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アリアさんが再び寝付いてから監視兼看病の交代の時間になったので、アリシアにアリアさんが一度目覚めたことを伝えた。かなり心配していたようなので発狂はしていなかったこと、軽い食事をとったこと、アリシアに酷いことをしてしまったことを悔いていたということを伝えた。

アリアさんが少しでも回復したことに安堵したのか、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「あとよろしく~」とアリシアに伝えて、おっさんは就寝の準備をする。あ~今日も精神的に疲れたな。


翌朝、いつもの朝練の時間に筋トレ広場に足を運ぶと見慣れたジャージ姿が2人でストレッチをしていた。・・・ん、二人?

足を止めて思わず二度見してしまった。残像か!

「おっさん殿、おはようなのじゃ!」

「おっさん殿、気持ちの良い朝だな」

おっさんの姿を視界にとらえた二人は、普通に挨拶してきた。

「ああ、おはよう」

じゃねーよ。まてまて、なんで昨日あんな目にあった人間が普通にジャージ着て朝練に参加してるんだよ。一瞬見ただけで正解がわかる間違い探しだよ。すぐにウォー○ーが見つかったパターンだよ。

「あのーアリアさん。なんでここにいるの? てか何をしているんですか?」

こればかりは流石に突っ込まなければおっさん気がすみません。

「今朝目覚めたら思ったより気分が落ち着いていてな。それにアリシアが鍛練をすると聞いてな、気分転換をかねて体を動かそうと思ってな。じっとベッドに横になっていても考えもまとまらないしな」

「はあ、そうですか」

まあ、本人がそれで大丈夫なら構わないけど。んー空元気というわけでもなさそうだから要経過観察かな。しかし・・・

「余計なお世話かもしれないけど服のサイズがあってないようだけど?」

アリアさんの胸部が異常に盛り上がっている。よくジャージの前のジッパーが閉まったな。

「そうなのじゃ。服がなかったから妾のジャージを貸したのじゃが、結果は見ての通りなのじゃ。妾もかなり巨乳な方なのじゃが、アリアの胸は魔乳じゃからな。規格外なのじゃ」

「アリシア、その魔乳という言い方はやめてくれと言ったではないか。私だって結構気にしているんだぞ。それにいまだに成長が止まらなくてどこまで大きくなるのか心配なんだ」

自分の胸に手を置いて、深いため息をつくアリアさん。まだ成長中ですか、それはそれは。

「贅沢な悩みじゃな。絶壁王族が聞いたらさぞ怒り狂うじゃろうな。あやつらの胸にはもはや未来はないからのう」

「くくく」っと、どこぞの悪役のような笑いをするアリシア。というかアリアさん以外の女性の王族は絶壁なのか。まさかそれが暗殺の理由だったりして。あながち間違っていなさそうで怖い。

「私からすれば胸がないほうが動きやすくて良いのだがな。しかしおっさん殿が巨乳が好きだということだから、今は巨乳で良かったと思っているよ。これで恩返しができる」

おっさんの方を見て微笑むアリアさん。え? それどういう意味?

「むう~それはどういうことなのじゃ! 昨日看病中に何かあったのじゃ? きっとそうなのじゃ! えーいアリア白状するのじゃ!」

アリアさんの肩を掴んで激しく揺さぶるアリシア。

残念ながら特に何もなかったよ。そもそもあるわけないでしょ。色々枯れてるおっさんですよ。ロマンスもフラグもそもそもないわ。

「ところで鍛練をするのにその状態だと厳しくない? よければちゃんとサイズがあったものを作るけど? ただしおっさんに自分のスリーサイズをさらすという羞恥心に耐えられればだけどね」

アリアさんは真面目だから昨日出会ったばかりの得体の知れないおっさんに、自分の個人情報を教えないだろうと思い冗談半分に言ってみる。

「そうだな。確かにこの状態では鍛練に支障がでるな。よし、お願いしよう。私のスリーサイズは・・・」

「シャーラップ! 女の子なんだからもっと恥じらいを持ちなさい。昨日出会ったばかりの得体の知れないおっさんに、自分の性的な情報をホイホイ教えるんじゃありません。お父さんは許しませんよ!」

あまりにも簡単に自分のスリーサイズを教えるもんだから、思わずおっさん心配になって説教しちゃったよ。

「しゃーらっぷ? よくわからないが、鍛練をするのにサイズのあった服を着る方が合理的だと思ったのだが何かおかしかったか? それに確かに昨日出会ったばかりだが、あなたのことは何故か信用できる気がするのだ。これでも一応人を見る目はあるつもりだ。とはいえ側近に裏切られた後ではなんの説得力もないが。それとスリーサイズを男性に教えるのははじめてなんだぞ。あとあなたは私の父ではないぞ?」

昨日の意気消沈具合はどこえやら。切り替え早すぎません? しかも思考が少し自由になった感じがするのは何故だろう? アリシアと何か話した結果かな? しっかりおっさんのボケを拾ってくる辺りにツッコミの才能を感じるな。

「本人が気にしないのならおっさん的には構わないけど。じゃあ、早速ジャージだけ何着か作っちゃうわ」

アリアさんのスリーサイズを聞いたので、二人から少し距離をとってアイテムクリエイションで手早く作っていく。

「スリーサイズを教えることを気にしていないわけではないのだがな。おっさん殿だから教えたのだが・・・私の意図は伝わっていないようだな。これでも結構頑張って攻めたつもりなのだが」

「絶対何かあったのじゃな! さあ、吐け。洗いざらい吐くのじゃ! こればかりは断固として引かないのじゃ。強力なライバル出現なのじゃ。妾だって年を重ねた奥深い魅力があるのじゃ。負けないのじゃ。あ、でもここは無駄に争わず協力してハーレム狙いもありなのじゃ?」

なんか作業しているおっさんの後ろが騒がしいな。朝から元気だね。

とりあえず1週間分のジャージを製作する。ほんとアイテムクリエイション様様です。

「和気あいあいとしているところ邪魔して悪いけど、アリアさんのジャージは完成したから試着してもらっても良い? そのうえで細かい修正箇所のリクエストを受け付けるんで」

出来立てホヤホヤのジャージをアリアさんに手渡して、昨日使用していた部屋で着替えてくるように伝える。

おっさん宅にジャージを抱えて向かって行く背中を見ながら、アリシアにアリアさんの状態について確認しておく。

「アリアさんはアリシアの監視兼看病中に何かあったの? 昨日おっさんが話したときに比べると、かなり吹っ切れている感じがするんだけど。ありえないとは思うけど早くも精神的ダメージから立ち直ったとか?」

「それは妾が聞きたいのじゃ。アリアが意識を取り戻して妾と話したときには、すでにあんな感じじゃったぞ。しかもおっさん殿に対して好感度MAXみたいな感じなのじゃ。おっさん殿は昨日アリアと一体に何を話したのじゃ?」

「別に特別なことは何も言ってないはずなんだけど。唯一思い当たるとすれば・・・玉子粥で胃袋をつかんだとか? それくらいしか好感度が上がるイベント関係はなかったと思うんだけど・・・」

おっさん好感度が上がるイベントをこなしたかどうかは、記憶にございません。

「食べ物で好感度があそこまで上がるというのは流石に考えづらいのじゃ。絶対2人きりのときに何か言ったのじゃ! これは後でシゼルも交えて尋問するのじゃ」

「シゼルが混じると拷問に切り替わる可能性があるから、勘弁してくれ。真面目な話に路線を戻すけど、アリアさんは今後どうしたいとか何か言ってた?」

「むう~話題転換して自然に追求から逃れる気じゃな。まあ今回は勘弁してやるのじゃ。それでアリアじゃが、しばらくはここで暮らしたいと言っておったぞ」

「あれま意外だね。アリアさんの性格からすると復讐という選択肢はないにしろ「私は王族だから民のために中途半端に物事を投げ出すわけにはいかない」とか言って、すぐにでも国に戻るかと思った」

あれだけ真面目だから、国に帰らずにここに残るという選択肢は結構意外だな。でも何でここに残ろうと考えたんだろう? 玉子粥かはたまた温水洗浄便座が理由か。

「妾もそう思って少し考える期間を設けるように説得する気満々だったのじゃが、今朝アリアに今後どうしたいのか尋ねたら「出来ることならここで暮らしたいと考えている。おっさん殿が許可してくれたらだが。その・・・とある人から「もう少し自分のために生きてみれば?」と言われてな、考えてみれば子供の頃以外では意識して自分のために何かすることはなかった。私は死んだことになっている身の上だ。それならばいっそのこと無責任かもしれないが一度全て投げ捨てて、今からは自分のために生きてみようと思う」と晴れ晴れとした表情で言っておったぞ。そんな助言をした「とある人物」とは誰じゃろうな~妾は物凄く気になるの~」

おっさんお方をジト目で見つめてくるアリシア。

「おっさんも気になるな。一体どんな人物なんだろうね。各地を放浪するおにぎりが大好きな流浪の画家とかじゃないかな?」

苦し紛れにおっさんも知らないフリをしてみる。

「やましいことがあるなら、白状するなら今のうちじゃぞ?」

「やましいことがないから何も白状しません。もしもあったとしたらカツ丼くれたら少しは譲歩しよう」

「何故そこでカツ丼が出てくるのじゃ?」

く、この世界の者たちには往年の尋問あるあるは通用しないのか・・・なんか寂しいな。

漫才のような掛け合いをしていると、アリアさんがおニューのジャージに着替えてきた。

「サイズとかは大丈夫ですか? 着心地とか何かリクエストがあれば可能な限り対応しますよ」

そう、アフターケアは非常に大事です。

「いや、問題ない。このじゃーじ(?)というものは初めて着たが動きやすくて良いな。じっぱー(?)なるもので上着の前を開けられる解放感がまた素晴らしい」

あーアリアさんはお胸が非常に立派ですからね。きっと服選びで大変苦労したのだろう。

「問題ないなら良かったです。それでアリアさん、今後の話は今したいですか? あとにしますか?」

おっさん、持ち前の意地悪さを発揮して今後についての話をいきなり振ってみる。さて、アリシアにした内容と同じようなことを言うのかどうか。教訓教訓、出会ったばかりの人の言葉をそのまま信用してはいけません。さて答え合わせのお時間です。

「できれば今話しておきたい。ふう・・・結論から言えばここで暮らしたいと思っている。一晩色々と考えてでた結論だ。情けない話だが正直疲れたんだ・・・それに自分自身、皆に裏切られたことがかなり精神的に堪えたようでな。仮に今国に戻ったとしても誰も信じられずに自宅に閉じ籠る日々をおくりそうだ。それに今までの自分の行動と考え方をゆっくり見直したいんだ。私は世間的には死んだことになっている。ならば好都合だ。これまでの私を一度捨てて、この地で第二の人生を歩みたいと考えている。王族であるのに職務を途中で投げ出すことは無責任だとは思うが、果たして私の行ってきたことが皆に求められていたのか疑問に感じてな。やはりだだの自己満足の産物だったのではないかと。自信がないんだ・・・過去の自身の行いの全てに。色々と理由を述べたが要は単に怖いから逃げ出しただけだ。で、もう戻る場所がないから、ここに置いてもらえると助かる。もちろんここでの生活のルールは昨日アリシアから一応確認した。家事も少しは心得がある。仕事も手伝う。夜伽は・・・その・・・決心がつくまで待ってほしい。ここに骨を埋めるつもりだ。ここに置いてください、お願いします」

・・・重い。色々と重いよアリアさん。もともと助けた状況からこうなることは予想できていたから、ここで暮らしてもらうことに関しては問題はないけど・・・なんでそんなに重い覚悟なの? おっさん反応しづらいは! それよりもアリアさんの話の中に無視できない内容のものがあったな。

「アリアさんの意思と重すぎる覚悟はわかりました。ここで暮らすことについては許可します。今さっき他の皆さんにも念話で確認をとったので、大丈夫です。あとでみんなを集めるのでそこで自己紹介と今後の抱負を語って下さい。それと細かいここでの生活のルールに関しては、あとでシゼルを交えてもう一度確認しておきましょう。そ・れ・よ・り・も「夜伽」ってなんですか? おっさん、ここにいる女性陣の誰とも性的関係をもったことはありませんけど。誰かな~そんなふざけた情報をアリアさんに言ったのは?」

もう犯人がわかっているので、逃走阻止のために「気配察知」をより集中して行いつつ視線をヤツに固定する。

「何故アリアの返答を聞く前に妾を犯人と断定しておるのじゃ? もしかしたら他に真犯人がいるかもしれんではないか。先走りしすぎると誤認逮捕になるのじゃ」

「なんでカツ丼ネタは知らないのに「誤認逮捕」を知っているんだよ。どこでその知識を入手しやがった。謎解きしなくてもお前以外に犯人はいねーよ。「夜伽」とかおっさんのイメージをいきなり悪い方向に誘導するような発言しやがって、もう表に出ているから森の外の表まで強制的に出してやろうか」

もう逃げ出しそうだったので、「瞬間移動」してアリシアの背後に移動して首根っこを掴んでおく。そんな様子をアリアさんはキョトンとしながら見ている。

「お待たせしてすみません、アリアさん。で、アリアさんに「夜伽」なんて間違ったルールを教えやがったのはコイツで間違いないですよね?」

アリシアの首根っこを掴んだまま、アリアさんの目の前に出す。さあ、懺悔の時間だぞ痴女。

とうのアリシアは両手を組んで祈るようなポーズをし、目をウルウルさせてアリアさんを見ている。情に訴えて違う人を犯人にするつもりか。でもアリアさんがここで直接面識があるのはおっさんだけだから、その作戦ははじめから失敗だぞ。

「私に「夜伽」がここでのルールと教えたのはアリシアだ」

はい、やっぱりお前が犯人じゃん。今回のお仕置きはク○ヨン○んちゃんのみ○えさんの「グリグリ攻撃」にしよう。アリシア、お前は少し反省しろ。

「アリア、貴様裏切りおったな! 痛い痛いのじゃ! おっさん殿これは異世界の拷問方法なのか? 痛いのじゃ! マジで頭が割れるのじゃ! 妾が悪かったのじゃ。ごめんなさいなのじゃ!」

ちょっと今回はキツメにお仕置きしておこう。また余計なことを言わないように。

「ちょっとマジで洒落になってないのじゃ。何故無言で拷問行為を続けるのじゃ! アレか、わりと怒っておるのか? 許してなのじゃ~もうしないのじゃ~」

「ふふふ・・・あははは!」

おっさんとアリシアのやり取りを見ていたアリアさんが、急に爆笑し始めた。もしかしてまた精神的ダメージがぶり返してきて、おかしくなったかな?

おっさんが「グリグリ攻撃」を緩めた一瞬の隙をついて、アリシアが全速力で逃げ出した。愚かなりアリシア、それは対策済さ。

アリシアが逃げ出す方向は未来視で予め確認済み。その経路には設置型の樹木魔法を仕掛けてある。アリシアの足が魔方陣に着地した瞬間、樹木魔法を発動して木の根や蔦が体の自由を奪う。ちょっと地面に転がしておこう。

「ぎゃーなのじゃー!!」

姿は見えないが、未来視で見た未来の通りになったようだ。

「おっさん殿とアリシアは仲が良いのだな。アリシアがあそこまで自然体で素の自分を晒す相手などそうはいないだろう。以前会議の場で魔王と話していたときよりも親密に見えた。余程信頼されているのだな」

え、そんな風に見えますか? おっさん的には猫とじゃれているような感覚なんですけど。

「私としてはそういう関係になった者がいないから羨ましいな。皆、私が王族かつハーフエルフだったからかどこか距離をとられていたからな。世間話や趣味の話すら出来ないことが多かったな」

話ながら苦笑するアリアさん。何その限りなく灰色に近い青春時代は。若いのにこれはいかん。

「ここで新しい人生を始めるなら、もっと肩の力を抜いて脱力感全開を心がけることをオススメしますよ。おっさんのここでの生活のモットーは「日々平穏」なんですけど、ゆっくりと流れる時間に身を委ねてせこせこ働かないのは良いもんですよ」

さりげなくスローライフ陣営にアリアさんを引っ張る。だって最近スローライフから遠ざかり気味なんだもん。

「そうだな。そのような時間は最近では特になかったな。「日々平穏」か・・・参考にさせてもらう。ところで私もアリシアと同じように「アリア」と呼んでくれ。「さん」づけで呼ばれていると王族の頃のようで、距離を取られているようで嫌なんだ」

「おっと、これは失礼。じゃあ改めて・・・よろしくアリア」

「こちらこそ、よろしく頼む」

2人で固い握手を交わす。

「アリシア、アリアの鍛練についてウサちゃんズと話し合ってメニューを考えてくれ。アリシアも経験済みだからわかっていると思うけど、最初は絶対バテるから軽めのメニューにしておいてね。あと浴場に朝風呂に行く前にアリアのジャージ以外の服をシゼルと共同で作って自宅のアリアが昨日使っていた部屋に置いておくから、あとで風呂上がりの服を回収しておいてね」

「了解なのじゃ~反省したからこの樹木魔法を解いてくれなのじゃ~」

あ、アリシアにお仕置きしていたの忘れてた。

強制転移でおっさんの前にアリシアを転移させて、樹木魔法を解いてやる。

木々によって縛られていた体をほぐすアリシアを尻目に、アリアは驚愕の表情を浮かべている。

ん? 何か驚くようなことがあっただろうか?

「アリシアがいきなり目の前に現れたのだが・・・これは一体?」

あーそれで驚いていたのね。最近見ないリアクションだから何か新鮮だな。

「妾はおっさん殿に強制的に転移させられたのじゃ。おかげで悪さしても逃げられないのじゃ。悔しいのじゃ」

そもそも悪さするんじゃねーよ。あんたいい歳だろうが、子供か!

「なるほど「転移魔法」か・・・初めて見たな。シャングリ・ラで召喚された勇者達ですら習得していない高等魔法だぞ。それにさっきアリシアが「異世界の拷問」と言っていたが、おっさん殿はもしかして勇者な」

「違います。確かにおっさんは異世界から来ましたけど、ぶっちゃけ事故で来てしまっただけです。まあ、今のところ一応元の世界への帰還方法は探してますけど、おそらく帰れない確率の方が高いと思うのでここでスローライフを満喫しています。ね? 勇者とは程遠いただのおっさんでしょ?」

もう、異世界から来たというだけで勝手に「勇者認定」するのやめてよね。もう魔王には出会ったけど、ただの温水洗浄便座の魔族だったし。あの感じじゃあ~たぶん元の世界への帰還方法は知らなさそうだったしな。この世界ではアセアセしないでゆっくり過ごすんだから。

「そうか。おっさん殿が異世界人だが勇者ではないことはわかった。つまりおっさん殿は勇者以上の存在ということだな。流石に奈落の樹海の深層で暮らしていることだけはある。これ以上詮索するのは無粋だな。今以上の情報が知りたければおっさん殿とより親しくなれば良いのだったな。うむ、頑張ろう」

アリアは両拳を握り鼻息荒く何故か奮起している。

おっさんと親しくなっても別になにもお得な特典はないよ? それにおっさんはおっさんでしかないから、親しくなってもおっさんの個人情報とか異世界の極秘情報とかは判明しないからね?

まあ、あんなことがあった次の日だからそんなことでプラス思考になるのなら良いか。

「じゃあ、アリシアあとよろしくね」

「了解なのじゃ」

アリシアがアリアの手を引いてウサちゃんズの待つ筋トレ広場へと向かっていく。あとはアリシアとウサちゃんズに任せておこう。筋トレが終わる頃には初期のアリシア同様「返事がない。ただの屍のようだ」状態で浴場に運ばれていくだろうから、アリアの新しい普段着を作っておっさん自身の鍛練をしている時間は十分にあるだろう。

二人の背中を見送りアリアの服製作のために自宅に戻る。

「シゼル~いる?」

「私はいつでもご主人様のお側にいますよ。何かご用ですか?」

相変わらずいつの間にかおっさんの背後に立つシゼル。おっさんも成長したから流石にもうパンツは濡らしませんよ。

「驚くことにアリアが昨日の今日で完全ではないにしろ心身ともに復活したようで、残りの余生をここで暮らしたいそうなんでアリア専用の服と生活用品の製作を手伝って欲しいんだ。今、時間大丈夫?」

シゼルにもシゼルの予定とかルーティーンがあるから、それを邪魔するのは申し訳ないので手伝ってもらえるか一応確認です。

「ええ、朝の私の予定はほぼ終了しているのでお手伝いできますよ」

「助かるよ。おっさんだけで女性ものの服とか小物を製作するのはセンスに自信がないからね。作った後で滅茶苦茶ダメだしされそうだし」

実はアリシアとセレスの生活必需品を製作する際にも、シゼルには色々と手伝ってもらったのだ。

「ですがよろしいのですか? せっかくアリアさんのスリーサイズを自然に聞き出すことに成功したのに、私と共同で服の製作などしてしまって」

「ん? シゼルと一緒に服を製作することに何か問題でもあるの? あとさらっと人聞きの悪い言い方したでしょ」

「ご主人様好みのエロい下着や胸を強調する服を異世界のせいにして、自然に着せるチャンスではありませんか」

「シゼルの中でのおっさんのイメージが、段々とエロオヤジ化しているのは何故なんだい? あとその様子だと昨日の夜のおっさんとアリアとの会話を聞いていたな? きゃープライバシーの侵害だ」

「メイドとして自らが仕える主人の性癖を把握しておくのは当然のつとめです。それよりようやくご自分が巨乳好きだと自覚したようで何よりです。無意識に女性の胸に視線がいっている時、私は気が気ではありませんでした。いつ犯罪に及ぶのかと・・・」

「もう巨乳好きなのは自覚したから否定しないけど、なんでおっさんが犯罪にはしることを心配しているんだよ。巨乳は好きだけど性的興奮を感じるという意味では枯れてるから、その心配は無用だよ。前にも言ったでしょ」

「いいえ、私は信じません。自分の直感に従います」

「そこは自分が一応仕えている主人を信用しようよ」

「私は神に誓って信じません」

えーこの自称メイドさん、自分が仕えている(?)主人を意地でも変態犯罪者予備軍にしたいらしい。

「はあ・・・もう本題に戻るけど、鍛練に入る前にアリアの普段着だけでも製作しておきたんだ。なんで協力よろしく」

「残念です。もう少しご主人様をからかいたかったのですが・・・では手早く製作しましょう」

シゼルと二人でがかりで製作したので、30分足らずで作業は終了した。

「ありがとうシゼル、おかげで早く作業が終了したよ」

「どういたしまして。あとは私がやっておきますので、鍛練に行っても大丈夫ですよ」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。あとよろしく。行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

おっさんの背中に綺麗な礼をして送り出してくれるシゼル。いつの間にか当たり前の光景になったな。

この世界に来て熊師匠を始めとする色々な方々に出会ったが「もし出会っていなかったらどうだっただろう?」と考えると背筋が冷たくなる。この世界に来た当初は一人の方が楽で、サラリーマンの時のように余計なことに神経をすり減らさなく済むと考えていたけど、実際は人恋しくなるもんだね。このジャングルでたった一人はしんどいわ。みんなには日々感謝(^∧^)ですな。



日課の鍛練を終えてシゼルと朝食の準備をしていると、案の定アリシアの時と同様に精も根も尽き果てたアリアがウサちゃんズに担がれてアリアルーム(仮)に運び込まれていた。アリシアの方を見ると手を挙げて苦笑していた。そう、実際にやる前までは根拠のない自信みたいなものがあるんだよね。わかります。誰もが通る道です。アリアの分の朝食の準備はしておくけど、たぶん昼までは倒れているだろうな。 

ウサちゃんズをお礼もかねて、朝食に誘う。ちなみに今日の朝食は焼いたウインナーに昆布サラダ、スクランブルエッグに玉子かぶりの目玉焼き。そしてそれをトーストにのせて食べる「天○の城○ピュ○」のパ○ースタイルです。実際にやってみると目玉焼きを落とさないように食べるのは、結構難しいです。固めに焼かなかったから黄身が垂れてくるし。すでに虎鉄とセレスの口元はベチョベチョです。

朝食を終えてウサちゃんズにもう一度お礼を言って、見送る。

皿洗いなどの家事を終えたので、各自お気に入りのソファーに座ってアリシアからアリアの様子を聞く。

あ、ちなみに虎鉄の口元は小雪が綺麗にしてくれて、セレスの口元はアリシアが拭いたので綺麗ですよ。

熊師匠とノーライフキング先生、蜘蛛お嬢にデュラちゃんに蟹さんが既におっさん宅で寛いでいらっしゃいます。朝食も一緒に食べてましたよ。

「アリシア、アリアはどんな感じだった?」

「昨日の今日じゃからまだ空元気じゃが、予想よりは見た感じは大丈夫そうじゃった。妾と同じく筋トレと持久走だけでダウンしたがな。アリア的にもグダグダベッドで悩んでいるよりも、体を動かした方が気分が楽なのじゃろう」

「発狂してないなら、ひと安心かな」

「あのおねいしゃんどこかけがしてるの?」

おっさんとアリシアの話を聞いていたセレスが、心配そうな顔で会話に入っていきた。

「えーとね、怪我ではないんだけど・・・なんて説明したもんかな」

「あのお姉さんは心を怪我してしまったのですよ。見える怪我とは違って治るまでには長い時間がかかるのです。だからセレスも優しく接してあげてくださいね」

おっさんが説明に困っていると、セレスを抱き上げて自分の太ももに下ろしたシゼルが代わりに説明してくれた。

基本普段シゼルは無表情でいることが多い。しかしセレスに接するときはほんの少し微笑を浮かべて対応している。意外に子供好きなのかもしれないが、本人に言うと照れ隠しにボコボコにされたうえに今後微笑すら浮かべなくなりそうなので言わないことにしている。

「こころのけが? わからないけどわかったの! あのおねいしゃんにはやさしくするの!」

相変わらずセレスは素直な良い子だな。このままスクスクと育って欲しいのものです。

「ありがと、シゼル」

「どういたしまして。これもメイドのつとめです」

おっさんに返事をしつつ、セレスの頭をそのほっそりとした手で撫でている。うーん絵になるね。写真を撮りたくなるな。

「む~微妙にイチャイチャしてるのじゃ」

いまのやり取りを見てどうやったらイチャついていると思うのだろうか?

「たぶんアリアは昼食までには復活するだろうからその時に熊師匠達に紹介しよう」

「最初で最後になるかもしれん緊張の瞬間じゃな。妾もあの瞬間だけは些細な粗相もしてはならんと、生きた心地がしなかったのじゃ」

「え。なんで?」

「この状況で暮らしてきたおっさん殿にはわからんじゃろうな・・・」

「ご主人様はご自身の異常性にいい加減に気づくべきです」

「???」

なんでおっさん二人にディスられてるの? わからん。

「ご主人様、昼食のメニューは何になさいますか?」

「今考えているのはホットプレートかな? アリアの歓迎(?)も兼ねてワイワイやりたいしね」

「おお、ホットプレートか。あれは最高なのじゃ! 自分で食材を焼いたりするのがまた面白いのじゃ」

「セレスもほっとぷれーとすき!」

おっさん宅ではホットプレートはわりと好評なのだ。特にセレスは非常に喜ぶ。自分で焼くのが楽しいらしい。

「では私は準備にかかりますね」

そう言うと太ももにのせていたセレスを抱き上げて、アリシアの太ももの上に下ろす。別れ際に頭をひと撫でしてキッチンに向かっていった。

「熊師匠、ノーライフキング先生、蜘蛛お嬢、デュラちゃん、蟹さん今日のお昼はホットプレートです。よろしいですか?」

おっさんが昼食のメニューを告げると、皆さん片手を挙げて「OK」という感じに返事が返ってきた。

おっさんも準備手伝おう。



予想通り昼食ちょっと前にアリアが復活して、リビングにやって来た。

「大丈夫?」

「何とかな。体力には多少の自信があったのだが、見事に打ち砕かれたよ・・・」

何故か意気消沈しているアリア。

「気にすることないのじゃ。妾も最初は撃沈したからアリアの気持ちは痛い程理解できるのじゃ。ちょっと自分が強いと思っていたことを恥じて、己の無力さを思いしらされるのじゃ」

おっさんの目の前で二人が抱き合って、お互いを慰めあっている。何してんのあんたら? ほっとこう。

ホットプレートに火をいれる前に、魔法で部屋の換気と油が飛ばないようにしておく。こういうところは魔法さまさまである。元の世界では換気扇を回して部屋に新聞紙を敷きまくっていたからね。

でも一応換気扇は回しておこう。気分的にね。

昼食の前に新人さん恒例の自己紹介です。皆さんの前にアリアを立たせて自己紹介を促す。

流石のアリアもこの面々を前にするとかなり緊張するようだ。口は開いているが中々言葉が出てこない。

心配したアリシアが立ち上がろうとしたとき、おっさんの左右に座っていた虎鉄と小雪が立ち上がりアリアの元に向かっていった。何をするつもりなんだろう?

アリアの足元に到着した二人は・・・アリアの匂いを嗅ぎだした。それを見ていたセレスも何故か便乗して、アリアのもとにかけついけ匂いを嗅ぎだした。

匂いを嗅がれているアリアは石のように固まり、目を白黒させながらおっさんに助けを求めるように視線を向けてきた。

「だが断る!」

「鬼畜ですね」

おっさんの言葉に隣に座っているシゼルが暴言を吐きやがった。

1~2分匂いを嗅いだ虎鉄と小雪はアリアの前にお座りをして「わん!」とひと吠えしてアリアに上体を伸ばして抱きついて、顔をペロペロ舐め始めた。どうやら二人による新人チェックは無事に終了したようです。セレスも負けじとアリアに抱きついているけど、腰の辺りまでの高さしか背丈がないので顔は舐められません。まあ、そこまで一緒にやったら流石に止めますけどね。

「あはは、くすぐったい。それにモフモフだな」

緊張していたアリアを心配して、緊張をほぐしにいったのね。相変わらず細かい気遣いができる二人だ。

セレスも便乗しただけとはいえ、空気を読んだ感じだね。

緊張がほぐれたアリアは自身の自己紹介をして、何事もなく昼食にいく・・・かと思いきやここで1つ事件が起こりました。

デュラちゃんが歓喜のあまり若干壊れたのです。詳しく説明するとアリアの自己紹介の際に戦闘スタイルが片手剣と盾だと言うと、デュラちゃんが「私の愛弟子にする!」と狂喜乱舞したのです。今までメイン武器が剣の人がいなかったから、ようやく自分が直々にみっちり教えられる相手ができて嬉しかったようです。

すぐにアリアの両手を自分の頭部を持っていない方の手でニギニギして、具合を確認している。

剣士のアリアはデュラちゃんが何をしているのか理解しているのか、抵抗せずに自分の手を見せている。

その行程が終わると二人は何やら話し(?)始めた。身ぶり手振りを交えながらいきなりコミュニケーションがとれているようだ。なんでだ?

気になったので熊師匠にコミュニケーションが容易にとれているのは何故なのか聞いてみたところ「似た者同士だからじゃない?」と仰られた。「似た者同士とは?」とおっさんが聞くと、少し沈黙して「剣術バカ?」と小首を傾げながら仰られた。あらやだ、カワイイ。

熊師匠は時たま見せるこういう仕草が、見た目とのギャップもあいまってキュートです。

まあ、そんな感じでデュラちゃんに待望の弟子ができました。良かったね。


昼食のホットプレートの詳しいメニューは、たこ焼き、お好み焼き、肉が多目の野菜炒め、焼きそば、たこ焼きプレートを使ったアヒージョ、そばめしにクレープだ。

張り切りすぎて作りすぎたと焦ったが、そんな心配はなく皆さんしっかりと完食しました。

注目すべきだったのはセレスと蟹さんでした。

まずセレスはホットプレートの端の方で一人で頑張って目玉焼きを焼いていました。火気が危ないのでまだセレスには料理をさせていないのですが、本人はわりと興味があるらしくホットプレートをやるときには自分で色々焼きたがる。なかでも目玉焼きがお気に入りで、上手に焼けたときの笑顔を見られると周りで見守っていた者達はほっこりする。ちなみに今回は上手に焼けてました。

一方の蟹さんはというと、スライスされた餅を鋏で器用に焼いて醤油を垂らして食べていました。渋い、渋すぎる。

虎鉄とセレスはお好み焼きのソースとクレープの生クリームで、口元と胸の辺りが仲良く大惨事でした。

アリアは熊師匠をはじめとする猛者の皆さん一人一人と挨拶を交わした後で、デュラちゃんと剣について語り合っていました。

アリシアはシゼルにサシ飲みを挑んで、敗北した挙げ句にトイレで吐いてました。いい歳の大人がはしゃぎすぎだろ。ふう・・・そうですよ、アリシアがトイレでリバースしている間に背中を擦っていたのはおっさんです。貧乏くじタイムでしたよ。

その後はグロッキーなアリシアを部屋に運んで、セレスを寝かしつけた。

ホットプレートの片付けなどはシゼルとアリアがやってくれた。助かる~あ、水仕事の後はハンドクリームつけてね? 手荒れは天敵です。

アリアの歓迎(?)会は無事に終了し、熊師匠達もご自分家に帰っていった。

おっさんも寝る支度をしていよいよベッドに潜ろうかと思ったとき、部屋のドアがノックされた。

何このデジャブ感。ろくな予感がしないな。

ドアを開けるとそこにはセクシーランジェリーを身に纏ったアリアが、顔を真っ赤にして立っていた。

「あの・・・夜伽にきたのだが・・・」

うん、明日もう一度アリシアにお仕置きしよう。真面目な人間をからかうと冗談を本気にする人種だっているんだから気を付けよう、という教訓が今おっさんの目の前で現実となったな。

無反応のおっさんに困ったアリアが、両腕で自分の体を抱き締めた。あの~その行動は胸が強調されるので目のやり場に困るのですが。こんな夜更けに年頃の娘さんが中年のおっさんの部屋に、そんな格好で来るとはけしからん。お父さんは許しませんよ!

「あの・・・」

「真面目性格が裏目にでたね。まだ心身ともに回復してないんだから無理しないでね。今日は疲れたでしょう? アリシアには明日もう一度お仕置きしておくから、今日はゆっくり休んでね」

アリアの頭を優しく撫でなでして、肩に手を置いて回れ右させて自室に戻るように促す。

「え、いや私は・・・」

「いいからいいから。たぶん自分が思っている以上に疲労しているんだよ。今日はもう寝た方が良いよ」

「・・・うん、わかった」

わかったと言いながら何故に若干不満そうな表情なのか? 何か機嫌を損なうことがあったかな? うーん年頃の娘さんはおっさんにはよくわからん。

「それじゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみなさい」

アリアを見送ってからベッドに潜る、おっさんも精神的に疲れたな。早く寝よ。

今日も一応日々平穏(?)であったことの感謝。おやすみ・・・

ゲップ。やっぱり食い過ぎたわ・・・胃薬飲んでおこう。


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