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あれからどれくらい殺されただろうか? 記憶が定かではないがおっさんは精神崩壊せずによく耐え抜いたと思う。久しぶりに自分で自分を褒め称えたいほどだ。

最終日前日に盛大に殺されたことは何となく覚えている。徐々に失った意識が戻ってくると、いつもと異なる感覚に困惑する。

後頭部に何か柔らかい感触を感じる。それに良い香りが鼻孔をくすぐる。何だろう? おっさんは今どういう状況何だろうか? 

勇気を振り絞って意識を覚醒させて、目を開けるとそこには想像を絶する光景が広がっていた。

「ようやくお目覚めか、今回は随分とお寝坊さんだったな」

若干皮肉が混じった言い回しをするシゼルの顔がおっさんの頭上にある。しかもかなりの至近距離に。

え、まさかこれは・・・伝説と言われた「膝枕」では!? おっさん生まれてこの方耳掃除のときに母親にしてもらって以来、はじめての経験です。何故今なんだ・・・

恥ずかしくなってきたので、立ち上がろうとするとシゼルに強制的に頭を膝の上に戻される。

能力値が天と地ほどの差があるため、抵抗は無意味です。ええ、それはここ23日間で嫌ってほど思い知らされましたよ。

「おとなしく我の膝で休養をとれ。これまでの疲労を回復するのだ。最初に説明しただろう? この空間は外とは時間の流れが異なっていると。最終日は外とは異なる時間の流れの整合性をはかるため、この次元の狭間の空間で調整をする。故に今日はずっと休んでいろ」

逆らっても仕方がないので、おとなしく従うことにしよう。

眼球だけ動かして周囲の状況を確認する。どこまでも草原が続いている。優しい風が頬を撫で草木を揺らしている。空はどこまで青く、白い雲がゆっくりと流れている。久々に実にヒーリング感溢れる空間である。心が癒されるわ~何も考えずにボーッとしたのはいつ以来だろう。あー良い気持ち♪

しかし、何故膝枕なのだろうか? 普通の青少年なら非常に喜ばしい状況なのだろうが、おっさんのように枯れ果てた中年には困惑する状況だ。う~ん、太ももの感触が何とも言えないな。

「貴様は何故自分が膝枕されているのか、疑問に思っているな? 我に直に触れている方が肉体的にも精神的にも回復能力が向上するのだ」

では普通に手を繋ぐとか、肩に手を置くとかで良いのでは?

などとおっさんが思っていると、またもやこちらの心を読んだかのようにシゼルが言う。

「まあ、膝枕は我がやってみたかったからだがな」

またかよ。自分の欲望を満たしたいだけパターン。

まあ、今は素直にこの状況を楽しみつつ回復に専念しよう。

「しかし・・・最初は愚痴愚痴と言っていたわりには、我のしごきが始まってからは黙々と殺されながらも耐えていたな。我にとっては嬉しい誤算だったぞ」

膝枕状態のおっさんを真上から少し微笑みながら見つめるシゼル。だから距離が近いって。シゼルはエロさを感じさせるような美しさではなく、そんなものはとうに超越した美しさなのだ。

「貴様の全能力は大幅に向上された訳だが、まだ初日にかけた抑制魔法がかかったままだということを忘れてはいないだろうな?」

「え、あ? 忘れてた」

おっさん本気で忘れてました。だって、これまでの日々があまりにも過酷だったから抑制魔法の存在自体失念してました。

シゼルはやっぱりな、という表情をしておっさんのおでこを指で小突いた。

「抑制魔法をかけられていても日常生活がおくれるように馴れろ、とは言ったが忘れろとは言っていない」

はい、おっしゃる通りです。完全に忘れていました。テヘぺろ♪

「まあ、それくらい違和感なくその状態で通常通り行動できるほどに抑制魔法を意識しないようになったわけだ。これは抑制魔法を解除したときの能力の向上具合が見ものだな」

実に楽しそうにシゼルがコロコロとした声音で言う。だから顔が近いって。少しは恥じらいを持って。

「今はとにかく休め。外界との時間の誤差がなくなったら、起こしてやる」

そう言うとおっさんの頭をその玉のような白い手で優しく撫で始めた。きゃあ~おっさん猛烈に恥ずかしい。でもその反面とても心が安らぐ気がする。おっさんが微妙な葛藤で悩んでいるとシゼルの手が止まり、「そうだな・・・折角だから我の加護を与えてやる」と言い出した。

うん? 何をくれるって? 厄介ごとじゃなければ貰えるものは貰う主義ですよ、おっさんは!

加護をくれると言ったシゼルの顔がどんどんおっさんの方に近づいてくる。おーい、一体何をするつもりでありますか! 落ちついて冷静になって、あなたは淑女よシゼル!

「異性の顔が近いだけで何をそんなに慌てている? 童貞でもあるまいし」

「いや、まあ・・・そうだけど。普通の健全な男性ならシゼルみたいな綺麗な人の顔がこんなに間近にあったら、ドキドキするだろう」

思わず本音が出てしまうおっさんである。

「くくく、我を綺麗な人と称するか。相変わらず面白いな貴様は」

なんか最近シゼルがおっさんを出汁に大いに楽しんでいる気がする。本当におっさん=シゼルの暇潰し道具と化している。それでシゼルの機嫌が良いなら別にいいけどね。

そんなやり取りをしているうちに、シゼルの吐息がかかる距離まで互いの顔が近づく。

「あの~だから顔が近いって! 本当に加護を与えるために必要な行動、これ?」

「いいから、おとなしくしていろ」

威圧や殺気で行動を制限されたワケではなく、今回は酷く優しい声音で制された。

「チュッ」

額にシゼルの柔らかな唇の感触を感じる。おっさん、シゼルに額にキスされました。

おっさんこの歳になっておでこにキッスははじめての経験です。これ意外に恥ずかしいものですね。

「終わったぞ」

おっさんのドキドキバクバクの心境などお構いなしに淡々と行為を終えたことを告げるシゼル。そして気がつくとシゼルの顔が元の距離に離れていた。

「今我の加護を貴様に与えた。非常に稀なことだ感謝しろ」

メイドモードのキャラじゃないときは、相変わらず横柄な(?)感じだ。ところでシゼルの加護って具体的にはどんな加護なんだろう?

「加護をくれたのは嬉しいけど、シゼルの加護って具体的にはどんな効果があるの?」

「我の加護の効果か? なに酷く単純なものだ。もし貴様の生命が危機に陥ったときは我のもとに強制転移、または我が貴様のもとに強制転移するものだ」

・・・それって加護じゃなくてある種の「呪い」なのでは?

「てい」

「痛っ!」

予備動作なくさっきキスされた箇所にデコピンされた。飴からの即座に鞭! ちょっとした幸せの後に地獄に突き落とされました。このツンデレドSめ。

「我の加護に対して失礼なことを考えただろう。今のはその報いだ」

シゼルの顔を下から覗き見ると、いつも無表情の顔が少し拗ねているように見えた。こういうところは子供っぽいんだよな~

「おっさんが悪かったです、ごめんなさい。それと加護をくれてありがとうございます」

機嫌を損ねても良いことはないし、素直に加護をくれたことは感謝すべきことなどで素直にお礼を言う。

「わかれば良い」

そう言うとシゼルは再びおっさんの頭を優しく撫ではじめた。

幼い頃に母に同じようにしてもらったことがあったな・・・そんな幼少期の思いでに浸りながらおっさんは心地よいまどろみの中に意識を落としていく。



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