23
今日は修行がお休みの日です。
少しばかり朝寝坊をし、家事をこなし畑仕事なんかをして午前を過ごしています。
アシシアの家事スキルが少し向上したので、いくつかの家事は分担するようになった。でもあまり分担しすぎると魔国に帰ったあとにおっさんの家事に対するモチベーションが元に戻るか心配なので、程々にしておく。
おっさんは午後のティータイムを優雅に楽しんでいます。カーペットの上では虎鉄と小雪に挟まれるようにセレスがお昼寝をしている。昼寝三人衆ここに見参!
アリシアはノーライフキング先生と将棋を指しています。ルールを理解するまでにかなり苦労したようだが、理解してからは「むむ、これは中々奥深いのじゃ・・・」などと言い楽しんでいる。しかし戦績はかなり負け越しているらしい。まったりとした午後だ。ただ1つ問題があるとすれば・・・
「ご主人様、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「あ、はい。頂きます」
空になったティーカップを下げて、キッチンに向かっていく女性。
そう、メイドさんです。何故メイドさんがいるのかというと、それは一昨日に遡ります。
「ノーライフキング先生。召喚術のスキルを得たのですが、実際にどうやって召喚するのかよくわからないのですが教えて頂けないでしょうか?」
「ヴぁあ・・・ヴぁ?」、「どうして召喚術なんて覚えたの?」と聞かれたので正直に答えた。
「それほど深い意味はないのですが、畑仕事とか家事や雑務の中で比較的簡単な作業を任せられそうな存在でも召喚してみようかと思っただけです」
修行の時間とスローライフの時間をもう少し増やそうかなと考えただけだ。
「ヴぁヴぁ・・・ヴぁ?」、「そんなに大変なら手伝おうか?」という感じで提案してくれたが、みなさんのお手を煩わせたら意味がない。これは本当にただのおっさんの思い付きみたいなものだ。
「いえ、単純に召喚術を覚えたから何かに使えないかな~と考えた結論です」
「ヴぁあヴぁ」、「何かあったら遠慮せずに言ってね」と優しい言葉をかけてくれる。本当に熊師匠をはじめとする森の猛者のみなさんは尊敬に値する方々ばかりだ。ヒューマン国の連中は爪の垢を煎じて飲んだ方が良いのではないだろうか。
納得して頂いたところで、召喚術についてレクチャーして頂く。
「ヴぁあ~ヴぁあヴぁ」
え、頭に思い浮かんだ魔法陣を地面に書いて「召喚したいな~何か出てこい」と念じるだけ・・・はあ、そうですか。アレ? 他の魔法の説明のときはもっと論理的な説明をされた気がするんだが・・・召喚術は感覚ってことですか?
それ以上説明が無さそうなので、とりあえず目を閉じて頭に魔法陣を思い描いてみる。おっさん美術系の創作作業が結構苦手だったりするんだよね。
「アイテムクリエイションで色々作ってるじゃないか?」と思うかもしれないが、アイテムクリエイションは簡単に言えばおっさんの記憶から元々存在するものをコピーしているに過ぎない。完成品が既に存在しているからイメージしやすい。
しかし無からイメージすることは、子供の頃から大の苦手だった。人真似は得意だったが、いまいち自分のスタイルと言うものがよくわからなかった。
これは難題だ。「むむむ・・・」、おっさんが唸っているとノーライフキング先生がおっさんの肩を叩いてきた。
「難しく考えすぎだよ。パッと頭に浮かんだものを適当に描けば良いんだよ」と再びアドバイスしてくれた。
なので子供の頃に読んでいたマンガやテレビゲームで魔法陣の絵柄を参考に、地面にそれっぽいものを描いていく。頭に思い浮かんだ魔法陣を手当たり次第に書いて繋げていく。ザ・パクリの集合体。
おっさんが魔法陣を描いている間、ノーライフライフキング先生は蜘蛛お嬢と将棋を指して楽しんでいる。
ちなみにアリシアはノーライフキング先生に言われて、不安定な巨石の上で瞑想をしている。
そのうちに修行終わりの虎鉄と小雪がやってきた。おっさんが何をしているのか気になるようで、近くまできて手元と顔を交互に見比べている。
「ぱあっ」と何か閃いた表情をしたかと思うと、二人で穴を掘り出した。
えーと、一応おっさん遊んでいるワケではないのですが・・・
しかも魔法陣を書いた地面のところで穴を掘り出したから、一部が消えちゃってるし。
まあ、ある意味適当に描いているからいくらでも修正がきくけど・・・おーい、土をこっちに飛ばさないで~
「ねえ~なにしてるの?」
今度はおっさん自作の公園で遊んでいたセレスがスケルトン達とやってきた。
あ、自作の公園というのはセレスがお勉強ばかりだと飽きてしまうのと、子供の頃は適度に体を動かした方が良いかと思いおっさんがいくつかの遊具を筋トレ広場の近くに併設したものだ。
滑り台にブランコ、ジャングルジム、シーソー、うんてい、はん登棒、ターザンロープ、スプリング器具など公園プラスアスレチックな雰囲気で作ってみた。
セレスは当初、公園が何だか理解していないようだったがおっさんが実際に遊び方をレクチャーすると、すぐに元気よく遊びだした。大変喜んでくれたようだった。
セレスだけでなく小さいウサちゃんズや、何故かスケルトン達にも好評だった。
アリシアに聞いたところ、公園のように子供が自由に遊べる場所はこの世界にはほとんどないらしい。
多くの子供が幼いうちから働くことが多いらしい。学校みたいなものはあるにはあるが、通えるのは金持ちの貴族が大半らしい。世知辛いな~異世界も。
おっさんの元にやってきたセレスは「セレスもおえかきする~♪」と、おっさんの魔法陣に可愛い絵柄のアレンジを加え始めた。もはや魔法陣と呼べる代物ではなくなってしまった。
それから暫くして魔法陣(?)が一応完成した。念のためノーライフキング先生に見てもらったところ「かなりアバンギャルドなものを描いたね」と評価された。うーん、これは一応合格で良いのだろうか?
さて、いよいよ召喚術を試す時がきた。せっかくだからフルパワーでやるか!
「魔装展開・ 熾天阿修羅」
魔装展開状態のおっさんを始めてみたアリシアは、瞑想が中断され不安定な岩ごと倒れた。この程度のことで集中が乱れるとは・・・修行が足りないんじゃないか? セレスはと言うと・・・
「わあ~おはねがある。おかおもたくさん」
実に子供らしい率直な感想どうも。
魔法陣(?)に両手をかざして、今持てる全ての魔力を注ぎ込む。全身から物凄い勢いで魔力が失われていく。それに比例して魔法陣(?)の輝きが徐々に増していく。
「はあ、はあもう限界・・・」
魔力不足で魔装が解除され、体に力が入らず地面に膝をついてしまう。
魔法陣の中心に光が集束していき、爆発するように凄まじい光が辺りに広がり視界を奪う。
光が収まったので目を開けると、魔法陣の中心に一人の女性が立っていた。
その女性を見たときおっさんの背筋に今まで感じたことのない程の悪寒が走った。
虎鉄と小雪は耳をペタンと畳み尻尾も丸めて、伏せの体勢で「クウ~ン」と怯えている。
アリシアとセレスは一瞬で気絶したようだ。その横でスケルトン達はバラバラの骨の状態になっていた。
将棋を指していたノーライフキング先生と蜘蛛お嬢が臨戦体勢をとった。この世界にきてから始めて森の猛者達が本気モードになった状態をみた瞬間であった。つまり、それほど危険な存在をおっさんは召喚してしまったようだ。マジでどうしよう。
召喚された女性は辺りに視線を巡らせると、足元の魔法陣を見て自分が召喚されたことを理解したようだ。
さて、おっさんは今はポンコツ状態だから一番最初に殺されるのはおっさんで決定だね。なんとかみんなが逃げる時間を一秒でも確保しなければ。
命をかけて時間稼ぎをするために、膝に力を入れて立ち上がろうとすると、女性が一瞬でおっさんの目の前に移動した。あ、これ終わったな。
女性はおっさんの肩に手を置いて、おっさんの動きを制した。
「どうやら我を召喚したのは貴様のようだな。だが妙だな・・・貴様の力では我を召喚することなど不可能なはずだが。ああ、この出鱈目な魔法陣が原因か。随分とアバンギャルドな魔法陣だな。常人には到底理解できないしろものだな」
召喚した人にまで「アバンギャルド」って言われたぞ。おっさんだけで描いたものではないにしろ、そっか・・・おっさんの創作センスはアバンギャルドか・・・何故だろう釈然としないな。
おっさんの肩に手を置いたことで、ノーライフキング先生と蜘蛛お嬢が戦闘体勢に入った。
「落ち着け、強き者達よ。我はお前達を消滅させる気はない。ただ驚いているだけだ。イレギュラーとはいえ我を下界に顕現させることができたことがな」
でしょうね。召喚したおっさんが一番驚いているよ。
さて、これからどうなるのだろうか? 少なくとも皆殺しにされることは回避できそうだけど、どう収集をつけようか。
おっさんが真剣に考えていると目の前の女性が再び口を開いた。
「おい、我をそちらの都合で召喚しておいて、当の召喚主の貴様はだんまりか? 何か言うことはないのか?」
やばい、ここで彼女の機嫌を損なう発言をしたらみんなの生命が危険に晒される。慎重に考えて口から出た言葉は・・・
「なんでメイド服を着ているんですか?」
意識のある面々がおっさんを呆れた顔で凝視している。
いや、だって召喚してからずーっと気になっていたんだから仕方ないじゃないか。
召喚された際の彼女は、ロングの長さの艶のある漆黒の髪を編み込んでおり、耳には三日月型のイヤリング。玉のように白い肌に金色の瞳。 首には蛇をもしたネックレス。そして落ち着いたデザインのメイド服。
気になるでしょう? 質問したくなるでしょう?
「ふふふ、あーははは!」
突如おっさんの目の前で彼女が大声で笑いだした。それもご丁寧に腹まで抱えて。え、そんなに面白い質問だったか?
「いやはや、ここ何兆年で一番笑ったぞ。あーお腹が痛い」
目尻に涙まで溜めている。おっさんの質問が余程ツボッたらしい。
「えーと、ダメでした?」
おっさんが不安そうに聞くと彼女は片手を軽く振った。
「いや、ダメではないぞ。あまりにも予想外だっただけだ。我の名を問うのではなく、着用している衣服に着目するとはな。変わったやつよ。ときに貴様、メイド服を知っているということは異世界人か。それもまた珍しいことよ」
笑いがおさまったようで彼女はおっさんの問いに答えてくれた。
「我の着用している服についてだったな。これは数千年前に様々な時間軸、多くの宇宙に存在する惑星を暇潰しに覗いていたときに見つけたものだ。メイドとは家庭内労働を行う女性の使用人のことだろう? 賃金と引き換えに赤の他人に奉仕する、なんとも面白い職業だと思わんか?」
全世界のメイドさんを敵に回したくないので、おっさんは沈黙を貫く。
「なんだ、まただんまりか? まあ、良い。我がメイドが面白いと感じたのは職業内容だけではない。着用している衣服がこれまた面妖なのだ」
なんかメイド関連の話題になったら、饒舌になってきたな。好きなのかな?
「ビクトリアン調の落ち着いたデザインのものから、性的な行為に用いられるもの、ゴシック&ロリータのようなサブカルチャーのようなもの、コスプレと呼ばれる服だけを着るものまであるではないか。1つの職業の服からいくつもの用途に派生するのもまた興味深い。そして何よりデザインが我好みだ」
うん、つまりメイド服が好きなのね。それも現代的なタイプじゃなくて、古風なデザインの方が。
「だからメイド服を着ているんですか?」
「その通りだ。これで貴様の疑問は氷解したか? 他に聞きたいことはあるか?」
他に聞きたいことね・・・
「メイド喫茶とかはどう思います?」
メイドといったらおっさん世代には、メイド喫茶が一番最初に頭に浮かんでしまうのは何故だろう?
「アレは邪道だ。メイドではない」
即答ですか。あ、おっさんは何もコメントしませんよ。察してください。
「着用していいる服は露出が多すぎる。もっと機能的で質素かつシックな装いでなければ駄目だ。提供している料理も値段とクウォリティのバランスがあっていない。もっと本格的なものでなくてはな。そしてメイドは必要以上に媚を売らない。また自らが仕える主より前に出すぎてはならない」
「えーと、随分凝り固まったメイド感のような気がするのですが」
「確かにな。先程述べたことはあくまで我が考えるメイド感だ。故にそれ以外を全否定するつもりは毛頭ない。メイド喫茶は、あれは確立されたものだ。大衆のニーズもある。あくまで我のメイド感とは異なるだけで、あれも1つのメイドのあり方だろう」
お、意外と石頭ではなく周りの意見も聞き入れるタイプ。
「それで、他に質問はあるか?」
他に質問か・・・
「特にありません」
「ないのか?」
「はい、ありません」
おっさん以外の面々が驚愕の表情でおっさんの方を見ている。いやだって、イレギュラーで召喚された存在ですよ。事故だよ、それも不幸な事故。
誰の目から見ても明らかに超越的な存在じゃん。ここはこれ以上余計なことは聞かずに、しっかりと謝罪してお帰り頂くのがベストだろう。
「この度はこちらの不手際で、お忙しいところ召喚してしまい申し訳ありませんでした。何卒寛大な御心で許して頂けると幸いです」
謝罪の言葉を述べて、しっかりと頭を下げる。謝罪することが仕事の大半の元サラリーマンの謝罪スキルをフル活用する。これで納得してくれ。
「貴様の謝罪はしかと受け入れた。そもそも我は別段怒っていない。むしろ久方ぶりの下界と変わり者の人間との会話を楽しんでいる」
「そう言って頂けると何よりです」
「我のような存在が下界に顕現するなど本来はあってはならぬこと。故にこの状況、世界をしばし楽しむことにする」
・・・はあ!? 今なんて言った。お願いだから召喚しといてなんだけど、厄介ごとは速やかにもとの世界にお帰りください。
て、言いたいけど今回ばかりは口が裂けても言えません。
「ということは、このままこの世界に滞在するということでしょうか?」
「その通りだ」
絶望だよ。それ以外の感情が浮かんでこないよ。おっさんの不手際だとしてもこれはあんまりだ。さらばスローライフ、また逢う日まで。
おっさんが絶望の淵に佇んでいると、彼女が付け加えていった。
「安心しろ。我も自ら争いは起こす気はない。攻撃された場合に自衛するくらいだ。貴様の生活を害するつもりはない」
「本当ですか!?」
おっさん絶望の淵からなんとか帰還。
「ただ貴様の生活には寄り添うがな」
「???」
「たとえイレギュラーとはいえ貴様が我を召喚したのだ。その責任は果たしてもらう」
なんか物騒なことを言い出したぞ。一度回避した厄介ごとが目の前に音速を越えて戻ってくる。
「なに、そう構えるな。ただ我を貴様のメイドとして側に置いてくれれば良いだけだ。簡単な話だろう?」
うん、言うのは簡単だよ。言われた方は複雑だよ。
「あの・・・メイドの意味を理解した上での発言と考えていいのですよね?」
「ああ、もちろんだ。誰かの世話をするなど今までに体験したことなのい経験だ。知らないことを体験することは何においても刺激的なものだ」
これは困った。何か打開策はないかとみんなの方を見ると、一斉に目を逸らしやがった。
みんな揃って白旗かよ。
「わかりました。事故とはいえ召喚したのはおっさんですから。これからよろしくお願い致します。えーと、何と呼べば?」
そういえば厄介ごとを避けるために、彼女の名前を聞いていなかったことを今になって思い出した。
「シ・・・そうだな、シゼルと呼んでくれ、いえ呼んで下さいご主人様」
無表情からの「ご主人様」呼び。背筋が途端にむず痒くなった。
「じゃあ、シゼルさん。改めてこれからよろしくお願いします」
握手しようと手を差し出す。
「シゼルで結構です。我・・・私はご主人様のメイドですので」
そう言ってシゼルがおっさんの手を握る。
これがおっさん宅に突如としてメイドさんが現れたことの顛末である。
「ご主人様、紅茶のおかわりが入りました」
おっさんの前にティーカップとソーサーを音を絶てずに置く。
「ありがとう。えと、立ってないでシゼルも座ったらどう?」
「結構です。私はメイドですので」
あなたが良くてもおっさんが落ち着かないのよ。斜め後ろに立たれていると背後に気配を感じて物凄く落ち着かない。むしろ尋常じゃない緊張感で背中に汗をかきはじめているんですけど。
「その・・・ご主人様のお願いで、シゼルも座って一緒にティータイムを楽しんでくれるとおっさん嬉しいな~なんて」
と、苦し紛れに提案してみる。
「・・・わかりました」
シゼルは少し沈黙し思考した後に、自分の分の紅茶を用意しておっさんの対面に腰を下ろして紅茶を飲み始めた。
カップから口を離すと、誰に聞かせるワケでもなくシゼルはほんの少し微笑み呟いた。
「やはり、誰かに奉仕するというのは新鮮な体験だな・・・」
その様子をチラッと見て、おっさんも用意してもらった紅茶とお茶菓子を楽しんだ。
こんな感じですが、おっさんの日常は何とか平穏(?)です。




