそんなに慌てて? お腹空いたの? ちなみに今日の昼食はカツ丼らしいよ」

空腹でソワソワしているのかと思いそう言ってみると、首から出ている魔力煙の色を変え手に持っている頭を左右に振って否定するデュラちゃん。

「違うの? うーん・・・あ! 昨日頼まれたアリアの刀の件?」

「そうそう」と言わんばかりに魔力煙が歓喜の色に変わり、手に持っている頭を上下に頷かせる。

「約束通り完成させてあるよ。あとはアリアに実際に使ってもらって細かい調整をするだけだよ。もう昼食の時間だからその後でいい?」

手に持った頭を上下に動かすデュラちゃん。なんかカワエエ・・・

「んじゃ、昼食を食べに行こう」


自宅のドアを開けると虎鉄と小雪の尻尾ブンブンと、匂いチェックのお出迎えにあった。

毎回こんな感じで出迎えてくれるから、結構嬉しいおっさんである。

思い出すな~元の世界では仕事から帰ってきて玄関の鍵を開けて、部屋の扉を開くとシーンっとした真っ暗で誰もいない部屋。「ただいま」を言う相手は玄関にある鏡に映った疲れきった表情の自分。

今思えば結構荒んだ生活をしていたんだな。

改めて誰かの「お帰り」という言葉が、どれほど貴重で幸せなものか気づかされるな・・・

そんな感傷に浸っていると、キッチンからシゼルが出迎えにきた。

「お帰りなさいませ、ご主人様。デュラちゃんもいらっしゃいませ。あと10分程で昼食が完成しますので、その間に手洗いとうがいを済ませておいてください」

「はーい!」

まるで学校から帰宅した子供と母親のやりとり(笑) おっさんなんだけどな、おっさん。

ちなみにデュラちゃんも鎧の手をハンドソープで洗ってました。うーん?

デュラちゃんとリビングに戻ると、ちょうどカツ丼がテーブルに運ばれるところだった。

「今日のメニューはカツ丼、長ネギと納豆の味噌汁、キュウリの糠漬けだ。初めて作った料理だから皆の口に合うかはわからないが、多目にみてくれると助かる」

そんな謙虚な言葉を口にするアリアはフリフリのエプロン姿だ。相変わらず立派な胸部が服を盛り上げている。うーんマンダム。

やがていつものメンバーが集まったところで、昼食の始まり。

「それでは、いただきます」

まずは味噌汁を頂く。はあ~染みわたる。日本人はやっぱり味噌汁だね。

次にメインのカツ丼。アリアは不安そうにしていたが見た目は完璧と言ってよい。三つ葉の緑が卵の黄色に生えるな~

若干半熟な卵がイイ感じだ。おっさんは熱が通りすぎた卵も苦手だけど、半熟すぎるのもちょっと苦手。面倒くさい男なのです、おっさんは。故にこのカツ丼は卵の火通り具合はおっさん好みだ。

どんぶりを手にいざ、実食!

まずはあえてカツを避けて割下が染みた卵と白米のみを一口。これだけでも十分に美味しい。

そしてカツにかぶりつく。昨日食べたはずのカツがいい具合に半熟の卵を身に纏い、さらに肉に染みた割下とマッチして美味い。三つ葉の香りと独特な酸味も相まって最高だ。

視線をカツ丼から外して前を見るとアリアがおっさんを凝視していたので、感想をのべることにする。

「美味しいよ、アリア。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もっと肩の力を抜こう。リラックスリラックス~」

おっさんの感想を聞いて安心したのか、アリアは脱力して自分のカツ丼を食べ始めた。

アリアは本当に真面目だな。でも真面目が美徳とは限らないんだよな・・・おっさんはその事実に会社で同僚の残業の手伝いをし続けた結果気がついたよ。あの頃のおっさんは若かった。

おっさんが軽く真理の扉を開いていると「おかわり!」という元気な声が、少なくとも4人分は聞こえた。

昼食を終えて皿洗いなど片づけが終了すると、おっさんとアリアはデュラちゃんに首根っこを掴まれて庭に強制連行された。デュラちゃんや、あんまり食後に揺らされるとおっさんリバースするかもしんない・・・


「はい、これが頼まれていたアリア専用の刀だよ。あとついでに色々と強化した和装(袴)と改良したスポーツブラね」

アイテムボックスから2振りの刀とその他の装備を取り出す。

「まず長刀の方が「カグツチ」で脇差しの方が「ヒナギク」ね。アリア自身が火属性との相性が良いみたいだから、刀にも火属性の魔力が通りやすくなっているよ。ちなみに刀には「不壊・高周波ブレード・全属性強化・速力強化・切れ味永続化」が付与してあるから」

一通りの説明をして、アリアに刀を渡す。あ、そうだ忘れるところだった。

「あと心配性のおっさんからお守りのプレゼント」

アイテムボックスから「揚羽蝶のタリスマン」を取り出して、アリアの手のひらに乗せる。

「タリスマンに付与してあるのは「物理防御・魔法防御・状態異常耐性・精神異常耐性・魔力自動回復・自動治療・蘇生(1回のみ)」だよ。まあ、お守りだね」

アリアは手のひらに乗せられた「揚羽蝶のタリスマン」を優しく両手で包み込んだ。

「ありがとう。気遣い感謝する」

おっさんの目の前で綺麗に礼をするアリア。生真面目アリアと呼ぼうかな?

次に神妙な面持ちでおっさんから刀を受け取ったアリアは、鞘から刀身を抜いた。

真紅の刀身をじっくり見た後で、感触を確かめるように何度か振っている。

「どうかな? 細かい調整はこれからだけど、感想は?」

おっさんの問いに一度目を閉じて「最高だ・・・」と呟いた。余談だがその時の表情はどこか変態のように見えた。すでにデュラちゃんと同じ道を辿り始めていないか?

おっさんが細かい調整のためにアリアから刀の感想を聞こうとした矢先に、デュラちゃんにアリアを拉致られた。

「調整は?」とおっさんが遠ざかる背中に声をかけると「そんなことより試し切りと模擬戦だ~!」みたいなことを、デュラちゃんが首から立ち上る魔力煙の色彩の変化と全身のボディランゲージで表現して、森の中へと消えていった。

実戦で使用した方がもっと詳細な感想が聞けるし・・・まあ、いっか。

ふと、おっさんの背後から視線を感じた。そう遠くない距離だ。しかもこれでもかというくらいワザと気配を出して「気づいてよ!」アピールをしている。

よし、無視しよう。そう決心して一歩を踏み出した瞬間に、その気配は高速でおっさんに向かってきた。

「酷いのじゃ! あれだけ気配をビンビンに出しておるのに、気がつかないわけないのじゃ! お主、わかっていて敢えて無視したじゃろう。酷いのじゃ~シクシク。最近、妾の扱いが雑になっておらんか?」

「気のせいじゃないか? いつもこんな感じだろう」

素早くおっさんの前に回り込んだアリシアは「ぶーぶー」文句を言っている。

「それで、気配ビンビンさんは何かおっさんに用かい?」

「そうじゃ! アリアだけおっさん殿の真心手作り武器を貰えてずるいのじゃ! 妾にもおくれなのじゃ!」

子供のようにストレートに両手を出してねだるアリシアの様子に「この人歳いくつだっけ?」とか思いながら、差し出された手にそれを乗せてやる。

「ふえ?」

「どうしたの? なんか変な効果音出てるけど?」

アリシアは自分の手の中にある2つのものを、キョトンとした顔で見つめている。

「いや、少し調子に乗っておねだりしてみたら妾の分も作ってくれるかな~とか思っておったのじゃが・・・まさか本当に作っていてくれたとは、嬉しいのじゃ!」

相変わらず年齢のわりには感情表現が率直なことで。

「アリアの分だけ作ると絶対100パーセント不平不満を言う輩がいるからな。というか事実言ってたし。それにどうせ作るなら全員分作った方がおっさんも色々と安心だしね」

そう、世の中何が起こるかわからない。一寸先は闇だか地獄だか。昨日の敵は永遠の敵。日々平穏のために備えあれば憂いなし!

「ほーう、おっさん殿・・・妾のことをよくわかっているのじゃ。惚れてもよいぞ」

「あ、宗教の勧誘は間に合ってます。それより少しは「不平不満を言う輩」の自覚があるなら少しは自重しろや」

「へ? 何のことじゃ? しかしおっさん殿は本当に妾達に手を出さんのう。少なくとも妾はいつでもカモーンなのじゃ」

両腕で体を抱くように胸を寄せ、妖艶な表情をするアリア。で、それが何?

「さて、渡した2つの銃について説明するぞ。まず1丁目は「アストロメリア」。こっちはオートマチックでマガジンには基本属性の補助弾丸が装填してある。補助弾丸というのは簡単に言えば細かいサポートをしてくれるお手伝いさんみたいなものだと思ってくれればいい。コンセプトは魔法の発動の高速化と魔力の省エネ化だから、今までよりも遥かに少ない魔力で魔法が発動可能になる。

2丁目は「クロッカス」。こっちは弾丸装填式だね。コンセプトは魔法が使用不可能な環境での運用を可能にすること。予め弾丸に魔法を込めて、それを放つ感じだね。弾丸の製作方法はあとで教えるよ」

おっさんの細かい説明を聞きながら、アリシアは2丁の拳銃を弄くり回している。

「ちなみにエンチャントは「魔法発動補助・魔力消費軽減・不壊・自動修復・腕力強化・表面硬質化・威力強化・装甲破壊・反動軽減・貫通・破砕・念動力との同調力up・飛翔スキルと弾丸との同調・精密射撃」がされているよ」

ふう~説明終了。おっさん喋りすぎて喉乾いた。

「こんな感じの武器なんだけど、何か質問とかある?」

2丁の拳銃の詳細の説明が終わったので、アリシアの顔を見ると何故かむくれて不満そうだった。

「あれ? どうしたのそんな顔をして。武器に不満な点でもあった?」

おっさんとしては結構渾身の出来なんだけど・・・おきに召さないのかな?

「たわけ! 武器に対しては何の不満もないのじゃ。むしろありがたいくらいなのじゃ。それは良いとして、その前じゃろう! もっとこう・・・あるじゃろうが!」

「え? 何かあった?」

「あったじゃろう! 妾のセクシーで妖艶な誘惑シーンが!!」

「・・・フ、そんな昔のことはもう忘れたよ。セクシーで妖艶な誘惑シーン? 修行してから出直してくるんだな」

切って捨ててやったぜ。確かにおっさんは巨乳好きであることを自覚したことにより、多少なりとも性欲が戻ったがいまだに枯れていることには変わりはないのだよ。おっさんをなめるなよ。

「ムキーなのじゃ!」

実年齢を考えると若干、いやかなり痛いリアクションをして2丁の銃を持ってズカズカと森の方へと向かって行く。

質問とかされなかったけど大丈夫かな? まあ、細かい調整に関しては実際に使用してもらってからで良いとして、最後にこれだけは一応言っておかないと。

「アリシア、一応念のために言っておくけどくれぐれも・・・」

「武器の性能に頼りすぎて鍛練を怠るな、じゃろ? おっさん殿に戒められずともわかっておるのじゃ。伊達に長く生きてないのじゃ」

流石は年の功。「のじゃ!」だけじゃなくてちゃんと考えていたか。

「しかーし、それと試し撃ちが楽しみなのは別の話なのじゃ! 早く森の獲物にぶっ放しに行くのじゃー! ヒャッハーなのじゃ!!」

新しい玩具を貰った子供か! まあ、喜んでくれたのならいいか。


自宅に戻るとセレスと虎鉄と小雪が、外でフライングディスクで仲良く遊んでいた。

虎鉄も小雪も身体能力が高いから、セレスがあらぬ方向にフライングディスクを投げても余裕でキャッチしている。2人とも子守りが板についてきているな。

ウッドデッキでは専用の椅子に座った熊師匠が、玄米茶と味付け海苔でティータイム(?)を楽しみながら3人を見守っていた。

流石は熊師匠。積極的に関わらないけれどしっかりと3人を気にかけてくれている。

おっさんの視線に気がついた熊師匠が、湯呑みを持っていない方の手をこちらに上げたのでおっさんも会釈で答える。

さらにおっさんの存在に気がついた虎鉄と小雪が、こちらに向いて「ウォン!」と吠えた。

セレスもおっさんに気がついて「新たな遊び相手発見!」とばかりに笑顔の小走りで近づいてくる。

そんなに足元を見ずに急いでいると、あーこれは王道のあのパターンになるのではないか・・・

「ドテン!!!」

案の定、途中で転んだ。しかも前のめりで。タリスマンを渡してあるから致命傷になることはまずないけど、勢いよく転んだからな・・・大丈夫かな?

セレスはゆっくりと起き上がると、土で汚れてしまった服の裾を強く握りしめ「なかないもん!」と半泣きになりながらも頑張っている。

ここに来た当初なら自分で立ち上がれずに、誰かが助けてくれるまで大泣きしていただけだっただろう。成長したね、おっさんは嬉しいよ。

立ち上がったセレスを心配するように、虎鉄と小雪が顔をペロペロと舐めている。

端から見ているとまるで三兄妹のようだ。非常に微笑ましい光景なのだが、セレスの顔は過剰なペロペロにより唾液まみれになっている。あとで応急処置としてタオルを渡しておこう。

ぬっとセレスを黒い大きな影が覆う。熊師匠だ。

「くましゃん?」

熊師匠に気がついたセレスが振り返ると、熊師匠はその大きな手でセレスの頭を優しくなでなでした。

それと同時に傷が癒えて服の汚れが消えた。

「わあーありがとう、くましゃん!」

そう言うとセレスは熊師匠に抱きついて笑顔に戻った。やはり流石だ、熊師匠は。

しかも然り気無く顔についた唾液まで綺麗におとしている。気配りができる男だ。

「熊師匠ありがとうございます。虎鉄と小雪もありがとうね。セレス、泣かずに自分で立ち上がったね。偉いね。今度は足元に注意して転ばないようにしようね」

「うん、わかった!」

おっさんの言葉に元気よく返事を返すセレス。すべての動物に共通して言えることだけど、幼い頃は本当に愛らしい。成長して大人になるにつれて汚れて腐っていくんだよね・・・おっさんのように。

「そうだセレス。くまのぬいぐるみの修復が終わったよ」

アイテムボックスからくまのぬいぐるみを取り出して渡す。

「くましゃんのけががなおってる! ありがとう~」

「あとタリスマンを新調したから、これと交換してんね」

以前のものより性能を大幅に向上して、デザイン性もup。熊の装飾が施されたネックレス状のタリスマンにしてみました。

新しいタリスマンを首にかけてくまのぬいぐるみを胸に強く抱きしめて、大喜びするセレス。

うんうん、そんなに喜んでくれるとは直した甲斐があったな。

直ったくまのぬいぐるみを熊師匠や虎鉄、小雪に嬉しそうに見せるセレス。平和な光景だ。

「確かに微笑ましい光景ですが、1つ気になることがあります」

いつも通りシゼルがいつの間にかおっさんのそばに現れる。

「気になること? 何かあった?」

「ただくまのぬいぐるみを直すだけなら、これほど時間がかかるはずがありません。一体どんな魔改造を施したのですか?」

「おっさんが改装したことは確定なんだ」

「はい」

酷い信頼だな。まあ、確かに多少の改造はしたのは事実ですけどね。

「聞きたい?」

「いえ、結構です」

「さいですか・・・」

・・・いい天気だな。今日の晩御飯何だっけ?

「ご主人様、いつまで待たせるのですか? 早くくまのぬいぐるみの改造について話してください」

「え? いやだって「結構です」って・・・」

「まったく、ご主人様は女心がその年齢になっても理解できないのですか? 表面上の受け答えだけでなくその裏にある本音を汲み取ってください」

「そんな無茶な・・・」

元の世界でもそうだったけど男性と女性では会話に込められた意味合いがなんと言うか、異なるケースが多くてしばしば苦労したことがあったな。おっさんの女性関係修行不足なのかな?

「ご主人様、いいから早く説明しろ」

「はい」

若干脅されて(?)だが、おっさん渾身のくまのぬいぐるみの改造について熱くプレゼンをする。

「普段はただのくまのぬいぐるみだけど、セレスの身に一定の危険が生じると戦闘モードであるメカ熊師匠に変化するんだ。では説明しよう。詳細はこんな感じ!」


・メカ熊師匠(戦闘モード)

① 戦闘モード時はぬいぐるみの姿ではなく、熊師匠をモデルに製作した姿に変化する。全体的なカラーリングは茶色。

② 装甲はオリハルコン、アダマンダイト、ヒヒイロカネの合金。

③ 眼からは熱線がでる。

④ 口は集束荷電粒子砲になっている。全身に小型の荷電粒子コンバーターを搭載している。

⑤ 胸部にはガトリング砲を4門内蔵している。使用時は胸部装甲が左右に開く。

⑥ 両手両足の爪は高周波ブレード

⑦ 重量があるため地上を高速移動するために足裏にローラーが装備されている。

⑧ 腕の外側にも手首から肘にかけて背ビレのような高周波ブレードがある。

⑨ 両手両足の裏から魔力を噴射することで、攻撃と飛翔スキルの補助の推進力に使用できる。

⑩ 腹部には近接戦闘用のショットガンを4門内蔵されている。使用時には腹部装甲が左右に開く。

⑪ 両腕と両足にはナノマシン技術がふんだんに使用されており、剣や斧やドリルや砲身にも変化可能。

⑫ 背部には大型スラスターが縦に2門並んでいる。

⑬ 両肩の後ろには大型のランチャーが2門装備されている。発射時は魔力を高濃度に圧縮して球体状にして発射する。着弾地の広範囲に圧縮した魔力属性に応じたダメージを与える。

⑭ 飛翔スキルを付与した魔石を各関節部に内蔵しているため、空中戦も可能。

⑮ 動力はアイテムクリエイションと錬金術で製作した、全属性を備えたおっさん渾身の魔石。

⑯ 体の各所にある小型コンバーターから周囲の魔力を取り入れることで、実質的にエネルギー切れはない。


おっさんが子供の頃に大好きだった「ゾ○ド」、「ガン○ムW」、ア○コミのヒーローなんかを取り込んで製作した夢のメカ熊師匠。余は自己満足じゃ。

おっさんの無駄にロマン溢れる熱いプレゼンが終了すると、シゼルは何故か大きなため息をついた。

「え? 今の説明に何か変な部分があった?」

シゼルがため息をついた理由がわからずにおっさんが困惑して問いかけると、シゼルは呆れながらも答えてくれた。

「ご主人様は一体何を相手にするつもりでそんな過剰な改造を施したのですか? 明らかに護身用の領域を越えています。そのくまのぬいぐるみだけでこの世界を相手にできますよ?」

「そんな大袈裟な。これはあくまでセレスの身に危険が及んだ際に起動する戦闘モードだから、この森の中にいる限りはモードチェンジしないよ。絶対誰かが一緒にいるしこの森には不審者とか暴漢はいないしね」

おっさんの元いた世界では幼い子供を狙う事件が頻発していたから、心配なんだよ。

その点、この世界というか生活環境ならその心配は微塵もないけれど、万が一ということある。ぬいぐるみの戦闘モードはそのために必要不可欠な保険である。

「・・・今わかりました。ご主人様は過保護なのですね。でなければただのロリコンです」

今までの会話の流れで何故その結論になるの!? おっさんがおかしいの??

「おっさんは過保護でもないしましてやロリコンでもない・・・つもりなんだけど。もしかしておっさん自身が気がついてないだけとか? まさかね。ね、シゼル?」

巨乳好きの件があるので急に不安になったので、シゼルの意見を聞いてみる。

「ご主人様、人は往々にして自らの性癖に気づかずに一生を終えるのです。ご主人様は今ここでそれに気づけたのです。幸運ですよ。今後の人生はその性癖と逃げずに真摯に向き合って、強く生きてください」

滅多に見せないそんな慈愛に満ちた表情で言われても、おっさんは認めないし騙されないからな。

「七割の冗談はこれくらいにしまして、くまのぬいぐるみの改造についてはセレスに伝えたのですか?」

いきなり話題が本筋に戻った。くそ~おっさんの傷つきやすい心をもてあそびやがって。

「その場のノリかつ無断で改造したからね・・・泣かれるのと嫌われるのが怖いから言ってないよ。残念ながらおっさんにそこまでの勇気はないよ」

おっさんの心はガラスよりも遥かに繊細で脆いんだよ。

「ヘタレですね。でしたら無断で改造などしなければよいものを」

「でもまあ、やっぱり心配だからね」

はしゃいでいるセレスを眺めながら2人で会話していると、虎鉄と小雪がおっさんの目の前にやってきてお座りをした。

おっさんを見るその目は物凄い期待に満ち溢れていた。尻尾ブンブン状態だし。

「ちゃんと2人の分も作ってあるよ。はい、これね」

2人の目線に合わせるようにしゃがんで、手に乗せてそれぞれの目の前に持っていく。

2人専用におっさんが新調したのはバンダナである。

虎鉄専用の方は、珊瑚珠色(さんごしゅいろ)で、虎鉄のデフォルメされた顔が刺繍されたバンダナ。効果はみんなに渡したタリスマンと同じ。

小雪専用の方は、・露草色(つゆくさいろ)で、小雪のデフォルメされた顔が刺繍されたバンダナ。効果はみんなに渡したタリスマンと同じ。

ただし今回はオリハルコン、アダマンダイト、ヒヒイロカネの合糸だから強度はかなりupしているよ。

新品のバンダナの匂いを嗅いで軽くひと舐めしてかと思うと、立ち上がって体を前に沈めてお尻を高く上げ尻尾をブンブンし始めた。どうやら気に入ってくれたようだ。

2人にそれぞれつけてあげるとおっさんの周囲をくるくる回りだしたかと思うと、飛びついてきて押し倒されて顔面をペロペロされまくった。喜びと感謝のしるしかな?

おっさんの顔を涎まみれにすると、今度は全力疾走でセレスと熊師匠のところに向かい上機嫌で自慢しているようだった。テンション高いな~

ちなみに古い方のバンダナを名残惜しそうに見ていたので、後日2人専用のクッションにリメイクしました。

2人に倒されたまま大の字で地面に寝転ぶおっさん。子供の頃は川辺の土手の草の上でよく寝転んだな。草と土の匂いが懐かしい。

でも今じゃ結構難易度高い行動だよね。だって犬の糞とかありそうじゃん。

しかも大抵の場合、何故か寝転んだところにあるケースが多い。

大人になると不安要素とマイナス要因やら責任ばかり考える癖がつくせいか、無邪気な行動が出来なくなるな。

つまり愛犬家の皆さん、家族である犬の糞はちゃんと処理しましょう。

「ご主人様、いつまで地面に寝転がっているおつもりですか?」

童心に返っていたおっさんの顔を跨いでシゼルが真上に立っていた。文字通り顔面の真上である。

これは倫理上よろしくない! おっさんはすぐに目を固く閉じた。おっさんは紳士である!

「シゼルさんや、何故こんな痴女のような行動を? 今おっさんが目を開くとスカートの中が丸見えになってしまうのですが・・・」

「そうですね。見たければ見ても構いませんよ? 別に減るものではないですから。ですがうぶなご主人様にはハードルの高い行為ですね」

シゼルが何故こんな行動をとったのか疑問ではあるが、その安い挑発にのってやろうじゃないか。

この歳で童貞のおっさんの覚悟をみせてやる!

意を決して固く閉じた目を開くと、そこには暗黒が広がっていた。

比喩でもなく下着の色が黒とかでもなく、文字通り暗黒である。

「これは、一体どういうことだ?」

困惑しているおっさんにシゼルは言い放った。

「ご主人様はご存じないかもしれませんが、メイドのスカートの中は四次元空間が広がっているのですよ。メイド界では常識です」

馬鹿な! メイドさんは常時ド○えもんのあのポケットを装備している状態だとでもいうのか!?

「私のスカートの中身を覗くことが出来る千載一遇のチャンスに、童貞の勇気を振り絞ったご主人様の覚悟はしかと受けとりました、残念でしたね」

いつもの無表情でおっさんの上から移動するシゼル。

またもおっさんの童貞心を弄んで楽しみやがって。本気でスカートの中を覗きにいったおっさん恥ずかしい!! 思わず両手で顔を覆ちゃったよ。この出来事はしばらく引きずるな、マジで。

「先程も申し上げましたが、いつまで地べたに寝転がっているのですか? 早く立て」

語尾が強くなったので、おっさんは慌てて立ち上がる。

軽く服についた汚れをはたいてシゼルを探すと、おっさんの真横にいた。

「私はこれから夕食の準備に取りかかります。メニューはマカロニグラタンとラザニア、ドリアです」

「1種類でも結構な手間がかかるのに、3種類も作るの? おっさんも手伝おうか?」

「問題ありません。皆さんたくさん召し上がるので味と量だけでなく、種類にも増やそうと思いまして。それに今日のサポートはアリシアなので、苦手分野を克服させるためにも少々厳しく指導しようと思っています」

ついさっき新調した銃を持ってはしゃいでいた姿が思い出される。スパルタ指導が待っているとも知らずにテンション高めで戻ってくるんだろうな。ご愁傷さま。

「では、失礼します」

シゼルが自宅に向けて歩きだしたので、おっさんが慌てて声をかけるとシゼルは足を止めた。

「何ですか? ご主人様」

「シゼルの分のタリスマンも新調してあるんだ。よければ受け取ってくれないかな?」

そういってシゼル専用に製作した金と銀の細い蛇が複雑に絡み合ったブレスレット型のタリスマンをシゼルに渡す。

「せっかくのご厚意ですがご主人様、私にはそのようなものは不要です。私の力を最も理解しているのはご主人様のはずですが?」

無表情に見えるシゼルの表情だが、今は少し困惑が見てとれる。

「それはわかっているよ。でもおっさんにとってシゼルはこちらの世界での数少ない家族みたいな存在だからね。心配半分感謝半分って感じだから、出来れば受け取ってほしいかな」

おっさんの言葉を聞いたシゼルは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐにいつもの無表情に戻った。

「わかりました。せっかくのご厚意ですので受けとりましょう」

そういうとシゼルは腕をこちらに向けて伸ばしてきた。これはおっさんがつけてあげる流れだね。

何となく膝まずいて腕輪型のタリスマンをつけてあげた。

終始おっさんの挙動を観察していたシゼルだが、腕輪が自分の腕に装着されると腕輪を見つめてほんの少しだけ微笑んだ。

受け取ってもらえて良かった。内心ヒヤヒヤしていたおっさん。

だってシゼル本人が言うようにこの世界でシゼルに勝てる存在はいない。実力を軽んじられていると機嫌を損ねるかと思っていました。

まあ、お守りの意味合いもあるけど日頃の感謝のしるしとか、恥ずかしくて中々言えないじゃん。

「では私は夕食の準備をします。ご主人様、もう用はないですか?」

「うん、大丈夫」

おっさんの返答を聞くと自宅に早々と歩き始めるシゼル。しかし唐突に足を止めたかと思うと、その姿がおっさんの視界から消えた。

「ご主人様。先程の腕輪を渡す際の台詞と行動ですが、もしこれが指輪であったならプロポーズと勘違いされるケースがあるのでお気をつけください」

吐息が聞こえるほどの距離でおっさんの耳元で囁くシゼル。どうやら一瞬でおっさんの後ろに移動していたようだ。

「ひゃい!?」

あまりにも不意打ちだったので、背筋がゾワっとしておっさんが出しても可愛くない変な声が出てしまった。

「では、失礼します」

おっさんをからかって満足したのか、今度こそ自宅に向かって行くシゼル。

いまだに収まらない鼓動を感じつつ、シゼル助言されたことを思いだして赤面した。

おっさん恥ずかしいー!! この恥ずかしさを教訓に今度はもうちょっと言動に注意しよう。でないとやってられん。

ちなみに熊師匠達にもタリスマンを製作するか聞いたところ、必要ないとのことでした。

その代わり欲しいものが思いついたら、製作して欲しいと言われました。

もう1つちなみに、夕食で口の中を火傷したお馬鹿が3人ほどいました。食べるまえに「熱いので気をつけて召し上がってください」とシゼルに忠告されたのに・・・食いしん坊どもめ。

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